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仔柴の花胡です
皇帝夫妻と高官様
しおりを挟む『おぉ、おお! 赤柴の女児がこうも愛らしいとは!』
『ほんにそうでございますね、陛下! 悩殺されましたわ』
えー、ただいま目映いばかりの麗しい女性のお膝に乗せられギューッと抱き締められ、これまた凛々しい男性に撫でくりまわされております。
ほわんっといい香り。
お胸がふわんふわんです。
母上よりお胸が大きいようです!
(母上はスレンダーなふんわり美女です)
お胸に頬寄せるのは当たり前です!
『うふふ、私のお胸が気に入ったのかしら?』
『赤子とはそういうものよ。それより、そろそろ余に代わってはくれまいか?
花胡嬢こちらへおいで』
至福の時間と空間からひょいと抱えられ、続いてがっしりとしたお膝に移動です。くんくん、匂いチェック。さっきの皇妃様の香りが交ざる太陽の香り。
今日は大事な御用、皇帝夫妻とお話をするからと早朝からバタバタ支度を施され現在に至る。
『翁季よ、花胡嬢は初獣を済ませていると申したな?』
『……はい。魔力の発動確認直後に……』
『ふむ。しかし、意識せずに魔力を調節しているようではあるか』
『はい。されど、幼すぎる故このまま知識もなく魔力を使用されるのは……』
『危険であるな。まだ、理性も学ばぬ赤子……、周囲の安全もあるが花胡嬢の身の安全の為にも対応せねばならぬな』
幼子のいる環境で固い空気を避けるためか、表情や空気は一見和やかであるもののピンッと何処か張りつめた空気は存在して双方花胡をみつめている。室内において裏も表も穏やかなのは皇妃のみという状況。
同席するのは皇帝夫妻と花胡、魔法部門を統率する魔部尚書である翁季の他、教育機関を統率する礼部尚書である金 明俊侯爵、陛下の側近である巴 西永公爵、緑 俊安侯爵。総員7名
『まさか、花胡嬢が魔力過多だったとは……成長速度が速いとは思っていたが……』
ぽつりと金礼部尚書の明俊が呟く。
彼は花胡が初獣を迎える前に交流をもったゴールデンレトリーバーの姿を持つ一族。花胡を不安にさせないよう冷静に見せているものの内面では目をぱちくり。
『やはり魔力介入により正しい時を待つという方法が良いのでは?』
『いや、対応レベルを超えている。その選択では経絡系に負担が大きい』
『では……皇太子殿下の教育プランを花胡嬢にも行うのは如何でしょう?』
『その案は余も翁季と話しておった。されど、城にて指導を受けるということは意味が必要となる。あくまで、宮殿で行われる教育というものは皇子の指導または妃の指導。つまり、我らが良しとしようが周囲の貴族も黙ってはおらぬだろう……』
『我が娘は皇太子殿下の妃候補ではあるものの、まだ御目見得も済んでおりません……そのような娘が宮殿入りとなると……殿下方の正式な番つがいと暗黙の了解になってしまいます』
『……それもそうですな。しかし、ちょうど花胡嬢は御目見得される年頃では? ならば御目見得までは様子見とし、その後に婚約も含め動き始めればよろしいのでは……?』
『私も問題ないのではないかと。我が緑家からも娘が殿下方の婚約者候補と上がっておりますが、何かお力になれることあらば娘も協力しましょう。恐らくあれは殿下方のお相手にはなりませんゆえ……』
若干、遠い目をする緑侯爵は頭のなかに娘の姿を浮かべる。男勝りというか……男より男であり、可愛いものに目がない、そして基本的にドSなのだ。なぜああなってしまったのか……。母譲りの気の強さか。……嫁に行けるのだろうか……。はぁ
『それは心強いです。お心遣い深く感謝いたします。
婚約に関しましては殿下方のお気持ちも御座いますでしょうが』
『そうだな……、だが婚約者候補は余もそなた達にも権限があろう。最終的には息子達が決めるとはいえ少々強引でも動く他ない。それに、あやつらは女子に興味がないのか何なのか……男色を疑われては困る……、こちらでのお膳立て無くして世継ぎは産まれぬだろうな。はぁ
……この案の他、思い当たる策はあるか?』
なんとも返答しづらいため息と共に吐き出された陛下の言葉には哀愁が漂う。しかし、同じような子の悩みをもつ今日集められた高官達は同様に娘息子を浮かべてため息を溢した。
『『『『……否』』』』
『では、ひとまず御目見得前に皇子達と顔合わせの場を用意するとしよう。されど、大平にするわけにもいかぬ故、後日対処し連絡する』
『御意』
『……ところで我が妃よ』
『はい。何でございますか?』
『その胸に抱いている仔犬は……? 私が抱いていた愛らしい姫は……?』
『いやだわ、貴殿方がしみったれて話しているから退屈していた花胡ちゃんと遊んでいたのよ。お願いしたら獣化してくれたのよ』
どうやら話に夢中になっている間に腕から抜け出し、ふわふわのお胸へと飛び付き堪能。そして、愛らしい仔犬姿を披露したら思いの外大袈裟に褒められご満悦で愛想を振り撒いていたらしい花胡ちゃんであった。現在は皇妃様のお膝で丸まったなお昼寝でした。
朝早かったからね! 話長かったしね!
