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三三章
偶然? たまたま? いや、運命だ
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そして、未に来な祭の初日が終わった。夜、震える指で電卓を操作しながら売り上げを集計した。売り上げはなんと一〇〇万円を超えていた。
「すごい!」
おれは掛け値なしに驚き、そして感動した。
「たった一日で一〇〇万以上の金になった!」
「まさか、こんなお金になるなんてねえ」
と、おふくろ。茶をすすりながら言う。やけにのんびりした口調になっているのはピンときていないからだろう。
「ふっふっふっ。すべてはこの金子さまの萌え演出のおかげ。感謝するがよいぞ、藤岡」
「ありがとうございます。一生、感謝します、ご主人さま?」
「やめろっ! 男の姿でメイド言語を使うな、夢が壊れるっ!」
おれと金子の寸劇にひとしきり笑いが起こる。
「さて、とにかく明日の準備をしないとな。男たちは悪いけど、もう一頑張りしてくれ。女の子たちは先に寝てくれ」
「どうして? あたしたちも手伝うわよ」
と、不満そうな声をあげる女の子たちに言ったのは鈴沢だった。
「接客役が寝不足で肌が荒れていたり、目の下に隈をつくっていたりしたらなんにもならないわ。いまは眠るのがあたしたちの仕事よ」
さすがに舞台経験豊富なだけによくわかっている。
そういうわけで女の子たちは眠り、準備は男だけで行なわれた。そのなかでもおれはひとり最後まで残り、準備に励んでいた。
「なんだ、弟よ。まだ起きているのか」
「陽芽姉ちゃん。寝てたんじゃないのか?」
「トイレに起きただけだ。それより、お前こそいい加減に眠れ。料理係のお前がいちばんハードなはずだぞ。寝不足で問題でも起こされたら何もかも台無しだ」
「ああ、わかってる。もうすぐ終わるから、そうしたらすぐに寝るよ」
「そうしろ。ついつい気が張るのはわかるが、まだ初日だ。無理やりにでも眠らなければ最後までもたんぞ」
「ああ」
「ではな」
陽芽姉ちゃんは言いつつきびすを返す。おれはその背に声をかけた。
「あっ、まってくれ、陽芽姉ちゃん。言っておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
振り返る陽芽姉ちゃんに向かって、おれは体ごと頭をさげた。
「ありがとう」
「うん?」
「陽芽姉ちゃんがおれを誘ってくれたおかげでじいさんの田んぼを守れる目処がついた。それに……」
――彼女もできた。
これは言わずにいよう。
陽芽姉ちゃんはこっちの気を見透かしたようにニヤリと笑ってみせた。
「それに?」
「あ、いや、とにかく感謝してる! 本当にありがとう」
「礼を言うことはない。むしろ、私が言うべき言葉だな。お前が私に協力し、ご両親を説得してくれたからこそすべてははじまったのだからな」
「説得したのは姉ちゃんだろ。おれはどうせ断られると思って義理で紹介しただけだ。それに何より、若竹に水田農家の子供はおれだけじゃない。なのに、姉ちゃんはおれを誘った。なにか理由があったんだろ?」
「うむ。お前を誘った理由か」
「ああ」
「その理由はな」
陽芽姉ちゃんは腕組みし、うなずきながら、やけに重々しい表情と口調になった。
ゴクリ、とおれは唾を飲み込んだ。
「お前がいちばん最初にきたからだ」
「はっ?」
一瞬の自失の後、ようやくそう呟いたおれに向かって陽芽姉ちゃんはつづけた。
「あの日、私は朝から校門に立ち、水田農家の跡取りがくるのをまっていた。最初にきたひとりに声をかけるつもりでな。そして、お前が最初にやってきたというわけだ」
「それだけか?」
「それだけだ」
「じゃあ、まったくの偶然かよ⁉」
「完全無欠の偶然だ」
陽芽姉ちゃんは胸を反らして威張っている。
「なんだよ、それは⁉ 何か理由があったんだと思って感謝したってのに。礼なんか言って損した」
