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その五五
小さな菜園に生命のドラマを見る
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オレガノの株が明暗をわけた。
オレガノはバジルと並ぶ『トマトの友』。『ルパン三世 カリオストロの城』に出てきたミートボールスパゲティの再現レシピ(『空想キッチン!』 ケンタロウ×柳田理科雄 メディアファクトリー刊 文句なしにうまい!)でも、バジルと共に使われているほど。
生まれる前からのトマト好き(私の母は、私が腹のなかにいる間、無性にトマトが食べたくなったそうである)である私にとって、決して欠かすことのできないハーブ。
と言うわけで、ベランダ菜園において、大きなプランターふたつに一株ずつ、計二株、作っている。で、その二株なのだが、一方はよく育っている。すでにいくつもの茎葉を伸ばし、間引きしてやらなければ蒸れてしまいそうなほどに繁っている。が、もうひとつは――。
枯れた。
と言うか、消滅した。
影も形もなくなっている。新芽が伸びてこないのはもちろん、株そのものが消え果てている。これは、なぜかと思ったが――。
この土。
この土の様子には見覚えがある。
妙にポロポロした感じの土。やけに少ない野草。
これは、やつか?
やつがいるのか?
必殺の根っ子ハンター、
コガネムシの幼虫!
毎年のように表われては、根っ子を食い荒らしていってくれるのだが――。
一向に構わん(わかる人にはわかる、この台詞)!
その手の本ではコガネムシの幼虫と言えば大害虫扱い。駆除することしか書いていない。たしかに、コガネムシの幼虫が発生すると植物は根っ子を食い荒らされ、その場の植物すべて、死に絶えることになる。
しかし、コガネムシの幼虫はそんなマイナス面ばかりではない。『根っ子を食い尽くす』と言うことは、土のなかに残っているよけいな根っ子や雑草の根もすべて食べて、土をきれいにしてくれるということ。実際、コガネムシの幼虫のいるプランターには雑草も生えない。そして、栄養たっぷりの大量の糞を残し、土を豊かにしてくれる。
つまり、コガネムシの幼虫は土の再生屋。
土の強~い味方なんである。
何年も育ててきた果樹を枯らされた……というならともかく、オレガノなら簡単に手に入るし、自分で増やすこともできるから、食い尽くされても大して惜しくもない。どうせ、何年かすれば寿命が来て株を更新しなくてはいけないのだから、良い機会だということもできる。
おまけに、夏野菜を植えつける頃にはすでに蛹になっているはずなので、夏野菜に害はない。これから植えつける夏野菜は栄養たっぷりの糞の混じった土ですくすく育ってくれるだろう。実際、いままでコガネムシの幼虫のいたプランターでは、野菜たちはよく育った。
それらを考えあわせればマイナスよりもプラスの方が大きい。そもそも、こうして野菜を育てることができるのも天地自然の恵みがあってこそ。ならば、その自然にもお裾分けするのが筋というもの。多少の食害に目くじら立てることはない。
と言うか、それぐらいの『遊び』がないと家庭菜園なんてやってられない。
いまでも、思い出す。はじめてミニトマトを作ったときのことを。あのときは立派な実をつけたい一心で頻繁に肥料をやった。やり過ぎた。おかげで、花は咲けども実はつかず、咲くはしからポロポロ落ちるばかり。
……泣いた。
いや、本当、家庭菜園なんてものは、真面目にやり過ぎるとつらいばかりで楽しいなんてものではなくなる。どうせ、素人の手すさび。本にあるような立派な結果になるわけがない。それより、自然に任せ、『出来ただけ収穫できればいい』ぐらいに思っていた方が楽しめる。
と言うわけで、私はほとんど放任。自然に任せっきり。そのせいで、もうけっこうベランダ菜園を営んでいる割には出来は悪い方かも知れない。しかし――。
一向に構わん!
どうせ、小さなベランダ菜園。薬品やらなにやら使って環境を整えたところで消費分を賄えるわけもない。だったら、自然に任せ、そのなかで展開される生命のドラマを見せてもらい、収穫はその副産物。
そう思っていた方が、ずっと豊かな経験ができる。
食糧であるアブラムシを探して、辺りかまわずツンツンやる正体不明の虫(多分、なにかの幼虫。アブラムシそのものを食べるのではなく、体液を吸っては捨てるのだが、しゃぶり尽くしたアブラムシを勢いをつけて『ペッ!』と吐き捨てる様が西部のガンマンみたいでカッコいい!)
