31 / 34
三一章
仲間たちがやってきた
しおりを挟む
それからも毎日まいにち、朝から晩まで働いて、夜になると夢も見ずに泥のように眠る。そんな日がつづき、祭りの日はあっという間に迫っていた。
「このたらいの数では足りないのではないか?」
「けど、おれたちだけじゃこれ以上、世話できないよ」
「生き物セットももう少しほしいところだけど……」
「こっちだって手いっぱいよ。とてもこれ以上のペースにはできないわ」
「やはり、人手が少なすぎますな。なんとか補充しないと途中で台無しになりかねませんぞ、お姉さま」
「その通りだな、少年。しかし、ふやすあてもないし……」
「けど、このままじゃとても準備は間に合わない。何とかしないと何もかも台無しになっちまう……」
おれの言葉に――。
いつも無駄に元気な陽芽姉ちゃんやクールな雪森でさえ言葉を失い、うつむいてしまった。鈴沢も、金子も。みんなわかっているのだ。このままでは失敗すると言うことが。何とかしないと。でも、どうやって?
おれがそう思い、唇を噛んだそのときだ。何人かの足音がした。何気なくその方向を見て、おれは驚いた。そこには中学時代のおれの友だち、この近所の農家の息子たちが照れくさそうな顔をしながら立っていた。
「よう、耕一」
と、いかにも『照れてます』的な仕草で鼻の頭などをかきながら挨拶してくる。
「お前たち。なんでここに?」
「いや、テレビで見てさ。お前ががんばってるの見たら放ってもおけなくなって……」
「だからって農家を継ぐ気になったわけじゃないけどな。けど、おれたちだって田んぼで育ったんだ。愛着がないわけじゃない」
「だからまあ、少しぐらいは手伝わせてもらいたいと思ってさ。どうだ、耕一? おれたちも参加させてくれるか?」
「もちろんさ。ありがとう、歓迎するよ」
おれは本当にうれしかった。ひとり、ひとり、手をとって礼を言った。みんな、照れくさそうな、でも、気持ちのいい笑顔を浮かべていた。
「お~い、ふっじっおっかく~ん」
妙に間延びした、聞き慣れた声がした。振り向くと倉木をはじめ、河野や古橋、それにクラスの女の子たちが何人がやってくるところだった。
「倉木。それにみんなも。どうしたんだ、こんなところまで?」
「ん~。あたしたちも~、なにかお手伝いしようと思ってえ~」
「手伝ってくれるのか?」
おれは驚いて尋ねた。
倉木は彼女特有のおっとりした笑顔を浮かべて言った。
「だってえ~。藤岡くんてばメイドさんの格好までしてがんばってるんだものお~。友だちとしては放っておけないでしょ~」
「そうそう。ほら、スクール水着もちゃんと用意してきたしね」
「ウエイトレスなら任せてよ。喫茶店でバイトしてたことあるから」
「みんな……」
「おれたちもいるぞ」
そう言ってやってきたのはサッカー部の連中だった。
「ったく、水くさいぜ、藤岡。こんなことやるなら、最初からおれたちに声かけろよな」
「岸本……。いいのか? 勉強だって大変なんだろう?」
「おいおい。お前に心配されるほどおれは頭悪くないぜ。それに、魚を追いまわすのはサッカーの練習にはうってつけだからな。キャプテンとしてはぜひ利用したいわけさ」
「岸本……」
「なにより、『故郷を復興させたい』という思いはみんな、同じだよ」
岸本の言葉にその場に集まった全員が微笑みとともにうなずいていた。
「みんなが手伝いにきてくれた。それがたまらなくうれしかった。おれは思わず泣きそうになった。唇を噛みしめてグッとこらえ……」
「だから、陽芽姉ちゃん、勝手なナレーションはやめろって」
「だが、ぴったりの描写だったろう?」
「……まあな」
このときばかりは素直に認めた。
「さて。それで何からすればいいんだ? なんでも言ってくれ。なんでもやるぜ」
「よろしい。では、部長の私の指示に従ってもらうぞ。我がSEED部の臨時部員たちよ。みんなで協力して世界一の祭りを手作りしようではないかっ!」
「おおっ!」
と、その場にいる全員が腕を突きあげて叫んだ。
「このたらいの数では足りないのではないか?」
「けど、おれたちだけじゃこれ以上、世話できないよ」
「生き物セットももう少しほしいところだけど……」
「こっちだって手いっぱいよ。とてもこれ以上のペースにはできないわ」
「やはり、人手が少なすぎますな。なんとか補充しないと途中で台無しになりかねませんぞ、お姉さま」
「その通りだな、少年。しかし、ふやすあてもないし……」
「けど、このままじゃとても準備は間に合わない。何とかしないと何もかも台無しになっちまう……」
おれの言葉に――。
いつも無駄に元気な陽芽姉ちゃんやクールな雪森でさえ言葉を失い、うつむいてしまった。鈴沢も、金子も。みんなわかっているのだ。このままでは失敗すると言うことが。何とかしないと。でも、どうやって?
おれがそう思い、唇を噛んだそのときだ。何人かの足音がした。何気なくその方向を見て、おれは驚いた。そこには中学時代のおれの友だち、この近所の農家の息子たちが照れくさそうな顔をしながら立っていた。
「よう、耕一」
と、いかにも『照れてます』的な仕草で鼻の頭などをかきながら挨拶してくる。
「お前たち。なんでここに?」
「いや、テレビで見てさ。お前ががんばってるの見たら放ってもおけなくなって……」
「だからって農家を継ぐ気になったわけじゃないけどな。けど、おれたちだって田んぼで育ったんだ。愛着がないわけじゃない」
「だからまあ、少しぐらいは手伝わせてもらいたいと思ってさ。どうだ、耕一? おれたちも参加させてくれるか?」
「もちろんさ。ありがとう、歓迎するよ」
おれは本当にうれしかった。ひとり、ひとり、手をとって礼を言った。みんな、照れくさそうな、でも、気持ちのいい笑顔を浮かべていた。
「お~い、ふっじっおっかく~ん」
妙に間延びした、聞き慣れた声がした。振り向くと倉木をはじめ、河野や古橋、それにクラスの女の子たちが何人がやってくるところだった。
「倉木。それにみんなも。どうしたんだ、こんなところまで?」
「ん~。あたしたちも~、なにかお手伝いしようと思ってえ~」
「手伝ってくれるのか?」
おれは驚いて尋ねた。
倉木は彼女特有のおっとりした笑顔を浮かべて言った。
「だってえ~。藤岡くんてばメイドさんの格好までしてがんばってるんだものお~。友だちとしては放っておけないでしょ~」
「そうそう。ほら、スクール水着もちゃんと用意してきたしね」
「ウエイトレスなら任せてよ。喫茶店でバイトしてたことあるから」
「みんな……」
「おれたちもいるぞ」
そう言ってやってきたのはサッカー部の連中だった。
「ったく、水くさいぜ、藤岡。こんなことやるなら、最初からおれたちに声かけろよな」
「岸本……。いいのか? 勉強だって大変なんだろう?」
「おいおい。お前に心配されるほどおれは頭悪くないぜ。それに、魚を追いまわすのはサッカーの練習にはうってつけだからな。キャプテンとしてはぜひ利用したいわけさ」
「岸本……」
「なにより、『故郷を復興させたい』という思いはみんな、同じだよ」
岸本の言葉にその場に集まった全員が微笑みとともにうなずいていた。
「みんなが手伝いにきてくれた。それがたまらなくうれしかった。おれは思わず泣きそうになった。唇を噛みしめてグッとこらえ……」
「だから、陽芽姉ちゃん、勝手なナレーションはやめろって」
「だが、ぴったりの描写だったろう?」
「……まあな」
このときばかりは素直に認めた。
「さて。それで何からすればいいんだ? なんでも言ってくれ。なんでもやるぜ」
「よろしい。では、部長の私の指示に従ってもらうぞ。我がSEED部の臨時部員たちよ。みんなで協力して世界一の祭りを手作りしようではないかっ!」
「おおっ!」
と、その場にいる全員が腕を突きあげて叫んだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
SING!!
