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九章
すべてを奪われて(2)
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アネモネは必死に働いた。体力も筋力も標準的な一〇歳児よりも劣るにも関わらず、重い野菜を収穫したり、動物たちの食事を運んだり、雑草をむしったり……と、おとなでもキツい重労働を、弱音ひとつ吐かずにこなしていった。農場の仕事を覚えようと必死なのだ。
――ああ、何てかわいい! そして、健気! まさに天使、そして妖精のようなかわいさ!
トゥナとしてはもうその姿にメロメロだった。重い荷を運んでよろめくつど、飛んでいって荷物をひったくり、『そんなことしなくていいのよ、お姉ちゃんが全部やってあげるから!』とか言って、奥座敷にでも飾っておきたくなる。
もちろん、そんなことをしてはグリムたちと同じように監禁しているだけだし、本人のためにならない。何より、アネモネ本人がそんなことは望んでいない。かの人はあくまでも農場の仕事を覚え、〝美しいヒト〟のための国を作ろうと必死なのだ。
それがわかっているだけに、トゥナも思わず手を貸してしまいそうになるのを必死に押さえた。それはもう、フワフワモフモフの小動物が目の前にいるのにさわってはいけない、と言うのと同じくらい辛いことだったけど、『アネモネ命!』の愛の力で何とかこらえていた。
「ここって農薬とかは使っていないのね」
ある日、野菜がイモムシに食べられているのを見つけたアネモネがそう尋ねた。ちなみにアネモネは虫は大丈夫な口だった。虫をいやがる女の子は多いのでその点は心配していたのだが、アネモネの場合、虫一匹いない環境で育てられたために、誰かが虫を嫌うのを見たことがない。その分、『虫は怖いもの』という印象がないようだった。うごめく虫を平気で指でつまむことができた。
トゥナとしては正直、アネモネにそんな態度はとってほしくない。虫を見るたび、『きゃあ!』とか可愛い悲鳴をあげて、自分に抱きついてほしい。そして、『もう、しょうがないなあ』とか言って助けてあげたりして……。
そんな妄想を実現できないのは残念だけど、畑仕事をする分には頼もしいことにはちがいない。トゥナは内心の欲望をグッとこらえて説明した。
「ここは虫用のコーナーよ。わざと、虫たちがくるようにしているの」
言われてアネモネは目を丸くした。その表情がまた思わず頬が緩むほど可愛い。
「わざと? どうして、そんなことするの?」
「人間は自然の恵みによって生かされている。だから、人間も自然にお返ししなければいけない。それが創業者であるおばあちゃんの哲学と言うか、信条だったの。『自然を切り開いて自分たちの住み処を作る以上、自然に対してそれ以上のお返しをする義務と責任がある。それができないなら自然のなかで生きていてはいけない』ってね。
だから、自然に対するお返しとして虫たちが安心して食べられる分を用意する。その他にも自然死した動物を森のなかに置いたり、粒のそろわないトウモロコシとか規格外の大きさのお米とかは農場の周りに巻いておくの。自然に対する感謝としてね」
「そんなことしてだいじょうぶなの? 味をしめた動物たちがよってくるんじゃ……」
「それが以外とだいじょうぶなのよ。農場の周りに食べるものがあれば農場まで入り込んでこないみたい。それに、そうやって動物たちが集まってくれば、それを食べる動物も集まってくる。だから、けっこうバランスが保たれるのよ。もちろん、ときには農場の野菜が食い荒らされることあるけど、それを見越していつも多めに作っているしね。
おばあちゃんはいつも言っていたわ。『農場の野菜が食い荒らされるということは、あたしたち以上に必要としている生き物がいるってことさ。だから、快く分けてやらなくちゃいけないよ。あたしたちはよそから買えばいいんだからね』ってね」
