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ニ五章
池を掘るはずが(美少女たちとキャッキャッウフフしおってえ〜 by金子雄二)
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また新しい日曜日がやってきた。
まずは恒例の生物量チェック。ホテイアオイの収穫と発酵槽への投入。それから法面の草取り。クランベリーはグングン枝を伸ばし、株を広げていたけど、まだ法面全体を覆い尽くしたわけじゃない。雑草もけっこう生えている。一本いっぽん、その雑草をむしっていく。
草取りが終わり、遅めの昼食をとった。畔道の草の上に寝転がり、青空を眺めながらのんびりと昼休み。体を使った後の疲労感と背中にあたる草の感触、それにどこまでもつづく青い空が何とも心地いい。
ひとしきり休んだ後、陽芽姉ちゃんの号令とともにいよいよ本日のメイン・ディッシュ、魚のつかみ取り用の池掘りとなった。手にてにショベルをもって畔道に並び、腕を高々と突きあげる。
……なお、ショベルをもってバスに乗り込むような真似はしていない。陽芽姉ちゃんはヘルメットまでかぶってすっかりその気だったけど、必死でとめた。そんな格好でバスに乗ったら本気で警察に通報される。
『ショベルなら実家の倉庫にあるから』と、渋る陽芽姉ちゃんを何とか説得してごく普通の格好で乗り込ませた。おかげで何のトラブルもなくやってこれたのだった。
畔道の広い場所に浅い池を掘り、三~四センチばかりの水を張る。そこまでは簡単だった。でも、そこから先、SEED水田の魚を池に移すのが大変だった。
体操着に着替えて五人そろって乗り込んだけど、魚たちもおとなしく捕まってはくれない。水のなかを泳ぎまわり、逃げまわり、おれたちは振りまわされるばかり。素手でつかみ取るのはもちろん、網をつかってすくうのにもてこずった。なかでもとくに手強いのがコイだった。大きいくせしてやたらすばしこく、右に行ったかと思えば左、左に行ったかと思えば右、目の前にいたコイを網を振って捕まえたかと思ったら、ちゃっかり逃れていて足元をくぐって後ろに逃げる。その動きについていけず、おれたちは右往左往するばかり。
『コイほどすばしこい魚はおらんからな。股の間をシャー、シャー、くぐり抜ける。それを追いかけるのがおもしろくてたまらんのだ』
と、死んだじいさんが言っていたのを思い出した。コイが素早いことは骨身に染みたけど――、
――おもしろいなんて言ってられないぞ、じいさん!
「そっち、行ったぞ!」
「えっ? どこどこ?」
「そのホテイアオイの下に潜ったってばっ!」
「あっ、足元! 大物がいる!」
「なに? どこだ?」
「キャア! 足に当たった!」
そんなこんなで大騒ぎだ。しぶきが跳ねてみんなずぶ濡れ。下着がうっすらと透けてかなりヤバいことになっている。金子は目をヤニさがらせて眺めていたけど、おれはそこまで図々しくない。目のやり場に困り……ではない! 紳士として女性のあられもない姿に目をやるわけにはいかない。おれはあえて目をそらして作業に没頭した。
しかし、限られた池のなかで右往左往しているのだ。どうしたって目に入る。しぶきが跳ね、どんどん濡れていき、それに応じて下着の透け方も激しくなり……それに頭にきたのだろう。女性陣三人は持参してきたスクール水着に着替えてしまった。
美少女三人が下着の透ける体操着姿から、スクール水着姿へと変貌。これは果たして喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。おれはかなり本気で悩んでしまった。
おれの横では『悩み』の一言と縁のない金子が、
「くうっ~、お姉さま方のスクール水着姿をこんな間近で堂々と眺めることができるとは」
我が人生に悔いなし!
と、拳を握りしめ、涙まで流しながら感動している。ガシッとおれの両肩をつかみ、涙でウルウルさせた目を向ける。
「藤岡よ。恩返しはこれで充分だからな」
お前に恩返しするいわれなど最初からない。
「さあ、これでどんなに濡れても大丈夫。水に潜ることだってできる。もう逃がさんぞ、魚たちよ。覚悟するがいい!」
舌なめずりしながらの陽芽姉ちゃんの宣言とともに仕切りなおしだ。
濡れるのを気にしなくてよくなった分、女性陣の動きは見違えるほどよくなった。それに、たしかにこうして魚を追いかけているとスクール水着姿でもおかしくない。やらしくないし、健康的で魅力的。これなら家族連れにも抵抗はないだろう。やはり、夏の日差しと水辺には水着姿かよく映える。
とはいえ、水のなかでは魚の方が上手なのはかわらない。その上、水底が泥なので足を取られ、動きにくい。おれは足元を泳ぐコイを捕まえようと体をひねった。そのとたん、バランスを崩し、真ん前に倒れかかる。そこにいたのは鈴沢鈴果。大きな目をいっぱいに開いて自分に迫る災難を見つめている。
――ヤバい! 女の子、それもこんな華奢で小柄な女の子を下敷きにするなど、男として許されん!
