上 下
3 / 26
人生の終わり

柚月、神様の話をきく

しおりを挟む

 新発見です。

 霊体でも脚が痺れるんですね。血液どころが身体もないのにどんな仕組みなのか。実に興味深い……

 
あれからの事をざっと説明すると、どうやら完全に言い過ぎたようです。完全にアウトでした! ハハハ


 苛々と不機嫌な神様は、とても神様とは思えぬ地獄の番人といわれた方が納得できる表情でした。険しい顔というよりは、冷気漂う精神的にくる感じですので怒らせると駄目なタイプですね。


 私は気づいたら正座をしていました。


『おーい。言いたいことは多々あるが…… まあいい。ちなみに痺れは起こりようもないから、恐らく既成概念で感覚に異常がでたようだな。脚触ってみるか?』

 ニヤニヤと楽しそうな顔をして手をニギニギする様は、数分前の番人は何処へやら、変態かこいつ……

「それはセクハラです。 拒否します。」

『霊の姿でセクハラも何もないだろ』

 冷静に拒否するが返答に間違いはないのが悔しい。


『さーて、本題に戻るぞ!足崩していーぞ』

 お言葉に甘えて足を伸ばすと違和感もなく、やはり錯覚だったかと認める他ない。


『コホン!さて、 そなたは自らの死を受け入れることができたか?』

 再び慈愛に満ちた神オーラを纏い仰々しい変な話し方が気にはなるが、まあいいか。


「ひとつ聞きたいのですが」

『ん?申してみよ』

「最後の記憶は公園の外だったんです。走っていた犬を捕まえて、でも道路ではなかったと思うのですが……」

『あー、まだその段階だったか……。簡単に説明すると、犬が追いかけていた猫が道路に飛び出した。そして、たまたまスピードを出していた車が避けようとハンドルを切った先に不運にもそなたがいた。』

 なるほど、確かに不運としかいえない。救いなのは衝撃も痛みも一瞬だけってところか。あ、犬もいたはず、もしかして犬も……猫は……?

「あの、犬猫はどうなりましたか。」

『少し脚を痛めたようだがそなたがうまく護ったのだな。命に別状もない。怪我もすぐ治るだろう。猫は無傷だ』

「よかった」

『ほぅ……。そなたは根っからの動物好きなのだな。心のなか犬だらけではないか、ふっ、変なやつだな。』


「柴の尊さは宇宙規模なので! あー、そっか…… 柴と離れる…… 死後の世界が存在するとしても…… 柴は居ませんよね。地獄だ、地縛霊でもいいから………… 離れたくない~ずび、しばぁ」


『確かにある。地獄は罪を清算するために、黄泉の特殊な神によって統轄されておる。天国は想像するような花畑ではないぞ。楽園とよばれてはいるが、記憶の浄化と穢れの消去、そして現世での疲れを癒すところ……おお!保養施設だな』


『何でもありではない。天国とよぶ其処でひどい悪さをする者は、特別な地獄へと送られる。問題ないならば最大限満足した後、記憶もすべて新たに転生する』


「なんかよくわかりません。だけど、わかりました」

『…………』

「誰が天国と地獄の行き先を決めるんですか?」

『基本的には閻魔大王率いる十人の裁判員が段階を踏んで判定する。これは、そなた達も聞いたことあるかもしれぬな』

 49日の旅の話かな? 

『その場合は死神や先祖が前もって迎えに行く。だが、稀に我のような神が拾いに行くこともある』

 拾いにいく? 

「拾うとは?」

『そなたのような状況把握が困難で放置すれば昇天できない。そして善な行いによる死。さらに、予め死期が予定されていなかった者、つまり唐突に死期帳に記されたもの。死後采配の権限をもつ上位神、尚且神と魂の相性気が良く気が向いたときに限り神が死に介入することができる』

ぁあ? 意味わからん!

『我は、結構力があるからな! 死後の采配の権限もるの』

なんと見事などや顔。あ、どや顔って久々に使ったな。

「あの、だからとは?」

『まだわかんねーのか……、うぉっほん! そなた達の魂は思いの外ゴロゴロゴロゴロ、ゴロゴロと転がっているのだ。霊能者とやらが言ってるであろう。』

「あの、普通に話してください。面倒なので、さっき、俺とか言ってましたし今更です。ゴロゴロ言い過ぎですしね。」

『……ま、いいか。あー、でな、転がってる奴らは条件に嵌まらなかったり、死を受け止めるのを拒否していたり迎えがなかったものがさ迷っているんだ。』

「説明されても良く分からなかったですが、わかりました」

『チッ、話を進めると俺たち神が拾うものは閻魔達の裁判を通さずに俺達が進む道を決めることができるわけだ。』

「おー」パチパチ

『まあ、悪人は端から拾わないしな……』

『で! お前を観察した結果、天国に行くのは苦痛でしかないという。確かに、そこには飼い犬は殆ど居ないな。』

「やっぱりいませんよね」

『基本的にはな。まあ、犬と飼い主が双方想い合えば一緒に居れることもあるがな。大体の犬は動物界に行くしな』

 そうだとは思っていたがガクッと肩が落ちる。これからの生活は残念だ。

『だーかーらー、俺がいるだろうが! お前をすぐに転生させてやる』

「はあ。」

『だが、ある程度決まりがあってな、この世界に転生させる事は出来ない』

「え、何でですか」

『記憶を綺麗に浄化して転生するのがこの世界のルール。例外はあるものの天か地獄やらで輪廻の条約に基づき生まれ変わる。調和が乱れるからな』

「だったら、どこに転生するんですか……宇宙人とか?」

『あながち間違いではないか。地球人からみれば異世界人は宇宙人だしな』

 ひとりで納得している神様を殴ってやろうか……落ち着け自分


「他の世界って柴は日本犬ですよ、まあ、他の犬も動物も好きだけど……」


『ちゃんと考えてるから、任せろって』

 任せて大丈夫なのだろうか、うまい話には裏があるというけど、まあ、死んでるのだから何でもありか……


「あ、そういえば記憶はどうなるんですか?今すぐって浄化されませんよね」

『んー、その辺は俺ノータッチ! 世界の修正力に任せるかな!柴好き忘れたくねーだろ?』

「なるほど、おっけーでーす」

『調整が難しくてな!弄りすぎると柴への愛も歪む恐れがあるからな、嫌だろ?』

歪むのは嫌だ!ならば仕方ない。こくんと頷き受け入れたと示す。

 あとは平気か?という問に再び頷く

コホンッ!

 再び神聖な空気が漂い、神の周囲を神々しい光が包みこむ。その光が柚月をふんわり包みこむ。それは、とても心地よい、どこか懐かしい感覚。母の胎内にいるような感覚だと直感的に感じた。

『柴田 柚月、そなたは自身の運命を受け止め、現世に未練を残すことなく新たな旅へ進むことになる。基盤の道をわが神力を持って聖なる魂をわが愛し子として、そなたの願いを尊い魂の真なる願いを我の責任において聞き入れよう』

 何度みても、神の微笑みは威力抜群だ。つられて微笑んでしまう。何でもいいから、願いを叶えてください、お願いします。神様ーー。

 すっと三色の光の珠が目の前に浮かぶ。右から黒、緑、白、それぞれ発光している。

『この3色が示すのは、そなたに適する世界だ。ひとつ自身で選びなさい。』

 私は、はじめから何処か白い真珠のような珠にひかれていたので迷わず手で触れる。

「この真珠色がいいです」

『ひとつ聞いておこう。その真珠玉はそなたに興味を示したようだ。そして、そなたも引かれていたのだな。相性は善いだろう。ただ……』

『ただ……地球とは違うところが三つの中で特に多い世界である。常識が異なるからこそ戸惑い、生活すら出来ない可能性もある。相性は魂同士の結果であり、その他は別物だ。難しいことで理解できないかもしれないが……』

 つまり、からだと心は違うということ? ん?

『イメージでは、地球に住む者は魂としてだけは地球に適した魂である。姿形が変わっても基本型では輪廻は地球で行われる。だが、中には自殺するものも居るだろう? つまりは……そう言うことだ。』

 なるほど。何となくわかった。

『真珠玉の世界では寿命が地球よりも遥かに長くなる。詳しくは言わないが、長い生は良くも悪くもある。それでもそなたは受け入れるか?』

 
多少の躊躇いはあるものの第一、他も地球ではなく特殊な環境ならば直感を信じよう

「問題ありません」

『では、そなたに、我が愛し子に祝福を授けよう。心優しき素直な少女に困難はあれど跳ねのき天へと伸びる力を。ゴニョゴニョ 。』

 すっと近づき柚月の額に口づけをひとつ。『またな、愛し子』そう囁き、頭をひと撫でしたところで意識が落ちた。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...