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第二部 絆ぐ伝説
第三話一一章 死合い
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巨大な石がゴロゴロし、石と石の合間からねじくれた木が生えている峻険な山のなか。山道と言うよりも急傾斜の渓流が干上がった跡のよう。獣たちすら通ることはないのか、足跡ひとつない。ただ、どこか遠くから警告を発するような獣たちのうなり声が聞こえてくる。
そんな、道とも言えない山のなかを、野伏は黙々と歩いている。かつて、姉を食い、そしていままた大切な幼馴染みを食おうとしている鬼を殺す、そのために。
チラリ、と、野伏は後ろを見た。そこには自分について歩を進める四つの影があった。ロウワン、ビーブ、トウナ、そして、天帰教会のシスター――アイヴィーと名乗った――である。
「なぜ、ついてくる?」
野伏は足もとめず、振り向きもせずに尋ねた。
――聞こえないなら聞こえなくてもかまわない。
そう思っているような尋ね方だった。
「これはおれの戦いだ。お前たちの関わる理由はない」
「そうはいかない」
と、ロウワンは野伏の背中を見ながら答えた。
「おれはあなたにはどうしても、自由の国の顔として参加してもらいたい。そのためにも、あなたにここで死なれるわけにはいかない」
「第一、あなたはロウワンの話を聞くという約束で、ユキさんのことを頼んだんでしょう。だったら、勝手に死ぬわけにはいかないはずよ」
「キイ、キイ、キイ」
トウナが言うとビーブも『そうだ、そうだ』とばかりに声をあげた。
「……お前はなぜ、ついてくる?」
野伏の言う『お前』というのが天帰教のシスター、アイヴィーであることは誰の耳にも明らかだった。
「わたしが行くのは鬼さんとの戦いをやめさせるためです」
あくまでも『鬼さん』と、敬称付きで鬼のことを呼ぶアイヴィーだった。
「鬼さんには鬼さんの事情があるにちがいありません。絶対、必ず、まちがいなく、やむにやまれぬ事情があって、生け贄を求めたりしているんです。その事情を聞いて解決する。もう二度と生け贄なんて求めなくてもいいようにする。それが、万物博愛を説く天帰教のシスターとしてのわたしの務めです」
「やつは鬼だ。鬼が人を食うのに理由などない」
「鬼だからって差別するんですか⁉ そんな乱暴な生き物がいるはずありません。きっと、必ず、まちがいなく、人間が山に住み着いたから自分の分の食糧が減ったとか、そういう事情があるんです。だから、生け贄を求めるようになったんです。その問題さえ解決してあげれば生け贄なんて求めなくなります!」
謎の自信を込めてそう断言するアイヴィーだった。
その態度にはロウワンもあきれてしまった。
「シスター。鬼は鬼だ。人間じゃない。人間相手にするような理屈は通用しない」
「それを差別と言うんです! 鬼だからって話が通じないなんて、そんなことはありません! きちんと話せば必ず、わかり合えます!」
「……それが、天帰教とやらの教えと言うこと?」と、トウナ。
「そうです! 万物は天へと回帰し、ひとつとなる。見た目はどうあれ、中身は一緒。同じく世界を形作る仲間。誠心誠意、話し合えば必ずわかり合える。共存できる! それが、天帰教の教えです!」
――おいおい。この女、正気かよ、ロウワン。こいつ、『サルもイヌも同じ生き物、同じように生きていける』って抜かしてるぞ。
ビーブがあきれた様子でそう伝えてきた。サルであるビーブにしてみれば、イヌと一緒にされるなど屈辱以外のなにものでもない。アイヴィーの言い分は聞き逃せるものではなかった。
「……ハルキス先生が言っていたな。
『人間は、共存という概念を誤解している。自然界における共存とは、『一緒に暮らす』ことではなく『一緒に暮らさなくていいよう棲み分けることだ』ってな」
アイヴィーの言い分――と言うより、天帰教の教え――は、ビーブのみならず、ハルキスの薫陶を受けたロウワンにとっても受け入れられるものではなかった。とは言え、いまはそのことを議論する場ではない。
「万物が天帰教の教えを受け入れ、心をひとつにしたとき、争いのない楽園が築かれるのです!」
