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第二部 絆ぐ伝説
第一話二章 〝鬼〟と呼ばれる海賊
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〝鬼〟。
その海賊はただ、そう呼ばれていた。
本名不明。
年齢不明。
経歴不明。
出生地不明。
そして、おそらくは――。
死ぬ場所も不明。
人々は、その海賊をただ〝鬼〟と呼んだ。
その〝鬼〟の船がいま、この場へとやってくる。
三本のマストに張られた帆いっぱいに風を受けて。
帆ははち切れんばかりにふくらみ、グングンと迫ってくる。小さかった船が見るみる大きくなってくる。それを見てそれまで威張り散らしていた海賊の頭がたちまち真っ青になった。
怯え、
恐怖し、
息を呑んでいた。
どうしたらここまで怯えることが出来るのか。
そもそも、どうしてここまで怯える必要があるのか。
見るものにそう思わせる姿だった。
「に、逃げるぞ! 他のやつらのことなんざほっとけ! いますぐ船に戻るんだ!」
海賊の頭は叫んだ。売り払うつもりだった少年の船長服もその場に放り出し、駆け出した。まさに『泡を食った』という表現がふさわしい慌てふためいたその態度。比喩ではなく、文字通り泡を吹きながらの叫び。あまりにもあわてたせいで甲板の血だまりに足を取られ、転倒し、血まみれになる始末。それでも――。
海賊の手下たちのひとりとしてその姿を嗤うものはなかった。
――それどころじゃない!
表情の必死さがそう言っていた。
海賊たちは必死に逃げようとした。
生き延びるために。
殺されないために。
だが、間に合わない。〝鬼〟の船は恐ろしい速度で迫ってくる。帆船にはとうてい出せないその速度。三本のマストに張られた帆はただの飾り、あるいは、補助動力。その実体は自らの意思で、自らの力で波をわけ、海を渡る天命船にちがいなかった。
――あんな大きな天命船をもっているなんて。
少年はぼんやりした頭でそう思った。
これほど巨大な天命船、各国海軍の旗艦級にさえあるかどうか。
それほどの規模だった。
――いったい、どうやったらあんな船を手に入れられるんだ?
〝鬼〟の船が海賊船に並んだ。甲板から甲板へ、独りでに橋が架けられた。ヌッ、と、そんな音が聞こえるような様子で湾曲した大刀を肩に担いだ男が姿を現わした。
なんとも不思議な感じのする男だった。
巌のような巨体。
熱風のような威圧感。
人をとって食いそうな獰猛な雰囲気。
そのすべてが『人間じゃない』と思わせる。それなのに――。
そのいかつい風貌に、妙に人懐っこい笑みを浮かべている。その表情にはなんとも妙な、人を惹きつける愛嬌のようなものがあった。
〝鬼〟がヌッ、と、一歩進んだ。甲板と甲板の間にかけられた橋の上をゆっくりと、大股に、堂々たる歩調で渡ってくる。
その姿はまるで、自らの城に凱旋し、自らの玉座に向かう王のようだった。
海賊たちは固まっていた。迫り来る鬼の姿に凍りついていた。ガタガタと震え、なかには小便を漏らしているものさえいた。客船の乗客たちのなかにその姿を見るものがいたとしても『ざまあみろ!』などと思う余裕はまるでなかった。乗客たちも海賊たちに劣らず凍りついていたからだ。〝鬼〟の気は海賊たちだけではなく、乗客たちもまでも呑み込んでいた。
そして、惨劇ははじまった。
――なんで、あんなに怖れているんだ?
