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その二一
夏野菜シーズン
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五月だ!
五月と言えば夏野菜シーズンのはじまり!
と言うわげて、オクラとキュウリの種を蒔いた。
野菜類は基本的に種から育てる。さすがに、果樹まで種から育てはしないが(一度、アボカドの種を蒔いたことはあるが。なんと、ちゃんと芽を出した! しかし、冬の寒さで枯れてしまった。悲しい……)。
苗を買って植えた方が簡単だし、確実なことはわかっているのだが、種から育てる方が『手作り』という感じがして楽しい。愛着が湧く。それに、苗は植えるための穴を掘るのが面倒くさい。なにしろ、うちのプランターは全部がぜんぶハコベやら、カタバミやら、その他やら、色々な草が生えていて土のなかも根っこだらけなので……。
まあ、とにかく、オクラとキュウリの種を蒔いたのだ。
オクラは花も大きくてきれいなので観賞用も兼ねて玄関前の鉢に植えてある。
新鮮なオクラは生でも食べられるので、もっぱらそのまま丸かじりする。新鮮な生オクラはポリポリした食感でなんとも歯応えが気持ちいい。これを味わえるのは自分で作っている人間の特権だろう。
そして、キュウリ。
キュウリを丸かじりするのはまあ、普通だろう。しかし、我が家のベランダ菜園のキュウリは格がちがう。市販品のように水っぽくなく、身が締まっていて、香り高い。一口かじれば口のなかいっぱいに香りが広がる。それはもはや甘くないメロン。自分でキュウリを作るようになってから、とてもではないが市販のキュウリは食べられなくなった。あんな水っぽい代物は『野菜』ではない!
まあ、本数はろくにとれないのだけど。どう言うわけか、花そのものがろくにつかない。これはやはり、西向きのベランダと言うことで直射日光を浴びる時間が短いからだろうか。それとも、育て方の問題か? 土のなかの窒素分が多すぎで茎葉ばかりが育って花がつかないとか? 『ハコベの育つ土はなんでも作れる』と聞いているのだが……。
あと気になるのはナス。どうも、育ちが悪い。
ナスはもともと好きではないので作っていなかった。だが、最近、親の認知症対策もあってポリフェノール効果目当てに食材として使うようになった。そこで、どうせだから自分で作ってみようということに相成った。早めに収穫したくて早くに種蒔きしたのだがやはり、早く蒔けば良いというものではないか。
まあいい。とにかく、様子を見よう。最近、寒気がぶり返した時期があったからそのせいで育ちが鈍ったのかも知れない。だとすればこれからどんどん育って遅れを取り戻すということもあるだろう。どうしても育ちが悪いとなったら苗を買ってくるという手もあるし……。
その場合は『現代農業』に載っていた『置くだけ定植』を試してみよう。
これは読んで字のごとく植え穴を掘ることなく、根鉢を土の上に置くだけ、と言う簡単な方法。これで育ちが良くなるらしい。
理由は見当がつく。根が酸素を吸いやすくなるからだろう。
勘違いしている人間が多いようだが――某長寿ギャグマンガの作者など――植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐いているのではない。植物だって呼吸するときには酸素を吸って二酸化炭素を吐いている。二酸化炭素はあくまでも光合成の燃料として吸収しているのであってその際、自分が必要とする以上の酸素を作るから余分な酸素を捨てているだけ。
要するに、動物は植物抜きでは生きていけないが、植物は動物抜きでも生きていける。決して、植物と動物とで逆の呼吸をして、補完関係にあるのではない(そう言えば、藤子・F・不二雄氏も『みどりの守り神』のなかで同じ勘違いをしていたなあ……)。
まあ、それはともかく、植物だって酸素は必要なのだ。そして、茎葉からだけではなく、根っ子からも酸素を吸っている。根鉢が土のなかに埋められることなく空気中に出ていれば、根鉢のなかの根は酸素を吸いやすくなる。その分、元気で健康に育つ……と言うことなのだろう。多分。
それを試すチャンスが来ると思えば種から育てているナスの育ちが悪いのも、まあ悪くはない。……いや、もちろん、種から立派に育って欲しいわけだけど。
さて、ここまで読んできて違和感を感じないだろうか。
夏野菜の女王とも言うべき『あの野菜』がない。
トマトである。
きらう人間も多いトマトだが、私はトマト大好き人間である。
並のトマト好きではない。筋金入りのトマト好きだ。なにしろ、生まれる前からトマトが好きだったのだから。
『そんなわけないだろ!』などと言うなかれ、だ。
私の母親は私を身ごもっている頃、別に好きでもなかったトマトが食べたくなったという。体内の私が食べたがっていたわけだ。どうだ。私のトマト好きはまぎれもなく、生まれる前からの筋金入りだろう。
でっ、そのトマト。
今年からはもう春に種を蒔くのをやめることにした。
なぜかと言うと、。夏にまるっきり実をつけないからだ。
花は咲く。花は咲くのだがすべて、実をつけることなく落ちてしまう。おそらく、温暖化の影響だろう。夏が暑くなりすぎたので花粉がすべて死んでしまうのだと思う。
『世話が下手なだけじゃないの?』
と、言いたくもなるだろう。しかし、夏前はちゃんと実がつくし、夏が過ぎればやはり実をつけるようになるのだから、これはやはり、暑さのせいだろう。となると、これは実に困ったことになる。
なにしろ、花の一番、咲く時期に花粉がみんな死んでしまうのだ。ろくに収穫出来ない。と言うわけで、今年からは夏場に――七月頃の予定――種を蒔いて秋冬採りを狙うことにした。うちのベランダ菜園ではミニトマトは正月頃まで平気で生きていることが多いので、それでも行けるはずだ。
ただ、心配なのは幼苗時点で夏の暑さに耐えられるかなのだが……緑のカーテンを張り巡らせてなんとか!
結果がどうなるかはやってみなければわからない。
さあ、勝負だ!
完
五月と言えば夏野菜シーズンのはじまり!
と言うわげて、オクラとキュウリの種を蒔いた。
野菜類は基本的に種から育てる。さすがに、果樹まで種から育てはしないが(一度、アボカドの種を蒔いたことはあるが。なんと、ちゃんと芽を出した! しかし、冬の寒さで枯れてしまった。悲しい……)。
苗を買って植えた方が簡単だし、確実なことはわかっているのだが、種から育てる方が『手作り』という感じがして楽しい。愛着が湧く。それに、苗は植えるための穴を掘るのが面倒くさい。なにしろ、うちのプランターは全部がぜんぶハコベやら、カタバミやら、その他やら、色々な草が生えていて土のなかも根っこだらけなので……。
まあ、とにかく、オクラとキュウリの種を蒔いたのだ。
オクラは花も大きくてきれいなので観賞用も兼ねて玄関前の鉢に植えてある。
新鮮なオクラは生でも食べられるので、もっぱらそのまま丸かじりする。新鮮な生オクラはポリポリした食感でなんとも歯応えが気持ちいい。これを味わえるのは自分で作っている人間の特権だろう。
そして、キュウリ。
キュウリを丸かじりするのはまあ、普通だろう。しかし、我が家のベランダ菜園のキュウリは格がちがう。市販品のように水っぽくなく、身が締まっていて、香り高い。一口かじれば口のなかいっぱいに香りが広がる。それはもはや甘くないメロン。自分でキュウリを作るようになってから、とてもではないが市販のキュウリは食べられなくなった。あんな水っぽい代物は『野菜』ではない!
まあ、本数はろくにとれないのだけど。どう言うわけか、花そのものがろくにつかない。これはやはり、西向きのベランダと言うことで直射日光を浴びる時間が短いからだろうか。それとも、育て方の問題か? 土のなかの窒素分が多すぎで茎葉ばかりが育って花がつかないとか? 『ハコベの育つ土はなんでも作れる』と聞いているのだが……。
あと気になるのはナス。どうも、育ちが悪い。
ナスはもともと好きではないので作っていなかった。だが、最近、親の認知症対策もあってポリフェノール効果目当てに食材として使うようになった。そこで、どうせだから自分で作ってみようということに相成った。早めに収穫したくて早くに種蒔きしたのだがやはり、早く蒔けば良いというものではないか。
まあいい。とにかく、様子を見よう。最近、寒気がぶり返した時期があったからそのせいで育ちが鈍ったのかも知れない。だとすればこれからどんどん育って遅れを取り戻すということもあるだろう。どうしても育ちが悪いとなったら苗を買ってくるという手もあるし……。
その場合は『現代農業』に載っていた『置くだけ定植』を試してみよう。
これは読んで字のごとく植え穴を掘ることなく、根鉢を土の上に置くだけ、と言う簡単な方法。これで育ちが良くなるらしい。
理由は見当がつく。根が酸素を吸いやすくなるからだろう。
勘違いしている人間が多いようだが――某長寿ギャグマンガの作者など――植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐いているのではない。植物だって呼吸するときには酸素を吸って二酸化炭素を吐いている。二酸化炭素はあくまでも光合成の燃料として吸収しているのであってその際、自分が必要とする以上の酸素を作るから余分な酸素を捨てているだけ。
要するに、動物は植物抜きでは生きていけないが、植物は動物抜きでも生きていける。決して、植物と動物とで逆の呼吸をして、補完関係にあるのではない(そう言えば、藤子・F・不二雄氏も『みどりの守り神』のなかで同じ勘違いをしていたなあ……)。
まあ、それはともかく、植物だって酸素は必要なのだ。そして、茎葉からだけではなく、根っ子からも酸素を吸っている。根鉢が土のなかに埋められることなく空気中に出ていれば、根鉢のなかの根は酸素を吸いやすくなる。その分、元気で健康に育つ……と言うことなのだろう。多分。
それを試すチャンスが来ると思えば種から育てているナスの育ちが悪いのも、まあ悪くはない。……いや、もちろん、種から立派に育って欲しいわけだけど。
さて、ここまで読んできて違和感を感じないだろうか。
夏野菜の女王とも言うべき『あの野菜』がない。
トマトである。
きらう人間も多いトマトだが、私はトマト大好き人間である。
並のトマト好きではない。筋金入りのトマト好きだ。なにしろ、生まれる前からトマトが好きだったのだから。
『そんなわけないだろ!』などと言うなかれ、だ。
私の母親は私を身ごもっている頃、別に好きでもなかったトマトが食べたくなったという。体内の私が食べたがっていたわけだ。どうだ。私のトマト好きはまぎれもなく、生まれる前からの筋金入りだろう。
でっ、そのトマト。
今年からはもう春に種を蒔くのをやめることにした。
なぜかと言うと、。夏にまるっきり実をつけないからだ。
花は咲く。花は咲くのだがすべて、実をつけることなく落ちてしまう。おそらく、温暖化の影響だろう。夏が暑くなりすぎたので花粉がすべて死んでしまうのだと思う。
『世話が下手なだけじゃないの?』
と、言いたくもなるだろう。しかし、夏前はちゃんと実がつくし、夏が過ぎればやはり実をつけるようになるのだから、これはやはり、暑さのせいだろう。となると、これは実に困ったことになる。
なにしろ、花の一番、咲く時期に花粉がみんな死んでしまうのだ。ろくに収穫出来ない。と言うわけで、今年からは夏場に――七月頃の予定――種を蒔いて秋冬採りを狙うことにした。うちのベランダ菜園ではミニトマトは正月頃まで平気で生きていることが多いので、それでも行けるはずだ。
ただ、心配なのは幼苗時点で夏の暑さに耐えられるかなのだが……緑のカーテンを張り巡らせてなんとか!
結果がどうなるかはやってみなければわからない。
さあ、勝負だ!
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