「はっはっはっ、むくれるな、弟よ。たしかに偶然だが、私はその偶然に感謝している。お前には我が道を進みたいという情熱と、世の理不尽に怒る熱さがあった。それあればこそすべてははじまったのだ。お前でなければきっと成功はしなかった。それが偶然もたらされたというのであれば、その偶然は『運命』と呼んでもよい。私はそう思うぞ」
「運命、か」
おれは思わず苦笑した。
「そう。運命だ」
「そうかもな。それじゃ神さまに感謝するとしようか」
「はっはっはっ。まったく、お前は素直なやつだ」
いきなり――、
陽芽姉ちゃんはおれの頭を抱え込み、胸元に抱きしめた。見た目よりもさらにある胸に顔面を押しつけられ、おれは耳まで真っ赤にする。
「わっ、バカ、よせ、何する、はなせ」
「何を逃げる? いまさら照れる仲ではなかろう」
「弥生に見られて誤解されたら困るっ! はなせっ!」
「はっはっはっ。つくづくかわいいやつだな、弟よ。しかも、『弥生』ときたか。とうとう決めたわけだな。姉はうれしいぞ」
「いいからはなせ、バカ姉ぇっ!」
おれの叫びは夜の室内に響き渡った。
未に来な祭の五日間は嵐のようにすぎさった。どの日もあふれんばかりの大盛況。用意していた米も魚も足りなくなって近所の農家からわけてもらったり、田んぼだけではなく、周囲の水路からも魚を捕ったりしなくてはならないほどだった。
毎日五〇〇人以上はきていたから、五日間での延べ人数は三〇〇〇人にも達しただろう。総売り上げはなんと六〇〇万円にも達した。これにはさすがに驚いた。
しかも、屋台で出した商品はほぼすべて我が家の田んぼで育ったものだ。仕入れ値は限りなくゼロに近い。つまり、売り上げのほとんどが純益として懐に入る、ということだ。もちろん、設備投資にかなりの金がかかっているから、それまで考えればまだまだ赤字ではある。しかし、この調子なら三、四年で回収できる。それから先は完全に利益に転じる。そういつまでもメイド姿やらスクール水着やらにはなっていられないから、このイベント自体はあと何年できるかわからない。それでも、設備投資さえ回収してしまえば後はエネルギーの自家生産と販売とで家計はかなり楽になる。
――これならやっていける。
おれはそう確信した。
――もう一度、後継ぎにしてもらえるよう、頼んでみよう。じいさんが生命賭けで守ったこの田んぼを、おれのこの手で守っていくんだ。
その思いにおれの胸は燃えあがった。
その夜は打ちあげを兼ねての大焼き肉パーティーとなった。SEED部の面々やうちの両親、協力してくれたみんなだけではなく、近所の農家や取材にやってきた地元テレビ局のクルーまで含めて大騒ぎだった。
親父がビールなど飲みながら上機嫌で言った。
「いや、しかし、まさかこんなにうまく行くとはなあ」
「なにか、当てにしていなかったように聞こえるが……?」
「していなかったさ」
「おい……」
「失敗すれば土地を手放す決心もつく。そう思ってやったことだからな」
「マジかよ⁉ それで失敗してたらどうするつもりだったんだ! 借金だけが残るとこだったんだぞ!」
「そりゃあもちろん。お前をオカマ・バーに売り飛ばして返したさ」
ま、まあ、失敗していたらそれぐらいされても文句は言えないところだろう、多分、きっと、うん。
「すべてはご両親のおかげです」
と、陽芽姉ちゃん。親父たちの前ではあくまでも『真面目な生徒会長』である。
「あなたがた抜きでは何もできないところでした。よく、一高校生にすぎない私たちに協力してくださいました。心より感謝いたします」
と、深々と頭をさげる。
その姿に親父は愉快そうに笑った。
「気にすることはないさ。言ったとおり、どうせ失敗すると思って協力したんだからな」
「そうそう。それがこんな大金をもたらしてくれたんだものね。感謝するのはこっちだよ。ほんと、あんたたちはよくやったよ」
「近所の農家連中もコソコソ見にきてたからな。『うちでもやってみようか』なんて声もチラホラあったしな」
「視察にきていた人たちも何人かは、試してみたいと言っていました」
