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第二部 絆ぐ伝説
第一話九章 喋る白骨
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「僕はロウワン! 海に落ちてこの島に漂着しました! お邪魔させてください!」
その叫びをあげて、ロウワンは森のなかへと歩みはじめる。
一糸まとわぬ姿で両手をあげて。
森のなかを通る風がなにひとつ身につけていない体を直接、なぶる。
薄暗い森のなか。人の目などどこにもない。それでも――。
『服を着ていない』というただそれだけのことがひどく頼りない。心細い。恥ずかしい。一歩、歩くたびに頬が赤く、熱くなっていくのがわかる。喉が渇く。心臓がドキドキする。
――男の僕でさえこんなに恥ずかしいんだ。女の子である〝詩姫〟はどんなに……。
一糸まとわぬ全裸に奴隷の首輪、そして、鎖。常にそんな姿で過ごしていた〝詩姫〟の心情を思いやり、ロウワンは心に痛みを感じた。
ペットだから。
〝詩姫〟はそんな理由によって、〝鬼〟にその格好をさせられていた。
――〝詩姫〟はあんな格好をさせられていても〝鬼〟の船からおりようとはしなかった。自分の戦いを貫くために。〝鬼〟に良心を植えつけ、苦しませるために。いまも〝詩姫〟はきっと、〝鬼〟の側で唄っている。自分の戦いをつづけているんだ。だったら、僕だって。僕も必ず僕の戦いを貫く。
ロウワンはその思いを胸に、キッと顔をあげて前を見据えながら歩いて行く。
やがて、剣使いのサルたちのいた場所に出た。そこにはいまも剣使いのサルたちがいた。何十匹というサルが両手で木の枝にぶらさがり、両足と尻尾に三本のカトラスを握っている。百近いサルたちの目がじっとロウワンにそそがれる。緑の天井からずらりとぶらさがるカトラスの、短くて肉厚の刃がわずかな木漏れ日を受けてキラキラと輝く。その姿はまるで、そういう形の木の実が木の枝いっぱいに実っているように見えた。
もちろん、そこにあるものは木の実などではない。単なるサルですらない。森に侵入するものを容赦なく斬殺する衛兵たちであり、恐るべき剣の使い手たちなのだ。
ゴクリ。
ロウワンは音を立てて唾を飲み込んだ。ひどく喉の渇きを感じた。心臓が先ほどまでとはちがう理由で高鳴っている。ドクドク言っている。血が沸騰し、全身が熱くなる。
――大丈夫、だいじょうぶ。
ロウワンは胸のなかで呟いた。自分に言い聞かせたのではない。心のなかでサルたちに話しかけたのだ。
――大丈夫。僕は敵じゃない。ほら、武器なんてなにももっていないだろう? なにも隠してなんていないだろう? 僕は敵じゃない。君たちも、この森も、傷つけるつもりなんてない。だから、君たちの守っている人のところまで僕を通して。
自分の心臓の高鳴る音を自分の耳で聞きながら、ロウワンはサルたちに語りつづける。森の奥目指して歩きつづける。サルたちを刺激しないよう、ゆっくりと、一定の調子で。
ザンッ!
いきなり――。
激しい音がした。
緑の天井を突き破って黒い影が地面に飛び降りた。
「………!」
ロウワンは驚いた。仰天したと言ってもいい。いきなりのことに心臓が口から飛び出しそうになった。反射的に大きく飛び退こうとした。必死にその動きを押さえた。それはまったく賢明なことだった。
もし、急に大きな動きをしてサルたちを刺激していれば、たちまち三本の剣をもったサルの姿の衛兵たちが襲いかかり、ロウワンを斬り刻んでいたことだろう。
ともすれば逃げ出してしまいそうになる体をどうにか押さえながら、ロウワンは前を見た。緑の天井を突き破り、落ちてきもの。ロウワンの行く手を遮るかのようにその前に立ちはだかるもの。それは一匹のサル。緑の天井にぶらさがるサルたちと同じ種類。大きさも、毛の色合いも同じぐらいでこれと言って特別な様子はない。ただ、他のサルたちが両足と尻尾に三本の剣を握ってるのに対し、このサルは足にはなにももっていなかった。ただ、尻尾の先だけに剣を握り、クルクルと振りまわしている。
サルがじっとロウワンの顔を見つめてきた。ロウワンは自然と視線を合わせた。獣とは思えない、深い知性を感じさせる瞳だった。
ロウワンはまるで、誰も訪れない高原のなかに人知れず広がる、澄み切った泉を見るようにその目に魅入られていた。
「君がサルたちのボスなの?」
ロウワンはサルにそう話しかけていた。まるで、小さくてかわいい女の子に話しかけるように優しく、ゆっくりと。意識してそうしたわけではない。サルの目を見つめているうちに自然とそんな話し方になっていたのだ。
ふいに――。
サルが両手を動かした。同じ動作を何度か繰り返した。
――手話だ!