熱心に天帰教の教えを説きつづけるアイヴィーは放っておいて、一行は山のなかを歩きつづけた。しかし――。
――このシスター、どういう体力してるんだ? この険しい山のなかを、これだけペラペラ喋りながら歩けるなんて。おれだって歩くだけでも大変なのに。
一時も休むことなく喋りつづけながら、それでも息ひとつ乱すことなく山のなかを歩いている。その姿を見ていると、このシスターも普通の人間とは思えなくなってくる。
ともあれ、一行は洞窟の前にたどり着いた。岩肌のなかにポッカリと空いたその洞窟はゾウでも通れそうなほどに大きく、しかも、かなり奥深いようだった。それだけの大きさがあるにも関わらず奥の方は暗闇に閉ざされてなにも見えない。
「……洞窟か」
ロウワンは短く呟くと顔をしかめた。
ハルキスの島の洞窟で、海の雌牛に追われたときのことを思い出したのだ。
――よく生き残ったよな。〝鬼〟の大刀のおかげだけど。あれは、思い出したくないな。
「この洞窟に鬼がいるの?」
トウナが尋ねると、野伏はやはり、振り向きもせずに答えた。
「この奥に鬼の館がある」
その一言だけを残して野伏は洞窟のなかに入っていった。暗闇のなか、その姿はすぐに見えなくなった。
「……行こう」
ロウワンが言った。
正直、洞窟には入りたくないのだが、いまはそんなことを言っていられる場合ではない。
ロウワン、ビーブ、トウナ、アイヴィーの四人は野伏につづいて洞窟に入った。その洞窟のなかは光だけではなく音すらも届かないのか、足音も、自分が息をするときの音さえも聞こえなかった。
光もなく、音もなく、自分自身の発する音さえ届かない。
それは、なんとも奇妙な経験だった。
――なんでだ? なにか、生まれたときに出てきた母親の産道をさかのぼっているような気がする。
それはロウワンのみならず、四人全員の思いだった。
どれだけ洞窟のなかを進んだのだろう。光も音もないなかでは時間感覚も狂ってしまう。一分にも満たない時間だった気もするし、何日も歩きつづけていたような気さえする。
ともあれ、奥深い洞窟も終わるときが来た。突然、目の前が白い光に満たされた。その光のなかに進むと――。
そこには別世界が広がっていた。
「うわっ」
ロウワンは思わず呟いた。
そこはなんとも見目麗しく、香しい場所だった。四方に並ぶ庭には花が咲き、チョウが舞い、樹木が立ち並ぶ。樹木には果実がたわわに実り、甘い香りを漂わせている。あたりの空気には果物の甘さとはちがう、天上の甘露のような甘い香りまで含まれていた。
そして、その庭に囲まれてひとつの館が建っている。それはあたかも遊興地に建てられ王侯貴族の別邸のよう。選び抜かれた材質を使い、贅を尽くした意匠を凝らし、瑠璃色に飾り立てられている。
まるで、館そのものがひとつの大きな生きた花ででもあるかのように設えられているのだ。もし、人の世でこれほどの館を建てようと思えばどれだけの費用がかかることか。いや、どれほどの費用をかけ、世界中の名工を集めようとも、同じものは作れないかも知れない。それはまさに、人ならざる業で作られた異界の建物だった。
「な、なにこれ⁉ これが鬼の館だって言うの?」
トウナが思わずそう叫んだのも無理はない。それほどに、美しい館。鬼などではなく仙界の美女が住んでいると言われた方がしっくりくる。
そんな場所だったのだ。
しかし、そこはたしかに鬼の館だった。
そのことはすぐにわかった。
ズシン。
大地を揺らす重々しい足音と共に現れたのはまぎれもなく鬼。
恐ろしく巨大なクマのような体躯。剛毛に覆われた赤銅色の肌。全身の筋肉という筋肉が巌のようにふくれあがり、肌の色と相まって金属の塊が動いているかのような印象を与えられる。赤黒い髪はぼうぼうに逆立ち、その髪を突き破るようにして三本の角が生えている。大きく裂けた口からは巨大な牙が突きだしており、縦に二重に並んだ四つの目と、眉間に空いた瞳、計五つの目が爛々と輝いている。
それはまさに鬼。
鬼としか言いようのない存在だった。
――これが、鬼か。
ロウワンのこめかみを一筋の冷や汗が流れた。無意識のうちに、背中に背負う〝鬼〟の大刀に手をかけていた。
この人外の怪物に人間用の武器など無意味。鬼を倒せるものは〝鬼〟の大刀以外にない。
ロウワンは理屈よりなにより、本能でそう悟っていた。
ズイッ、と、鬼に向かって一歩、踏み出したものがいた。
意外なことに、それは野伏ではなかった。天帰教のシスター、アイヴィーだった。
「鬼さん。あなたが、生け贄を求めているという鬼さんですね?」
鬼は答えなかった。アイヴィーはかまわずつづけた。
「わたしは天帰教のシスター、アイヴィー。わたしにはわかっています。あなたが生け贄を求めるのにはやむにやまれぬ事情があるのだと。わたしはあなたの抱える問題を解決するために、あなたの力になりたい。話してください。あなたはなぜ、生け贄など求めるのです? 貢ぎ物を差し出させるのです? 人間があなたになにをしたのです? どうか、話してください」
鬼は牙だらけの口を動かした。
「人を食らい、財を奪うは鬼の性。鬼であるが故の行い。そこに理由などない」
「嘘です! そんなはずはありません。なにか事情があってのことのはず。それとも……本当に理由などないのですか?」
「ない」
鬼はきっぱりと言った。
「あるとすればそれはただひとつ。我が鬼だから。それだけだ」
「……わかりました」
アイヴィーは溜め息をついた。
「つまり、あなたはクズと言うことですね。カスです。ゴミクズです。残念です。天なる神のしろしめす世界にあなたのような存在がいるなんて。野伏さん、やっちゃってください!」
――いや、鬼が人を食うのをクズだの、カスだの言ったって……。
ロウワンたちはそろってそう思った。
アイヴィーに言われたから……では、ないだろうが、野伏が鬼の前に進み出た。人間としてはかなりの長身で、鋼のように鍛えられた肉体をもつ野伏だが、それも鬼の前では子どものようにしか見えない。しかし、そのふたつの瞳に込められた意思の強さは鬼の五つの目と比べても遜色のないものだった。
「すまんな。よけいな手間をとらせた」
野伏はそう言った。
「だが、お前の返答を聞けてよかった。これで心置きなくお前を殺せる」
「お前は?」
「かつて、お前に姉を食われ、いままた幼馴染みを食われようとしている男だ。姉の仇をとるため、幼馴染みを助けるため、お前を殺す」
野伏は長大な太刀を引き抜いた。両手で柄を握りしめ、上段に構える。
その姿に鬼は尋ねた。
「他人のために命を捨てるか。それは、なぜだ?」
「大切な人のために命を懸ける。それは人の性。人であるが故の振る舞いだ」
「やってみろ」
そして、戦いははじまった。
ロウワンたちの見守る前で。
人食いの鬼と、その鬼を殺すための力を求めた人間の戦い。
それはとうてい生中な詩人の腕で表現出来るものではなかった。
そして、両者以外の余人が立ち入ることの出来る戦いでもなかった。
ロウワンも〝鬼〟の大刀に手をかけたまま一歩も動けず見守っているしかなかった。ビーブでさえ、尻尾を立てたまま一言もなく見入っている。
野伏の太刀が縦横に振るわれ、鬼の鋼のような肉体がそれを受けとめる。
鬼の拳が嵐となって振るわれ、野伏の太刀がそのことごとくをはね除ける。
太刀による攻撃を生身でことごとく跳ね返す鬼の頑健さもさすがだが、拳による素早く、激しい攻撃を、長大な太刀を使って受けとめる野伏の剣の腕も神業だった。
――すごい。
戦いを見守るロウワンの胸に熱いものが込み上げてきた。
――人はここまで強くなれるものなのか。
――人はここまで、凄くなれるものなのか。
その思いが、感動となって胸の中で渦巻いていた。
鬼と、鬼を殺すものの戦いはつづく。
激しい戦いだった。
苦しい戦いだった。
太刀と拳が交差し、そのたびごとに互いに傷を負っていく。
それでも、確かに――。
より強いのは鬼の方だった。
お互いに無数の傷を負っていた。
大量の血を流していた。
しかし、流れる血と共に野伏の力が失われていくのに対し、鬼の力は底が知れなかった。大量の血を流しながらも暴風のごとき拳はいささかもその威力と速度を緩めることなく野伏の体を打ちのめす。いまや、鬼が五発打ち込む間に野伏が一太刀返せれば良い方。勝負は一方的なものになりつつあった。
「強いな、人間」
鬼が言った。その言葉にはまぎれもなく賞賛の念があった。
