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人見知りはしません

幼子とわんこと変態さん?

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"わん わん わん"


『ほーら、花胡かりんみてごらん。わんわんさんだよ』


「たー!わー、わー、キャフ キャフ」
≪かわいい!来て、来て≫



『私のひめは本当に愛らしい』



王都への馬車の途中、同じ聖犬人で侯爵家の金家との領境にある森へ立ち寄ることになった。というのも、ここの森には緊急時に職業犬となる金家のゴールデンレトリーバーと紅家の柴犬を普段は“触れあい森林犬園"の犬として飼育している。



王都へ出発して3日、初めての馬車はいくら振動が控えめな侯爵家の馬車といえど普段体感することのない感覚は奇妙な心地であった。



出発早々、まだ屋敷の外壁が見える位置で怪獣のごとく泣きわめき、ご機嫌とりとばかりに母は持参した生地で魔法糸を使用したぬいぐるみを魔法でパッと創り、父は魔法でクッションを敷き詰め振動を軽減させる、兄は馬車を即席ベビーオルゴールを設置。



改めて快適になった所で、予定よりもゆっくりと王都へ向かうことになったのだった。しかし、喜ばしいこともあり、花胡のハイハイが常住化したのだ。



ならば!と、折角なので触れあい森林犬園に立ち寄ることに。



母は、メイド達と護衛騎士という名の荷物持ちを引き連れ境向こうにある金家領でショッピング。ハイハイするのに適した衣類を求めに行くとのこと。

 恐らく、友人関係である金 麗梅キン リイメイ金 麗梅キン リイメイ侯爵夫人と合流するのではないだろうか。



と言うわけで! 春雷と花胡、そして父の翁季、護衛、医術師とで別行動をしております。



『花胡、ふぁーちゃん、こっちみてごらんなさい』


「……? だー?」


よくわからないですが、ふぁーちゃんというのは花胡のあだ名です。



パシャパシャ
 高難易度魔法に分類される空間読み取り保全魔法"コンアンチャピェン"を無詠唱で発動させる。


花胡の可愛い瞬間をより鮮明に残す!たくさん撮らなければと目尻をさげ、尻尾を高速回転させながら撮影する父



この空間読み取り保全魔法には種類がある。


コンアンチャピェンは、本来このように使うのは珍しく、精密で実物と変わらぬ記録が必要なときや、高機能顕微鏡機能として活用することがほとんど。


とはいえ、高度魔法のため使える者はそうそう居ない。一般的に撮影用として使われるのは照片チャオピエンという魔法やカムラという魔道具を使用して写し画をつくる。



ここで、そんな高度魔法を使うのは変態さんなのです。せっかくの美貌ですのにねぇ、などとメイドの中で囁かれる父上は残念美形。

 そのあとには花胡様がお可愛らしいのだから仕方ありませんわね、うふふと続くのだが…… 実に残念である。



『ほら、花胡?わーんーわーんー!』

「わーあーわーあー?」



『そうそう! 上手だね! わーんーわーんー』

「わあーうーわーあー?」


『あぁ、なんて可愛いのだろう。花胡は良い子だね』


お兄様とゴールデンレトリーバーを触りながらのおしゃべり教室。 



残念イケメンではあるが、仕事においては国内有数のできる男で、若いながらも父同様に難易度の高い魔法を易々と使えるエリートさん。



地位、権力、能力、お金、容姿、全てにおいて完璧といわれる一族の紅家。



柴特有の難しい性格、性質から攻略難易度は高いが是非お近づきになり、あわよくば……なんて声も多いのだが婚約話は一切シャットアウト。



ここ、龍獣国の獣人寿命は500歳、聖獣人となると更に長生きなのだ。だから、今は必要ないとバッサリ切るのだ。



自身が決めた者にのみ忠誠を示すという柴属性は認めなければ誰であろうと屈しない。

 特に紅家は三家訓 
≪媚びるな 、操られるな、 己で決めろ! 必要なことは死ぬ気でやれ! 認められたきゃ実力つけろ! ≫ 

それを忠実に守り、幼少期より文武両道と隙なく鍛え上げるのが紅家の血なのである。



その甲斐あってか、男女共に憧れの王国貴族ランキング トップ3常連。


何度断られても女は諦めない。どこの世界もしつこい女はいるのです。


しつこい相手には絶対零度の微笑みを向ける春雷だが、唯一、いくらしつこくされても突き放さないのが花胡さんでした。


『花胡?おーにーいーさーま』


「にーうーぁ?クゥン……」


『難しかったね。では、にーさま』


「にぃいーま?」


『ち、父上、どうしましょう……花胡は天才です』


「ちぃーえ?」


『!!』


胸をおさえ悶え膝をつく美形二人。騎士達のなんとも生暖かい視線を気にも止めず、翁季は"映像として残した!"と感動してる模様。



『花胡、もういちど。ちーちーうーえー、はい』


「ちぃーうぇ、あ・い・!」


『『!!!』』


うちの子は天使でした。なんてアフレコできそうな表情で転がりお耳はぺたーん、尻尾ぶんぶんと父上と兄上でしたとさ。


「う?」
(どうしたの?)





わん わん わん!

『くふふふふ、翁季、春雷、屍になってどうしたっ、ぶふっ』


・・・・・・・・



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