我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その六八

2024夏の異変

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 八月になってからウリハムシが姿を見せはじめた。
 キュウリの葉っぱと言わず、実と言わず、食い荒らす厄介な虫だが、まあ、それはいい。
 問題は出現する時期。
 去年まではウリハムシは九月になってから姿を見せていた。だから、九月になるとまだ実がついていてもキュウリを片付けていたものだ。
 ところが、今年は八月になって早々に姿を表しはじめた。去年までより一月も早い出現。
 この猛暑で虫の活動時期が早くなっているのか?
 だとすると、農家は大変なことになる。ベランダ菜園なら被害もたかが知れている。しかし、プロ農家の畑で害虫の出現が一ヶ月も早くなったら被害の拡大は半端なものではあるまい。葉も、実も、すべて食い荒らされ、収穫量は激減するだろう。
 いや、もちろん、ウリハムシを駆除する方法はいろいろある。しかし、繰り返すが、害虫の活動期間が早く、長くなれば、それだけ駆除にかける手間と費用も増えていく。たたでさえ農家なんて金にならないのに、駆除の費用と手間があがっていったら……。
 かと言って、食料品は値上げしづらい。生きる上での必須の品だから誰もが買える値段でなければならないからだ。そして、スーパーが虫食いの跡のあるキュウリなぞ引き取ってくれるわけがない。
 それやこれやを考えると、農業はもうこの猛暑で、商売として成り立たなくなるかも知れない。新聞の売りあげがさがったことへのジョークとして、
 「新聞を売って百万長者になる方法は? 億万長者からはじめること」
 というものがあるが、農業においても、
 「農業で百万長者になる方法は? 億万長者からはじめること」
 が、成立するようになるかも知れない。しかも、ジョークではなく、事実として。
 作ればつくるほど赤字、などという状況で農業をつづける人間なぞいるはずがない。
 そうなったら誰が農作物を作る?

 そして、もうひとつ、気になることがある。
 キュウリの葉がきれいなのだ。
 キュウリと言えばうどんこ病。たいてい、キュウリは栽培している間にうどんこ病が広がり、葉が白く覆われるものだ。そして、うどんこ病の菌を食べるキイロテントウがやってくる。
 それが、全然ない。緑のきれいな葉っぱのまま。当然、キイロテントウもやってこない。以前は、キュウリの葉にはとにかくたくさんのキイロテントウがいたものなのだが。
 キュウリにうどんこ病が出ていないのは、うどんこ病対策として品種改良が重ねられた結果なのか。それとも――。
 それとも、この猛暑で菌の活動すら不活性化しているのか。
 だとすると、菌を食べるキイロテントウも生きていけなくなるわけで、少なくとも大幅に数を減らすことになるだろう。そして、もし、自然の農薬たるキイロテントウがいなくなったところで、なにかの拍子でうどんこ病が大発生したら……。
 もう、手のつけられないことになる。
 片っ端から立ち枯れが起きることになるだろう。
 その防除と治療のために費やされる手間と費用はどれほどのものになることか。
 本気で、巨大な食糧危機の時代が迫っているのかも知れない。
 そう思わせられるベランダ菜園の夏である。
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