『余も抱きたい』
『いまお眠り中ですよ。赤子の睡眠を遮ると?』
『……いや……だが、なあ、翁季……余も抱きたい』
『家臣として申し上げますと、どうぞ少々の事では起きませんし日中に休むと夜寝ませんので万が一起きても構いません』
『……家臣としてか……では、友人としては……』
『よろしいのでしょうか? では、
私の愛しい娘を男が抱くなんて誰が赦すか! 赤子を皇太子の嫁候補とされたときは国外へ逃亡しようかと思ったわ!はっ
なんて思ってはおりません』
『娘が生まれたから丸くなったのかと思ったが、翁季は翁季だったか』
『いや、私は領地で会ったが滑稽な奴を拝めたぞ! ぶふっ』
『本当に国外逃亡されなくて助かったな……育休とやらは……補助が辛かった』
上から巴公爵、金侯爵、緑侯爵と陛下への不敬罪と問われかねない発言も平然と感想を言い流せるのは陛下を始めとする四人が旧友であり、幼い頃から兄弟のごとく親しかったからのこと。公私は分けているものの翁季は普段から絶対服従の形態ではなく陛下へと軽口を叩ける数少ない人物のひとりである。
とはいえ、信頼関係のもと忠誠は誓っているため謀反などを疑われることもない。柴特有の性格と周囲も寛容的であった。
『そんな、兄と慕ってくれていた可愛い翁季にできた可愛い可愛い姫なのだよ? それは何がなんでも傍に欲しい……ではなくて、私にしても可愛い姪のようで、ほら! 皇妃は奥方と繋がりも深く、婚姻関係には丁度良いバランスではないか? な!な!』
『ほぅ。確かに畏れ多くも兄と慕う陛下の御子息様の伴侶となれるのならば、方々と愛し愛されるならば幸せなこと。文句など言うつもりも御座いません!
愛し愛されるならば。
そして、将来的に年の差は関係ないとしても現段階においては、幼いなど通り越し年頃の皇太子殿下と赤子の花胡、さて脇目もなく少なくとも13年から16年……年頃の男が待てると御思いですか? 殿下に待つ気持ちはおありでしょうか?
もしも、可愛い愛らしい愛しい花胡が皇子に……皇子に心奪われ、こ、恋をした時、失礼ながら……殿下に心決めた娘が現れていたら、そうなったら……あぁ、花胡ちゃん、や、そうなれば嫁になど出さなくとも善いのだが……
いや待て、そんな問題ではない。心の傷が!!! 『親バカ落ち着けーい!』』
『『『…………『うふふ』』』』
一度暴走する翁季をみて馴れた明俊と朗らかに笑顔を浮かべる皇妃の他、皇帝陛下以下二人は絶句といった表情。
そうか、これが親バカ。愛妻から生まれた愛の結晶、しかも赤柴である自分の血を濃く受け継いだ本家ひさびさの姫
(((それは可愛いわな)))
『安心しろ! まんがいちそうなったら我が金家へ嫁いで来れば良い!ははは
』
『ふっざけんな! お前にはやらん!』ふんっ
『ま、まぁ、落ち着け翁季よ。余も花胡嬢を悪いようにはせんぞ! 息子達も心配ない! ほら、皇太子には雪峰もついておる! つまり、ひどい結果にはならぬぞ!』
『おほほほ、貴方達、落ち着きなさいな。うふふ、婚約内定も済ませぬうちに心配しすぎよ。それに、私の息子は大切な友人の妹君を不当な扱いなんてしないわ。
なにかあったら……私が指導するわ……安心しなさい? いいわね?』
ごたごた良い大人が当人なしに騒いでんじゃねぇよ。と心の声が聞こえてきそうな笑顔の皇妃に逆らえる強者はいない。
『『『『『はい』』』』』
いつの時代も本当に強いのは女。
夢の中にいる花胡は何もお構いなしに、ふわふわの雲にのってお花畑を散歩する夢をみておりました。
『うふふ、良い子ね? 花胡ちゃん』
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