19 / 32
一九章 乳闘民族ウフト人
しおりを挟む
育美は部屋に戻り、眠ろうとした、したのだが……。
妙に気分が高ぶって眠れない。体もなにか火照っているようだ。落ち着かない気分で布団のなかで何度もなんどもモゾモゾと寝返りを打った。どうしても眠れない。眠れないなかで時間だけが過ぎていく。
「駄目だ! 眠れる気がしない」
結局、育美は起き出した。なんとなしに工場に向かった。すると、工場にはまだ灯がついていた。
――志信さん、まだつづけているのか?
邪魔をしないようそっと様子をうかがう。すると、目に入ったのは工場の床でなにやら熱心に体操している志信の姿だった。
あぐらをかいて座った姿勢で胸の前で両手を合わせて合掌していたかと思えば、今度は手を頭の後ろで組んで顔の前で肘をつける。それから、腕立て伏せとつづく。すぐそばの台には豆乳の一リットルパック。
「……空手の練習か? こんな時間にも稽古なんて、全国大会常連と言うだけあってさすがに熱心だな」
育美がそう言ったそのときだ。地の底から轟いてくるような声がすぐ後ろでした。
「み~た~な~」
「わあっ!」
思わず飛びあがった育美の後ろ。そこには子豚のプリントがいっぱいついたかわいいパジャマを着た心愛が立っていた。
「こ、心愛ちゃん……⁉」
叫ぶ育美に、心愛は口もとに指を当てて見せた。
「……静かに。あなたは見てはいけないものを見てしまった。志信お姉ちゃんにバレたら口封じのために消されることになる」
「け、消されるって……」
「あれこそ、志信お姉ちゃんの欠かさぬ日課、貧乳女性の宿命、その名をバストアップ体操」
「バ、バストアップ……?」
「そう。希見お姉ちゃんと多幸は父方の血が出て胸の育ちが良い。でも、志信お姉ちゃんとわたしは母親似。お母さんも胸のないのを気にして、いつもバストアップ体操していた。食事には常に豆腐と豆乳」
「豆腐? 豆乳?」
「豆腐は乳に効く。芸能界やAV業界では定説」
「そ、そうなのか?」
そう言えば、かつての仲間だった上条唯もよく豆腐を出していた。そして、その唯もまた胸の小ささを気にしていた。もうひとりの女性である今村聡美がなかなかの巨乳だったのでよけい、気になったのだろう。
――唯は『豆腐は安くて栄養があるから貧乏所帯にピッタリ』って言ってたけど……実はそう言う意味だったのか?
「あああっ⁉ それじゃ、志信さんに豆腐料理を出したとき、怒っていたのはそう言うことだったのか⁉」
育美が作って出した唯ゆずりの豆腐料理。それを一目見た瞬間、志信は怒って叫んだものである。
「嫌味か⁉」と。
豆腐料理にそう言う意味があったならそうとられても仕方がない。とんでもないことをしてしまった、と、頭を抱える育美であった。
心愛はつづけた。
「志信お姉ちゃんもまた、母からつづく呪いを断ち切るべく、努力は欠かさない。毎日のバストアップ体操、マッサージ、豆腐に豆乳。豊乳器具の数々。志信お姉ちゃんがお風呂に入るのが遅いのはそのため。本人が隠しているつもりなので、わたしたちも気付いていない振りをしている」
「そ、そうなんだ……。大変だね」
「そう。それこそが日々、己の貧乳と戦う乳闘民族ウフト人の姿。下級乳士であっても、必死の努力を重ねれば天才乳士を凌ぐこともある。いつか、超ウフト人に覚醒し、世のエリート乳士たちを打ち倒す」
心愛はグッと拳を握りしめ、静かに語る。無表情なクール顔と感情を感じさせない淡々とした声。そこから繰り出されるなんとも物騒な言葉の数々。それが却って、ものすごく怖い。
「で、でも、ふたりともすごい美人じゃないか。志信さんはモデル級の美女だし、心愛ちゃんはクール系アイドル並だし。胸なんて小さくてもかまわないだろう」
育美が不用意に過ぎるその発言をした瞬間、心愛の全身からどす黒い妖気が吹きあがり、育美を包み込んだ。まるで、人を異界に引きずり込む触手のように。そのあまりに濃密な気配に育美は一瞬、窒息しそうになった。
「……男にはわからない。妹に胸囲で負ける屈辱は。揺れないバストと、できない谷間に、どれほど悩むかは。ブラと胸の隙間にパッドを詰め込むその悲しみは」
――そう言えば、おれが女装するために、よく都合よくパッドなんてあったと思ったけど……志信さんが使っていたものだったのか。
妙に納得してしまう育美であった。
「だ、だけど、君はまだ中一だろう? まだまだこれからなんだから、そんなに気にしなくても……」
「デカくなる女は思春期前からデカい。事実、多幸はすでにかがむと谷間ができる。わたしにはできない」
「あ、ああ、そう……」
「見ているがいい。不本意ないまをかえるのは戦う覚悟。研ぎ澄まされたわたしの殺意が、いつかこの胸を巨乳にかえる」
――殺意……。誰に対する殺意なんだ?
