17 / 23
3章
17話
しおりを挟む
3度目の9月11日。少女は以前読んだことがあるという本の話をし始めた。
「いくつの頃かは忘れましたが、父の本棚にあった本を試しに読んでみたことがあるんですよ。なんとか最後まで読みきりましたが、内容が難しくてほとんど理解できませんでした。ですがある一文だけは感銘を受けて、今でもはっきり覚えています」
「へー。どんな内容なの?」
「『答えを知るのは簡単だが、大事なのはそれに辿り着く過程にある。与えられた答えと、考え、悩み、気づいた答えとでは重みがまるで違う。もしその導き出した答えが間違えだったとしても、また考えればいい。その間違いは決して無駄にはならない。だから考えるのだ。人に与えられた”思考”という力を存分に発揮せよ』
これは今の私を作っている一部と言っても過言ではありません」
……なるほど。いつか機密事項と言っていたやつの正体か。というか小学生が感銘を受ける文ではない気がする。どれだけませてるの?
「なんだ、てっきりすぐに答えを教えてくれないのは、神様のお告げか何かだと思ってた」
「何言ってるんですか。そんなファンタジーなことそう易々と起こるわけないじゃないですか」
「僕のタイムリープもよほどと思うけど」
「これは一本取られました。座布団一枚差し上げます」
「僕は正座している前提かい?」
「口ごたえは良くないですね。二枚没収です」
「まさかのマイナス⁉僕を地面に埋めるつもり⁉」
お互いに冗談を言い合う。この時間がたまらなく愛おしい。
ずっとこの時間を迎えることができる。それだけでこの一日を生きるに値するものだった。
「でも何でそんな難しい本を読もうとしたの?」
僕は特に意味もなく聞いてみる。
少女もなんてことないといった様子で答えてくれる。
「さあどうでしょうね……きっと早く大人になりたかったんじゃないですか」
「大人に……ね」
「大人の景色はどうなんでしょうね?」
「んーどうだろ。大人も子どもの時代があったわけだし。案外子どもが大きくなってるだけかも。僕も君ぐらいのとき、高校生は大人だと思ってた。だけどいざ高校生になると、全然そんなことなくて、僕はまだまだ幼いままだよ」
「そういうもんですかね」
「僕よりも君の方がよっぽど大人びているよ。羨ましいぐらい」
「私はあなたが羨ましいですよ。少なくとも私にはあなたがすごく大人に見えましたから」
「……結局『隣の芝生は青く見える』ってことだね」
「そうですねぇ」
「僕らって……年はとらないのかな?」
「同じ日にいる限り、年はとらないと思いますよ」
「なんだか不老不死みたいでかっこいいね」
「私は不死鳥を手懐けてますから」
「文鳥ぐらいにしときなよ」
「あなたは鳩で満足しそうですね」
「鳩は平和の象徴だぞ?」
「失礼。あなたが飼われる側でしたね」
「もう鳩を追い掛け回せなくなるじゃないか」
「いい高校生がなに心配しているんですか」
僕らは熟年夫婦のような雰囲気で会話をする。
夕日が沈み、街灯が夜の道を照らしていく。
僕は何度も振り返り、手を振る少女を確認しながら、公園を後にする。
「いくつの頃かは忘れましたが、父の本棚にあった本を試しに読んでみたことがあるんですよ。なんとか最後まで読みきりましたが、内容が難しくてほとんど理解できませんでした。ですがある一文だけは感銘を受けて、今でもはっきり覚えています」
「へー。どんな内容なの?」
「『答えを知るのは簡単だが、大事なのはそれに辿り着く過程にある。与えられた答えと、考え、悩み、気づいた答えとでは重みがまるで違う。もしその導き出した答えが間違えだったとしても、また考えればいい。その間違いは決して無駄にはならない。だから考えるのだ。人に与えられた”思考”という力を存分に発揮せよ』
これは今の私を作っている一部と言っても過言ではありません」
……なるほど。いつか機密事項と言っていたやつの正体か。というか小学生が感銘を受ける文ではない気がする。どれだけませてるの?
「なんだ、てっきりすぐに答えを教えてくれないのは、神様のお告げか何かだと思ってた」
「何言ってるんですか。そんなファンタジーなことそう易々と起こるわけないじゃないですか」
「僕のタイムリープもよほどと思うけど」
「これは一本取られました。座布団一枚差し上げます」
「僕は正座している前提かい?」
「口ごたえは良くないですね。二枚没収です」
「まさかのマイナス⁉僕を地面に埋めるつもり⁉」
お互いに冗談を言い合う。この時間がたまらなく愛おしい。
ずっとこの時間を迎えることができる。それだけでこの一日を生きるに値するものだった。
「でも何でそんな難しい本を読もうとしたの?」
僕は特に意味もなく聞いてみる。
少女もなんてことないといった様子で答えてくれる。
「さあどうでしょうね……きっと早く大人になりたかったんじゃないですか」
「大人に……ね」
「大人の景色はどうなんでしょうね?」
「んーどうだろ。大人も子どもの時代があったわけだし。案外子どもが大きくなってるだけかも。僕も君ぐらいのとき、高校生は大人だと思ってた。だけどいざ高校生になると、全然そんなことなくて、僕はまだまだ幼いままだよ」
「そういうもんですかね」
「僕よりも君の方がよっぽど大人びているよ。羨ましいぐらい」
「私はあなたが羨ましいですよ。少なくとも私にはあなたがすごく大人に見えましたから」
「……結局『隣の芝生は青く見える』ってことだね」
「そうですねぇ」
「僕らって……年はとらないのかな?」
「同じ日にいる限り、年はとらないと思いますよ」
「なんだか不老不死みたいでかっこいいね」
「私は不死鳥を手懐けてますから」
「文鳥ぐらいにしときなよ」
「あなたは鳩で満足しそうですね」
「鳩は平和の象徴だぞ?」
「失礼。あなたが飼われる側でしたね」
「もう鳩を追い掛け回せなくなるじゃないか」
「いい高校生がなに心配しているんですか」
僕らは熟年夫婦のような雰囲気で会話をする。
夕日が沈み、街灯が夜の道を照らしていく。
僕は何度も振り返り、手を振る少女を確認しながら、公園を後にする。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる