221 / 279
第二部 絆ぐ伝説
第九話二章 あなたも一緒に
しおりを挟む
「天詠みの島に行くだって⁉」
「そうだ」
コクリ、と、不退転の決意を込めてロウワンは仲間たちの驚きの声にうなずいた。その声を聞き、表情を見れば、ロウワンがその思いを曲げることは決してないことは明らかだった。
ヤーマン支城。イスカンダル城塞群、いや、いまではプリンスの国である平等の国リンカーンの本拠となったこの地においてもっとも東、すなわち、パンゲア領に最も近い位置にあるがゆえにプリンスによって平等の国の王宮に定められた城。その会議室において、ロウワンは仲間たちに向かって言ったのだ。
「おれはこれから、騎士マークスの幽霊船と共に天詠みの島へと行く」と
メリッサ、ビーブ、トウナ、野伏、行者、プリンス、〝ブレスト〟・ザイナブ、ハーミド、セシリア、それに、レディ・アホウタ。仲間たちはあるものは驚きの表情をもって、またあるものは納得の表情をもって、ロウワンの言葉を受けとめた。
「天詠みの島に行って、はじまりの種族ゼッヴォーカーの導師に会う。亡道の司との戦いに勝つためにはどうしても、かの人の力が必要だ。そもそも、千年前の勝利にしてからがゼッヴォーカーの導師の協力なしにはあり得なかったんだからな」
千年の時を超えてこの世界を亡道から守りつづけている天命の曲。その天命の曲は天命の巫女ひとりによって生みだされたものではない。ゼッヴォーカーの導師が自分たちの知恵を天命の巫女に授けることで生みだされたもの。
もし、千年前にゼッヴォーカーの導師の協力がなければ、人類は亡道の侵食を防ぐことがでぎずに世界はまるごと呑み込まれて滅びていた。
それを知るだけに、ロウワンとしては『ゼッヴォーカーの導師に会う』というのはこれからの戦いに勝利するための絶対条件。決して、外すわけにはいかないことだった。
「だけど……」と、トウナ。
「その天詠みの島に行って、帰ってくるまでに、どれぐらいかかるの?」
「わからない。一年か、二年か、それ以上か」
「そんなに?」
ピクリ、と、〝ブレスト〟・ザイナブが顔中に巻きつけた布からのぞく目をつりあげた。
「そんなに長い間はなれていて、自由の国の主催としての役目はどうする気? その責任を放棄するの?」
〝ブレスト〟・ザイナブに手厳しく言われて、ロウワンはかすかに顔をしかめた。
「そう言われると耳が痛い。だけど、これは必要なことなんだ。ゼッヴォーカーの導師には会いに行かなくちゃならない。絶対に。それも、一刻も早く。いまはアルヴィルダとアルテミシア、ふたりの張り巡らしてくれた封印が二重の防壁になることで、パンゲア内の異変から世界は守られている。亡道の司自身、〝鬼〟によって傷つけられた。その分、行動するのは遅れるはずだ。だけど……」
ロウワンはいったん、言葉を区切った。大きく息を吸い、吐き出してからつづけた。
「その効果もいつかは尽きる。アルヴィルダたちの封印も時間と共に効果は薄れ、やがては消えてなくなる。亡道の司の傷もやがては癒える。そうなれば、すべてがかわる。この世界はパンゲア領からあふれ出す亡道のものたちに蹂躙されつくすことになる」
「……パンゲア騎士団全員、亡道の司に乗っ取られた。そう言っていたな、レディ?」
「そうっス……」
ハーミドが深刻な表情を浮かべて言うと、レディ・アホウタが無念の思いを噛みしめながら答えた。かつては、愛らしい幼い少女の姿をしていたレディ・アホウタ。そのかの人も亡道に冒されたいまでは腐りはてた死体。その姿は異形と呼ぶ以外にないのだが、この場にいる誰もそんなことは気にしていない。
パンゲア領で旅を共にしてきたメリッサたちはもちろん、はじめて会うプリンスや〝ブレスト〟・ザイナブ、まだ一二歳の少女であるセシリアですら、その存在を当たり前のように受け入れている。
マークスの幽霊船のことで頭がいっぱいで、レディ・アホウタのことまで気にしている余裕がなかった。その間に存在に慣れてしまった……というのもあるが正直、パンゲアの〝神兵〟やら、ローラシアの天命の兵やらと戦ってきた身にとっては、腐った死体が生きて、動きまわっているのを見ても『いまさら』という思いしかしなかったのだ。