そう思い――。
背筋の凍える思いのする育美であった。
妙に気分が高ぶって眠れない。体もなにか火照っているようだ。落ち着かない気分で布団のなかで何度もなんどもモゾモゾと寝返りを打った。どうしても眠れない。眠れないなかで時間だけが過ぎていく。
「駄目だ! 眠れる気がしない」
結局、育美は起き出した。なんとなしに工場に向かった。すると、工場にはまだ灯がついていた。
――志信さん、まだつづけているのか?
邪魔をしないようそっと様子をうかがう。すると、目に入ったのは工場の床でなにやら熱心に体操している志信の姿だった。
あぐらをかいて座った姿勢で胸の前で両手を合わせて合掌していたかと思えば、今度は手を頭の後ろで組んで顔の前で肘をつける。それから、腕立て伏せとつづく。すぐそばの台には豆乳の一リットルパック。
「……空手の練習か? こんな時間にも稽古なんて、全国大会常連と言うだけあってさすがに熱心だな」
育美がそう言ったそのときだ。地の底から轟いてくるような声がすぐ後ろでした。
「み~た~な~」
「わあっ!」
思わず飛びあがった育美の後ろ。そこには子豚のプリントがいっぱいついたかわいいパジャマを着た心愛が立っていた。
「こ、心愛ちゃん……⁉」
叫ぶ育美に、心愛は口もとに指を当てて見せた。
「……静かに。あなたは見てはいけないものを見てしまった。志信お姉ちゃんにバレたら口封じのために消されることになる」
「け、消されるって……」
「あれこそ、志信お姉ちゃんの欠かさぬ日課、貧乳女性の宿命、その名をバストアップ体操」
「バ、バストアップ……?」
「そう。希見お姉ちゃんと多幸は父方の血が出て胸の育ちが良い。でも、志信お姉ちゃんとわたしは母親似。お母さんも胸のないのを気にして、いつもバストアップ体操していた。食事には常に豆腐と豆乳」
「豆腐? 豆乳?」
「豆腐は乳に効く。芸能界やAV業界では定説」
「そ、そうなのか?」
そう言えば、かつての仲間だった上条唯もよく豆腐を出していた。そして、その唯もまた胸の小ささを気にしていた。もうひとりの女性である今村聡美がなかなかの巨乳だったのでよけい、気になったのだろう。
――唯は『豆腐は安くて栄養があるから貧乏所帯にピッタリ』って言ってたけど……実はそう言う意味だったのか?
「あああっ⁉ それじゃ、志信さんに豆腐料理を出したとき、怒っていたのはそう言うことだったのか⁉」
育美が作って出した唯ゆずりの豆腐料理。それを一目見た瞬間、志信は怒って叫んだものである。
「嫌味か⁉」と。
豆腐料理にそう言う意味があったならそうとられても仕方がない。とんでもないことをしてしまった、と、頭を抱える育美であった。
心愛はつづけた。
「志信お姉ちゃんもまた、母からつづく呪いを断ち切るべく、努力は欠かさない。毎日のバストアップ体操、マッサージ、豆腐に豆乳。豊乳器具の数々。志信お姉ちゃんがお風呂に入るのが遅いのはそのため。本人が隠しているつもりなので、わたしたちも気付いていない振りをしている」
「そ、そうなんだ……。大変だね」
「そう。それこそが日々、己の貧乳と戦う乳闘民族ウフト人の姿。下級乳士であっても、必死の努力を重ねれば天才乳士を凌ぐこともある。いつか、超ウフト人に覚醒し、世のエリート乳士たちを打ち倒す」
心愛はグッと拳を握りしめ、静かに語る。無表情なクール顔と感情を感じさせない淡々とした声。そこから繰り出されるなんとも物騒な言葉の数々。それが却って、ものすごく怖い。
「で、でも、ふたりともすごい美人じゃないか。志信さんはモデル級の美女だし、心愛ちゃんはクール系アイドル並だし。胸なんて小さくてもかまわないだろう」
育美が不用意に過ぎるその発言をした瞬間、心愛の全身からどす黒い妖気が吹きあがり、育美を包み込んだ。まるで、人を異界に引きずり込む触手のように。そのあまりに濃密な気配に育美は一瞬、窒息しそうになった。
「……男にはわからない。妹に胸囲で負ける屈辱は。揺れないバストと、できない谷間に、どれほど悩むかは。ブラと胸の隙間にパッドを詰め込むその悲しみは」
――そう言えば、おれが女装するために、よく都合よくパッドなんてあったと思ったけど……志信さんが使っていたものだったのか。
妙に納得してしまう育美であった。
「だ、だけど、君はまだ中一だろう? まだまだこれからなんだから、そんなに気にしなくても……」
「デカくなる女は思春期前からデカい。事実、多幸はすでにかがむと谷間ができる。わたしにはできない」
「あ、ああ、そう……」
「見ているがいい。不本意ないまをかえるのは戦う覚悟。研ぎ澄まされたわたしの殺意が、いつかこの胸を巨乳にかえる」
――殺意……。誰に対する殺意なんだ?
そう思い――。
背筋の凍える思いのする育美であった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる