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第二部 絆ぐ伝説
第一〇話三章 セアラの夢
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火薬の爆発音が響いた。
轟音とともに円錐型の砲弾が撃ち出され、目標に当たって炸裂した。パンゲア領内に築かれた砦に迫ろうとした亡道の怪物へと。
さしもの強靱な肉体を誇る怪物たちも、すさまじい火薬の爆発をまともに受けて四散した。その光景に、
「おおっ!」
と、砦のなかから感嘆の声が沸き起こった。その様子を見ていた砦の兵士たちが一斉に声をあげたのだ。そのなかで、ひときわ甲高い声がした。
「見たか、科学大好き少女セアラちゃんの実力!」
そう叫びながら楽しそうに飛びはねているのはうら若き女性。太ももの半ばから下が大胆に露出した短いスカートをはいて飛びはねるのは、年頃の女子としてははしたない行為だったろう。しかし、本人はそんなことは気にしていない。ただし、まわりに位置する砦の兵士たちはそうはいかない。飛びはねるごとにヒラヒラと裾がめくれあがるそのたびに『おおっ!』と、視線が集中する。
自分に集中する控えめに言っても『下品でいやらしい』視線にも気づかないのか、それとも、あえて無視しているのか。いずれにせよ、そのうら若き女子はスカートをヒラヒラさせながら飛びはねている。
わざとか、天然か、砦の兵士たちの心をかき乱すうら若き女子の名前はセアラ。『もうひとつの輝き』の長であるメリッサの妹。そして、そのメリッサが天詠みの島に向かっていて不在の間、長の代理を務める才女……『才女』のはずである。なにしろ、メリッサ自身が『研究者としては自分以上に勘が良い』と認めるほどの逸材なのだから。
しかし、セアラの見た目はとてもそうは思えない。栗色の短い髪はところどころ跳ねていて、まるでイヌの耳のよう。トウナと同年代とあって歳の頃は二十歳近いはずなのだが、低めの身長と華奢な体格、幼い顔立ち。なにより、年頃の女子と言うより『やんちゃな男の子』と言った方が似つかわしい無邪気な言動のせいで、とてもそうは思えない。ずっと子どもっぽく見える。すでに、『母』としての貫禄を身につけはじめているトウナと並ぶと、同年代とはとても思えないほどだ。
「思い知ったか、亡道の怪物ども! このボクがいる限り、この砦には指一本ふれさせないからな!」
「おお。言うじゃねえか、セアラ嬢ちゃん」
「けど、ちがいねえや。セアラ嬢ちゃんの持ち込んでくれた大砲のおかげで、怪物どもの相手がずっと楽になったからな」
「おお、その通りだ。まったくもって、頼もしいぜ。これからもこの調子で頼むぜ」
「へへっー。そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めて!」
二〇以上も歳上のむさ苦しい男たちに褒められて、セアラは嬉しそうに飛びはねた。そのたびに短いスカートがめくれあがり、男たちをどよめかせる。
時が凍り、亡道の怪物たちが闊歩する結晶化世界。
未来も、希望も、そのすべてが凍りつき、陰鬱だけが支配するかのようなこの世ならざる場所。
そのなかにあって、あまりにも場違いと言えるほどの快活さ。しかし、その明るさと無邪気さ、そして、子どもっぽい愛らしいさとかわいらしさのおかげで、砦の兵士たちに大人気のセアラなのだった。
「『もうひとつの輝き』では、いまも新兵器の開発をつづけているからね。これからどんどん強力な武器が入ってくるよ。みんなはボクが守るからね!」
なんとも頼もしいその言葉に、年長の兵士たちはそろって笑い声を立てた。
「威勢のいいことだな」
少々、皮肉っぽい口調でそう言いながらやって来たのは、クロヒョウを思わせる黒い肌をもつ、剽悍そのものの印象の若者。砦の最高指揮官、平等の国リンカーンの国王たるプリンスだった。
「プリンス。あ、『陛下』ってお呼びするんだっけ?」
セアラは友だち口調で名を呼んだあと、『失敗、失敗』とばかりに頭に手をやり、舌を出して見せた。そんな仕種がやはり子どもっぽい愛らしさに満ちている。
プリンスはそんなセアラに向かい、首を横に振って見せた。
「『プリンス』でいい。もともと、上下関係などない海賊なんだ。敬称なんぞで呼ばれるのは性に合わないし、平等の国にもふさわしくない」
「そう? じゃあ、『プリンス』って呼ぶね」
セアラは悪びれもせずにそう言った。仮にも一国の王に登りつめた人物に向かい、こうも無遠慮に対することができるのだ。並大抵の根性ではない。
プリンスはセアラから視線をそらした。兵士たちに命令した。
「怪物どもにとどめを刺してこい」
「あいよ!」
兵士たちも『国王に命令された』というよりは、仲間内の大将に指示されたという感じで気楽に請け負い、駆けていく。
生も死もなく、すべてが渾然と混ざりあった亡道の怪物とはいえ、体をバラバラにされてはさすがに動くことはできない。だからと言って、死んだわけではない。もとより、生も死もない混沌の存在なのだから。
そんな亡道の怪物にとどめをさすためには、天命の理を付与された武器で斬り刻むか、炎で焼き尽くして浄化するか、そのどちらかしかない。そのことを重々、承知している兵士たちは、瓶いっぱいの油を持ち出して四散した怪物の肉片の上にぶちまけ、火をつけた。
たちまちのうちに炎が巻き起こり、天に向かって盛大に燃えあがった。その景気のいい様子に海賊あがりの兵士たちはそろって歓声をあげた。そのまま肉と酒を持ち出して、宴をはじめてしまいそうな陽気さだった。
プリンスはその様子を確認すると、視線を巡らせた。砦に設置された最新式の大砲を見た。セアラ自らが設計・製造し、この砦に持ち込んだ新型の爆砕射を。
「大した威力だ。射程距離も、砲撃の精密さもあがっている。お前がこの大砲を持ち込んでくれたおかげで、兵士たちの消耗を押さえられるようになった。礼を言うぞ」
「へへっー。それが、ボクのとりえだからね」
と、セアラはやはり悪びれずに胸を張る。その素直な自慢ぶりは見ていて気持ちがいいほどだった。
「ボクは科学が好きなんだ。科学と、科学の生みだす機械がね。見ていて。ボクはいまに世界中に科学を広めてみせる。世界中のすべての人が機械の恩恵を受けることのできる科学文明を作りあげるんだ」
若者らしい脳天気なほどの気宇の大きさを見せつけて、そう宣言するセアラだった。誇りに満ちたその表情、控えめな胸を堂々と反らしたその姿勢。それは、いずれもこの若者が本気でそんな未来を思い描いていることを示していた。
そんなセアラをプリンスは不思議そうに見つめていた。
「なに?」
「……いや。お前は『もうひとつの輝き』の一員、つまり、天命の博士なんだろう?」
「うん、そう」
「それなのに、科学が好きなのか?」
「確かに、僕は天命の理も使うけどね。でも、本当に広めたいのは科学なんだ。科学の方が安定感があるからね」
「安定感?」
「そう。天命の理はどうしても個人の資質に影響されるから。同じことをしようとしても人によって効果はかわっちゃうし、同じ人でもその日その日の気分や体調によって効果がちがってしまう。その点、科学なら個人の資質に影響されない。使い方さえ知っていれば、誰が使っても同じ結果を出せる。その分、安定して結果を出せるってわけ」
「なるほど」
「亡道の司との戦いに関しても同じだよ。天命の理を付与した武器を作ろうとしても個人の資質に制限されるから出来もバラバラだし、大量生産もできない。その点、科学の武器なら作り方さえ知っていれば、同じものがどんどん作れる。現にいま、世界中に作り方を伝えて大量生産の態勢を整えているからね。自走砲の改良もつづけているし、これからどんどん新しい武器が入ってくるよ。その武器で、亡道の司なんてぶちのめしてやるんだ!」
セアラは威勢よくそう言ったあと、付け加えた。
「そして、世界中に科学文明を広める。見ていて。いまに、人間のやりたくない事はみんな、科学の生みだした機械がやってくれる時代になる。そうなれば、奴隷なんて必要なくなる。ボクが奴隷のいない世界を作ってみせるよ!」