先ほどまでの海賊たちの姿を見てそう疑問に思ったものも、そのありさまを見れば納得したにちがいない。いや、それどころか、あの怯え方でさえまだまだ足りなかったのだと思い知ったことだろう。
その場に繰り広げられたのは、それほどに圧倒的な風景。湾曲した大刀が振るわれ、何十人という海賊たちが一瞬で斬殺される。
殺戮。
虐殺。
鏖殺。
どのような言葉を用いてもそのありさまを正確に表現することは出来ない。殺戮も、虐殺も、ともに人間が人間を殺すときに使う言葉。鬼が人間を殺すときに使われる言葉ではない。しかし、このときに必要なのはまさに『鬼』が『人間』を殺すときに使う言葉だった。
――これだ。
海賊たちを一瞬で駆逐する〝鬼〟の姿に、少年は肚の底から思った。
――これこそ、僕のやりたかったことなんだ。
海賊に襲われる船。その現場にたったひとり乗り込み、ただ一本の剣だけを頼りに海賊たちをなぎ払う。それこそ、少年がやりたくて出来なかったこと。そして、〝鬼〟が易々とやってのけていることだった。
海賊の頭はガタガタと震えたままだった。顔色は青を通り越して真っ白になり、言葉もない。そんな頭を見て、〝鬼〟はニヤリと笑った。妙に愛嬌のある、優しげな笑みだった。
「情けねえ」
「な、なに……?」
「悪ってのは常に強く、雄々しく、美しくなけりゃならねえ。そのすべてが足りねえのよ。おめえは、よ」
〝鬼〟は大刀を振るい、一撃のもとに頭の首を刎ねとばした。
血に濡れた大刀を肩に担ぎ、甲板に転がった頭の頭部を踏みつぶした。
「強くなけりゃ悪党じゃねえ」
〝鬼〟はそのまま客船へとやってきた。やはり、ゆっくりと、堂々とした足取りで。
――我こそがこの世界の支配者である。
そう宣言するかのように。
客船の生き残りたちは声もなくその姿を見つめていた。例え、この場に大国の正規兵がいたとしてもやはり、なにもすることは出来なかっただろう。それほどに、〝鬼〟のもつ威圧感は絶対的だった。
〝鬼〟は甲板に居並ぶ生き残りたちを見渡した。船員を見つけた。尋ねた。
「この船の船長はまだ生きているかい、えっ?」
「い、いえ、海賊に立ち向かって……真っ先に殺されました」
船員がそう答えたのは勇敢だったからではない。〝鬼〟の『命令』に逆らえなかったからだ。
「ほう。そいつは立派なこった。船長の鑑だな」
不思議なことに――。
〝鬼〟のその言葉は船長の態度を心から賞賛しているもののように聞こえた。
ふと、〝鬼〟の目が血まみれの甲板の上に移った。そこに落ちている船長服を見た。拾いあげた。
「ほう。こいつは値打ちものじゃねえか。このデザイン、千年も前に作られた限定百着の記念品だな。博物館以外でお目にかかれるとは思ってもみなかったぜ」
〝鬼〟は船長服を手にしたまま辺りを見回した。
「こいつは誰のもんだ?」
「ぼ、僕です……」
少年は答えた。敬語になっているのは〝鬼〟の雰囲気に呑まれているからだ。
「おめえの?」
「は、はい……」
そうか、とばかりに〝鬼〟はニヤリと笑って見せた。船長服を少年に放り投げた。
「着な」
「えっ?」
「おめえの服なんだろ?」
「は、はい……」
「だったら、そいつを着な。いまからおめえがこの服の船長だ。全員に指示しろ。この客船と向こうの海賊船、両方にあるすべてのお宝をもっておれの船に移れ、とな」
ひとり残らずだぞ。
〝鬼〟はそう付け加えた。
少年はノロノロと立ちあがると船長服を着込んだ。それから、〝鬼〟に言われたとおりに生き残りの船員と乗客たちに告げてまわった。その姿はまさしく、人形師に使われる操り人形そのままだった。
誰も逆らわない。
不平すら漏らさない。
全員が唯々諾々と従った。
しょせん、この場にいる人間たちと〝鬼〟とでは存在の格がちがう。神に率いられる敬虔な信者の群れのように、全員が〝鬼〟の遺志に従い、〝鬼〟の意思のままに行動した。
「この、この人たちはどうなるんですか?」
少年が〝鬼〟に尋ねた。
そんなことができたのは『船長』という役割を〝鬼〟から与えられたからだ。船長には船員と乗客の安全を守る義務がある。
〝鬼〟は鷹揚に答えた。
「こいつらは商品さ。それぞれの国の政府に掛け合えば、いい金になる」
少年はホッと胸をなでおろした。他の全員がそうだった。これで、とにかく殺されずにすむ。金と引き替えに国に帰れる。全員がそう思い、安堵の息をついていた。
なぜか、〝鬼〟がその言葉を違えるとは誰も思わなかった。この〝鬼〟は自分の言ったことを破るようなことはしない。
理性よりもなによりも、本能と直感でそう感じていた。
「おっと、言い忘れていた。死体もちゃんとおれの船に運べよ。死体だって返してやりゃあ、金になるからな」
「海賊たちの死体もですか?」
「あたりめえだ。海賊ってヤツにゃあ、生死を問わず賞金が懸けられているもんだからな」
〝鬼〟の命令通り、ふたつの船に積まれていたすべての宝とすべての死体が〝鬼〟の船に移された。そして、生き残りの船員と乗客たちもひとり残らず〝鬼〟の船に移った。
巨大な規模を誇る〝鬼〟の船は二隻分の荷物とその乗員たちの死体、そして、生き残りたちを全員、収容してもなお、ありあまる余裕があった。船と言うよりちょっとした小島のようだった。
「おい、船長」
「は、はい……!」
『船長』と呼ばれ、少年は反射的に返事をしていた。
「死体は腐らねえように蜜蝋付けにしておけ。蜜蝋の樽は船底に置いてある。それから、生き残りどもには気を配ってやれよ。せっかく、国に帰れるのに、ここで病気になって死んじまったりしたらつまらねえからな」
「は、はい……」
少年が答えたそのときだ。
「また、殺したのね」
高く澄んだ、歌うような声がした。
少年は目を見張った。その声の主、それは――。
一糸まとわぬ裸体に首輪をつけ、奴隷の鎖をたらした一五、六才の美しい少女だった。
その海賊はただ、そう呼ばれていた。
本名不明。
年齢不明。
経歴不明。
出生地不明。
そして、おそらくは――。
死ぬ場所も不明。
人々は、その海賊をただ〝鬼〟と呼んだ。
その〝鬼〟の船がいま、この場へとやってくる。
三本のマストに張られた帆いっぱいに風を受けて。
帆ははち切れんばかりにふくらみ、グングンと迫ってくる。小さかった船が見るみる大きくなってくる。それを見てそれまで威張り散らしていた海賊の頭がたちまち真っ青になった。
怯え、
恐怖し、
息を呑んでいた。
どうしたらここまで怯えることが出来るのか。
そもそも、どうしてここまで怯える必要があるのか。
見るものにそう思わせる姿だった。
「に、逃げるぞ! 他のやつらのことなんざほっとけ! いますぐ船に戻るんだ!」
海賊の頭は叫んだ。売り払うつもりだった少年の船長服もその場に放り出し、駆け出した。まさに『泡を食った』という表現がふさわしい慌てふためいたその態度。比喩ではなく、文字通り泡を吹きながらの叫び。あまりにもあわてたせいで甲板の血だまりに足を取られ、転倒し、血まみれになる始末。それでも――。
海賊の手下たちのひとりとしてその姿を嗤うものはなかった。
――それどころじゃない!
表情の必死さがそう言っていた。
海賊たちは必死に逃げようとした。
生き延びるために。
殺されないために。
だが、間に合わない。〝鬼〟の船は恐ろしい速度で迫ってくる。帆船にはとうてい出せないその速度。三本のマストに張られた帆はただの飾り、あるいは、補助動力。その実体は自らの意思で、自らの力で波をわけ、海を渡る天命船にちがいなかった。
――あんな大きな天命船をもっているなんて。
少年はぼんやりした頭でそう思った。
これほど巨大な天命船、各国海軍の旗艦級にさえあるかどうか。
それほどの規模だった。
――いったい、どうやったらあんな船を手に入れられるんだ?
〝鬼〟の船が海賊船に並んだ。甲板から甲板へ、独りでに橋が架けられた。ヌッ、と、そんな音が聞こえるような様子で湾曲した大刀を肩に担いだ男が姿を現わした。
なんとも不思議な感じのする男だった。
巌のような巨体。
熱風のような威圧感。
人をとって食いそうな獰猛な雰囲気。
そのすべてが『人間じゃない』と思わせる。それなのに――。
そのいかつい風貌に、妙に人懐っこい笑みを浮かべている。その表情にはなんとも妙な、人を惹きつける愛嬌のようなものがあった。
〝鬼〟がヌッ、と、一歩進んだ。甲板と甲板の間にかけられた橋の上をゆっくりと、大股に、堂々たる歩調で渡ってくる。
その姿はまるで、自らの城に凱旋し、自らの玉座に向かう王のようだった。
海賊たちは固まっていた。迫り来る鬼の姿に凍りついていた。ガタガタと震え、なかには小便を漏らしているものさえいた。客船の乗客たちのなかにその姿を見るものがいたとしても『ざまあみろ!』などと思う余裕はまるでなかった。乗客たちも海賊たちに劣らず凍りついていたからだ。〝鬼〟の気は海賊たちだけではなく、乗客たちもまでも呑み込んでいた。
そして、惨劇ははじまった。
――なんで、あんなに怖れているんだ?
先ほどまでの海賊たちの姿を見てそう疑問に思ったものも、そのありさまを見れば納得したにちがいない。いや、それどころか、あの怯え方でさえまだまだ足りなかったのだと思い知ったことだろう。
その場に繰り広げられたのは、それほどに圧倒的な風景。湾曲した大刀が振るわれ、何十人という海賊たちが一瞬で斬殺される。
殺戮。
虐殺。
鏖殺。
どのような言葉を用いてもそのありさまを正確に表現することは出来ない。殺戮も、虐殺も、ともに人間が人間を殺すときに使う言葉。鬼が人間を殺すときに使われる言葉ではない。しかし、このときに必要なのはまさに『鬼』が『人間』を殺すときに使う言葉だった。
――これだ。
海賊たちを一瞬で駆逐する〝鬼〟の姿に、少年は肚の底から思った。
――これこそ、僕のやりたかったことなんだ。
海賊に襲われる船。その現場にたったひとり乗り込み、ただ一本の剣だけを頼りに海賊たちをなぎ払う。それこそ、少年がやりたくて出来なかったこと。そして、〝鬼〟が易々とやってのけていることだった。
海賊の頭はガタガタと震えたままだった。顔色は青を通り越して真っ白になり、言葉もない。そんな頭を見て、〝鬼〟はニヤリと笑った。妙に愛嬌のある、優しげな笑みだった。
「情けねえ」
「な、なに……?」
「悪ってのは常に強く、雄々しく、美しくなけりゃならねえ。そのすべてが足りねえのよ。おめえは、よ」
〝鬼〟は大刀を振るい、一撃のもとに頭の首を刎ねとばした。
血に濡れた大刀を肩に担ぎ、甲板に転がった頭の頭部を踏みつぶした。
「強くなけりゃ悪党じゃねえ」
〝鬼〟はそのまま客船へとやってきた。やはり、ゆっくりと、堂々とした足取りで。
――我こそがこの世界の支配者である。
そう宣言するかのように。
客船の生き残りたちは声もなくその姿を見つめていた。例え、この場に大国の正規兵がいたとしてもやはり、なにもすることは出来なかっただろう。それほどに、〝鬼〟のもつ威圧感は絶対的だった。
〝鬼〟は甲板に居並ぶ生き残りたちを見渡した。船員を見つけた。尋ねた。
「この船の船長はまだ生きているかい、えっ?」
「い、いえ、海賊に立ち向かって……真っ先に殺されました」
船員がそう答えたのは勇敢だったからではない。〝鬼〟の『命令』に逆らえなかったからだ。
「ほう。そいつは立派なこった。船長の鑑だな」
不思議なことに――。
〝鬼〟のその言葉は船長の態度を心から賞賛しているもののように聞こえた。
ふと、〝鬼〟の目が血まみれの甲板の上に移った。そこに落ちている船長服を見た。拾いあげた。
「ほう。こいつは値打ちものじゃねえか。このデザイン、千年も前に作られた限定百着の記念品だな。博物館以外でお目にかかれるとは思ってもみなかったぜ」
〝鬼〟は船長服を手にしたまま辺りを見回した。
「こいつは誰のもんだ?」
「ぼ、僕です……」
少年は答えた。敬語になっているのは〝鬼〟の雰囲気に呑まれているからだ。
「おめえの?」
「は、はい……」
そうか、とばかりに〝鬼〟はニヤリと笑って見せた。船長服を少年に放り投げた。
「着な」
「えっ?」
「おめえの服なんだろ?」
「は、はい……」
「だったら、そいつを着な。いまからおめえがこの服の船長だ。全員に指示しろ。この客船と向こうの海賊船、両方にあるすべてのお宝をもっておれの船に移れ、とな」
ひとり残らずだぞ。
〝鬼〟はそう付け加えた。
少年はノロノロと立ちあがると船長服を着込んだ。それから、〝鬼〟に言われたとおりに生き残りの船員と乗客たちに告げてまわった。その姿はまさしく、人形師に使われる操り人形そのままだった。
誰も逆らわない。
不平すら漏らさない。
全員が唯々諾々と従った。
しょせん、この場にいる人間たちと〝鬼〟とでは存在の格がちがう。神に率いられる敬虔な信者の群れのように、全員が〝鬼〟の遺志に従い、〝鬼〟の意思のままに行動した。
「この、この人たちはどうなるんですか?」
少年が〝鬼〟に尋ねた。
そんなことができたのは『船長』という役割を〝鬼〟から与えられたからだ。船長には船員と乗客の安全を守る義務がある。
〝鬼〟は鷹揚に答えた。
「こいつらは商品さ。それぞれの国の政府に掛け合えば、いい金になる」
少年はホッと胸をなでおろした。他の全員がそうだった。これで、とにかく殺されずにすむ。金と引き替えに国に帰れる。全員がそう思い、安堵の息をついていた。
なぜか、〝鬼〟がその言葉を違えるとは誰も思わなかった。この〝鬼〟は自分の言ったことを破るようなことはしない。
理性よりもなによりも、本能と直感でそう感じていた。
「おっと、言い忘れていた。死体もちゃんとおれの船に運べよ。死体だって返してやりゃあ、金になるからな」
「海賊たちの死体もですか?」
「あたりめえだ。海賊ってヤツにゃあ、生死を問わず賞金が懸けられているもんだからな」
〝鬼〟の命令通り、ふたつの船に積まれていたすべての宝とすべての死体が〝鬼〟の船に移された。そして、生き残りの船員と乗客たちもひとり残らず〝鬼〟の船に移った。
巨大な規模を誇る〝鬼〟の船は二隻分の荷物とその乗員たちの死体、そして、生き残りたちを全員、収容してもなお、ありあまる余裕があった。船と言うよりちょっとした小島のようだった。
「おい、船長」
「は、はい……!」
『船長』と呼ばれ、少年は反射的に返事をしていた。
「死体は腐らねえように蜜蝋付けにしておけ。蜜蝋の樽は船底に置いてある。それから、生き残りどもには気を配ってやれよ。せっかく、国に帰れるのに、ここで病気になって死んじまったりしたらつまらねえからな」
「は、はい……」
少年が答えたそのときだ。
「また、殺したのね」
高く澄んだ、歌うような声がした。
少年は目を見張った。その声の主、それは――。
一糸まとわぬ裸体に首輪をつけ、奴隷の鎖をたらした一五、六才の美しい少女だった。
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