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一〇章
何故⁉ おれの部屋に自称·姉が……
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おれはサッカー部のほうもつづけていた。サッカー部の練習は平日のみ三日、SEED部の活動は土日が中心なので、掛け持ちしても時間がかち合うことはない。
サッカー部の練習がおろそかになるということもなかった。むしろ、以前よりずっと本気で練習に打ち込むようになっていた。以前は本心をごまかすためにサッカーをやっていた。だから、『女の子の関心が引ければいいや』ぐらいにしか思っていなかった。本気でボールを追ったりはしていなかった。
いまはちがう。SEED部のおかげで本当にやりたかったことに挑戦できるようになった。そのやる気がサッカーのほうにも伝わっていた。誰よりも大きな声をあげ、誰よりも激しくボールを追った。
「最近、張り切ってるな、藤岡」
キャプテンがうれしそうに言った。
おれは笑いながら答えた。
「もちろんですよ、キャプテン。今年は何としても一〇年振りの初戦突破を果たしましょう」
「その意気だ。頼りにしてるぞ」
「はい!」
二時間の練習を終えてたっぷり汗をかいてから、おれは夕食の買い物をしてアパートに帰った。買い物と言っても、米と野菜は実家から送ってくれるから大して買うものはない。
ドアの前に立ち、鍵を差し込む。だが――。
――開いている。
たしかに今朝、鍵を閉めて学校に行ったはずなのに、ドアの鍵は開いていた。おれの頭のなかを激しい不安が渦巻いた。
――森崎先輩か。
おれは心のなかでうめいた。
森崎先輩は最近すっかり、おれのアパートに入り浸りだ。
『少年はちょうどひとり暮らしだしな。我がSEED部の校外活動拠点にふさわしい』
とかいう理由で強引に合い鍵を作り、勝手に出入りするようになった。はなはだしいときには泊まっていくことさえあった。正確に言うと居座ったまま眠りこけ、結果として泊まり込む、ということだ。
『いくらなんでも、それはマズいだろ⁉』
と、叫ぶおれに向かって森崎先輩は、
『何だ、少年。それでもお前は男か。紳士のつもりか。理性ひとつ働かせることもできんのか?』
と、平然と言ってのけた。
それを言われると弱い。かくしておれは『生徒会長ふう美人のお姉さん』との半ば同居生活を強いられている、というわけなのだった。……しかし、せめておれの前で着替えるような真似だけはやめてもらいたい。
おれは部屋に入った。なかを見渡した。予想に反して人影はない。そして、風呂場から聞こえる水の音――。
――まさか。
おれのこめかみを脂汗が一筋、流れ落ちる。
――いや、いやいやいや、いくら森崎先輩でもまさか、そこまでは……男の部屋に勝手にあがり込んで、勝手にシャワーを使うなんて、そんな真似をするはずが……。
水音がとまった。ドアの開く音がした。そして、風呂場へと通じるアコーディオン・カーテンを開いて現われたのは――。
バスタオル一枚をまいただけの姿で長い髪を拭いている森崎陽芽だった。
「何だ、その格好はあっ⁉」
おれは怒鳴った。
森崎先輩はケロリとして答えた。
「シャワーを浴びていたところなのでな。まさか、コートを着てシャワーは浴びれまい?」
「そういう問題か! 男のひとり暮らしなんだぞ。勝手にシャワーを浴びて、しかも、そんな格好で出てくるなんて、いくらおれだって理性を保つ限界ってのはあるんだぞ!」
「……ふむ。まだ、気づいていないのか、少年よ」
「何をだよ⁉」
「鈍いとは思っていたがこれほどとはな」
森崎先輩が流し目でおれを見た。シャワーを浴びた直後だから、もちろんメガネはかけていない。メガネを外した森崎先輩は何だかやけに色っぽくて……その目で見つめられ、おれは遺憾ながらドギマギするのを押さえられなかった。
「私の気持ちだ、少年よ」
「き、気持ち……?」
森崎先輩が近づいてくる。やけに真面目な顔付きになっている。
「女が男の部屋でシャワーを浴びているのだぞ? 『何が起きてもかまわない』という思いがなければありえまい?」
「な、なんの……冗談……」
「冗談? 女が冗談でこんなことを言うと思うのか?」
森崎先輩の白魚のような手が伸び、おれの顎を撫でる。
「少年よ。私はお前が……」
「うわあああっ!」
おれは爆発した。
「ふざけるなあっ!」
叫んで逃げ出した。と言っても六畳一間のアパート。逃げ込む先はトイレぐらいしかない。よって、おれはトイレに飛び込んで鍵をかけた。ドアの外から森崎先輩の愉快そうな笑い声が響く。
「はっはっはっ、少年。この程度の攻撃でうろたえるとはまだまだ青いな。そんなことでは将来、いいようにあしらわれるぞ」
「大きなお世話だっ!」
誰があんたみたいなタチの悪い女を相手にするかっ! おれはもっと清楚なタイプと付き合うんだ!
おれが怒っていると、ドアをどんどんとたたく音がした。
「耕ちゃん、帰ったのかい?」
あの声は……まずい、一ノ瀬さんだ!
近所に住んでいる面倒見のいいおばちゃんで、おれが高校に通うために親元をはなれてひとり暮らしをしていると知って以来、何かと世話を焼いたり、手料理を差し入れたりしてくれる。いい人だ。それはまちがいない。本当にいい人なのだ。ただし……ものすごく口が軽い! しかも、噂話が大好き。町内の公告塔として知られる典型的な『オバサン』なのだ。
もし、一ノ瀬さんに森崎先輩を見られたら……。
ああ、どんな噂を立てられることか。考えるだに恐ろしい。そんなことになったらおれの人生、おしまいだ!
しかたがない、ここはこのまま居留守を使ってやり過ごし……。
「はい、どちらさま?」
お前が出るな、森崎陽芽っ!
ドアを開ける音がして、たちまち一ノ瀬さんの驚き半分、うれしさ半分という声がした。
「あらあら、まあまあ、耕ちゃんの部屋にこんなかわいい女の子が……」
「姉です」
アッサリ答える森崎先輩。ニッコリ微笑んで言うのが目に浮かぶ声だった。
「あらまあ、お姉さん。そう言えば目元が似てるわねえ」
――似てるか?
「それにしても耕ちゃんたら、お姉さんがいるなんて一言も言ってなかったのにねえ。こんな美人のお姉さんならもっと早く紹介してほしかったわあ」
「姉といるのが照れくさい年頃なんです」
「あ~、わかる、わかる。そいう年頃ってあるわよねえ。あらやだ、あたしったら。用件を忘れていたわ。はい、これ。サトイモの煮っころがしだけど、よければどうぞ」
「まあ、おいしそう。ありがとうこざいます。あっ、まってください。これ、ほんのお返しです」
「まあ、立派なキャベツ」
一ノ瀬さんの声から察するに台所にしまっておいたキャベツを丸ごと一個、渡したらしい。きちんとお返しをするのはいいことだけど、他人の家で自分の家のごとくこんなことをやってのけるとは……森崎陽芽、恐るべし。
「でも、いいのよ。こんな気を使ってくれなくたって」
「いえ、うちの畑でとれたキャベツですから。お気遣いなく」
うちの畑でとれたんだ! あんたの畑じゃないだろ!