ここは男の見せ所。おれはとっさに鈴沢の体を抱えると、体を反転させ、お互いの位置を入れ替えた。
バッシャ~ン!
と、大きな音を立てておれは背中からSEED水田に倒れた。でも、鈴沢だけはしっかり胸に抱いていた。水しぶきを浴びてずぶ濡れにはなったけど、とにかく下敷きにすることだけはせずにすんだ。
「こおらぁっ~、藤岡、何をやっとるかあっ!」
とたんに金子の怒声が響く。
「女の子を巻き込んで倒れたなら、はずみでチューするのがお約束だろうがっ! やりなおしっ!」
「三次元に二次元を持ち込むな、このど変態!」
「あ~、弟よ」
叫ぶおれの隣で陽芽姉ちゃんが咳払いなどしながら冷静な声で告げた。
「やはり、まずいと思うぞ。いつまでも鈴果を抱きしめっぱなしというのは」
言われてはじめておれは自分の姿勢を見た。右手を鈴沢の頭に、左手を背中にまわし、しっかりと抱きしめている。鈴沢は鈴沢で両手でおれの服をつかみ、顔を真っ赤にして見上げている。完全無欠の抱擁シーン。しかも、相手はスクール水着。おれは鈴沢に劣らず顔を真っ赤にした。
「わ、悪いっ!」
おれはあわてて腕を放す。鈴沢はバネ仕掛けの人形のような勢いで立ちあがる。おれも立ちあがった。水面に落ちた網をひろいあげた。照れ隠しのために声を張りあげた。
「さ、さあっ! 早く必要なだけとっちまおう……!」
歩きかけたおれの足を何かが引っ掛ける。
「わあっ!」
おれは悲鳴をあげた。再び倒れた。今度こそ顔から水面に飛び込んだ。顔中泥だらけにしてようやく起きあがるおれの頭に、雪森のクールミントな声が降りかかる。
「ごめんなさい。網の柄で引っ掛けちゃった」
と言いつつ、『ツーン』とした態度で歩き去る。
ポン、と陽芽姉ちゃんがおれの肩に手を置いた。それも、とびきりうれしそうに。
「はっはっ。青春だなあ、弟よ」
「うるさいっ!」
おれは力のかぎりに叫んだ。
まずは恒例の生物量チェック。ホテイアオイの収穫と発酵槽への投入。それから法面の草取り。クランベリーはグングン枝を伸ばし、株を広げていたけど、まだ法面全体を覆い尽くしたわけじゃない。雑草もけっこう生えている。一本いっぽん、その雑草をむしっていく。
草取りが終わり、遅めの昼食をとった。畔道の草の上に寝転がり、青空を眺めながらのんびりと昼休み。体を使った後の疲労感と背中にあたる草の感触、それにどこまでもつづく青い空が何とも心地いい。
ひとしきり休んだ後、陽芽姉ちゃんの号令とともにいよいよ本日のメイン・ディッシュ、魚のつかみ取り用の池掘りとなった。手にてにショベルをもって畔道に並び、腕を高々と突きあげる。
……なお、ショベルをもってバスに乗り込むような真似はしていない。陽芽姉ちゃんはヘルメットまでかぶってすっかりその気だったけど、必死でとめた。そんな格好でバスに乗ったら本気で警察に通報される。
『ショベルなら実家の倉庫にあるから』と、渋る陽芽姉ちゃんを何とか説得してごく普通の格好で乗り込ませた。おかげで何のトラブルもなくやってこれたのだった。
畔道の広い場所に浅い池を掘り、三~四センチばかりの水を張る。そこまでは簡単だった。でも、そこから先、SEED水田の魚を池に移すのが大変だった。
体操着に着替えて五人そろって乗り込んだけど、魚たちもおとなしく捕まってはくれない。水のなかを泳ぎまわり、逃げまわり、おれたちは振りまわされるばかり。素手でつかみ取るのはもちろん、網をつかってすくうのにもてこずった。なかでもとくに手強いのがコイだった。大きいくせしてやたらすばしこく、右に行ったかと思えば左、左に行ったかと思えば右、目の前にいたコイを網を振って捕まえたかと思ったら、ちゃっかり逃れていて足元をくぐって後ろに逃げる。その動きについていけず、おれたちは右往左往するばかり。
『コイほどすばしこい魚はおらんからな。股の間をシャー、シャー、くぐり抜ける。それを追いかけるのがおもしろくてたまらんのだ』
と、死んだじいさんが言っていたのを思い出した。コイが素早いことは骨身に染みたけど――、
――おもしろいなんて言ってられないぞ、じいさん!
「そっち、行ったぞ!」
「えっ? どこどこ?」
「そのホテイアオイの下に潜ったってばっ!」
「あっ、足元! 大物がいる!」
「なに? どこだ?」
「キャア! 足に当たった!」
そんなこんなで大騒ぎだ。しぶきが跳ねてみんなずぶ濡れ。下着がうっすらと透けてかなりヤバいことになっている。金子は目をヤニさがらせて眺めていたけど、おれはそこまで図々しくない。目のやり場に困り……ではない! 紳士として女性のあられもない姿に目をやるわけにはいかない。おれはあえて目をそらして作業に没頭した。
しかし、限られた池のなかで右往左往しているのだ。どうしたって目に入る。しぶきが跳ね、どんどん濡れていき、それに応じて下着の透け方も激しくなり……それに頭にきたのだろう。女性陣三人は持参してきたスクール水着に着替えてしまった。
美少女三人が下着の透ける体操着姿から、スクール水着姿へと変貌。これは果たして喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。おれはかなり本気で悩んでしまった。
おれの横では『悩み』の一言と縁のない金子が、
「くうっ~、お姉さま方のスクール水着姿をこんな間近で堂々と眺めることができるとは」
我が人生に悔いなし!
と、拳を握りしめ、涙まで流しながら感動している。ガシッとおれの両肩をつかみ、涙でウルウルさせた目を向ける。
「藤岡よ。恩返しはこれで充分だからな」
お前に恩返しするいわれなど最初からない。
「さあ、これでどんなに濡れても大丈夫。水に潜ることだってできる。もう逃がさんぞ、魚たちよ。覚悟するがいい!」
舌なめずりしながらの陽芽姉ちゃんの宣言とともに仕切りなおしだ。
濡れるのを気にしなくてよくなった分、女性陣の動きは見違えるほどよくなった。それに、たしかにこうして魚を追いかけているとスクール水着姿でもおかしくない。やらしくないし、健康的で魅力的。これなら家族連れにも抵抗はないだろう。やはり、夏の日差しと水辺には水着姿かよく映える。
とはいえ、水のなかでは魚の方が上手なのはかわらない。その上、水底が泥なので足を取られ、動きにくい。おれは足元を泳ぐコイを捕まえようと体をひねった。そのとたん、バランスを崩し、真ん前に倒れかかる。そこにいたのは鈴沢鈴果。大きな目をいっぱいに開いて自分に迫る災難を見つめている。
――ヤバい! 女の子、それもこんな華奢で小柄な女の子を下敷きにするなど、男として許されん!
ここは男の見せ所。おれはとっさに鈴沢の体を抱えると、体を反転させ、お互いの位置を入れ替えた。
バッシャ~ン!
と、大きな音を立てておれは背中からSEED水田に倒れた。でも、鈴沢だけはしっかり胸に抱いていた。水しぶきを浴びてずぶ濡れにはなったけど、とにかく下敷きにすることだけはせずにすんだ。
「こおらぁっ~、藤岡、何をやっとるかあっ!」
とたんに金子の怒声が響く。
「女の子を巻き込んで倒れたなら、はずみでチューするのがお約束だろうがっ! やりなおしっ!」
「三次元に二次元を持ち込むな、このど変態!」
「あ~、弟よ」
叫ぶおれの隣で陽芽姉ちゃんが咳払いなどしながら冷静な声で告げた。
「やはり、まずいと思うぞ。いつまでも鈴果を抱きしめっぱなしというのは」
言われてはじめておれは自分の姿勢を見た。右手を鈴沢の頭に、左手を背中にまわし、しっかりと抱きしめている。鈴沢は鈴沢で両手でおれの服をつかみ、顔を真っ赤にして見上げている。完全無欠の抱擁シーン。しかも、相手はスクール水着。おれは鈴沢に劣らず顔を真っ赤にした。
「わ、悪いっ!」
おれはあわてて腕を放す。鈴沢はバネ仕掛けの人形のような勢いで立ちあがる。おれも立ちあがった。水面に落ちた網をひろいあげた。照れ隠しのために声を張りあげた。
「さ、さあっ! 早く必要なだけとっちまおう……!」
歩きかけたおれの足を何かが引っ掛ける。
「わあっ!」
おれは悲鳴をあげた。再び倒れた。今度こそ顔から水面に飛び込んだ。顔中泥だらけにしてようやく起きあがるおれの頭に、雪森のクールミントな声が降りかかる。
「ごめんなさい。網の柄で引っ掛けちゃった」
と言いつつ、『ツーン』とした態度で歩き去る。
ポン、と陽芽姉ちゃんがおれの肩に手を置いた。それも、とびきりうれしそうに。
「はっはっ。青春だなあ、弟よ」
「うるさいっ!」
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