弥生が言うと、陽芽姉ちゃんがドンと胸をたたいてみせた。
「SEEDシステムを世界に広めて人々を救うのが私たちの目的です。どんどん広めていきますよ」
「するとうちが世界を救う方法の発祥の地となるわけだ。こいつは地域をあげて取り組む価値はありそうだ。今度、みんなを集めて話してみよう」
「それでしたらぜひ、ご両親も我がSEED部に入部してください」
「おれたちまで入っていいのか?」
「もちろんです。SEED部は一高校の内部に収まりきるような存在ではありません。これから先、世界中に広がる一大ムーブメントなのです」
「はっはっ。そいつはなんとも景気のいい話だな。では、入れてもらうとするか」
「そうだね。部活動なんて高校のとき以来だよ。なんだかなつかしいねえ」
「まったくだ。なんだかワクワクしてきたぞ。他にもそう思うやつはいるだろう。なんとかなりそうになってきたじゃないか?」
「けど、後継ぎが……」
呟くおれに親父は言った。
「まあ、なんとかなるだろう。少なくともうちにはいるわけだしな」
だろう? と言いたげな目で親父がおれを見た。ニヤリと笑ってみせた。おれは満面の笑顔で答えた。
「ああ、もちろんだとも。任せてくれよ」
親父は無言でおれのコップにビールを注いだ。親父に酒を勧められたのはこれがはじめてだ。おれは泡のたつ液体を一気に飲み干した。はじめて味わう苦みがなんとも爽快だった。
宴がたけなわになった頃、陽芽姉ちゃんがいきなり立ち上がった。拳を振り上げて叫んだ。
「自然エネルギーの活用にはまだまだ多くの技術的な課題がある。それは確かだ。しかし、それこそ技術大国・日本の腕の見せ所。課題を解決する技術を開発すれば日本はたちまち世界を制する新産業を手に入れることになる。日本にはすぐれた国民があり、優秀な技術があり、豊かな文化があり、豊富な自然力がある! それらを存分に生かせばできないことなどあるものかっ! 未来は明るいぞおっ!」
「おおっ!」
と、その場にいる全員が腕を突き上げて叫んだ。弥生でさえ、照れくさそうに、それでも腕を突き上げていた。そのときのおれたちは陽芽姉ちゃんの叫びを心から信じることができたのだ。
「すごい!」
おれは掛け値なしに驚き、そして感動した。
「たった一日で一〇〇万以上の金になった!」
「まさか、こんなお金になるなんてねえ」
と、おふくろ。茶をすすりながら言う。やけにのんびりした口調になっているのはピンときていないからだろう。
「ふっふっふっ。すべてはこの金子さまの萌え演出のおかげ。感謝するがよいぞ、藤岡」
「ありがとうございます。一生、感謝します、ご主人さま?」
「やめろっ! 男の姿でメイド言語を使うな、夢が壊れるっ!」
おれと金子の寸劇にひとしきり笑いが起こる。
「さて、とにかく明日の準備をしないとな。男たちは悪いけど、もう一頑張りしてくれ。女の子たちは先に寝てくれ」
「どうして? あたしたちも手伝うわよ」
と、不満そうな声をあげる女の子たちに言ったのは鈴沢だった。
「接客役が寝不足で肌が荒れていたり、目の下に隈をつくっていたりしたらなんにもならないわ。いまは眠るのがあたしたちの仕事よ」
さすがに舞台経験豊富なだけによくわかっている。
そういうわけで女の子たちは眠り、準備は男だけで行なわれた。そのなかでもおれはひとり最後まで残り、準備に励んでいた。
「なんだ、弟よ。まだ起きているのか」
「陽芽姉ちゃん。寝てたんじゃないのか?」
「トイレに起きただけだ。それより、お前こそいい加減に眠れ。料理係のお前がいちばんハードなはずだぞ。寝不足で問題でも起こされたら何もかも台無しだ」
「ああ、わかってる。もうすぐ終わるから、そうしたらすぐに寝るよ」
「そうしろ。ついつい気が張るのはわかるが、まだ初日だ。無理やりにでも眠らなければ最後までもたんぞ」
「ああ」
「ではな」
陽芽姉ちゃんは言いつつきびすを返す。おれはその背に声をかけた。
「あっ、まってくれ、陽芽姉ちゃん。言っておきたいことがあるんだ」
「なんだ?」
振り返る陽芽姉ちゃんに向かって、おれは体ごと頭をさげた。
「ありがとう」
「うん?」
「陽芽姉ちゃんがおれを誘ってくれたおかげでじいさんの田んぼを守れる目処がついた。それに……」
――彼女もできた。
これは言わずにいよう。
陽芽姉ちゃんはこっちの気を見透かしたようにニヤリと笑ってみせた。
「それに?」
「あ、いや、とにかく感謝してる! 本当にありがとう」
「礼を言うことはない。むしろ、私が言うべき言葉だな。お前が私に協力し、ご両親を説得してくれたからこそすべてははじまったのだからな」
「説得したのは姉ちゃんだろ。おれはどうせ断られると思って義理で紹介しただけだ。それに何より、若竹に水田農家の子供はおれだけじゃない。なのに、姉ちゃんはおれを誘った。なにか理由があったんだろ?」
「うむ。お前を誘った理由か」
「ああ」
「その理由はな」
陽芽姉ちゃんは腕組みし、うなずきながら、やけに重々しい表情と口調になった。
ゴクリ、とおれは唾を飲み込んだ。
「お前がいちばん最初にきたからだ」
「はっ?」
一瞬の自失の後、ようやくそう呟いたおれに向かって陽芽姉ちゃんはつづけた。
「あの日、私は朝から校門に立ち、水田農家の跡取りがくるのをまっていた。最初にきたひとりに声をかけるつもりでな。そして、お前が最初にやってきたというわけだ」
「それだけか?」
「それだけだ」
「じゃあ、まったくの偶然かよ⁉」
「完全無欠の偶然だ」
陽芽姉ちゃんは胸を反らして威張っている。
「なんだよ、それは⁉ 何か理由があったんだと思って感謝したってのに。礼なんか言って損した」
「はっはっはっ、むくれるな、弟よ。たしかに偶然だが、私はその偶然に感謝している。お前には我が道を進みたいという情熱と、世の理不尽に怒る熱さがあった。それあればこそすべてははじまったのだ。お前でなければきっと成功はしなかった。それが偶然もたらされたというのであれば、その偶然は『運命』と呼んでもよい。私はそう思うぞ」
「運命、か」
おれは思わず苦笑した。
「そう。運命だ」
「そうかもな。それじゃ神さまに感謝するとしようか」
「はっはっはっ。まったく、お前は素直なやつだ」
いきなり――、
陽芽姉ちゃんはおれの頭を抱え込み、胸元に抱きしめた。見た目よりもさらにある胸に顔面を押しつけられ、おれは耳まで真っ赤にする。
「わっ、バカ、よせ、何する、はなせ」
「何を逃げる? いまさら照れる仲ではなかろう」
「弥生に見られて誤解されたら困るっ! はなせっ!」
「はっはっはっ。つくづくかわいいやつだな、弟よ。しかも、『弥生』ときたか。とうとう決めたわけだな。姉はうれしいぞ」
「いいからはなせ、バカ姉ぇっ!」
おれの叫びは夜の室内に響き渡った。
未に来な祭の五日間は嵐のようにすぎさった。どの日もあふれんばかりの大盛況。用意していた米も魚も足りなくなって近所の農家からわけてもらったり、田んぼだけではなく、周囲の水路からも魚を捕ったりしなくてはならないほどだった。
毎日五〇〇人以上はきていたから、五日間での延べ人数は三〇〇〇人にも達しただろう。総売り上げはなんと六〇〇万円にも達した。これにはさすがに驚いた。
しかも、屋台で出した商品はほぼすべて我が家の田んぼで育ったものだ。仕入れ値は限りなくゼロに近い。つまり、売り上げのほとんどが純益として懐に入る、ということだ。もちろん、設備投資にかなりの金がかかっているから、それまで考えればまだまだ赤字ではある。しかし、この調子なら三、四年で回収できる。それから先は完全に利益に転じる。そういつまでもメイド姿やらスクール水着やらにはなっていられないから、このイベント自体はあと何年できるかわからない。それでも、設備投資さえ回収してしまえば後はエネルギーの自家生産と販売とで家計はかなり楽になる。
――これならやっていける。
おれはそう確信した。
――もう一度、後継ぎにしてもらえるよう、頼んでみよう。じいさんが生命賭けで守ったこの田んぼを、おれのこの手で守っていくんだ。
