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1章
6話
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その後も、同じような日々を何度も繰り返した。体感で言えば2週間ほど経った気がするが、9月10日から全く進まない。一言も話さずに家を出て、授業を受ける。そして帰りに公園に行き少女を見かける。それの繰り返しだった。
僕はこのループを抜け出すためにいろんな違うことを試した。
いつもより遠回りの道で学校へ登校してみる。
おかずの食べる順番を変えてみる。
学校が終わっても、少しだけ教室に残ってみる。
しかしどの方法も失敗に終わった。抜け出す手がかりさえ見出せなかった。
もっと大きなことを変えてみようと試みたが、それはできなかった。
大きな行動変化を起こそうという考えまでは思いつくが、それを実行しようとすると大きな自制が働いてしまう。その自制がなぜ働いてしまうのか、全く理解できなかった。
9月10日を繰り返して15周目、僕はある決心をする。
「あの少女に話を聞いてみよう」
親でもなく友人でもなく、少女に話を聞こうとしたのは正直自分でも分からない。ただ、吸い寄せられるように僕は公園に行き、ベンチに座らずブランコの方へ駆け寄った。
「待ってましたよ」
少女が僕に向けて発した最初の言葉である。
「はっ?」
「ここにたどり着くまでに2週間も費やすなんて。もしかしてあなたは優柔不断ですか?」
……いや間違ってはないけど。小学生にそんな風に言われるのはなんか癪だな。
「何でも知ってる風な言い草だな」
「もちろん。私は観測者ですから。何でも知ってますよ」
「何でもって……。ほんとに何でも?」
「……あなたのことは何でも知っています」
……めっちゃ限局的じゃん。それに観測者?何言ってるんだこの子。
「私はずっとここであなたが声を掛けてくれるのを待っていました。もう待ちくたびれましたよ。時間を返してください!」
……僕まだ一日も前に進んでないんだけど。
「まあでもあなたから行動を起こしてもらわないと、私は何もできませんから。とりあえずは一歩前進ですかね」
「さっきから何を言っているんだ?僕全然追いつけてないんだけど」
僕は少女のペースに飲まれまいと口を挟んだ。
しかし少女はマウントを譲らない。
「ループの現象。知りたいのではありませんか?」
「……なんでそれを知っているんだ?」
「だから言ったではありませんか。私はあなたの観測者です。同じ空間にいなくても、あなたの行動は全て把握しています」
……何を言っているのかさっぱり分からない。
「あなたは過ちを犯しませんでした。大きな行動変化を伴えば、過去改変が起こってしまいかねません。まあ私がそうならないようにあなたの自制を強めたおかげかもしれませんけどね。感謝してください」
……こんなにも小学生から舐められている感覚は初めてだ。
「あなたは今、簡単に言えば同じ空間に閉じ込められている状態です。そこから抜け出すためにはあなたの考え方を変えるしか方法はありません。そしてそれに気づけるのもあなただけです。私は助言することしかできません」
ーー考え方を変える。
頑固な僕に突き付けられたその言葉は、胸の奥に強く刺さる。
「何か思い当たる節があるようですね。それを行動に移せばいいだけですよ」
「……それをすれば僕はもとに戻れるのか?」
「本当に正しい方法をとれれば、もちろん戻れますよ」
少女の言う通り、僕には思い当たる節があった。
僕は家に帰りたくないと感じていた。酷い言葉を言ってしまった母に顔向けできないと思ったからだ。もしその思いが、今日を永遠に繰り返すトリガーになっているのならーー。
「難しい成り行きは分からないけど、ありがとう。僕やってみるよ」
「礼には及びませんよ。明日を迎えられるといいですね」
……なんか他人行儀だな。
「じゃあ」
僕はそう言って、少女に軽くお辞儀をした後、自分の家の方向に向かって歩き始める。
明日の状況がこんなにも気になるのは初めてだった。
僕はこのループを抜け出すためにいろんな違うことを試した。
いつもより遠回りの道で学校へ登校してみる。
おかずの食べる順番を変えてみる。
学校が終わっても、少しだけ教室に残ってみる。
しかしどの方法も失敗に終わった。抜け出す手がかりさえ見出せなかった。
もっと大きなことを変えてみようと試みたが、それはできなかった。
大きな行動変化を起こそうという考えまでは思いつくが、それを実行しようとすると大きな自制が働いてしまう。その自制がなぜ働いてしまうのか、全く理解できなかった。
9月10日を繰り返して15周目、僕はある決心をする。
「あの少女に話を聞いてみよう」
親でもなく友人でもなく、少女に話を聞こうとしたのは正直自分でも分からない。ただ、吸い寄せられるように僕は公園に行き、ベンチに座らずブランコの方へ駆け寄った。
「待ってましたよ」
少女が僕に向けて発した最初の言葉である。
「はっ?」
「ここにたどり着くまでに2週間も費やすなんて。もしかしてあなたは優柔不断ですか?」
……いや間違ってはないけど。小学生にそんな風に言われるのはなんか癪だな。
「何でも知ってる風な言い草だな」
「もちろん。私は観測者ですから。何でも知ってますよ」
「何でもって……。ほんとに何でも?」
「……あなたのことは何でも知っています」
……めっちゃ限局的じゃん。それに観測者?何言ってるんだこの子。
「私はずっとここであなたが声を掛けてくれるのを待っていました。もう待ちくたびれましたよ。時間を返してください!」
……僕まだ一日も前に進んでないんだけど。
「まあでもあなたから行動を起こしてもらわないと、私は何もできませんから。とりあえずは一歩前進ですかね」
「さっきから何を言っているんだ?僕全然追いつけてないんだけど」
僕は少女のペースに飲まれまいと口を挟んだ。
しかし少女はマウントを譲らない。
「ループの現象。知りたいのではありませんか?」
「……なんでそれを知っているんだ?」
「だから言ったではありませんか。私はあなたの観測者です。同じ空間にいなくても、あなたの行動は全て把握しています」
……何を言っているのかさっぱり分からない。
「あなたは過ちを犯しませんでした。大きな行動変化を伴えば、過去改変が起こってしまいかねません。まあ私がそうならないようにあなたの自制を強めたおかげかもしれませんけどね。感謝してください」
……こんなにも小学生から舐められている感覚は初めてだ。
「あなたは今、簡単に言えば同じ空間に閉じ込められている状態です。そこから抜け出すためにはあなたの考え方を変えるしか方法はありません。そしてそれに気づけるのもあなただけです。私は助言することしかできません」
ーー考え方を変える。
頑固な僕に突き付けられたその言葉は、胸の奥に強く刺さる。
「何か思い当たる節があるようですね。それを行動に移せばいいだけですよ」
「……それをすれば僕はもとに戻れるのか?」
「本当に正しい方法をとれれば、もちろん戻れますよ」
少女の言う通り、僕には思い当たる節があった。
僕は家に帰りたくないと感じていた。酷い言葉を言ってしまった母に顔向けできないと思ったからだ。もしその思いが、今日を永遠に繰り返すトリガーになっているのならーー。
「難しい成り行きは分からないけど、ありがとう。僕やってみるよ」
「礼には及びませんよ。明日を迎えられるといいですね」
……なんか他人行儀だな。
「じゃあ」
僕はそう言って、少女に軽くお辞儀をした後、自分の家の方向に向かって歩き始める。
明日の状況がこんなにも気になるのは初めてだった。
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