とくべつなきみへ

越知 学

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二人の想い(完結)

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***

 昇降口を出て、校門へ向かう。
 さっき出したばかりのはずのため息がまたこぼれてしまった。
 その深く白い吐息は、空気の存在することを再認識させる。
 ……あぁ、ため息って恋みたいだ。
 どこか儚げで、私のもとから去ってしまう。
 ……いや、去っていったのは私の方なのかもしれない。
 踏み込むのが怖くて、嫌われるのが怖くて、私の方から距離をおいたんだ。
 私にできることはないと決めつけたのは私だ。
 想いをどんなに底深く沈めても、空気の入ったボールのように簡単に浮き出てしまう。
 そういえば、いつか彼が私の知らないアニメの受け売りで言っていたな。
「恋は落ちるもの、愛は昇るもの。太陽と一緒だよ」
 もしかしたら、私たちはもう昇っていたのかもしれない。
 付き合ってすらないけど、この想いはすでに辛さや苦しみを背負ってもなお、進み続けているのかもしれない。
 不意に私たちの笑い声が聞こえたような気がした。
 彼も同じだといいな。
 なら………私にできることはひとつ。

***

 廊下の角を曲がって、階段に差し掛かる。
 自分への嫌悪感をため息にのせて吐き出す。
 室内だというのに、自分の吐息がやけに白く見えた。
 自然に空気と混ざり合うため息のように、僕の方から溶け合えばいいのに……。
 僕のせいで彼女との幸せな時間は終わってしまったんだ。
 周りに人はいるはずなのに、こんなにも不安で寂しいのはなぜだろう。
 今こんなにもあの日々が恋しくて、美しく感じるのはなぜだろう。
 …………。
 …………そうか。
 終わりがあるから今がたまらなく愛おしんだ。
 いつ無くなるか分からないからこそ、一日一日を大切にすることができるんだ。
 人生は死のカウントダウンなんかじゃない。生きた証のカウントアップなんだ。
 たとえこれが僕の自分勝手なエゴだとしても、僕は信じたい。
 不意に僕たちの笑い声が聞こえたような気がした。
 彼女も同じだといいな。
 なら……自分を変えるにはあと一歩。

***

 ガラスを割ってしまうかもしれない。
 彼を戸惑わせるだけかもしれない。
 ……でも。
 ずっと私に寄り添ってほしいなんて言わないから。
 ただ……私のこの想いを届けたい。
 きっと君となら、この日常を変えていける。

***

 彼女も僕も永遠じゃない。
 時には傷つけてしまうかもしれない。
 ……でも。
 ずっと一緒にだなんて贅沢は言わないから。
 ただ……僕のこの想いを届けたい。
 きっと君となら、この日常を変えていける。

***

伝えなきゃ。

***

伝えるんだ。

***

――ずっと好きだった君へ
――ずっと好きだった君へ
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