セアラは拳をギュッと握りしめて、宣言した。キラキラと無邪気に輝く瞳がまぶしすぎて直視できないほどだ。
「……そうか」
と、プリンスは視線をそらしながら短く答えた。
――奴隷労働の実態も知らないくせに、呑気なことを。
元奴隷してはそう思わないでもなかったがもちろん、セアラの言っていること自体はプリンスにとってなによりも望むところである。
「そのためにも、亡道の司を倒す。ボクの望む世界を作ることは誰にも邪魔させないよ。メリッサ姉さんが帰ってくるまで、ボクが立派に『もうひとつの輝き』の長として準備を整えておくからね」
あくまで明るく、快活に、そう宣言するセアラだった。
そんなセアラをプリンスはマジマジと見つめた。
「なに、そんなに見つめて? ボクに惚れちゃった? ダメだよ。プリンスは妻子持ちなんだから。いくら、ボクが魅力的だからって浮気はダメ」
「そんなことはあり得ない。トウナはお前とは比べものにならないほど魅力的だ」
はっきりとそう言われて、セアラはぷくうっと頬をふくらませた。
「そうじゃなくて、お前はメリッサの妹なんだよな」
「うん、そうだよ。それがなに?」
「いや。姉妹にしては似ていないと思ってな」
それは少々、配慮に欠ける言葉だったかも知れない。人によっては傷ついていただろう。確かに、メリッサとセアラは見た目もちがうし、態度と性格がちがいすぎるのだが。
セアラは気にしたふうでもなく、頭に手を当てて見せた。
「いやあ、そうなんだよねえ。よく言われるんだ。『とても、メリッサの妹とは思えない』って」
素直にそう言ったところを見ると、本人にもその自覚があるのだろう。
「でも、ボクは確かに姉さんの妹だし、姉さんのことは大好きだよ。尊敬してる。だからこそ、姉さんの留守はボクが守る。そして、姉さんと一緒にこの世界を亡道の司から守るんだ。姉さんなら絶対、亡道の司を倒す力を手に入れて帰ってくるからね」
セアラは無邪気にそう言った。
セアラはこのとき、まだ知らなかった。もう二度と、大好きな姉と出会うことはできないのだという現実を。
轟音とともに円錐型の砲弾が撃ち出され、目標に当たって炸裂した。パンゲア領内に築かれた砦に迫ろうとした亡道の怪物へと。
さしもの強靱な肉体を誇る怪物たちも、すさまじい火薬の爆発をまともに受けて四散した。その光景に、
「おおっ!」
と、砦のなかから感嘆の声が沸き起こった。その様子を見ていた砦の兵士たちが一斉に声をあげたのだ。そのなかで、ひときわ甲高い声がした。
「見たか、科学大好き少女セアラちゃんの実力!」
そう叫びながら楽しそうに飛びはねているのはうら若き女性。太ももの半ばから下が大胆に露出した短いスカートをはいて飛びはねるのは、年頃の女子としてははしたない行為だったろう。しかし、本人はそんなことは気にしていない。ただし、まわりに位置する砦の兵士たちはそうはいかない。飛びはねるごとにヒラヒラと裾がめくれあがるそのたびに『おおっ!』と、視線が集中する。
自分に集中する控えめに言っても『下品でいやらしい』視線にも気づかないのか、それとも、あえて無視しているのか。いずれにせよ、そのうら若き女子はスカートをヒラヒラさせながら飛びはねている。
わざとか、天然か、砦の兵士たちの心をかき乱すうら若き女子の名前はセアラ。『もうひとつの輝き』の長であるメリッサの妹。そして、そのメリッサが天詠みの島に向かっていて不在の間、長の代理を務める才女……『才女』のはずである。なにしろ、メリッサ自身が『研究者としては自分以上に勘が良い』と認めるほどの逸材なのだから。
しかし、セアラの見た目はとてもそうは思えない。栗色の短い髪はところどころ跳ねていて、まるでイヌの耳のよう。トウナと同年代とあって歳の頃は二十歳近いはずなのだが、低めの身長と華奢な体格、幼い顔立ち。なにより、年頃の女子と言うより『やんちゃな男の子』と言った方が似つかわしい無邪気な言動のせいで、とてもそうは思えない。ずっと子どもっぽく見える。すでに、『母』としての貫禄を身につけはじめているトウナと並ぶと、同年代とはとても思えないほどだ。
