我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その六九

番外編・コメが消えた

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 コメが消えた。
 コメを買いに行ったら、店からコメが消えていた。近所にある二軒のスーパーと一軒のドラッグストアをまわったのだが、その三軒からコメが見事に消えていた。
 玄米や餅米なら小さい袋が少しはあった。レンチン用のパックご飯もある。モチなどの加工品もある。しかし、生のうるち米がない。本当に、一袋もなかった。そして、コメ売り場には、
 『コメの供給が不安定になっています。お買いあげはお一人さま一袋でお願いします』
 との、注意書き。
 こんなのははじめて見た。
 いままで様々な食品で『品不足』というニュースを聞いたことはあるが実際に、スーパーでその品がなくなったのは見たことがなかった。食品棚が空になっているのを見たのは、それこそ東日本大震災の直後ぐらいだ。
 品不足になって値上がりすることはあっても、という状況はなかったのだ。いままでは。
 それが今回は状況になってしまった。
 いや、もちろん、売っているところでは売っているはずだし、いつまでもつづくわけでもないだろう。コメ以外にも食べるものは色々とあるのだし、これ自体は騒ぐほどのことでもない。
 問題はコメ不足に陥っていること。
 大地震が来たわけでもない。巨大台風が吹き荒れたわけでもない。特別な日照りや旱魃が起きたわけでもない。原発事故もない。
 いたって平穏な日常。
 そのなかで、コメが不足している。
 猛暑の影響というものはあるが、猛暑はすでに日常だ。もう何年も激しい暑さがつづいているし、これからもずっとつづく。その猛暑によって食糧不足が起こるというのならそれは、ということだ。
 いままでさんざん警告されながらも現実のものになることはなかった食糧危機だが、いよいよ現実になろうとしているのかも知れない。
 となれば、とにかく対策は立てておかなくてはならないわけだが、そのためのひとつの手段が『都市農業の拡充』と言うことになる。
 キューバはかつて、食料品を旧ソ連に依存していた。そのため、旧ソ連が崩壊するとたちまち食糧危機に陥った。そのとき、キューバの首都ハバナでは人々が空き地という空き地を見つけては野菜を作りはじめた。
 都市農業が一気に広まったのだ。それによって、ハバナは食糧危機を乗りきった。そして、キューバは都市農業の聖地となった。
 世界的に見ても都市農業は拡大をつづけている。もはや、『個人の趣味』の範疇を超えて、多くの国で主要な食糧生産手段になっている。
 日本でも本気になって都市農業を推進すれば食糧危機に対処することは可能だろう。ちょっとした隙間があれば野菜ぐらいは作れる。人々がこぞって野菜を作って自給するようになれば、プロ農家は主食である穀類やイモ類の栽培に専念できる。それだけでも、栽培量は格段に増える。
 都市部であっても建物の屋根と屋根を結んで栽培地にするという方法で、農地はいくらでも増やせる。屋根の上でもニワトリぐらいは飼える。牛肉や豚肉は無理でも、鶏肉と卵は生産できる。強すぎる日差しは太陽電池の屋根を架けることで、発電しながら和らげることができる。
 高温に対してはミストの噴霧で対処できる。必要な水は燃料電池を普及させれば確保できるだろう。ミストの噴霧はそのまま水やりともなるから無駄はない。
 食糧危機が迫っているとしても対処する方法はいくらでもあるし、そのために必要な技術はすべてそろっている。必要なのは、これまでの常識を一切、捨てて新しい世界を作ろうという発想力と、何がなんでもやり遂げようとする断固たる覚悟。人々を動かす指導力。そして、一人ひとりが労多くして益の少ない農業に日常的に関わろうとする気概。
 果たして、いまの日本と日本人にそれだけの意思と能力があるだろうか。
 まあ、なかったところで、日本中が餓死体で埋まるだけの話だが。
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