レディ・アホウタの答えにハーミドはまとめて苦虫を噛みつぶした。両腕を組み、新聞記者らしいことを口にした。
「パンゲアは人類騎士団を祖とする騎士団国家。もともと、人口に対する騎士の比率は国として不自然なほどに高かった。正規の騎士団の他に教皇直属の聖堂騎士団、準騎士からなる下級騎士団、各地域ごとに置かれた治安維持のための地域騎士団等々、その兵力は優に一〇〇万を超える。それがすべて、亡道に冒された怪物になって攻めてくるって言うのか」
一〇〇万を超える亡道の怪物たち。
それが、一斉に襲ってくる。
それだけでも充分、自分たちの未来に対して陰鬱になれるというものだったが、ロウワンの言った言葉はそれどころではなかった。ロウワンは首を振りながらハーミドに言ったのだ。
「それはちがう。ハーミド卿。攻めてくるのは騎士団だけではない。あなたもその目ではっきり見ただろう。パンゲアのすべてが亡道に冒されていることを。亡道に呑み込まれ、異形の怪物になってしまっていることを。アルヴィルダの術式が解けて時が戻り、アルテミシアの封印が失われて自由に出てこられるとなれば、そのすべてが攻めてくる。押しよせてくる。もと人間だけじゃなく、パンゲアに生きていたすべての生物、鳥も、獣も、昆虫も、木や草や花にいたるまで、そのすべてが亡道の怪物と化して押しよせてくるんだ」
「なんだって⁉」
ハーミドが組んでいた腕をほどいて叫んだ。その表情は絶望を感じる間もなく驚愕に支配されている。ハーミドだけではない。剛胆な野伏、いつも飄々としてつかみどころのない行者でさえ、胃に重いしこりを感じているような表情をしている。
それも無理はない。というより、当然だろう。一〇〇万を超える騎士たちが怪物となって押しよせてくる。それだけでも充分に絶望的だというのにその上、鳥や獣、昆虫、草木に花までが怪物となって押しよせてくるとなれば。
その総数はいったい、どれほどの数になることか。昆虫だけでも数えきれないほどの膨大な数になることはまちがいない。そこに、無数の草花までが加わる……。
そんな数が一斉に外の世界に飛びだし、襲ってきたら。
「そうだ。どうしようもない」
ロウワンははっきりと、仲間たちが感じていることを口にした。それは、ロウワン自身の決意の固さを示す行為だった。
「そんなことになったらどう対処しようもない。おれたちは圧倒的な数の暴力に押しきられて敗北する。そして、この世界は亡道に呑み込まれ、滅びることになる。いまあるすべてが消滅し、根本からかえられてしまうんだ。そうさせないためにはアルヴィルダとアルテミシア、ふたりの封印が生きている間に、亡道の司が傷ついている間に、勝利するための力を手に入れなければならない。そのために、どうしてもゼッヴォーカーの導師の協力が必要なんだ」
シン、と、その場に沈黙が降りた。その場にいる全員がそれぞれの胸にロウワンの言葉を刻み込んでいた。うなずき、最初に発言したのはプリンスだった。
「わかった。行ってこい、ロウワン。その間、世界はおれが守ってみせる。どれだけの怪物どもが押しよせてこようと、平等の国の範囲を超えて外の世界に出しはしない」
プリンスはまっすぐに前を見つめ、ギュッと握りしめた拳を胸に当ててそう宣言した。その姿はまさに『黒の王』。人類と世界の守護者たる任を自ら負った、誇りたかき王の姿だった。
「ああ。任せた。プリンス」
一切の迷いも、疑いも、ためらいすらもなくそう言いきるロウワンもまた王の器。王と王の神聖なる誓いだった。
「それで、ロウワン」
次いで発言したのは行者だった。
「いつ帰ってくるかわからないとなれば当然、その間、君は自由の国の主催としても都市網社会を推進する代表者としても行動できなくなるわけだ。その間、代理を立てる必要があるけど、誰に任せるつもりなんだい?」
「ああ」
ロウワンの視線は〝ブレスト〟・ザイナブに向けられた。
「〝ブレスト〟。自由の国の主催はあなたに任せた」
「わたしに?」
自分が指名されたことが意外だったのだろう。〝ブレスト〟・ザイナブにしてはめずらしく目を丸くしている。
「そうだ。あなたは自由の国の提督。軍事力のすべてを握っている。そして、これから先に必要になるのはなによりもまず力。戦うための力だ。である以上、あとを任せられるのはあなたしかいない」
その言葉に――。
〝ブレスト〟・ザイナブの肩にとまっている鸚鵡が翼をバタバタ言わせながら甲高く鳴いてみせた。まるで『そうだ、そうだ!』と叫び、相棒を鼓舞するかのように。
「承知したわ」
鸚鵡の羽ばたきに背を押されたのか、〝ブレスト〟・ザイナブは短く答えて、その重責を受けとめた。
「頼む。それと、トウナ」
ロウワンは今度はトウナに視線を向けた。
「都市網社会の代表は君に任せる」
「ええ」
と、こちらはその言葉を予想していたのだろう。トウナは驚く素振りも見せずに受け入れた。これは、他の皆にとっても納得できる話だった。都市網社会を推進する代表者としてのロウワンのかわりを務めることができるのは、もっとも付き合いの古い仲間であるトウナしかいない。
ロウワンの視線がみたび、動いた。今度はメリッサの上に。
「そして、メリッサ」
『メリッサ』と、ロウワンはそう呼んだ。『メリッサ師』から『メリッサ』に。その呼び方の変化には皆、気がついていたし、その変化が意味することにも全員が気づいていた。まだ一二歳と幼く、ロウワンとの付き合いが浅いセシリアまで。そして、そのことを持ち出す野暮なものもこの場にはひとりもいなかった。
ロウワンは仲間たちの視線に包まれながら、メリッサに向かってはっきりと言った。
「メリッサ。あなたは、おれと一緒に来てくれ」
「そうだ」
コクリ、と、不退転の決意を込めてロウワンは仲間たちの驚きの声にうなずいた。その声を聞き、表情を見れば、ロウワンがその思いを曲げることは決してないことは明らかだった。
ヤーマン支城。イスカンダル城塞群、いや、いまではプリンスの国である平等の国リンカーンの本拠となったこの地においてもっとも東、すなわち、パンゲア領に最も近い位置にあるがゆえにプリンスによって平等の国の王宮に定められた城。その会議室において、ロウワンは仲間たちに向かって言ったのだ。
「おれはこれから、騎士マークスの幽霊船と共に天詠みの島へと行く」と
メリッサ、ビーブ、トウナ、野伏、行者、プリンス、〝ブレスト〟・ザイナブ、ハーミド、セシリア、それに、レディ・アホウタ。仲間たちはあるものは驚きの表情をもって、またあるものは納得の表情をもって、ロウワンの言葉を受けとめた。
「天詠みの島に行って、はじまりの種族ゼッヴォーカーの導師に会う。亡道の司との戦いに勝つためにはどうしても、かの人の力が必要だ。そもそも、千年前の勝利にしてからがゼッヴォーカーの導師の協力なしにはあり得なかったんだからな」
千年の時を超えてこの世界を亡道から守りつづけている天命の曲。その天命の曲は天命の巫女ひとりによって生みだされたものではない。ゼッヴォーカーの導師が自分たちの知恵を天命の巫女に授けることで生みだされたもの。
もし、千年前にゼッヴォーカーの導師の協力がなければ、人類は亡道の侵食を防ぐことがでぎずに世界はまるごと呑み込まれて滅びていた。
それを知るだけに、ロウワンとしては『ゼッヴォーカーの導師に会う』というのはこれからの戦いに勝利するための絶対条件。決して、外すわけにはいかないことだった。
「だけど……」と、トウナ。
「その天詠みの島に行って、帰ってくるまでに、どれぐらいかかるの?」
「わからない。一年か、二年か、それ以上か」
「そんなに?」
ピクリ、と、〝ブレスト〟・ザイナブが顔中に巻きつけた布からのぞく目をつりあげた。
「そんなに長い間はなれていて、自由の国の主催としての役目はどうする気? その責任を放棄するの?」
〝ブレスト〟・ザイナブに手厳しく言われて、ロウワンはかすかに顔をしかめた。
「そう言われると耳が痛い。だけど、これは必要なことなんだ。ゼッヴォーカーの導師には会いに行かなくちゃならない。絶対に。それも、一刻も早く。いまはアルヴィルダとアルテミシア、ふたりの張り巡らしてくれた封印が二重の防壁になることで、パンゲア内の異変から世界は守られている。亡道の司自身、〝鬼〟によって傷つけられた。その分、行動するのは遅れるはずだ。だけど……」
ロウワンはいったん、言葉を区切った。大きく息を吸い、吐き出してからつづけた。
「その効果もいつかは尽きる。アルヴィルダたちの封印も時間と共に効果は薄れ、やがては消えてなくなる。亡道の司の傷もやがては癒える。そうなれば、すべてがかわる。この世界はパンゲア領からあふれ出す亡道のものたちに蹂躙されつくすことになる」
「……パンゲア騎士団全員、亡道の司に乗っ取られた。そう言っていたな、レディ?」
「そうっス……」
ハーミドが深刻な表情を浮かべて言うと、レディ・アホウタが無念の思いを噛みしめながら答えた。かつては、愛らしい幼い少女の姿をしていたレディ・アホウタ。そのかの人も亡道に冒されたいまでは腐りはてた死体。その姿は異形と呼ぶ以外にないのだが、この場にいる誰もそんなことは気にしていない。
パンゲア領で旅を共にしてきたメリッサたちはもちろん、はじめて会うプリンスや〝ブレスト〟・ザイナブ、まだ一二歳の少女であるセシリアですら、その存在を当たり前のように受け入れている。
マークスの幽霊船のことで頭がいっぱいで、レディ・アホウタのことまで気にしている余裕がなかった。その間に存在に慣れてしまった……というのもあるが正直、パンゲアの〝神兵〟やら、ローラシアの天命の兵やらと戦ってきた身にとっては、腐った死体が生きて、動きまわっているのを見ても『いまさら』という思いしかしなかったのだ。
レディ・アホウタの答えにハーミドはまとめて苦虫を噛みつぶした。両腕を組み、新聞記者らしいことを口にした。
「パンゲアは人類騎士団を祖とする騎士団国家。もともと、人口に対する騎士の比率は国として不自然なほどに高かった。正規の騎士団の他に教皇直属の聖堂騎士団、準騎士からなる下級騎士団、各地域ごとに置かれた治安維持のための地域騎士団等々、その兵力は優に一〇〇万を超える。それがすべて、亡道に冒された怪物になって攻めてくるって言うのか」
一〇〇万を超える亡道の怪物たち。
それが、一斉に襲ってくる。
それだけでも充分、自分たちの未来に対して陰鬱になれるというものだったが、ロウワンの言った言葉はそれどころではなかった。ロウワンは首を振りながらハーミドに言ったのだ。
「それはちがう。ハーミド卿。攻めてくるのは騎士団だけではない。あなたもその目ではっきり見ただろう。パンゲアのすべてが亡道に冒されていることを。亡道に呑み込まれ、異形の怪物になってしまっていることを。アルヴィルダの術式が解けて時が戻り、アルテミシアの封印が失われて自由に出てこられるとなれば、そのすべてが攻めてくる。押しよせてくる。もと人間だけじゃなく、パンゲアに生きていたすべての生物、鳥も、獣も、昆虫も、木や草や花にいたるまで、そのすべてが亡道の怪物と化して押しよせてくるんだ」
「なんだって⁉」
ハーミドが組んでいた腕をほどいて叫んだ。その表情は絶望を感じる間もなく驚愕に支配されている。ハーミドだけではない。剛胆な野伏、いつも飄々としてつかみどころのない行者でさえ、胃に重いしこりを感じているような表情をしている。
それも無理はない。というより、当然だろう。一〇〇万を超える騎士たちが怪物となって押しよせてくる。それだけでも充分に絶望的だというのにその上、鳥や獣、昆虫、草木に花までが怪物となって押しよせてくるとなれば。
その総数はいったい、どれほどの数になることか。昆虫だけでも数えきれないほどの膨大な数になることはまちがいない。そこに、無数の草花までが加わる……。
そんな数が一斉に外の世界に飛びだし、襲ってきたら。
「そうだ。どうしようもない」
ロウワンははっきりと、仲間たちが感じていることを口にした。それは、ロウワン自身の決意の固さを示す行為だった。