ロウワンは感動すら覚えた。
このサルは手話を知っている!
手話は陸の世界においてはまだまだ一般的とは言えない。しかし、海賊の世界では広く知られている。敵に捕えられたとき、声を出さずに仲間同士、意思を伝え合うために。また、海に潜っているとき、互いの意思のやり取りをするために。
ロウワンもガレノアの船に乗ったとき、海賊のイロハとして真っ先に教え込まれた。言葉に幾つもの系統があるように、手話にもいくつかの系統があるのだが幸い、サルの手話は海賊たちの間でもっとも一般的に使われているもので、ロウワンの習ったものと同じだった。
――この手話を知っていると言うことは……このサルたちに剣や手話を教えたのは海賊だったのか?
とにかく、ロウワンは急いで手話で答えを返した。
サルの手が一定の規則に従って動いていく。
――お前は誰だ?
――僕はロウワン。ロウワンだよ。
――なにをしに来た?
――漂着したんだ。その……船から落ちて。
――なぜ、この森に入り込んだ?
――この森には人間がいるんだろう? 君たちに剣の使い方や手話を教えた人が。その人に会いたいんだ。
サルの手がとまった。じっとロウワンを見た。
――僕は値踏みされてるんだ。
ロウワンはそう直感した。
突然、自分たちの森に入り込んできたこの人間。この闖入者が果たして信頼できる相手かどうか。そのことを探ろうとしている。
――この相手に嘘は通じない。
ロウワンはそう感じた。ロウワンはすでにこのサルを『獣』などとは思えなくなっていた。人間と同等、いや、それ以上に知的で思慮深い存在。森に生きる精霊のように感じていた。
――この『人』に嘘なんて通用しない。ごまかそうとすればすぐに見破られて斬り捨てられる。でも、大丈夫。僕は嘘なんてついていない。隠し事なんてしていない。僕は本当に君たちが守っている人に会いたいんだ。ただ、それだけなんだよ。
ロウワンは心のなかでそう語りかけながら、じっとサルの目を見つめ返していた。獣特有の直感力でロウワンの内心を汲み取ったのだろうか。サルはふいに手を動かした。
――来い。
サルの手の動きはたしかにそう言っていた。
ロウワンは歓喜を爆発させた。このサルに認められたことが、まるで尊敬するおとなに褒められたときのように嬉しかった。
クルリ、と、サルは身を翻した。四本の手足を使い、跳ねるようにして森の奥へと進んでいく。
「あ、まってよ!」
ロウワンはあわてて後を追った。しかし、しょせんはサルと人間。走る速度がまったくちがう。ロウワンはあっという間において行かれた。それでも必死にサルの消えた方角目指して走りつづける。
やがて、ポッカリと森の開けたところに出た。丈の短い草だけが生える広場だった。あまりに唐突な森の開け方で自然に出来た場所ではなく、人の手で作られた広場であることは明らかだった。
そのことを証明するかのように広場の真ん中には一軒の家が建っていた。丸太を組みあせて作っただけの簡便な作りの家。それでも、傷だらけの表面には長い間、風雨に耐えて建ちつづけた風格が感じられた。
サルは家の扉の前でまっていた。
「キキッ!」
ロウワンがやってきたことに気がつくと扉に向かってサルらしく一声、鳴いた。すると――。
扉が開いた。
自分から。
勝手に。
「天命の家⁉」
ロウワンは仰天して叫んだ。
それはただの家ではなかった。天命の理によって存在そのものに干渉され、居住者の意思に反応して自分で動くように作られた天命の家だった。
「……すごい。噂には聞いていたけど、本物の天命の家なんてはじめて見た」
町育ちのロウワンでさえ見たことがない。それぐらい、めずらしいものなのだ。それこそ、王宮に建てられた特別な一室とか、そんな場所ぐらいにしか存在しない。
――その天命の家をこんな所に建てたって言うの? 天命の家を作るなんて、ちょっとやそっとの天命の博士じゃ出来ないはずだ。それなのに、こんな所に作るなんて……。
いったい、この家のなかにいるのはどんな人物なんだろう?
ロウワンはひどく興味を引かれ、心臓がドキドキした。
「お、お邪魔します……」
礼儀として一応、そう言いながら扉をくぐってなかに入る。その途端――。
「うわあっ!」
ロウワンは思わず声をあげていた。
家のなかはビッシリと本で埋まった空間だった。どこを見ても本、本、本。壁は床から天井まですべて本棚で埋め尽くされており、どの棚にも本がこれでもかとばかりに詰め込まれている。それでも足りずに床の上にまで何十冊、いや、何百冊という本が積まれている。家の中央には三〇人ぐらいはつけるのではないかと言うほどの大きな卓があり、その上には図面やら、町の模型やらが所狭しと並んでいた。
そして、その卓の向こう。そこにはひとつの揺り椅子が置かれていた。その揺り椅子に座っているのは――。
人間の白骨。
「キキキッ」
サルが一声、鳴いた。尻尾に握りしめていた剣を床に降ろし、白骨の膝に飛び乗った。甘えるように身をすりよせる。
「そ、その人が君のご主人なの?」
ロウワンは尋ねた。たちまち頬が赤くなった。両腕で自分の身を抱きしめ、両足を閉ざした。死体の前でこんな格好でいることがたまらなく恥ずかしかった。死者を冒涜しているような気がして落ち着かなかった。
グラリ、と、白骨の頭部が動いた。
――えっ!
白骨の頭部が動いた⁉
「……客人か。久しいの」
ゆっくりと喋った。
揺り椅子に座った白骨が。
その叫びをあげて、ロウワンは森のなかへと歩みはじめる。
一糸まとわぬ姿で両手をあげて。
森のなかを通る風がなにひとつ身につけていない体を直接、なぶる。
薄暗い森のなか。人の目などどこにもない。それでも――。
『服を着ていない』というただそれだけのことがひどく頼りない。心細い。恥ずかしい。一歩、歩くたびに頬が赤く、熱くなっていくのがわかる。喉が渇く。心臓がドキドキする。
――男の僕でさえこんなに恥ずかしいんだ。女の子である〝詩姫〟はどんなに……。
一糸まとわぬ全裸に奴隷の首輪、そして、鎖。常にそんな姿で過ごしていた〝詩姫〟の心情を思いやり、ロウワンは心に痛みを感じた。
ペットだから。
〝詩姫〟はそんな理由によって、〝鬼〟にその格好をさせられていた。
――〝詩姫〟はあんな格好をさせられていても〝鬼〟の船からおりようとはしなかった。自分の戦いを貫くために。〝鬼〟に良心を植えつけ、苦しませるために。いまも〝詩姫〟はきっと、〝鬼〟の側で唄っている。自分の戦いをつづけているんだ。だったら、僕だって。僕も必ず僕の戦いを貫く。
ロウワンはその思いを胸に、キッと顔をあげて前を見据えながら歩いて行く。
やがて、剣使いのサルたちのいた場所に出た。そこにはいまも剣使いのサルたちがいた。何十匹というサルが両手で木の枝にぶらさがり、両足と尻尾に三本のカトラスを握っている。百近いサルたちの目がじっとロウワンにそそがれる。緑の天井からずらりとぶらさがるカトラスの、短くて肉厚の刃がわずかな木漏れ日を受けてキラキラと輝く。その姿はまるで、そういう形の木の実が木の枝いっぱいに実っているように見えた。
もちろん、そこにあるものは木の実などではない。単なるサルですらない。森に侵入するものを容赦なく斬殺する衛兵たちであり、恐るべき剣の使い手たちなのだ。
ゴクリ。
ロウワンは音を立てて唾を飲み込んだ。ひどく喉の渇きを感じた。心臓が先ほどまでとはちがう理由で高鳴っている。ドクドク言っている。血が沸騰し、全身が熱くなる。
――大丈夫、だいじょうぶ。
ロウワンは胸のなかで呟いた。自分に言い聞かせたのではない。心のなかでサルたちに話しかけたのだ。
――大丈夫。僕は敵じゃない。ほら、武器なんてなにももっていないだろう? なにも隠してなんていないだろう? 僕は敵じゃない。君たちも、この森も、傷つけるつもりなんてない。だから、君たちの守っている人のところまで僕を通して。
自分の心臓の高鳴る音を自分の耳で聞きながら、ロウワンはサルたちに語りつづける。森の奥目指して歩きつづける。サルたちを刺激しないよう、ゆっくりと、一定の調子で。
ザンッ!