雪白楽
青春
キミの音を奏でるために、私は生まれてきたんだ――
指先から零れるメロディーが、かけがえのない出会いを紡ぐ。
さあ、もう一度……音楽を、はじめよう。
第12回ドリーム小説大賞 奨励賞 受賞作品
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
Cutie Skip ★
月琴そう🌱*
青春
少年期の友情が破綻してしまった小学生も最後の年。瑞月と恵風はそれぞれに原因を察しながら、自分たちの元を離れた結日を呼び戻すことをしなかった。それまでの男、男、女の三人から男女一対一となり、思春期の繊細な障害を乗り越えて、ふたりは腹心の友という間柄になる。それは一方的に離れて行った結日を、再び振り向かせるほどだった。
自分が置き去りにした後悔を掘り起こし、結日は瑞月とよりを戻そうと企むが、想いが強いあまりそれは少し怪しげな方向へ。
高校生になり、瑞月は恵風に友情とは別の想いを打ち明けるが、それに対して慎重な恵風。学校生活での様々な出会いや出来事が、煮え切らない恵風の気付きとなり瑞月の想いが実る。
学校では瑞月と恵風の微笑ましい関係に嫉妬を膨らます、瑞月のクラスメイトの虹生と旺汰。虹生と旺汰は結日の想いを知り、”自分たちのやり方”で協力を図る。
どんな荒波が自分にぶち当たろうとも、瑞月はへこたれやしない。恵風のそばを離れない。離れてはいけないのだ。なぜなら恵風は人間以外をも恋に落とす強力なフェロモンの持ち主であると、自身が身を持って気付いてしまったからである。恵風の幸せ、そして自分のためにもその引力には誰も巻き込んではいけない。
一方、恵風の片割れである結日にも、得体の知れないものが備わっているようだ。瑞月との友情を二度と手放そうとしないその執念は、周りが翻弄するほどだ。一度は手放したがそれは幼い頃から育てもの。自分たちの友情を将来の義兄弟関係と位置付け遠慮を知らない。
こどもの頃の風景を練り込んだ、幼なじみの男女、同性の友情と恋愛の風景。
表紙:むにさん
アンサーノベル〜移りゆく空を君と、眺めてた〜
百度ここ愛
青春
青春小説×ボカロPカップで【命のメッセージ賞】をいただきました!ありがとうございます。
◆あらすじ◆
愛されていないと思いながらも、愛されたくて無理をする少女「ミア」
頑張りきれなくなったとき、死の直前に出会ったのは不思議な男の子「渉」だった。
「来世に期待して死ぬの」
「今世にだって愛はあるよ」
「ないから、来世は愛されたいなぁ……」
「来世なんて、存在してないよ」
何故か超絶美少女に嫌われる日常
やまたけ
青春
K市内一と言われる超絶美少女の高校三年生柊美久。そして同じ高校三年生の武智悠斗は、何故か彼女に絡まれ疎まれる。何をしたのか覚えがないが、とにかく何かと文句を言われる毎日。だが、それでも彼女に歯向かえない事情があるようで……。疋田美里という、主人公がバイト先で知り合った可愛い女子高生。彼女の存在がより一層、この物語を複雑化させていくようで。
しょっぱなヒロインから嫌われるという、ちょっとひねくれた恋愛小説。

バレンタインにやらかしてしまった僕は今、目の前が真っ白です…。
続
青春
昔から女の子が苦手な〈僕〉は、あろうことかクラスで一番圧があって目立つ女子〈須藤さん〉がバレンタインのために手作りしたクッキーを粉々にしてしまった。
謝っても許してもらえない。そう思ったのだが、須藤さんは「それなら、あんたがチョコを作り直して」と言ってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる