ただいま

越知 学

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2章

13話

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「私にはとても大好きな親戚のお姉ちゃんがいました。私の両親は共働きだったため、よくお姉ちゃんの家にお世話になってたんですよ。周りは両親が相手にしてくれなくて可哀想と私を哀れみましたが、私は全くそんなことありませんでした。むしろ、お姉ちゃんとの時間は何よりも大切で、ずっとこの時が続けば良いのにと思っていました。
 お姉ちゃんは本当の姉のように接してくれて、とっても嬉しかったんです。お姉ちゃんは先天的な障害を持っていました。だけど、強く逞しく生きていました。その姿は私の憧れでした。将来の夢は『お姉ちゃんみたいになること』と宣言するぐらい尊敬していました」
 少女の声が少しずつ濁っていく。
「でも、ある日両親からもうお姉ちゃんと会ってはいけないと言われました。その時は理由を教えてくれず、一人でお姉ちゃんの家に行けるほどの力が無かったので、何もなす術がありませんでした。
 一年後小学生になるとともに、しつこく母にお姉ちゃんに会いたいとせがみました。すると母は、悪びれる様子もなく言いました。『あの子は言葉が話せないうえに、両親がいなくなってきっと不安定な状態だわ。そんな状況で会ってもあなたに悪影響が及ぶだけよ。ただでさえコミュニケーションがとりづらいのに何をしてくるか分かったもんじゃないわ。だから会うのはダメよ』
 正直母が何を言っているのか全く理解できませんでした。ただ一つ言えるのは、母は強く生きるお姉ちゃんを見下しているということです。それ以来、母の言葉や考えを疑うようになりました」
 少女の頬には涙が伝っていた。
「小学5年生の時、私はお姉ちゃんに会いに行くことを決めました。もしかしたら私の知っている家にはもういなくて、施設にいるかもしれないし、他の親戚の家にいるかもしれない。だけど、行けば必ず会える、何かが変わると信じて私は向かいました。10分ほど歩いたでしょうか。記憶をたどった末に辿り着いた場所は……更地でした。
 その後一時間かけて周辺を歩きましたが、お姉ちゃんの家を見つけることは叶いませんでした。私は更地に戻り、泣きながら誰もいない場所に問いかけました。『お姉ちゃんはどこにいるの?』と。すると、脳に強い信号が伝わるような感覚で流れてきたんです」
 少女は何度か腕で涙をぬぐい、訴えかけるように語る。
「『麻衣ちゃん、泣かないで。ずっと会えなくてごめんね。麻衣ちゃんのご両親からもう会わないでほしいと言われて、無力な私は何もすることができなかった。本当にごめんなさい。私は……もうこの世にはいません。大好きで大切な人のためにこの身を捧げたんだ。後悔は全くないよ。むしろ命を預けてもいいと思える人に出会えたことが何よりも幸せ。麻衣ちゃんにもそんな存在が現れてくれることを心から願っているよ』
 初めて聞いたその声は直観的にお姉ちゃんであることが分かりました。私は拭っても拭っても間に合わないくらい大泣きしました。私にとってお姉ちゃんがそういう存在だったのに。ずっと大切にしたかった人なのにと思いました。私はこれからどうすればいいのか分からなくなってしまいました」
 でもその後、と少女は続ける。
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