「人の身でこれほどの強さを身につけることができるとは。敬服する、その強さに免じ、我が全力をもって葬ろう」
鬼が巌のような拳を振りあげた。その一撃を食らえばいかなる人間も死を免れない。誰の目にもそれは明らかだった。
「ロウワン!」
「ああ……」
トウナの叫びに――。
ロウワンはうなずいた。
背中に背負った〝鬼〟の大刀を引き抜いた。
「野伏を死なせるわけにはいかない。本人は怒るだろうけど……助太刀させてもらう」
「キキキッ!」
ビーブも尻尾に握ったカトラスを振りまわして叫んだ。
トウナもその手にカトラスを握っている。及ばずながら自分も参戦するつもりだった。だが――。
鬼に挑みかかろうとした三人の動きがとまった。三人の動きをとめたもの。それは――。
野伏の背中だった。
殴られ、痣に染まり、血にまみれ、おそらくは骨も内臓も潰れていることだろう。それでも、その場に立ちつづける野伏の背中ははっきりと言っていた。
――来るな。
それは、侵すことの出来ない宣告。
なんぴとたりと、その意思を超えて踏み込むことは出来ない禁忌。
ロウワンたちもその宣告を前に一歩も動けなくなっていた。
鬼の拳が暴風をまとい、打ち込まれる。
それで終わるはずだった。
野伏はすでに棒立ち。その一撃を太刀で受けることも、避けることも出来ない。ロウワンたちも助けに入ることは出来ない。そうである以上、野伏の体は鬼の一撃によって瓜のようにたたき割られる。
そのはずだった。だが――。
それを覆したのは野伏の髪、夜の闇のように黒い漆黒の長髪だった。
ぞわっ。
音を立てて長髪が動いた。
まるで、それ自体が生あるもののように。
長い髪が鬼の腕に絡まり、その動きを封じていた。
「油断したな」
喋った。
野伏が、ではない。
髪の毛が、だ。
「きさま! 毛羽毛現!」
鬼は叫んだ。
男の長髪に見えたたもの。
それは妖怪、毛羽毛現だった。
いったい、なにが起きているのか。理解が追いつかず、呆然として見守るロウワンたちの前で、野伏は語った。
「……人間の身で鬼に勝てるなどと思ってはいない。だから、おれは妖怪たちにおれの身を食わせた。東方世界で出会った四八体の妖怪におれの体を食わせることで同化し、きさまを殺す力を手に入れた。そして……」
野伏は太刀を握りしめた。
「この太刀はおれそのもの。妖怪に捧げたおれの背骨を削り出して鍛えた太刀。あらゆる血肉を食らい、おれの生命と引き替えにすべての敵を滅する禁断の武具だ」
その声と共に――。
振るわれた太刀が鬼の体を両断した。そして――。
野伏の体から四八の妖怪が飛び出し、鬼を食らい尽くした。
その場に響いた絶叫は――。
人間ごときにしてやられた無念の叫びか。
それとも、自分を殺すためにそこまでの覚悟を決めた人間に対する、賞賛の叫びだったろうか。
もはや、そこにはなにも残っていなかった。
鬼の体は四八の妖怪たちに食らい尽くされ、骨一欠片残っていない。
鬼のいた痕跡を示すものは大地の上に残ったわずかな染みばかり。
野伏はその染みを見下ろしていた。
野伏は鬼に勝った。
鬼を倒した。
姉の仇をとり、大切な幼馴染みをその手で守り抜いたのだ。
「野伏!」
ロウワンが、ビーブが、トウナが、アイヴィーさえもが、叫びながら野伏のもとに駆けつけた。傷だらけのその身を支えた。
「野伏。いったい、どういうことなんだ?」
「言ったとおりだ。おれの体は妖怪たちの塊。そして――」
ボタッ。
ボタボタ。
ボタッ。
音を立てて、野伏の体から腐った肉片がこぼれ落ちた。
野伏はひざまずいた。
その場にうずくまった。
「すまんな、ロウワン。嘘をついた」
「野伏?」
「おれの頼みを聞いてくれれば話を聞こう。そう言ったが、それは出来ん。おれはすでに死人。妖怪たちにこの身を食わせた時点ですでに死んでいる。妖怪と同化し、鬼を殺す力を手に入れるためにはそうするしかなかった。
ここまできたのは、この身と引き替えに妖怪たちと交わした契約の結果。その内容は鬼を殺すまでこの身を動かしつづけるというもの。契約が果たされたいま、妖怪たちはおれの身からはなれる。妖怪たちがいなくなれば、あとに残るものは妖怪に食われ、残骸と化した腐った肉体だけ。