「あらそう? ま~、却って悪いわねえ。それじゃあね、お姉さん。耕ちゃんによろしく」
「はい」
と、明るく返事をしてドアを閉め、サトイモの煮っころがしの入った器を両手に抱え、振り向いた森崎先輩の前に、『ドヨ~ン』とばかりに表情を暗くしたおれが現われた。
「何だ、少年。その不景気な顔は?」
「何だじゃないだろ! 何で勝手に出るんだ、いつからあんたがおれの姉になったんだ⁉」
「正直に言ったほうがよかったか?」
「それは困る」
「ならばいいではないか。向こうも納得した。私なら理想のお姉さまではないか。『陽芽姉ちゃん』と呼んでくれてかまわんぞ」
「誰が呼ぶか」
「……ふむ。そうか、少年。お前はまだ知らないのだな」
「何をだよ⁉」
「私は本当にお前の姉だということだ」
「何だと⁉」
「お前のお父上が出稼ぎに出たとき、ひとりの女と出会っていきずりの恋をした。そして、女は身篭もった。その女性こそが私の母だ」
そんな……。
いや、そりゃあ、親父だって男だし、結婚して二〇年以上もたっていれば浮気のひとつやふたつや三つや四つ、していてもおかしくない。でも、いくらなんでも、そんなこと……いや、まてよ。そう言われてみれば納得できる。見ず知らずの女子高生の提案に大金を出すなんて不自然すぎる。だけど、その相手が自分の娘、それも、ずっと放っておいた娘だと知っていたなら……。
ゴクリ、と、おれは生唾を飲み込んだ。
「ま、まさか……本当に?」
「本当のわけがなかろう」
お前なあっ!
「まさか、こんなヨタ話を一瞬でも信じるとはな。私のほうが驚いたぞ。大体、お前のお父上が出稼ぎに出るようになったのはお前が五つの頃からだろう。お前より年上の子供を作れるはずがないではないか」
……そうだった。
そんなことにも気づかなかった。生まれてこのかた、自分がこれほどバカだと思ったことはない。
「純情なのは結構だが、度がすぎると問題だぞ。そんなことではこれから先、社会の荒波を乗り越えてはいけん。よし。ここは一肌脱ぐとしよう。これからは私がビシッ! ビシッ! と鍛えてやる。感謝するように」
「しなくていい!」
「遠慮するな。これも姉としての務めだ」
「だから、あんたはおれの姉じゃない……って、それより何よりバスタオル一枚でくっつくな、抱きついてくるなあっ!」
布一枚、巻いただけのロケットオッパイが体に当たって……わああっ!
「とりあえず、食事にしてくれ、少年よ。うまそうなサトイモの煮っころがしももらったことだし、今日はボリュームたっぷりの根菜メニューがいいぞ」
言いつつ森崎先輩は部屋の中央にデンとあぐらをかいて座った。バスタオル一枚まいただけの姿のままで……。
「せめて服を着ろおっ!」
おれの絶叫がアパート中に響いた。
サッカー部の練習がおろそかになるということもなかった。むしろ、以前よりずっと本気で練習に打ち込むようになっていた。以前は本心をごまかすためにサッカーをやっていた。だから、『女の子の関心が引ければいいや』ぐらいにしか思っていなかった。本気でボールを追ったりはしていなかった。
いまはちがう。SEED部のおかげで本当にやりたかったことに挑戦できるようになった。そのやる気がサッカーのほうにも伝わっていた。誰よりも大きな声をあげ、誰よりも激しくボールを追った。
「最近、張り切ってるな、藤岡」
キャプテンがうれしそうに言った。
おれは笑いながら答えた。
「もちろんですよ、キャプテン。今年は何としても一〇年振りの初戦突破を果たしましょう」
「その意気だ。頼りにしてるぞ」
「はい!」
二時間の練習を終えてたっぷり汗をかいてから、おれは夕食の買い物をしてアパートに帰った。買い物と言っても、米と野菜は実家から送ってくれるから大して買うものはない。
ドアの前に立ち、鍵を差し込む。だが――。
――開いている。
たしかに今朝、鍵を閉めて学校に行ったはずなのに、ドアの鍵は開いていた。おれの頭のなかを激しい不安が渦巻いた。
――森崎先輩か。
おれは心のなかでうめいた。
森崎先輩は最近すっかり、おれのアパートに入り浸りだ。
『少年はちょうどひとり暮らしだしな。我がSEED部の校外活動拠点にふさわしい』