いきなり――。
激しい音がした。
緑の天井を突き破って黒い影が地面に飛び降りた。
「………!」
ロウワンは驚いた。仰天したと言ってもいい。いきなりのことに心臓が口から飛び出しそうになった。反射的に大きく飛び退こうとした。必死にその動きを押さえた。それはまったく賢明なことだった。
もし、急に大きな動きをしてサルたちを刺激していれば、たちまち三本の剣をもったサルの姿の衛兵たちが襲いかかり、ロウワンを斬り刻んでいたことだろう。
ともすれば逃げ出してしまいそうになる体をどうにか押さえながら、ロウワンは前を見た。緑の天井を突き破り、落ちてきもの。ロウワンの行く手を遮るかのようにその前に立ちはだかるもの。それは一匹のサル。緑の天井にぶらさがるサルたちと同じ種類。大きさも、毛の色合いも同じぐらいでこれと言って特別な様子はない。ただ、他のサルたちが両足と尻尾に三本の剣を握ってるのに対し、このサルは足にはなにももっていなかった。ただ、尻尾の先だけに剣を握り、クルクルと振りまわしている。
サルがじっとロウワンの顔を見つめてきた。ロウワンは自然と視線を合わせた。獣とは思えない、深い知性を感じさせる瞳だった。
ロウワンはまるで、誰も訪れない高原のなかに人知れず広がる、澄み切った泉を見るようにその目に魅入られていた。
「君がサルたちのボスなの?」
ロウワンはサルにそう話しかけていた。まるで、小さくてかわいい女の子に話しかけるように優しく、ゆっくりと。意識してそうしたわけではない。サルの目を見つめているうちに自然とそんな話し方になっていたのだ。
ふいに――。
サルが両手を動かした。同じ動作を何度か繰り返した。
――手話だ!
ロウワンは感動すら覚えた。
このサルは手話を知っている!
手話は陸の世界においてはまだまだ一般的とは言えない。しかし、海賊の世界では広く知られている。敵に捕えられたとき、声を出さずに仲間同士、意思を伝え合うために。また、海に潜っているとき、互いの意思のやり取りをするために。
ロウワンもガレノアの船に乗ったとき、海賊のイロハとして真っ先に教え込まれた。言葉に幾つもの系統があるように、手話にもいくつかの系統があるのだが幸い、サルの手話は海賊たちの間でもっとも一般的に使われているもので、ロウワンの習ったものと同じだった。
――この手話を知っていると言うことは……このサルたちに剣や手話を教えたのは海賊だったのか?
とにかく、ロウワンは急いで手話で答えを返した。
サルの手が一定の規則に従って動いていく。
――お前は誰だ?
――僕はロウワン。ロウワンだよ。
――なにをしに来た?
――漂着したんだ。その……船から落ちて。
――なぜ、この森に入り込んだ?