ピョコピョコとダンスを踊るテントウムシの幼虫。
その蛹の腹に顔を突っ込んでむさぼり食う、共食い幼虫(多分、目も、鼻も利かず、口に触れたものをとにかく食う……という習性のため、偶然、蛹にふれて意図せず共食いになるのだと思う)。
天敵のハチに襲われ幼虫を食い尽くされて、全滅するアシナガバチの巣。
それにもめげず、二度でも、三度でも、新しい巣を作って子孫を残そうとする偉大なるハチたち。
この小さなベランダ菜園でいくつもの生命のドラマを見てきた。
これらの生命のドラマは、とくに小さな子どもには実際に見て、体験してほしい。この世で生きているのは人間とそのペットだけではないことを実感として理解できることだろう。
そして、春(すでに初夏か?)を迎え、いよいよ開幕する今年のベランダ菜園。今年はどんな生命のドラマを見られることか。
楽しみである。
オレガノはバジルと並ぶ『トマトの友』。『ルパン三世 カリオストロの城』に出てきたミートボールスパゲティの再現レシピ(『空想キッチン!』 ケンタロウ×柳田理科雄 メディアファクトリー刊 文句なしにうまい!)でも、バジルと共に使われているほど。
生まれる前からのトマト好き(私の母は、私が腹のなかにいる間、無性にトマトが食べたくなったそうである)である私にとって、決して欠かすことのできないハーブ。
と言うわけで、ベランダ菜園において、大きなプランターふたつに一株ずつ、計二株、作っている。で、その二株なのだが、一方はよく育っている。すでにいくつもの茎葉を伸ばし、間引きしてやらなければ蒸れてしまいそうなほどに繁っている。が、もうひとつは――。
枯れた。
と言うか、消滅した。
影も形もなくなっている。新芽が伸びてこないのはもちろん、株そのものが消え果てている。これは、なぜかと思ったが――。
この土。
この土の様子には見覚えがある。
妙にポロポロした感じの土。やけに少ない野草。
これは、やつか?
やつがいるのか?
必殺の根っ子ハンター、
コガネムシの幼虫!
毎年のように表われては、根っ子を食い荒らしていってくれるのだが――。
一向に構わん(わかる人にはわかる、この台詞)!
その手の本ではコガネムシの幼虫と言えば大害虫扱い。駆除することしか書いていない。たしかに、コガネムシの幼虫が発生すると植物は根っ子を食い荒らされ、その場の植物すべて、死に絶えることになる。
しかし、コガネムシの幼虫はそんなマイナス面ばかりではない。『根っ子を食い尽くす』と言うことは、土のなかに残っているよけいな根っ子や雑草の根もすべて食べて、土をきれいにしてくれるということ。実際、コガネムシの幼虫のいるプランターには雑草も生えない。そして、栄養たっぷりの大量の糞を残し、土を豊かにしてくれる。
つまり、コガネムシの幼虫は土の再生屋。
土の強~い味方なんである。
何年も育ててきた果樹を枯らされた……というならともかく、オレガノなら簡単に手に入るし、自分で増やすこともできるから、食い尽くされても大して惜しくもない。どうせ、何年かすれば寿命が来て株を更新しなくてはいけないのだから、良い機会だということもできる。
おまけに、夏野菜を植えつける頃にはすでに蛹になっているはずなので、夏野菜に害はない。これから植えつける夏野菜は栄養たっぷりの糞の混じった土ですくすく育ってくれるだろう。実際、いままでコガネムシの幼虫のいたプランターでは、野菜たちはよく育った。
それらを考えあわせればマイナスよりもプラスの方が大きい。そもそも、こうして野菜を育てることができるのも天地自然の恵みがあってこそ。ならば、その自然にもお裾分けするのが筋というもの。多少の食害に目くじら立てることはない。
と言うか、それぐらいの『遊び』がないと家庭菜園なんてやってられない。
いまでも、思い出す。はじめてミニトマトを作ったときのことを。あのときは立派な実をつけたい一心で頻繁に肥料をやった。やり過ぎた。おかげで、花は咲けども実はつかず、咲くはしからポロポロ落ちるばかり。
……泣いた。
いや、本当、家庭菜園なんてものは、真面目にやり過ぎるとつらいばかりで楽しいなんてものではなくなる。どうせ、素人の手すさび。本にあるような立派な結果になるわけがない。それより、自然に任せ、『出来ただけ収穫できればいい』ぐらいに思っていた方が楽しめる。
と言うわけで、私はほとんど放任。自然に任せっきり。そのせいで、もうけっこうベランダ菜園を営んでいる割には出来は悪い方かも知れない。しかし――。
一向に構わん!
どうせ、小さなベランダ菜園。薬品やらなにやら使って環境を整えたところで消費分を賄えるわけもない。だったら、自然に任せ、そのなかで展開される生命のドラマを見せてもらい、収穫はその副産物。
そう思っていた方が、ずっと豊かな経験ができる。
食糧であるアブラムシを探して、辺りかまわずツンツンやる正体不明の虫(多分、なにかの幼虫。アブラムシそのものを食べるのではなく、体液を吸っては捨てるのだが、しゃぶり尽くしたアブラムシを勢いをつけて『ペッ!』と吐き捨てる様が西部のガンマンみたいでカッコいい!)
ピョコピョコとダンスを踊るテントウムシの幼虫。
その蛹の腹に顔を突っ込んでむさぼり食う、共食い幼虫(多分、目も、鼻も利かず、口に触れたものをとにかく食う……という習性のため、偶然、蛹にふれて意図せず共食いになるのだと思う)。
天敵のハチに襲われ幼虫を食い尽くされて、全滅するアシナガバチの巣。
それにもめげず、二度でも、三度でも、新しい巣を作って子孫を残そうとする偉大なるハチたち。
この小さなベランダ菜園でいくつもの生命のドラマを見てきた。
これらの生命のドラマは、とくに小さな子どもには実際に見て、体験してほしい。この世で生きているのは人間とそのペットだけではないことを実感として理解できることだろう。
そして、春(すでに初夏か?)を迎え、いよいよ開幕する今年のベランダ菜園。今年はどんな生命のドラマを見られることか。
楽しみである。
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