とかいう理由で強引に合い鍵を作り、勝手に出入りするようになった。はなはだしいときには泊まっていくことさえあった。正確に言うと居座ったまま眠りこけ、結果として泊まり込む、ということだ。
『いくらなんでも、それはマズいだろ⁉』
と、叫ぶおれに向かって森崎先輩は、
『何だ、少年。それでもお前は男か。紳士のつもりか。理性ひとつ働かせることもできんのか?』
と、平然と言ってのけた。
それを言われると弱い。かくしておれは『生徒会長ふう美人のお姉さん』との半ば同居生活を強いられている、というわけなのだった。……しかし、せめておれの前で着替えるような真似だけはやめてもらいたい。
おれは部屋に入った。なかを見渡した。予想に反して人影はない。そして、風呂場から聞こえる水の音――。
――まさか。
おれのこめかみを脂汗が一筋、流れ落ちる。
――いや、いやいやいや、いくら森崎先輩でもまさか、そこまでは……男の部屋に勝手にあがり込んで、勝手にシャワーを使うなんて、そんな真似をするはずが……。
水音がとまった。ドアの開く音がした。そして、風呂場へと通じるアコーディオン・カーテンを開いて現われたのは――。
バスタオル一枚をまいただけの姿で長い髪を拭いている森崎陽芽だった。
「何だ、その格好はあっ⁉」
おれは怒鳴った。
森崎先輩はケロリとして答えた。
「シャワーを浴びていたところなのでな。まさか、コートを着てシャワーは浴びれまい?」
「そういう問題か! 男のひとり暮らしなんだぞ。勝手にシャワーを浴びて、しかも、そんな格好で出てくるなんて、いくらおれだって理性を保つ限界ってのはあるんだぞ!」
「……ふむ。まだ、気づいていないのか、少年よ」
「何をだよ⁉」
「鈍いとは思っていたがこれほどとはな」
森崎先輩が流し目でおれを見た。シャワーを浴びた直後だから、もちろんメガネはかけていない。メガネを外した森崎先輩は何だかやけに色っぽくて……その目で見つめられ、おれは遺憾ながらドギマギするのを押さえられなかった。
「私の気持ちだ、少年よ」
「き、気持ち……?」
森崎先輩が近づいてくる。やけに真面目な顔付きになっている。
「女が男の部屋でシャワーを浴びているのだぞ? 『何が起きてもかまわない』という思いがなければありえまい?」
「な、なんの……冗談……」
「冗談? 女が冗談でこんなことを言うと思うのか?」
森崎先輩の白魚のような手が伸び、おれの顎を撫でる。
「少年よ。私はお前が……」
「うわあああっ!」
おれは爆発した。
「ふざけるなあっ!」
叫んで逃げ出した。と言っても六畳一間のアパート。逃げ込む先はトイレぐらいしかない。よって、おれはトイレに飛び込んで鍵をかけた。ドアの外から森崎先輩の愉快そうな笑い声が響く。
「はっはっはっ、少年。この程度の攻撃でうろたえるとはまだまだ青いな。そんなことでは将来、いいようにあしらわれるぞ」
「大きなお世話だっ!」
誰があんたみたいなタチの悪い女を相手にするかっ! おれはもっと清楚なタイプと付き合うんだ!
おれが怒っていると、ドアをどんどんとたたく音がした。
「耕ちゃん、帰ったのかい?」
あの声は……まずい、一ノ瀬さんだ!
近所に住んでいる面倒見のいいおばちゃんで、おれが高校に通うために親元をはなれてひとり暮らしをしていると知って以来、何かと世話を焼いたり、手料理を差し入れたりしてくれる。いい人だ。それはまちがいない。本当にいい人なのだ。ただし……ものすごく口が軽い! しかも、噂話が大好き。町内の公告塔として知られる典型的な『オバサン』なのだ。
もし、一ノ瀬さんに森崎先輩を見られたら……。
ああ、どんな噂を立てられることか。考えるだに恐ろしい。そんなことになったらおれの人生、おしまいだ!
しかたがない、ここはこのまま居留守を使ってやり過ごし……。
「はい、どちらさま?」
お前が出るな、森崎陽芽っ!
ドアを開ける音がして、たちまち一ノ瀬さんの驚き半分、うれしさ半分という声がした。
「あらあら、まあまあ、耕ちゃんの部屋にこんなかわいい女の子が……」
「姉です」
アッサリ答える森崎先輩。ニッコリ微笑んで言うのが目に浮かぶ声だった。
「あらまあ、お姉さん。そう言えば目元が似てるわねえ」
――似てるか?
