我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

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その一八

問題。アスパラの葉はどこにある?

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 あらら。
 アスパラを一本、見逃していた。
 いや、こういうことがけっこうあるのだ、実は。
 なにしろ、うちのプランターはどれもこれもハコベやら、カタバミやら、その他やら、色々な草が生えていて緑一色。なので、同じく緑色のアスパラはついつい見逃してしまうことがある。緑色の支柱を立てているのでそこにまぎれてしまうから気がつきにくいということもある。細いものだとなおさらだ。
 今回もそのパターン。
 気がついたら細いアスパラが長くながく伸びていた。
 これはもう食べるにはむかない。いやまあ、いまの時点ならまだ食べて食べられないことはないだろう。
 しかしだ。
 旬の時期を過ぎたアスパラをわざわざ食べる必要がどこにある? これからどんどん新しい芽が伸びてくると言うのに。
 そこでもう、この見逃してしまったアスパラはこのまま育てて光合成をしてもらい、根株に栄養を与えてもらうことにした。一般にアスパラの栽培は六月までは出てくる芽をすべて収穫し、その後は収穫せずに芽を育て、来年のために根株に養分を蓄えさせる、という方法で成される。がっ……。
 最近では葉を茂らせて光合成をさせつつ収穫する、というやり方も広まってきている。
 つまり、成長させつつ、収穫する。
 前者の収穫と成長をわけるやり方だと収穫出来るのは四~六月の間だけ。あとはまったく金にならない。その点、成長させながらの収穫だと六月以降も収穫出来るのでそれだけ長い期間、金が稼げる。農家としてはどれだけ長い間、金を稼げるかが重要なのでこのやり方が広まるのも当然だろう。なんだか、人間と同じようでおもしろい。
 人間も以前のような『若いうちは学校で学び、そのあとは仕事しごとで金を稼ぐ』という生き方はもう通用しなくなりつつある。世の中の変化があまりにも早くなり、学校で学んだ知識などすぐに通用しなくなる。そこで、これからは『生涯、勉強しながら仕事する』という時代。アスパラもそれと同じ時代を迎えつつあるのだ。
 ともかく、食用に適した時期を過ぎて伸ばしてしまったので、成り行きではあるが『成長させながら収穫』方式でやっていくことにした。
 と言うわけで、ここで問題。
 アスパラの葉はどこにある?
 アスパラの葉。
 多分、アスパラを栽培したことのある人以外、一度も見たことはないだろう。しかし、アスパラも野菜。アスパラも植物。植物であるからにはもちろん、葉っぱもある。では、アスパラの葉っぱはどこにある?
 あの食用の茎とは別に葉っぱだけ別に生えている?
 実はあの食用の部分はアスパラ全体のほんの先っぽで、葉っぱはその下の茎についている?
 残念。
 両方、まちがい。
 アスパラの葉っぱ。それは実は先端のあの鱗状の部分。
 アスパラは生長すると先端の三角の鱗のような部分が伸びて、細い糸のような葉をいっぱいつけた枝になるのだ。
 私も自分でアスパラを栽培してはじめて知った。それまでは漠然ばくぜんと『食用の部分とは別に葉っぱが伸びてくるのだろう』と思っていたので、生長したアスパラがいっぱいに葉を伸ばし、まったく別の姿にメタモルフォーゼする様を見て驚いた。
 いや、ほんと。まったくちがう姿になるのだ。
 大きさからしてちがう。
 生長したアスパラは私の身長よりも高くなる。しょせん、一般的なプランターでの栽培でこれなのだから、土壌栽培で条件がよければ二メートルにも三メートルにもなるのだろう。
 そんな、高く伸びたアスパラの茎がたくさんの枝を伸ばし、糸のような細い葉をつける。そんなアスパラが何本も並び、こんもりと生い茂る姿はまさに森。
 そして、節ごとに小さなちいさな鈴型の花が無数に咲く。
 それはもう、もしも、この花がすべて風鈴だったらさぞかし賑やかだろうと思わせる姿。
 それこそ『妖精の国』を思わせるメルヘンチックな姿になるのだ。
 妖精の置物でも置いて撮影したらさぞかし絵になることだろう。
 そう思わせる姿である。
 花がいっぱい咲くからタネももちろん大量に実る。このタネは小さすぎて人間の食用には向かないが――そもそも、成分的に人間が食べられるかどうか知らないが――おそらく、小鳥や虫たちにとっては貴重な食糧となっていることだろう。なんと言っても植物のタネ。成長のための栄養はギュッと詰まっているはずだ。
 自らが成長することで他の多くの生命を育む。
 やはり、植物は偉大である。
 人類と、その文明もかくありたい。
                 完
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