おれは地に還る。願わくば、ユキに伝えてくれ。鬼はお前たちが倒した。もう生け贄など必要ない。これからは幸せに暮らせ、と。頼み事をするばかりですまんが、これが、おれの最後の願いだ」
「野伏えっ!」
鬼の世界のなかに――。
ロウワンの絶叫が響いた。
そんな、道とも言えない山のなかを、野伏は黙々と歩いている。かつて、姉を食い、そしていままた大切な幼馴染みを食おうとしている鬼を殺す、そのために。
チラリ、と、野伏は後ろを見た。そこには自分について歩を進める四つの影があった。ロウワン、ビーブ、トウナ、そして、天帰教会のシスター――アイヴィーと名乗った――である。
「なぜ、ついてくる?」
野伏は足もとめず、振り向きもせずに尋ねた。
――聞こえないなら聞こえなくてもかまわない。
そう思っているような尋ね方だった。
「これはおれの戦いだ。お前たちの関わる理由はない」
「そうはいかない」
と、ロウワンは野伏の背中を見ながら答えた。
「おれはあなたにはどうしても、自由の国の顔として参加してもらいたい。そのためにも、あなたにここで死なれるわけにはいかない」
「第一、あなたはロウワンの話を聞くという約束で、ユキさんのことを頼んだんでしょう。だったら、勝手に死ぬわけにはいかないはずよ」
「キイ、キイ、キイ」
トウナが言うとビーブも『そうだ、そうだ』とばかりに声をあげた。
「……お前はなぜ、ついてくる?」
野伏の言う『お前』というのが天帰教のシスター、アイヴィーであることは誰の耳にも明らかだった。
「わたしが行くのは鬼さんとの戦いをやめさせるためです」
あくまでも『鬼さん』と、敬称付きで鬼のことを呼ぶアイヴィーだった。
「鬼さんには鬼さんの事情があるにちがいありません。絶対、必ず、まちがいなく、やむにやまれぬ事情があって、生け贄を求めたりしているんです。その事情を聞いて解決する。もう二度と生け贄なんて求めなくてもいいようにする。それが、万物博愛を説く天帰教のシスターとしてのわたしの務めです」
「やつは鬼だ。鬼が人を食うのに理由などない」
「鬼だからって差別するんですか⁉ そんな乱暴な生き物がいるはずありません。きっと、必ず、まちがいなく、人間が山に住み着いたから自分の分の食糧が減ったとか、そういう事情があるんです。だから、生け贄を求めるようになったんです。その問題さえ解決してあげれば生け贄なんて求めなくなります!」
謎の自信を込めてそう断言するアイヴィーだった。
その態度にはロウワンもあきれてしまった。
「シスター。鬼は鬼だ。人間じゃない。人間相手にするような理屈は通用しない」
「それを差別と言うんです! 鬼だからって話が通じないなんて、そんなことはありません! きちんと話せば必ず、わかり合えます!」
「……それが、天帰教とやらの教えと言うこと?」と、トウナ。
「そうです! 万物は天へと回帰し、ひとつとなる。見た目はどうあれ、中身は一緒。同じく世界を形作る仲間。誠心誠意、話し合えば必ずわかり合える。共存できる! それが、天帰教の教えです!」
――おいおい。この女、正気かよ、ロウワン。こいつ、『サルもイヌも同じ生き物、同じように生きていける』って抜かしてるぞ。
ビーブがあきれた様子でそう伝えてきた。サルであるビーブにしてみれば、イヌと一緒にされるなど屈辱以外のなにものでもない。アイヴィーの言い分は聞き逃せるものではなかった。
「……ハルキス先生が言っていたな。
『人間は、共存という概念を誤解している。自然界における共存とは、『一緒に暮らす』ことではなく『一緒に暮らさなくていいよう棲み分けることだ』ってな」
アイヴィーの言い分――と言うより、天帰教の教え――は、ビーブのみならず、ハルキスの薫陶を受けたロウワンにとっても受け入れられるものではなかった。とは言え、いまはそのことを議論する場ではない。
「万物が天帰教の教えを受け入れ、心をひとつにしたとき、争いのない楽園が築かれるのです!」
熱心に天帰教の教えを説きつづけるアイヴィーは放っておいて、一行は山のなかを歩きつづけた。しかし――。
――このシスター、どういう体力してるんだ? この険しい山のなかを、これだけペラペラ喋りながら歩けるなんて。おれだって歩くだけでも大変なのに。
一時も休むことなく喋りつづけながら、それでも息ひとつ乱すことなく山のなかを歩いている。その姿を見ていると、このシスターも普通の人間とは思えなくなってくる。
ともあれ、一行は洞窟の前にたどり着いた。岩肌のなかにポッカリと空いたその洞窟はゾウでも通れそうなほどに大きく、しかも、かなり奥深いようだった。それだけの大きさがあるにも関わらず奥の方は暗闇に閉ざされてなにも見えない。
「……洞窟か」
ロウワンは短く呟くと顔をしかめた。
ハルキスの島の洞窟で、海の雌牛に追われたときのことを思い出したのだ。
――よく生き残ったよな。〝鬼〟の大刀のおかげだけど。あれは、思い出したくないな。
「この洞窟に鬼がいるの?」
トウナが尋ねると、野伏はやはり、振り向きもせずに答えた。
「この奥に鬼の館がある」
その一言だけを残して野伏は洞窟のなかに入っていった。暗闇のなか、その姿はすぐに見えなくなった。
「……行こう」
ロウワンが言った。
正直、洞窟には入りたくないのだが、いまはそんなことを言っていられる場合ではない。
ロウワン、ビーブ、トウナ、アイヴィーの四人は野伏につづいて洞窟に入った。その洞窟のなかは光だけではなく音すらも届かないのか、足音も、自分が息をするときの音さえも聞こえなかった。
光もなく、音もなく、自分自身の発する音さえ届かない。
それは、なんとも奇妙な経験だった。
――なんでだ? なにか、生まれたときに出てきた母親の産道をさかのぼっているような気がする。
それはロウワンのみならず、四人全員の思いだった。
どれだけ洞窟のなかを進んだのだろう。光も音もないなかでは時間感覚も狂ってしまう。一分にも満たない時間だった気もするし、何日も歩きつづけていたような気さえする。
ともあれ、奥深い洞窟も終わるときが来た。突然、目の前が白い光に満たされた。その光のなかに進むと――。
そこには別世界が広がっていた。
「うわっ」
ロウワンは思わず呟いた。
そこはなんとも見目麗しく、香しい場所だった。四方に並ぶ庭には花が咲き、チョウが舞い、樹木が立ち並ぶ。樹木には果実がたわわに実り、甘い香りを漂わせている。あたりの空気には果物の甘さとはちがう、天上の甘露のような甘い香りまで含まれていた。
そして、その庭に囲まれてひとつの館が建っている。それはあたかも遊興地に建てられ王侯貴族の別邸のよう。選び抜かれた材質を使い、贅を尽くした意匠を凝らし、瑠璃色に飾り立てられている。
まるで、館そのものがひとつの大きな生きた花ででもあるかのように設えられているのだ。もし、人の世でこれほどの館を建てようと思えばどれだけの費用がかかることか。いや、どれほどの費用をかけ、世界中の名工を集めようとも、同じものは作れないかも知れない。それはまさに、人ならざる業で作られた異界の建物だった。
「な、なにこれ⁉ これが鬼の館だって言うの?」
トウナが思わずそう叫んだのも無理はない。それほどに、美しい館。鬼などではなく仙界の美女が住んでいると言われた方がしっくりくる。
そんな場所だったのだ。
しかし、そこはたしかに鬼の館だった。
そのことはすぐにわかった。
ズシン。
大地を揺らす重々しい足音と共に現れたのはまぎれもなく鬼。
恐ろしく巨大なクマのような体躯。剛毛に覆われた赤銅色の肌。全身の筋肉という筋肉が巌のようにふくれあがり、肌の色と相まって金属の塊が動いているかのような印象を与えられる。赤黒い髪はぼうぼうに逆立ち、その髪を突き破るようにして三本の角が生えている。大きく裂けた口からは巨大な牙が突きだしており、縦に二重に並んだ四つの目と、眉間に空いた瞳、計五つの目が爛々と輝いている。
それはまさに鬼。
鬼としか言いようのない存在だった。
――これが、鬼か。
ロウワンのこめかみを一筋の冷や汗が流れた。無意識のうちに、背中に背負う〝鬼〟の大刀に手をかけていた。
この人外の怪物に人間用の武器など無意味。鬼を倒せるものは〝鬼〟の大刀以外にない。
ロウワンは理屈よりなにより、本能でそう悟っていた。
ズイッ、と、鬼に向かって一歩、踏み出したものがいた。
意外なことに、それは野伏ではなかった。天帰教のシスター、アイヴィーだった。
「鬼さん。あなたが、生け贄を求めているという鬼さんですね?」
