我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その二〇

残念報告

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 今回は残念な結果となった。
 ポポーの実をつけることが出来なかった。
 もともと、ポポーは実をつけるのがむずかしい。ポポーは雄しべと雌しべの成熟する時期がちがう。雄しべが成熟して花粉を出すようになる頃には雌しべはすでに歳老い、受粉能力を失ってしまっている。まさに『誰得⁉』と叫びたくなるような進化を遂げた植物。
 そのため、先に咲いた花の花粉をまだ若い花の雌しべにつけてやらなくてはならないのだが……それが、うまく行かなかったと言うことだろう。まあ、もともと、私は人工授粉が下手なのだが。
 ともあれ、ポポーは来年もう一度、挑戦しよう。それでもためなら……なにか、別の果樹を考えよう。
 ポポーよりもっと残念だったのがパッションフルーツ。結局、この春は芽が伸びてこなかった。
 パッションフルーツは寒さに弱いので去年までは冬は室内に取り込んでいた。だが、
 『ベランダに出しっぱなしで冬越しできればもっと大きく育てられるし、数も増やせる!』
 と言うことで、試しにベランダに出したまま冬越しさせてみたのだが……だめだったらしい。最近は温暖化の影響で冬でもけっこう暖かいからイケるかと思ったのだが。まあ、果樹というやつはデリケートだから、一日でも冷え込めばそのたった一日でやられることもあるからなあ。
 もっとも、パッションフルーツは寿命が短いらしいから寿命だったと言うことも……いや、それはないか。果樹は果樹。いくらなんでもほんの数年で寿命を迎えることはないだろう、多分。
 ともあれ、パッションフルーツの冬越しは失敗。枯らしてしまった。パッションフルーツは柑橘系の味が好みだったし、ケーキに練り込んだときの種が弾ける食感が好きだったので本当に残念。
 一方、皮肉なことにブドウがよく成長している。茎葉もよく伸びているし、房も多くついている。品種は安芸クイーン。大粒種なのであまり多くの房をつけていると質も落ちやすいし、一つひとつの房につく実が減ってしまう。品質のためには、いくつか房を取り除く必要があるかも知れない。
 まあ、売り物ではないのだから形を整える必要はない。自然の調整に任せておいてもいいのだが。
 茎葉を茂らせて日差しを遮ってくれるのもありがたい。
 なにしろ、我が家のベランダは西向きなので夏は西日がもろに部屋に差し込んで大変なのだ。どれぐらい大変かというと部屋に置いておいたチョコレートが完全に溶けてしまうぐらい。
 いやもう、さすがにあのときは驚いた。部屋に置いておいたチョコレートが完全に液状になり、個包装のなかでタプタプ言っていたのだから。これ以来、夏場は溶けやすいものは部屋に置かなくなった。
 と言うわけで、茎葉を伸ばして夏の西日を遮ってくれるのはありがたい。では、なにが皮肉なのかと言うと……ブドウはあまり好きではないのだ、実は。何粒か食べるとたいてい飽きる。
 『じゃあ、なんでブドウなんて育ててるんだ⁉』
 と言うなら答えは単純。
 育ててみたかったから。
 育てる楽しみと食べる楽しみはまた別である。
 ともあれ、同じ環境で同じ人間が栽培していてこのちがい。どうやら、我が家のベランダ菜園はブドウには適した環境らしい。好みに合っているパッションフルーツには不向きで、さほど好きではないブドウに向いていると言うのだからつくづく皮肉。
 いや、もちろん、ブドウはなんにも悪くないし、よく育ち、よく房をつけてくれるのは嬉しいのだが――。
 残念!
                    完
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