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二八章
おれがテレビインタビューを受けるだなんて……
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そして、取材の日はやってきた。おれは朝から緊張でコチコチだった。前の晩はほとんど眠れなかった。おかげで足元はフラフラ、頭はクラクラして何も考えられないし、冷や汗はとまらないわ、顔色は真っ青だわ……と、ほとんど病人だった。いっそ、本当に病気になって倒れられたらどんなに楽だったろう。そうなれば陽芽姉ちゃんが雪森がかわりにインタビューを受けて立派に宣伝してくれるだろうに。おれがテレビに出て大失敗をしでかしたらしたら……。
そんなことばかりが頭に浮かんでイベント中も失敗ばかりだった。料理の味付けがとんでもないことになって試食した人が吐き出すわ、生き物セットを落として盛大に中身をぶちまけるわ……誠にもって惨憺たる有り様だった。雪森や鈴沢にフォローしてもらってどうにか切り抜けたものの……こんなことでインタビューを成功させるなんてできるわけないだろ!
インタビューの時間が迫るにつれ、どんどん緊張が増していき、気分が悪くなってきた。吐き気までした。緊張のあまり何も喉を通らないので朝から何も食べていないというのに……。
そして、いよいよその瞬間はやってきた。テレビカメラの巨大な目がおれに向けられ、マイクを手にしたリポーターが前に立つ。おれはいよいよ真っ青になり、冷や汗がダラダラ流れた。どうしよう、どうしたらいいんだろう。うまくいくはずがない。失敗する。絶対、台無しにしてしまう。そんなことになったらおれは……。
「まあまあ、そう緊張せずに肩の力を抜いて。リラックスしていつも通りに」
なんて、リポーターは笑いながら言ったけど……気楽になんてなれるわけないだろ!
ここでおれが失敗したら雪森や陽芽姉ちゃん、鈴沢。みんなの努力も苦労もすべて水の泡になる。もう二度とみんなとこんな風に活動することはできなくなる。
それが怖かった。
このときのおれは家や田んぼ、借金のことなんかまるで頭に浮かばなかった。ただひたすら、雪森や陽芽姉ちゃん、鈴沢たちと一緒に活動できなくなることを怖れていたのだ。
「それではまず、SEEDシステムとは何か。その点を説明していただきたいのですが」
緊張とはまるで無縁の、にこやかなリポーターの声がした。おれはカラカラになった喉から無理やりに言葉を押し出した。我ながらしわがれた声だと思った。
「は、はい……し、SEEDシステムとはそのつまり、食料・エネルギー・イベント同自作という意味で……それはそのつまり、ひとつの土地で食料とエネルギーを生産して、それで……」
言葉が満足に出てこない。雪森と陽芽姉ちゃん、ふたりがかりのレクチャーを受けて、何度も話す練習をしたはずなのに、どんな質問に対する答えも頭のなかにきっちり入っているはずなのに……頭が真っ白になってこんな基本的な問いに対する答えすら出てこない。情けなかった。思わず涙がにじんだ。
「え、え~と、では……なぜ、そんなシステムを考案したのかと言うことを……」
リポーターも戸惑っている。マイクの尻で頭をかきながら、泳いだ視線でそう尋ねてきた。おれはやはり、まともには答えられなかった。
「そ、それは、その……つまり、世界中の貧しい人たちのために……」
「君はもともと発案者ではなく、誘われて参加したと言うことだけど、参加する気になったのはなぜ?」
「それはその……熱心に誘われて……」
「男性の身でありながらメイドさん姿になってまでやる、その理由は……」
「し、SEEDシステムは世界を救う一大ムーブメントになるべき活動で……」
おれは何ひとつまともに答えることができなかった。見かねた鈴沢が途中から割って入っておれとリポーターを引き離した。雪森が話を引き継ぎ、説明した。おれはというとその横で陽芽姉ちゃんに連れられて椅子に座らされ……真っ白な灰になったように落ち込んでいた。