「思い知ったか、亡道の怪物ども! このボクがいる限り、この砦には指一本ふれさせないからな!」
「おお。言うじゃねえか、セアラ嬢ちゃん」
「けど、ちがいねえや。セアラ嬢ちゃんの持ち込んでくれた大砲のおかげで、怪物どもの相手がずっと楽になったからな」
「おお、その通りだ。まったくもって、頼もしいぜ。これからもこの調子で頼むぜ」
「へへっー。そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めて!」
二〇以上も歳上のむさ苦しい男たちに褒められて、セアラは嬉しそうに飛びはねた。そのたびに短いスカートがめくれあがり、男たちをどよめかせる。
時が凍り、亡道の怪物たちが闊歩する結晶化世界。
未来も、希望も、そのすべてが凍りつき、陰鬱だけが支配するかのようなこの世ならざる場所。
そのなかにあって、あまりにも場違いと言えるほどの快活さ。しかし、その明るさと無邪気さ、そして、子どもっぽい愛らしいさとかわいらしさのおかげで、砦の兵士たちに大人気のセアラなのだった。
「『もうひとつの輝き』では、いまも新兵器の開発をつづけているからね。これからどんどん強力な武器が入ってくるよ。みんなはボクが守るからね!」
なんとも頼もしいその言葉に、年長の兵士たちはそろって笑い声を立てた。
「威勢のいいことだな」
少々、皮肉っぽい口調でそう言いながらやって来たのは、クロヒョウを思わせる黒い肌をもつ、剽悍そのものの印象の若者。砦の最高指揮官、平等の国リンカーンの国王たるプリンスだった。
「プリンス。あ、『陛下』ってお呼びするんだっけ?」
セアラは友だち口調で名を呼んだあと、『失敗、失敗』とばかりに頭に手をやり、舌を出して見せた。そんな仕種がやはり子どもっぽい愛らしさに満ちている。
プリンスはそんなセアラに向かい、首を横に振って見せた。
「『プリンス』でいい。もともと、上下関係などない海賊なんだ。敬称なんぞで呼ばれるのは性に合わないし、平等の国にもふさわしくない」
「そう? じゃあ、『プリンス』って呼ぶね」
セアラは悪びれもせずにそう言った。仮にも一国の王に登りつめた人物に向かい、こうも無遠慮に対することができるのだ。並大抵の根性ではない。
プリンスはセアラから視線をそらした。兵士たちに命令した。
「怪物どもにとどめを刺してこい」
「あいよ!」
兵士たちも『国王に命令された』というよりは、仲間内の大将に指示されたという感じで気楽に請け負い、駆けていく。
生も死もなく、すべてが渾然と混ざりあった亡道の怪物とはいえ、体をバラバラにされてはさすがに動くことはできない。だからと言って、死んだわけではない。もとより、生も死もない混沌の存在なのだから。
そんな亡道の怪物にとどめをさすためには、天命の理を付与された武器で斬り刻むか、炎で焼き尽くして浄化するか、そのどちらかしかない。そのことを重々、承知している兵士たちは、瓶いっぱいの油を持ち出して四散した怪物の肉片の上にぶちまけ、火をつけた。
たちまちのうちに炎が巻き起こり、天に向かって盛大に燃えあがった。その景気のいい様子に海賊あがりの兵士たちはそろって歓声をあげた。そのまま肉と酒を持ち出して、宴をはじめてしまいそうな陽気さだった。
プリンスはその様子を確認すると、視線を巡らせた。砦に設置された最新式の大砲を見た。セアラ自らが設計・製造し、この砦に持ち込んだ新型の爆砕射を。
「大した威力だ。射程距離も、砲撃の精密さもあがっている。お前がこの大砲を持ち込んでくれたおかげで、兵士たちの消耗を押さえられるようになった。礼を言うぞ」
「へへっー。それが、ボクのとりえだからね」
と、セアラはやはり悪びれずに胸を張る。その素直な自慢ぶりは見ていて気持ちがいいほどだった。
「ボクは科学が好きなんだ。科学と、科学の生みだす機械がね。見ていて。ボクはいまに世界中に科学を広めてみせる。世界中のすべての人が機械の恩恵を受けることのできる科学文明を作りあげるんだ」
若者らしい脳天気なほどの気宇の大きさを見せつけて、そう宣言するセアラだった。誇りに満ちたその表情、控えめな胸を堂々と反らしたその姿勢。それは、いずれもこの若者が本気でそんな未来を思い描いていることを示していた。
そんなセアラをプリンスは不思議そうに見つめていた。
「なに?」
「……いや。お前は『もうひとつの輝き』の一員、つまり、天命の博士なんだろう?」
「うん、そう」
「それなのに、科学が好きなのか?」
「確かに、僕は天命の理も使うけどね。でも、本当に広めたいのは科学なんだ。科学の方が安定感があるからね」
「安定感?」
「そう。天命の理はどうしても個人の資質に影響されるから。同じことをしようとしても人によって効果はかわっちゃうし、同じ人でもその日その日の気分や体調によって効果がちがってしまう。その点、科学なら個人の資質に影響されない。使い方さえ知っていれば、誰が使っても同じ結果を出せる。その分、安定して結果を出せるってわけ」
「なるほど」
「亡道の司との戦いに関しても同じだよ。天命の理を付与した武器を作ろうとしても個人の資質に制限されるから出来もバラバラだし、大量生産もできない。その点、科学の武器なら作り方さえ知っていれば、同じものがどんどん作れる。現にいま、世界中に作り方を伝えて大量生産の態勢を整えているからね。自走砲の改良もつづけているし、これからどんどん新しい武器が入ってくるよ。その武器で、亡道の司なんてぶちのめしてやるんだ!」
セアラは威勢よくそう言ったあと、付け加えた。
「そして、世界中に科学文明を広める。見ていて。いまに、人間のやりたくない事はみんな、科学の生みだした機械がやってくれる時代になる。そうなれば、奴隷なんて必要なくなる。ボクが奴隷のいない世界を作ってみせるよ!」
セアラは拳をギュッと握りしめて、宣言した。キラキラと無邪気に輝く瞳がまぶしすぎて直視できないほどだ。
「……そうか」
と、プリンスは視線をそらしながら短く答えた。
――奴隷労働の実態も知らないくせに、呑気なことを。
元奴隷してはそう思わないでもなかったがもちろん、セアラの言っていること自体はプリンスにとってなによりも望むところである。
「そのためにも、亡道の司を倒す。ボクの望む世界を作ることは誰にも邪魔させないよ。メリッサ姉さんが帰ってくるまで、ボクが立派に『もうひとつの輝き』の長として準備を整えておくからね」
あくまで明るく、快活に、そう宣言するセアラだった。
そんなセアラをプリンスはマジマジと見つめた。
「なに、そんなに見つめて? ボクに惚れちゃった? ダメだよ。プリンスは妻子持ちなんだから。いくら、ボクが魅力的だからって浮気はダメ」
「そんなことはあり得ない。トウナはお前とは比べものにならないほど魅力的だ」
はっきりとそう言われて、セアラはぷくうっと頬をふくらませた。
「そうじゃなくて、お前はメリッサの妹なんだよな」
「うん、そうだよ。それがなに?」
「いや。姉妹にしては似ていないと思ってな」
それは少々、配慮に欠ける言葉だったかも知れない。人によっては傷ついていただろう。確かに、メリッサとセアラは見た目もちがうし、態度と性格がちがいすぎるのだが。
セアラは気にしたふうでもなく、頭に手を当てて見せた。
「いやあ、そうなんだよねえ。よく言われるんだ。『とても、メリッサの妹とは思えない』って」
素直にそう言ったところを見ると、本人にもその自覚があるのだろう。
「でも、ボクは確かに姉さんの妹だし、姉さんのことは大好きだよ。尊敬してる。だからこそ、姉さんの留守はボクが守る。そして、姉さんと一緒にこの世界を亡道の司から守るんだ。姉さんなら絶対、亡道の司を倒す力を手に入れて帰ってくるからね」
セアラは無邪気にそう言った。
セアラはこのとき、まだ知らなかった。もう二度と、大好きな姉と出会うことはできないのだという現実を。
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