その思いにおれの胸は燃えあがった。
その夜は打ちあげを兼ねての大焼き肉パーティーとなった。SEED部の面々やうちの両親、協力してくれたみんなだけではなく、近所の農家や取材にやってきた地元テレビ局のクルーまで含めて大騒ぎだった。
親父がビールなど飲みながら上機嫌で言った。
「いや、しかし、まさかこんなにうまく行くとはなあ」
「なにか、当てにしていなかったように聞こえるが……?」
「していなかったさ」
「おい……」
「失敗すれば土地を手放す決心もつく。そう思ってやったことだからな」
「マジかよ⁉ それで失敗してたらどうするつもりだったんだ! 借金だけが残るとこだったんだぞ!」
「そりゃあもちろん。お前をオカマ・バーに売り飛ばして返したさ」
ま、まあ、失敗していたらそれぐらいされても文句は言えないところだろう、多分、きっと、うん。
「すべてはご両親のおかげです」
と、陽芽姉ちゃん。親父たちの前ではあくまでも『真面目な生徒会長』である。
「あなたがた抜きでは何もできないところでした。よく、一高校生にすぎない私たちに協力してくださいました。心より感謝いたします」
と、深々と頭をさげる。
その姿に親父は愉快そうに笑った。
「気にすることはないさ。言ったとおり、どうせ失敗すると思って協力したんだからな」
「そうそう。それがこんな大金をもたらしてくれたんだものね。感謝するのはこっちだよ。ほんと、あんたたちはよくやったよ」
「近所の農家連中もコソコソ見にきてたからな。『うちでもやってみようか』なんて声もチラホラあったしな」
「視察にきていた人たちも何人かは、試してみたいと言っていました」
弥生が言うと、陽芽姉ちゃんがドンと胸をたたいてみせた。
「SEEDシステムを世界に広めて人々を救うのが私たちの目的です。どんどん広めていきますよ」
「するとうちが世界を救う方法の発祥の地となるわけだ。こいつは地域をあげて取り組む価値はありそうだ。今度、みんなを集めて話してみよう」
「それでしたらぜひ、ご両親も我がSEED部に入部してください」
「おれたちまで入っていいのか?」
「もちろんです。SEED部は一高校の内部に収まりきるような存在ではありません。これから先、世界中に広がる一大ムーブメントなのです」
「はっはっ。そいつはなんとも景気のいい話だな。では、入れてもらうとするか」
「そうだね。部活動なんて高校のとき以来だよ。なんだかなつかしいねえ」
「まったくだ。なんだかワクワクしてきたぞ。他にもそう思うやつはいるだろう。なんとかなりそうになってきたじゃないか?」
「けど、後継ぎが……」
呟くおれに親父は言った。
「まあ、なんとかなるだろう。少なくともうちにはいるわけだしな」
だろう? と言いたげな目で親父がおれを見た。ニヤリと笑ってみせた。おれは満面の笑顔で答えた。
「ああ、もちろんだとも。任せてくれよ」
親父は無言でおれのコップにビールを注いだ。親父に酒を勧められたのはこれがはじめてだ。おれは泡のたつ液体を一気に飲み干した。はじめて味わう苦みがなんとも爽快だった。
宴がたけなわになった頃、陽芽姉ちゃんがいきなり立ち上がった。拳を振り上げて叫んだ。
「自然エネルギーの活用にはまだまだ多くの技術的な課題がある。それは確かだ。しかし、それこそ技術大国・日本の腕の見せ所。課題を解決する技術を開発すれば日本はたちまち世界を制する新産業を手に入れることになる。日本にはすぐれた国民があり、優秀な技術があり、豊かな文化があり、豊富な自然力がある! それらを存分に生かせばできないことなどあるものかっ! 未来は明るいぞおっ!」
「おおっ!」
と、その場にいる全員が腕を突き上げて叫んだ。弥生でさえ、照れくさそうに、それでも腕を突き上げていた。そのときのおれたちは陽芽姉ちゃんの叫びを心から信じることができたのだ。
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