「世界の終りみたいな顔してんじゃないわよ!」
鈴沢の威勢のいい声がして落ち込んだままのおれの足を蹴りつけた。テレビ局のスタッフたちが帰ってからどれぐらいの時間がたったろう。おれはどっぷりと落ち込んだまま、立ちあがるどころか身動きひとつできない有り様だった。そんなおれに向かって鈴沢の苛立たしい声が飛ぶ。
「あんたみたいな素人が失敗なんか気にするなって言ったでしょ! 素人は失敗して当たり前、うまくできなくて当たり前。あんたはちゃんと準備して望んだんだから失敗したって恥ずかしいことじゃないわよ。胸張りなさいよ、このバカ!」
「鈴花の言うとおりだぞ、弟よ。お前はよくやった。私と雪森の講義もしっかり受けたし、受け答えの練習もやるだけやった。失敗したのは結果に過ぎん。落ち込む必要はない」
「それに、完全に失敗というわけじゃないわ」
雪森もそう言った。
「放映するかどうかはSEEDシステムの現物を見てからと言うことになったんだし」
「その通りだ、藤沢」と、金子。
「白雪鬼姫さまの決死のフォローでどうにか興味をつなぎ、現場まで出向いてくるよう説得することができた。姫の苦労を無にしないためにも今度こそ成功させなくてはならん。落ち込んでいる暇はないぞ」
「ま、またおれがやるのか……」
おれは思わず腰を浮かせた。逃げ出しそうになった。自分で言うのも何だか、そのときのおれの表情ときたらいじめっ子に脅されて従う腰巾着でさえ笑うぐらい情けないものだったろう。
「む、むりだよ、そんなの……。やっぱり、雪森に……」
おれは幼稚園児に戻ったような声でそう言った。そうしてほしいという哀願だった。だが、陽芽姉ちゃんはキッパリと言った。
「それは駄目だ。お前がやるんだ」
「な、なんで……」
「お前の家でやっていることだからだ。お前の家の土地を使い、お前の家の金でやっていることだ。お前が表に出ずにどうする」
「そう言うことね」と、鈴沢。
「師匠として稽古はつけるし、失敗したときのフォローもする。でも、プレッシャーに負けて逃げ出すような根性なしの相手なんてゴメンだわ。逃げ出すなら、あたしはもう協力なんてしないわよ」
「同感」
雪森も静かに、しかし、確固たる意思を込めて宣告した。
「ここで逃げるような人なら協力して欲しいとは思わない。出してもらったお金は何とかして返すから、これでお終い」
「そんな……」
おれは思わずすがるような目付きで雪森を見た。しかし、おれを見返す雪森の視線には一切の甘さはなかった。本気で言っているのはあきらかだった。ここで逃げたらおれは全員に見捨てられる。雪森にも、陽芽姉ちゃんにも、鈴沢にも……。どっちに転んでも破滅しかない。おれの目の前はもう……。
真っ暗だった。
そんなことばかりが頭に浮かんでイベント中も失敗ばかりだった。料理の味付けがとんでもないことになって試食した人が吐き出すわ、生き物セットを落として盛大に中身をぶちまけるわ……誠にもって惨憺たる有り様だった。雪森や鈴沢にフォローしてもらってどうにか切り抜けたものの……こんなことでインタビューを成功させるなんてできるわけないだろ!
インタビューの時間が迫るにつれ、どんどん緊張が増していき、気分が悪くなってきた。吐き気までした。緊張のあまり何も喉を通らないので朝から何も食べていないというのに……。
そして、いよいよその瞬間はやってきた。テレビカメラの巨大な目がおれに向けられ、マイクを手にしたリポーターが前に立つ。おれはいよいよ真っ青になり、冷や汗がダラダラ流れた。どうしよう、どうしたらいいんだろう。うまくいくはずがない。失敗する。絶対、台無しにしてしまう。そんなことになったらおれは……。
「まあまあ、そう緊張せずに肩の力を抜いて。リラックスしていつも通りに」
なんて、リポーターは笑いながら言ったけど……気楽になんてなれるわけないだろ!