もし、ここが単なる農場であれば作物を食い荒らされることはそのまま収入がなくなることを意味する。いくら自然を愛していても受け入れられることではない。しかし、手作りの小さな国の場合、主な収入源は国民――店子――からの家賃収入だ。作物の出来不出来に関わりなく、一定の収入は確保できる。それに、たいていの場合、広範なネットワークが構築されており、凶作の年は豊作のところから融通してもらえる。もちろん、自分の所が豊作でよそが凶作、と言う場合にはこちらが融通することになる。
そのようなシステムが出来上がっているので、その分、寛容になれるというわけだ。国民の方も凶作のリスクは承知の上で契約しているので問題にはならない。もちろん、毎年まいとし凶作がつづく……などと言うことになれば管理能力を問われるし、国民も離れていく。しかし、『一〇年に一度』という程度なら受け入れられる。
「立派なおばあさんね」
「ええ、あたしの自慢よ」
と、トゥナは照れもせずに胸を張った。
「自然の恵みを受けて、生かされて、その分を自然に返す。それが人間本来の生き方。かつての人間たちはそのことを忘れ、何でも自分の思い通りにしていいいと思った。自然にお返しすることを忘れ、奪い取るばかりだった。そんな生き方が人間も自然もありったけ不幸にしてしまった。もう二度とそんなまちがいを繰り返してはいけない。自然の恵みに感謝し、自然にお返しして、つながりのなかで生きていく。それこそが人間の幸福であり、自然の一部になること。おばあちゃんはそう言ってたわ」
「自然の一部……」
アネモネ呟いた。
トゥナはニッコリと微笑んだ。
「なれるわよ。言ったでしょ。人造人間だって、もととなっているのはまちがいなくあたしたち人間のDNAなんだから。自然とのつながりを感じ、自分の体で子供を育て、自然の一部となって生きていけるわ」
言われてアネモネは力強くうなずいた。
「うん。がんばる」
その一言に――。
トゥナがアネモネを抱きしめ、キスの雨を降らせたことは言うまでもない。
そんなアネモネのために腕によりをかけて食事を作るのがトゥナの楽しみとなっていた。
「一日中、働いているんだからちゃんと食べないとね」
そう言って山盛りの料理をテーブルに並べて『さあ、召しあがれ』と、両手を広げる。顔に浮かぶは満面の笑み。しかし、アネモネとしては困ってしまう。小食のアネモネにとっては一日分をしのぐほどの量だ。とても食べきれるものではない。
モデル体型に育てるために常に厳しい食事制限を強いられてきた。育ち盛りなのに。何より食べるのが楽しい時期なのに。せめて、いまからは食べる喜びを存分に味わって欲しい。その思いからであることはわかっているのだけど、急に食べる量を増やせるものではない。それでも、
「さあ、食べて、食べて。ちょっとずつでも食べる量を増やしていかないと、いつまでたっても体力付かないわよ」
と、満面の笑顔で言われては言い返すことなどとてもできず、無理やり口に料理を押し込む羽目になるアネモネだった。それに、充分に食べられるようにならないと体力が付かないのは本当だし、体力を付けなければ農場の仕事などやっていられない。アネモネは縮みきってしまっている胃袋を押し広げようと、毎日まいにち必死に食物を押し込んだ。
トゥナの方はと言えば、見本となることを決めたかのように旺盛な食欲を発揮して盛大に食べていた。その姿を見ているとアネモネとしても『こんな風に気持ちよく食べてみたい』という気になってくる。
トゥナにつられて少しずつだけどアネモネの食事量も増えてきた。と言っても、トゥナの三分の一にも満たない量だけど。それでも、栄養状態がよくなったためだろう。肌の色艶が増してきたように思える。もともと、輝くばかりの美貌の主だけど、その美しさにますます磨きがかかっていくようだった。
――ああ、かわいい、きれい。毎日まいにちどんどん魅力的になっていくなんてさすがあたしの天使!
と、トゥナの頬は緩みっぱなしである。
少々、問題があるとは言え、アネモネとの暮らしに限ってはトゥナは幸せ満点だった。 農場や森の仲間たちがいたとは言え、かの人たちは一緒に食卓を囲んでくれるわけではない。キオだってロボットだから食事はしない。祖母が死んで以来、食事はいつもひとりだった。一緒に食卓を囲める相手がいる。それだけでも楽しかった。
それに、祖母は『女性』と言うにはたくましすぎる存在だったので、トゥナは『女の子同士の話』というものをしたことがなかった。アネモネ相手ならそんな話も出来るだろう。あんなことや、こんなこと、アネモネと女の子同士ならではの話をすることを楽しみにしていた。
――昔っからさんざん『色気がない』って言われてきたけど……そんなあたしだって、アネモネとかわいさいっぱいのガールズトークをしていれば『可愛い女の子』になれるはずよ。きっと、多分、絶対!
トゥナはそう思ったのだが……そんなことを思いつつ力強く拳を握りしめ、力瘤を作ってしまうところを見ると、その見込みは低そうだった。
ただ――。
それも、アネモネとの暮らしに限ってのこと。もうひとりの同居人相手となると話がちがった。キオは変わることなく農場で働いていた。その働きぶりは文句の付けようもないものだった。しかし、とにかくトゥナやアネモネを避けていて、ふたりが近づくとコソコソと姿を隠す始末。おかげで、ほとんど口も利けていない。
もともと、堂々と言うにはほど遠い性格だったけど、あの日以来、なおさら卑屈になっていた。
トゥナとしては腹立たしいこと、この上ない。基本的なところで自分がまちがっていたとは思っていない。でも、それでもやっぱり少々、言いすぎたかなとは思う。
何と言ってもキオは『役立たず』と罵られ、ついには捨てられた存在だ。少々、臆病だったり、卑屈だったりするのも仕方がない。自分の暮らしを守りたいと思うのもわかる。だからこそ、きちんと話をしてみたい。アネモネが大切だからと言ってキオをないがしろにしているわけではない。そう伝えたい。それなのに、キオがこんなにも自分を避けていては話をするきっかけもつかめない。
こうなると、キオの卑屈さにだんだん腹が立ってくる。もう勝手にしろと思う。しょせん、臆病者なんだから……。
キオとの関係は気まずいものになっていたが、それでも全体として、トゥナは楽観的でいられた。
アネモネと共に〝美しいヒト〟の国を作る。おばあちゃんが生きていた頃の賑わいを取り戻す。
そのバラ色の未来に向けて邁進することができていた。その瞬間までは。
――ああ、何てかわいい! そして、健気! まさに天使、そして妖精のようなかわいさ!
トゥナとしてはもうその姿にメロメロだった。重い荷を運んでよろめくつど、飛んでいって荷物をひったくり、『そんなことしなくていいのよ、お姉ちゃんが全部やってあげるから!』とか言って、奥座敷にでも飾っておきたくなる。
もちろん、そんなことをしてはグリムたちと同じように監禁しているだけだし、本人のためにならない。何より、アネモネ本人がそんなことは望んでいない。かの人はあくまでも農場の仕事を覚え、〝美しいヒト〟のための国を作ろうと必死なのだ。
それがわかっているだけに、トゥナも思わず手を貸してしまいそうになるのを必死に押さえた。それはもう、フワフワモフモフの小動物が目の前にいるのにさわってはいけない、と言うのと同じくらい辛いことだったけど、『アネモネ命!』の愛の力で何とかこらえていた。
「ここって農薬とかは使っていないのね」
ある日、野菜がイモムシに食べられているのを見つけたアネモネがそう尋ねた。ちなみにアネモネは虫は大丈夫な口だった。虫をいやがる女の子は多いのでその点は心配していたのだが、アネモネの場合、虫一匹いない環境で育てられたために、誰かが虫を嫌うのを見たことがない。その分、『虫は怖いもの』という印象がないようだった。うごめく虫を平気で指でつまむことができた。
トゥナとしては正直、アネモネにそんな態度はとってほしくない。虫を見るたび、『きゃあ!』とか可愛い悲鳴をあげて、自分に抱きついてほしい。そして、『もう、しょうがないなあ』とか言って助けてあげたりして……。
そんな妄想を実現できないのは残念だけど、畑仕事をする分には頼もしいことにはちがいない。トゥナは内心の欲望をグッとこらえて説明した。
「ここは虫用のコーナーよ。わざと、虫たちがくるようにしているの」
言われてアネモネは目を丸くした。その表情がまた思わず頬が緩むほど可愛い。
「わざと? どうして、そんなことするの?」
「人間は自然の恵みによって生かされている。だから、人間も自然にお返ししなければいけない。それが創業者であるおばあちゃんの哲学と言うか、信条だったの。『自然を切り開いて自分たちの住み処を作る以上、自然に対してそれ以上のお返しをする義務と責任がある。それができないなら自然のなかで生きていてはいけない』ってね。
だから、自然に対するお返しとして虫たちが安心して食べられる分を用意する。その他にも自然死した動物を森のなかに置いたり、粒のそろわないトウモロコシとか規格外の大きさのお米とかは農場の周りに巻いておくの。自然に対する感謝としてね」
「そんなことしてだいじょうぶなの? 味をしめた動物たちがよってくるんじゃ……」
「それが以外とだいじょうぶなのよ。農場の周りに食べるものがあれば農場まで入り込んでこないみたい。それに、そうやって動物たちが集まってくれば、それを食べる動物も集まってくる。だから、けっこうバランスが保たれるのよ。もちろん、ときには農場の野菜が食い荒らされることあるけど、それを見越していつも多めに作っているしね。
おばあちゃんはいつも言っていたわ。『農場の野菜が食い荒らされるということは、あたしたち以上に必要としている生き物がいるってことさ。だから、快く分けてやらなくちゃいけないよ。あたしたちはよそから買えばいいんだからね』ってね」
もし、ここが単なる農場であれば作物を食い荒らされることはそのまま収入がなくなることを意味する。いくら自然を愛していても受け入れられることではない。しかし、手作りの小さな国の場合、主な収入源は国民――店子――からの家賃収入だ。作物の出来不出来に関わりなく、一定の収入は確保できる。それに、たいていの場合、広範なネットワークが構築されており、凶作の年は豊作のところから融通してもらえる。もちろん、自分の所が豊作でよそが凶作、と言う場合にはこちらが融通することになる。
そのようなシステムが出来上がっているので、その分、寛容になれるというわけだ。国民の方も凶作のリスクは承知の上で契約しているので問題にはならない。もちろん、毎年まいとし凶作がつづく……などと言うことになれば管理能力を問われるし、国民も離れていく。しかし、『一〇年に一度』という程度なら受け入れられる。
「立派なおばあさんね」
「ええ、あたしの自慢よ」
と、トゥナは照れもせずに胸を張った。
「自然の恵みを受けて、生かされて、その分を自然に返す。それが人間本来の生き方。かつての人間たちはそのことを忘れ、何でも自分の思い通りにしていいいと思った。自然にお返しすることを忘れ、奪い取るばかりだった。そんな生き方が人間も自然もありったけ不幸にしてしまった。もう二度とそんなまちがいを繰り返してはいけない。自然の恵みに感謝し、自然にお返しして、つながりのなかで生きていく。それこそが人間の幸福であり、自然の一部になること。おばあちゃんはそう言ってたわ」
「自然の一部……」
アネモネ呟いた。
トゥナはニッコリと微笑んだ。
「なれるわよ。言ったでしょ。人造人間だって、もととなっているのはまちがいなくあたしたち人間のDNAなんだから。自然とのつながりを感じ、自分の体で子供を育て、自然の一部となって生きていけるわ」
言われてアネモネは力強くうなずいた。
「うん。がんばる」
その一言に――。
トゥナがアネモネを抱きしめ、キスの雨を降らせたことは言うまでもない。
そんなアネモネのために腕によりをかけて食事を作るのがトゥナの楽しみとなっていた。
「一日中、働いているんだからちゃんと食べないとね」
そう言って山盛りの料理をテーブルに並べて『さあ、召しあがれ』と、両手を広げる。顔に浮かぶは満面の笑み。しかし、アネモネとしては困ってしまう。小食のアネモネにとっては一日分をしのぐほどの量だ。とても食べきれるものではない。