――この森には人間がいるんだろう? 君たちに剣の使い方や手話を教えた人が。その人に会いたいんだ。
サルの手がとまった。じっとロウワンを見た。
――僕は値踏みされてるんだ。
ロウワンはそう直感した。
突然、自分たちの森に入り込んできたこの人間。この闖入者が果たして信頼できる相手かどうか。そのことを探ろうとしている。
――この相手に嘘は通じない。
ロウワンはそう感じた。ロウワンはすでにこのサルを『獣』などとは思えなくなっていた。人間と同等、いや、それ以上に知的で思慮深い存在。森に生きる精霊のように感じていた。
――この『人』に嘘なんて通用しない。ごまかそうとすればすぐに見破られて斬り捨てられる。でも、大丈夫。僕は嘘なんてついていない。隠し事なんてしていない。僕は本当に君たちが守っている人に会いたいんだ。ただ、それだけなんだよ。
ロウワンは心のなかでそう語りかけながら、じっとサルの目を見つめ返していた。獣特有の直感力でロウワンの内心を汲み取ったのだろうか。サルはふいに手を動かした。
――来い。
サルの手の動きはたしかにそう言っていた。
ロウワンは歓喜を爆発させた。このサルに認められたことが、まるで尊敬するおとなに褒められたときのように嬉しかった。
クルリ、と、サルは身を翻した。四本の手足を使い、跳ねるようにして森の奥へと進んでいく。
「あ、まってよ!」
ロウワンはあわてて後を追った。しかし、しょせんはサルと人間。走る速度がまったくちがう。ロウワンはあっという間において行かれた。それでも必死にサルの消えた方角目指して走りつづける。
やがて、ポッカリと森の開けたところに出た。丈の短い草だけが生える広場だった。あまりに唐突な森の開け方で自然に出来た場所ではなく、人の手で作られた広場であることは明らかだった。
そのことを証明するかのように広場の真ん中には一軒の家が建っていた。丸太を組みあせて作っただけの簡便な作りの家。それでも、傷だらけの表面には長い間、風雨に耐えて建ちつづけた風格が感じられた。
サルは家の扉の前でまっていた。
「キキッ!」
ロウワンがやってきたことに気がつくと扉に向かってサルらしく一声、鳴いた。すると――。
扉が開いた。
自分から。
勝手に。
「天命の家⁉」
ロウワンは仰天して叫んだ。
それはただの家ではなかった。天命の理によって存在そのものに干渉され、居住者の意思に反応して自分で動くように作られた天命の家だった。
「……すごい。噂には聞いていたけど、本物の天命の家なんてはじめて見た」
町育ちのロウワンでさえ見たことがない。それぐらい、めずらしいものなのだ。それこそ、王宮に建てられた特別な一室とか、そんな場所ぐらいにしか存在しない。
――その天命の家をこんな所に建てたって言うの? 天命の家を作るなんて、ちょっとやそっとの天命の博士じゃ出来ないはずだ。それなのに、こんな所に作るなんて……。
いったい、この家のなかにいるのはどんな人物なんだろう?
ロウワンはひどく興味を引かれ、心臓がドキドキした。
「お、お邪魔します……」
礼儀として一応、そう言いながら扉をくぐってなかに入る。その途端――。
「うわあっ!」
ロウワンは思わず声をあげていた。
家のなかはビッシリと本で埋まった空間だった。どこを見ても本、本、本。壁は床から天井まですべて本棚で埋め尽くされており、どの棚にも本がこれでもかとばかりに詰め込まれている。それでも足りずに床の上にまで何十冊、いや、何百冊という本が積まれている。家の中央には三〇人ぐらいはつけるのではないかと言うほどの大きな卓があり、その上には図面やら、町の模型やらが所狭しと並んでいた。
そして、その卓の向こう。そこにはひとつの揺り椅子が置かれていた。その揺り椅子に座っているのは――。
人間の白骨。
「キキキッ」
サルが一声、鳴いた。尻尾に握りしめていた剣を床に降ろし、白骨の膝に飛び乗った。甘えるように身をすりよせる。
「そ、その人が君のご主人なの?」
ロウワンは尋ねた。たちまち頬が赤くなった。両腕で自分の身を抱きしめ、両足を閉ざした。死体の前でこんな格好でいることがたまらなく恥ずかしかった。死者を冒涜しているような気がして落ち着かなかった。
グラリ、と、白骨の頭部が動いた。
――えっ!
白骨の頭部が動いた⁉
「……客人か。久しいの」
ゆっくりと喋った。
揺り椅子に座った白骨が。
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