ただいま

越知 学

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3章

19話

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 13度目の9月11日。少女は軽くブランコを漕ぎながら、独り言のように尋ねてきた。
「あなたは神様を信じますか?」
「僕は信じてるよ。テスト前日には寝る前に必ず儀式をやってる」
「儀式……ですか?」
「そう。まずは自分を鼓舞するために壁に貼っている格言を唱える。そしてベッドに横になって天を見ながら『以前はお力をお貸し頂きありがとうございました。今回もどうぞよろしくお願いします』と暗唱する。8秒間お辞儀をして、最後に科目と目指す点数を決意表明して終わり」
「それは結構なことですね。まさか受験前に、人混みの中並んでお参りするタイプですか?」
「いいや?その時間は勉強にあてるべきだと思ってるから、足を運んだことはないよ。もちろんお守りも自分では買ったことない。そもそも、それで受かるならみんなするでしょ?」
「……変わった人ですね。それで点数は良くなるのですか?」
「必死に勉強して、最後に神頼みしてるからね。どちらのおかげかは分からない。でもしなくて点数が悪くなるのは嫌だから毎回してる」
「あなたのひたむきさには感服いたします」
「菅原道真様はちゃんと見てると思うよ」
「太宰府天満宮に行ったことは?」
「ないよ?気軽に行ける距離じゃないし」
「……人のこと言えませんけど、あなたもかなりの変人ですね」
「うん、よく言われる。で?君はどうなの?」
 少女は考える仕草をして、少し悩んだ末に返答する。
「そうですね……あなたには申し訳ないですが私はいないと思います」
「別に気に病むことはないよ。考え方なんて人それぞれだし。でも何でそう思うかは気になるな。聞いてもいい?」
「はい。もちろん私個人の考えですが……神様がいるなら、もう少し平等でもいいんじゃないかと思うんです」
「というと?」
「お姉ちゃんみたいに強く一生懸命生きているのに、苦しい思いばかりするのは不公平だと思うんです。神様がいるなら、もう少し負担を減らして、生きやすくしてくれてもいいと思います。ある人は『神様は乗り越えられる人にしか試練を与えない』と言っていました。だけど、私は違うと思うんです。人間を生み出したのが神様なら、そもそもそんな差別化しなくていいんじゃないでしょうか?『この人には多くの試練を、この人にはこの程度の試練を』なんて分ける必要ないですよね?だからきっと神様なんていなくて、この世界は残酷なんです。こんなことを考える私はおかしいのでしょうか?」
「全くおかしくないよ。少なくとも僕は同じことを考えたことがある。たとえそれがマイノリティーだとしても、それは君の大事な考えだと思う。だから変える必要はないと思うよ」
 少女はホッと胸を撫で下ろした。きっと今まで溜め込んでいたのだろう。
 少女にここまで考え込ませるのもまた、不平等だと思う。
 もし「神様は乗り越えられる人にしか試練を与えない」というのが本当なら、僕のこの状況も乗り越えるための試練なのだろうか。僕は、ただ目の前のそれから逃げているだけなのだろうか?
 僕は負のサイクルに陥る。自分では出せるはずもない答えをぐるぐると探し回る。
 そんな迷宮から救い出してくれたのは少女だった。
「あなたは人を救うことができるのに、自分を助けることはできないのですね。仕方ありません。あなたが窮地に陥った時は、私が手を差し伸べてあげますよ。どんな時でも、何度でも」
 少女は僕に向けて手を差し出す。僕はそれをしっかりと握りしめる。
 僕よりも小さな手。だけれどしっかりと繋がっている。
「ありがとう」
 僕は微笑みながらお礼を言う。
「あなたをファン第一号に認定します」
「まだ引きずってたの?」
「もちろん。将来の夢はアイドルです」
「夢を頻繁に変えられるのは、小学生の特権だね」
「馬鹿にしてるとロリコン認定も課しますよ」
 ……それだけは止めてほしい。世間の目が怖い。
 少女は満面の笑みでこちらを見ている。
 その笑顔は、街を照らすどの灯りよりも明るく輝いていた。
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