ここでおれが失敗したら雪森や陽芽姉ちゃん、鈴沢。みんなの努力も苦労もすべて水の泡になる。もう二度とみんなとこんな風に活動することはできなくなる。
それが怖かった。
このときのおれは家や田んぼ、借金のことなんかまるで頭に浮かばなかった。ただひたすら、雪森や陽芽姉ちゃん、鈴沢たちと一緒に活動できなくなることを怖れていたのだ。
「それではまず、SEEDシステムとは何か。その点を説明していただきたいのですが」
緊張とはまるで無縁の、にこやかなリポーターの声がした。おれはカラカラになった喉から無理やりに言葉を押し出した。我ながらしわがれた声だと思った。
「は、はい……し、SEEDシステムとはそのつまり、食料・エネルギー・イベント同自作という意味で……それはそのつまり、ひとつの土地で食料とエネルギーを生産して、それで……」
言葉が満足に出てこない。雪森と陽芽姉ちゃん、ふたりがかりのレクチャーを受けて、何度も話す練習をしたはずなのに、どんな質問に対する答えも頭のなかにきっちり入っているはずなのに……頭が真っ白になってこんな基本的な問いに対する答えすら出てこない。情けなかった。思わず涙がにじんだ。
「え、え~と、では……なぜ、そんなシステムを考案したのかと言うことを……」
リポーターも戸惑っている。マイクの尻で頭をかきながら、泳いだ視線でそう尋ねてきた。おれはやはり、まともには答えられなかった。
「そ、それは、その……つまり、世界中の貧しい人たちのために……」
「君はもともと発案者ではなく、誘われて参加したと言うことだけど、参加する気になったのはなぜ?」
「それはその……熱心に誘われて……」
「男性の身でありながらメイドさん姿になってまでやる、その理由は……」
「し、SEEDシステムは世界を救う一大ムーブメントになるべき活動で……」
おれは何ひとつまともに答えることができなかった。見かねた鈴沢が途中から割って入っておれとリポーターを引き離した。雪森が話を引き継ぎ、説明した。おれはというとその横で陽芽姉ちゃんに連れられて椅子に座らされ……真っ白な灰になったように落ち込んでいた。
「世界の終りみたいな顔してんじゃないわよ!」
鈴沢の威勢のいい声がして落ち込んだままのおれの足を蹴りつけた。テレビ局のスタッフたちが帰ってからどれぐらいの時間がたったろう。おれはどっぷりと落ち込んだまま、立ちあがるどころか身動きひとつできない有り様だった。そんなおれに向かって鈴沢の苛立たしい声が飛ぶ。
「あんたみたいな素人が失敗なんか気にするなって言ったでしょ! 素人は失敗して当たり前、うまくできなくて当たり前。あんたはちゃんと準備して望んだんだから失敗したって恥ずかしいことじゃないわよ。胸張りなさいよ、このバカ!」
「鈴花の言うとおりだぞ、弟よ。お前はよくやった。私と雪森の講義もしっかり受けたし、受け答えの練習もやるだけやった。失敗したのは結果に過ぎん。落ち込む必要はない」
「それに、完全に失敗というわけじゃないわ」
雪森もそう言った。
「放映するかどうかはSEEDシステムの現物を見てからと言うことになったんだし」
「その通りだ、藤沢」と、金子。
「白雪鬼姫さまの決死のフォローでどうにか興味をつなぎ、現場まで出向いてくるよう説得することができた。姫の苦労を無にしないためにも今度こそ成功させなくてはならん。落ち込んでいる暇はないぞ」
「ま、またおれがやるのか……」
おれは思わず腰を浮かせた。逃げ出しそうになった。自分で言うのも何だか、そのときのおれの表情ときたらいじめっ子に脅されて従う腰巾着でさえ笑うぐらい情けないものだったろう。
「む、むりだよ、そんなの……。やっぱり、雪森に……」
おれは幼稚園児に戻ったような声でそう言った。そうしてほしいという哀願だった。だが、陽芽姉ちゃんはキッパリと言った。
「それは駄目だ。お前がやるんだ」
「な、なんで……」
「お前の家でやっていることだからだ。お前の家の土地を使い、お前の家の金でやっていることだ。お前が表に出ずにどうする」
「そう言うことね」と、鈴沢。
「師匠として稽古はつけるし、失敗したときのフォローもする。でも、プレッシャーに負けて逃げ出すような根性なしの相手なんてゴメンだわ。逃げ出すなら、あたしはもう協力なんてしないわよ」
「同感」
雪森も静かに、しかし、確固たる意思を込めて宣告した。
「ここで逃げるような人なら協力して欲しいとは思わない。出してもらったお金は何とかして返すから、これでお終い」
「そんな……」
おれは思わずすがるような目付きで雪森を見た。しかし、おれを見返す雪森の視線には一切の甘さはなかった。本気で言っているのはあきらかだった。ここで逃げたらおれは全員に見捨てられる。雪森にも、陽芽姉ちゃんにも、鈴沢にも……。どっちに転んでも破滅しかない。おれの目の前はもう……。
真っ暗だった。
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