「それにしても耕ちゃんたら、お姉さんがいるなんて一言も言ってなかったのにねえ。こんな美人のお姉さんならもっと早く紹介してほしかったわあ」
「姉といるのが照れくさい年頃なんです」
「あ~、わかる、わかる。そいう年頃ってあるわよねえ。あらやだ、あたしったら。用件を忘れていたわ。はい、これ。サトイモの煮っころがしだけど、よければどうぞ」
「まあ、おいしそう。ありがとうこざいます。あっ、まってください。これ、ほんのお返しです」
「まあ、立派なキャベツ」
一ノ瀬さんの声から察するに台所にしまっておいたキャベツを丸ごと一個、渡したらしい。きちんとお返しをするのはいいことだけど、他人の家で自分の家のごとくこんなことをやってのけるとは……森崎陽芽、恐るべし。
「でも、いいのよ。こんな気を使ってくれなくたって」
「いえ、うちの畑でとれたキャベツですから。お気遣いなく」
うちの畑でとれたんだ! あんたの畑じゃないだろ!
「あらそう? ま~、却って悪いわねえ。それじゃあね、お姉さん。耕ちゃんによろしく」
「はい」
と、明るく返事をしてドアを閉め、サトイモの煮っころがしの入った器を両手に抱え、振り向いた森崎先輩の前に、『ドヨ~ン』とばかりに表情を暗くしたおれが現われた。
「何だ、少年。その不景気な顔は?」
「何だじゃないだろ! 何で勝手に出るんだ、いつからあんたがおれの姉になったんだ⁉」
「正直に言ったほうがよかったか?」
「それは困る」
「ならばいいではないか。向こうも納得した。私なら理想のお姉さまではないか。『陽芽姉ちゃん』と呼んでくれてかまわんぞ」
「誰が呼ぶか」
「……ふむ。そうか、少年。お前はまだ知らないのだな」
「何をだよ⁉」
「私は本当にお前の姉だということだ」
「何だと⁉」
「お前のお父上が出稼ぎに出たとき、ひとりの女と出会っていきずりの恋をした。そして、女は身篭もった。その女性こそが私の母だ」
そんな……。
いや、そりゃあ、親父だって男だし、結婚して二〇年以上もたっていれば浮気のひとつやふたつや三つや四つ、していてもおかしくない。でも、いくらなんでも、そんなこと……いや、まてよ。そう言われてみれば納得できる。見ず知らずの女子高生の提案に大金を出すなんて不自然すぎる。だけど、その相手が自分の娘、それも、ずっと放っておいた娘だと知っていたなら……。
ゴクリ、と、おれは生唾を飲み込んだ。
「ま、まさか……本当に?」
「本当のわけがなかろう」
お前なあっ!
「まさか、こんなヨタ話を一瞬でも信じるとはな。私のほうが驚いたぞ。大体、お前のお父上が出稼ぎに出るようになったのはお前が五つの頃からだろう。お前より年上の子供を作れるはずがないではないか」
……そうだった。
そんなことにも気づかなかった。生まれてこのかた、自分がこれほどバカだと思ったことはない。
「純情なのは結構だが、度がすぎると問題だぞ。そんなことではこれから先、社会の荒波を乗り越えてはいけん。よし。ここは一肌脱ぐとしよう。これからは私がビシッ! ビシッ! と鍛えてやる。感謝するように」
「しなくていい!」
「遠慮するな。これも姉としての務めだ」
「だから、あんたはおれの姉じゃない……って、それより何よりバスタオル一枚でくっつくな、抱きついてくるなあっ!」
布一枚、巻いただけのロケットオッパイが体に当たって……わああっ!
「とりあえず、食事にしてくれ、少年よ。うまそうなサトイモの煮っころがしももらったことだし、今日はボリュームたっぷりの根菜メニューがいいぞ」
言いつつ森崎先輩は部屋の中央にデンとあぐらをかいて座った。バスタオル一枚まいただけの姿のままで……。
「せめて服を着ろおっ!」
おれの絶叫がアパート中に響いた。
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