「そんなことになったらどう対処しようもない。おれたちは圧倒的な数の暴力に押しきられて敗北する。そして、この世界は亡道に呑み込まれ、滅びることになる。いまあるすべてが消滅し、根本からかえられてしまうんだ。そうさせないためにはアルヴィルダとアルテミシア、ふたりの封印が生きている間に、亡道の司が傷ついている間に、勝利するための力を手に入れなければならない。そのために、どうしてもゼッヴォーカーの導師の協力が必要なんだ」
シン、と、その場に沈黙が降りた。その場にいる全員がそれぞれの胸にロウワンの言葉を刻み込んでいた。うなずき、最初に発言したのはプリンスだった。
「わかった。行ってこい、ロウワン。その間、世界はおれが守ってみせる。どれだけの怪物どもが押しよせてこようと、平等の国の範囲を超えて外の世界に出しはしない」
プリンスはまっすぐに前を見つめ、ギュッと握りしめた拳を胸に当ててそう宣言した。その姿はまさに『黒の王』。人類と世界の守護者たる任を自ら負った、誇りたかき王の姿だった。
「ああ。任せた。プリンス」
一切の迷いも、疑いも、ためらいすらもなくそう言いきるロウワンもまた王の器。王と王の神聖なる誓いだった。
「それで、ロウワン」
次いで発言したのは行者だった。
「いつ帰ってくるかわからないとなれば当然、その間、君は自由の国の主催としても都市網社会を推進する代表者としても行動できなくなるわけだ。その間、代理を立てる必要があるけど、誰に任せるつもりなんだい?」
「ああ」
ロウワンの視線は〝ブレスト〟・ザイナブに向けられた。
「〝ブレスト〟。自由の国の主催はあなたに任せた」
「わたしに?」
自分が指名されたことが意外だったのだろう。〝ブレスト〟・ザイナブにしてはめずらしく目を丸くしている。
「そうだ。あなたは自由の国の提督。軍事力のすべてを握っている。そして、これから先に必要になるのはなによりもまず力。戦うための力だ。である以上、あとを任せられるのはあなたしかいない」
その言葉に――。
〝ブレスト〟・ザイナブの肩にとまっている鸚鵡が翼をバタバタ言わせながら甲高く鳴いてみせた。まるで『そうだ、そうだ!』と叫び、相棒を鼓舞するかのように。
「承知したわ」
鸚鵡の羽ばたきに背を押されたのか、〝ブレスト〟・ザイナブは短く答えて、その重責を受けとめた。
「頼む。それと、トウナ」
ロウワンは今度はトウナに視線を向けた。
「都市網社会の代表は君に任せる」
「ええ」
と、こちらはその言葉を予想していたのだろう。トウナは驚く素振りも見せずに受け入れた。これは、他の皆にとっても納得できる話だった。都市網社会を推進する代表者としてのロウワンのかわりを務めることができるのは、もっとも付き合いの古い仲間であるトウナしかいない。
ロウワンの視線がみたび、動いた。今度はメリッサの上に。
「そして、メリッサ」
『メリッサ』と、ロウワンはそう呼んだ。『メリッサ師』から『メリッサ』に。その呼び方の変化には皆、気がついていたし、その変化が意味することにも全員が気づいていた。まだ一二歳と幼く、ロウワンとの付き合いが浅いセシリアまで。そして、そのことを持ち出す野暮なものもこの場にはひとりもいなかった。
ロウワンは仲間たちの視線に包まれながら、メリッサに向かってはっきりと言った。
「メリッサ。あなたは、おれと一緒に来てくれ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

悪女の死んだ国
神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。
悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか.........
2話完結 1/14に2話の内容を増やしました
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる