壊れたオルゴール ~三つの伝説~

藍条森也

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第三部 終わりの伝説

終章 伝説は終わり、歴史の刻

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 「……それが、我らの、この地球の隠された歴史だというのか?」
 「そうです」
 その研究員はいかにも胡散うさんくさいものを見る目で睨みつけている上司に向かい、力強く答えた。その答え方には自らの研究成果を疑う心など微塵みじんもなかった。
 自分のしたことに絶対の確信を抱いている。
 そういう答え方だった。
 「これこそが、南極の氷の下に隠されていた記録結晶のデータを解析した結果です。滅びの定めを覆し、この世界を永遠のものとしたあと、天命てんめい巫女みこは人間に戻り、一生を終え、マークスⅢも勇者を引退して当たり前の人間としての一生を過ごしました。マークスⅡはひとりで、騎士マークスとサライサ王女は連れだって世界のどこかへと姿を消しました。
 そして、先行種族たち。
 ゼッヴォーカーの導師は冥王星に、
 メルデリオの魔術士は海王星に、
 イルキュルスの予言者は天王星に、
 カーバッソの鋼打ちは土星に、
 ゴルゼクウォの力士は木星に、
 ハイシュリオスの戦士は火星に、
 ミスルセスの女帝は金星に、
 カーンゼリッツの学士は水星に、
 それぞれ、移りました。これらの惑星の環境はこれらの先行種族が暮らしていた頃の世界の環境を再現したものなのです。
 そして、いまだ生まれぬふたつの種族は人類を見守る神となり、それに反対する《すさまじきもの》はあくまでも自分たちの生まれる権利を取り戻すべく、悪魔となったのです。 マークスⅡと先行種族たちの張り巡らした狭間はざま世界せかいによってこの世界が亡道もうどう世界せかいと重なることはなくなりました。ですが、亡道もうどう世界せかいとのつながりは完全に断ち切られたわけではありません。いまも、わずかながら残っています。そのつながりから入り込んでくる亡道もうどう世界せかいの要素が妖怪・妖魔などと呼ばれ、広く知られるファンタジー世界の住人たちの原型となったのです。
 マークスⅢたちの文明は繁栄をつづけましたが、それも終わりの時が来ました。
 全地球凍結。
 大陸移動によって引き起こされた全地球規模での凍結現象。数百万年もつづいた氷漬けの時代によってその文明は終わり、痕跡すらなくなったのです。
 しかし、完全に滅び去ったわけではありません。その遺産はいまもこの地球に、そして、太陽系の各地に眠っています。だからこそ、我らの文明にも神や悪魔、妖怪などの伝承が存在するのであり……」
 熱弁を振るう研究員に対し――。
 上司は興味なさそうに答えた。
 「くだらん」
 ごとはもう終わりだ。
 そう言いたげに片手を振ると、研究院に言った。
 「そんな戯言たわごとは小説投稿サイトででも書き散らすことだ。まっとうな研究員の語るべきことではない」
 「しかし……」
 「もういい! 二度とそんなごとを口にしてみろ。研究員の資格など永遠に剥奪はくだつしてやるぞ」
 「……わたしの研究成果は信じるに足りないと?」
 「当たり前だ。そんな三文小説みたいな話を誰が信じるか」
 「では、南極の氷の下から見つかったこの記録結晶の存在は、どう説明するのですか?」
 「手の込んだイタズラなどどこにでもある。ピルトダウン人しかり、ネッシーの写真しかりだ。今日のことは忘れてやる。心を入れ替えてまともな研究に励むのだな。でないと、せっかく手に入れた研究員の地位をふいにすることになるぞ」
 シッシッ、と、上司は片手を振って研究員を追い出した。それこそ、小さな野良犬を追い払うように。
 研究院は失意を抱えて研究所を出た。そこには、かのの幼い子供がまっていた。
 「お帰り! どうだった?」
 「やっぱり、だめだったよ。まるで信じてもらえなかった」
 「そっかあ」
 子供はそう言ったが、ガッカリしている様子はなかった。むしろ、ファイトをかきたてられた様子だった。
 「だいじょうぶだよ! ボクが絶対にマークスたちの伝説を証明してみせるからね」
 研究員の子供は混じりけのない純粋な瞳でそう断言した。その瞳に――。
 ――ああ、そうか。
 研究員は深く納得した。
 自ら運命を選びしもの――。
 マークスⅣがここにいた。

 伝説はすでに終わった。いまは――。
 歴史の刻。

           第三部完
           第二部につづく 
 
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