鬼は答えなかった。アイヴィーはかまわずつづけた。
「わたしは天帰教のシスター、アイヴィー。わたしにはわかっています。あなたが生け贄を求めるのにはやむにやまれぬ事情があるのだと。わたしはあなたの抱える問題を解決するために、あなたの力になりたい。話してください。あなたはなぜ、生け贄など求めるのです? 貢ぎ物を差し出させるのです? 人間があなたになにをしたのです? どうか、話してください」
鬼は牙だらけの口を動かした。
「人を食らい、財を奪うは鬼の性。鬼であるが故の行い。そこに理由などない」
「嘘です! そんなはずはありません。なにか事情があってのことのはず。それとも……本当に理由などないのですか?」
「ない」
鬼はきっぱりと言った。
「あるとすればそれはただひとつ。我が鬼だから。それだけだ」
「……わかりました」
アイヴィーは溜め息をついた。
「つまり、あなたはクズと言うことですね。カスです。ゴミクズです。残念です。天なる神のしろしめす世界にあなたのような存在がいるなんて。野伏さん、やっちゃってください!」
――いや、鬼が人を食うのをクズだの、カスだの言ったって……。
ロウワンたちはそろってそう思った。
アイヴィーに言われたから……では、ないだろうが、野伏が鬼の前に進み出た。人間としてはかなりの長身で、鋼のように鍛えられた肉体をもつ野伏だが、それも鬼の前では子どものようにしか見えない。しかし、そのふたつの瞳に込められた意思の強さは鬼の五つの目と比べても遜色のないものだった。
「すまんな。よけいな手間をとらせた」
野伏はそう言った。
「だが、お前の返答を聞けてよかった。これで心置きなくお前を殺せる」
「お前は?」
「かつて、お前に姉を食われ、いままた幼馴染みを食われようとしている男だ。姉の仇をとるため、幼馴染みを助けるため、お前を殺す」
野伏は長大な太刀を引き抜いた。両手で柄を握りしめ、上段に構える。
その姿に鬼は尋ねた。
「他人のために命を捨てるか。それは、なぜだ?」
「大切な人のために命を懸ける。それは人の性。人であるが故の振る舞いだ」
「やってみろ」
そして、戦いははじまった。
ロウワンたちの見守る前で。
人食いの鬼と、その鬼を殺すための力を求めた人間の戦い。
それはとうてい生中な詩人の腕で表現出来るものではなかった。
そして、両者以外の余人が立ち入ることの出来る戦いでもなかった。
ロウワンも〝鬼〟の大刀に手をかけたまま一歩も動けず見守っているしかなかった。ビーブでさえ、尻尾を立てたまま一言もなく見入っている。
野伏の太刀が縦横に振るわれ、鬼の鋼のような肉体がそれを受けとめる。
鬼の拳が嵐となって振るわれ、野伏の太刀がそのことごとくをはね除ける。
太刀による攻撃を生身でことごとく跳ね返す鬼の頑健さもさすがだが、拳による素早く、激しい攻撃を、長大な太刀を使って受けとめる野伏の剣の腕も神業だった。
――すごい。
戦いを見守るロウワンの胸に熱いものが込み上げてきた。
――人はここまで強くなれるものなのか。
――人はここまで、凄くなれるものなのか。
その思いが、感動となって胸の中で渦巻いていた。
鬼と、鬼を殺すものの戦いはつづく。
激しい戦いだった。
苦しい戦いだった。
太刀と拳が交差し、そのたびごとに互いに傷を負っていく。
それでも、確かに――。
より強いのは鬼の方だった。
お互いに無数の傷を負っていた。
大量の血を流していた。
しかし、流れる血と共に野伏の力が失われていくのに対し、鬼の力は底が知れなかった。大量の血を流しながらも暴風のごとき拳はいささかもその威力と速度を緩めることなく野伏の体を打ちのめす。いまや、鬼が五発打ち込む間に野伏が一太刀返せれば良い方。勝負は一方的なものになりつつあった。
「強いな、人間」
鬼が言った。その言葉にはまぎれもなく賞賛の念があった。
「人の身でこれほどの強さを身につけることができるとは。敬服する、その強さに免じ、我が全力をもって葬ろう」
鬼が巌のような拳を振りあげた。その一撃を食らえばいかなる人間も死を免れない。誰の目にもそれは明らかだった。
「ロウワン!」
「ああ……」
トウナの叫びに――。
ロウワンはうなずいた。
背中に背負った〝鬼〟の大刀を引き抜いた。