モデル体型に育てるために常に厳しい食事制限を強いられてきた。育ち盛りなのに。何より食べるのが楽しい時期なのに。せめて、いまからは食べる喜びを存分に味わって欲しい。その思いからであることはわかっているのだけど、急に食べる量を増やせるものではない。それでも、
「さあ、食べて、食べて。ちょっとずつでも食べる量を増やしていかないと、いつまでたっても体力付かないわよ」
と、満面の笑顔で言われては言い返すことなどとてもできず、無理やり口に料理を押し込む羽目になるアネモネだった。それに、充分に食べられるようにならないと体力が付かないのは本当だし、体力を付けなければ農場の仕事などやっていられない。アネモネは縮みきってしまっている胃袋を押し広げようと、毎日まいにち必死に食物を押し込んだ。
トゥナの方はと言えば、見本となることを決めたかのように旺盛な食欲を発揮して盛大に食べていた。その姿を見ているとアネモネとしても『こんな風に気持ちよく食べてみたい』という気になってくる。
トゥナにつられて少しずつだけどアネモネの食事量も増えてきた。と言っても、トゥナの三分の一にも満たない量だけど。それでも、栄養状態がよくなったためだろう。肌の色艶が増してきたように思える。もともと、輝くばかりの美貌の主だけど、その美しさにますます磨きがかかっていくようだった。
――ああ、かわいい、きれい。毎日まいにちどんどん魅力的になっていくなんてさすがあたしの天使!
と、トゥナの頬は緩みっぱなしである。
少々、問題があるとは言え、アネモネとの暮らしに限ってはトゥナは幸せ満点だった。 農場や森の仲間たちがいたとは言え、かの人たちは一緒に食卓を囲んでくれるわけではない。キオだってロボットだから食事はしない。祖母が死んで以来、食事はいつもひとりだった。一緒に食卓を囲める相手がいる。それだけでも楽しかった。
それに、祖母は『女性』と言うにはたくましすぎる存在だったので、トゥナは『女の子同士の話』というものをしたことがなかった。アネモネ相手ならそんな話も出来るだろう。あんなことや、こんなこと、アネモネと女の子同士ならではの話をすることを楽しみにしていた。
――昔っからさんざん『色気がない』って言われてきたけど……そんなあたしだって、アネモネとかわいさいっぱいのガールズトークをしていれば『可愛い女の子』になれるはずよ。きっと、多分、絶対!
トゥナはそう思ったのだが……そんなことを思いつつ力強く拳を握りしめ、力瘤を作ってしまうところを見ると、その見込みは低そうだった。
ただ――。
それも、アネモネとの暮らしに限ってのこと。もうひとりの同居人相手となると話がちがった。キオは変わることなく農場で働いていた。その働きぶりは文句の付けようもないものだった。しかし、とにかくトゥナやアネモネを避けていて、ふたりが近づくとコソコソと姿を隠す始末。おかげで、ほとんど口も利けていない。
もともと、堂々と言うにはほど遠い性格だったけど、あの日以来、なおさら卑屈になっていた。
トゥナとしては腹立たしいこと、この上ない。基本的なところで自分がまちがっていたとは思っていない。でも、それでもやっぱり少々、言いすぎたかなとは思う。
何と言ってもキオは『役立たず』と罵られ、ついには捨てられた存在だ。少々、臆病だったり、卑屈だったりするのも仕方がない。自分の暮らしを守りたいと思うのもわかる。だからこそ、きちんと話をしてみたい。アネモネが大切だからと言ってキオをないがしろにしているわけではない。そう伝えたい。それなのに、キオがこんなにも自分を避けていては話をするきっかけもつかめない。
こうなると、キオの卑屈さにだんだん腹が立ってくる。もう勝手にしろと思う。しょせん、臆病者なんだから……。
キオとの関係は気まずいものになっていたが、それでも全体として、トゥナは楽観的でいられた。
アネモネと共に〝美しいヒト〟の国を作る。おばあちゃんが生きていた頃の賑わいを取り戻す。
そのバラ色の未来に向けて邁進することができていた。その瞬間までは。
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