「野伏を死なせるわけにはいかない。本人は怒るだろうけど……助太刀させてもらう」
「キキキッ!」
ビーブも尻尾に握ったカトラスを振りまわして叫んだ。
トウナもその手にカトラスを握っている。及ばずながら自分も参戦するつもりだった。だが――。
鬼に挑みかかろうとした三人の動きがとまった。三人の動きをとめたもの。それは――。
野伏の背中だった。
殴られ、痣に染まり、血にまみれ、おそらくは骨も内臓も潰れていることだろう。それでも、その場に立ちつづける野伏の背中ははっきりと言っていた。
――来るな。
それは、侵すことの出来ない宣告。
なんぴとたりと、その意思を超えて踏み込むことは出来ない禁忌。
ロウワンたちもその宣告を前に一歩も動けなくなっていた。
鬼の拳が暴風をまとい、打ち込まれる。
それで終わるはずだった。
野伏はすでに棒立ち。その一撃を太刀で受けることも、避けることも出来ない。ロウワンたちも助けに入ることは出来ない。そうである以上、野伏の体は鬼の一撃によって瓜のようにたたき割られる。
そのはずだった。だが――。
それを覆したのは野伏の髪、夜の闇のように黒い漆黒の長髪だった。
ぞわっ。
音を立てて長髪が動いた。
まるで、それ自体が生あるもののように。
長い髪が鬼の腕に絡まり、その動きを封じていた。
「油断したな」
喋った。
野伏が、ではない。
髪の毛が、だ。
「きさま! 毛羽毛現!」
鬼は叫んだ。
男の長髪に見えたたもの。
それは妖怪、毛羽毛現だった。
いったい、なにが起きているのか。理解が追いつかず、呆然として見守るロウワンたちの前で、野伏は語った。
「……人間の身で鬼に勝てるなどと思ってはいない。だから、おれは妖怪たちにおれの身を食わせた。東方世界で出会った四八体の妖怪におれの体を食わせることで同化し、きさまを殺す力を手に入れた。そして……」
野伏は太刀を握りしめた。
「この太刀はおれそのもの。妖怪に捧げたおれの背骨を削り出して鍛えた太刀。あらゆる血肉を食らい、おれの生命と引き替えにすべての敵を滅する禁断の武具だ」
その声と共に――。
振るわれた太刀が鬼の体を両断した。そして――。
野伏の体から四八の妖怪が飛び出し、鬼を食らい尽くした。
その場に響いた絶叫は――。
人間ごときにしてやられた無念の叫びか。
それとも、自分を殺すためにそこまでの覚悟を決めた人間に対する、賞賛の叫びだったろうか。
もはや、そこにはなにも残っていなかった。
鬼の体は四八の妖怪たちに食らい尽くされ、骨一欠片残っていない。
鬼のいた痕跡を示すものは大地の上に残ったわずかな染みばかり。
野伏はその染みを見下ろしていた。
野伏は鬼に勝った。
鬼を倒した。
姉の仇をとり、大切な幼馴染みをその手で守り抜いたのだ。
「野伏!」
ロウワンが、ビーブが、トウナが、アイヴィーさえもが、叫びながら野伏のもとに駆けつけた。傷だらけのその身を支えた。
「野伏。いったい、どういうことなんだ?」
「言ったとおりだ。おれの体は妖怪たちの塊。そして――」
ボタッ。
ボタボタ。
ボタッ。
音を立てて、野伏の体から腐った肉片がこぼれ落ちた。
野伏はひざまずいた。
その場にうずくまった。
「すまんな、ロウワン。嘘をついた」
「野伏?」
「おれの頼みを聞いてくれれば話を聞こう。そう言ったが、それは出来ん。おれはすでに死人。妖怪たちにこの身を食わせた時点ですでに死んでいる。妖怪と同化し、鬼を殺す力を手に入れるためにはそうするしかなかった。
ここまできたのは、この身と引き替えに妖怪たちと交わした契約の結果。その内容は鬼を殺すまでこの身を動かしつづけるというもの。契約が果たされたいま、妖怪たちはおれの身からはなれる。妖怪たちがいなくなれば、あとに残るものは妖怪に食われ、残骸と化した腐った肉体だけ。
おれは地に還る。願わくば、ユキに伝えてくれ。鬼はお前たちが倒した。もう生け贄など必要ない。これからは幸せに暮らせ、と。頼み事をするばかりですまんが、これが、おれの最後の願いだ」
「野伏えっ!」
鬼の世界のなかに――。
ロウワンの絶叫が響いた。
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