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男の子の想い
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***
殺伐とした廊下。
そこには単色で無機質な灰色の道が続いていた。
誰が開けたのか、窓の隙間から木枯らしが吹き、ネックウォーマーでは覆い切れていない耳が微かに痛んだ。
まだ16時頃だというのに、陽はもう僕の目線まで来ていた。
『……あの日の夕焼けに似てるな』
家の中から何度も見た夕焼け。「また明日」を伝えるための時間。
隣にいたのは――いつも君だった。
横にいる友人との会話をおざなりにして、そんな昔の思い出を振り返っていると、一つの教室のドア付近まで来た。
その教室は彼女が居る場所だ。
こんな時間にいるのかな?今何してるのかな?
『もしいたら、今度こそ笑顔でちゃんと目を見て、言葉を掛けるんだ』
そう意気込んで、開いたドアから不自然にならないように教室を見る。
『……いた!』
思わず目が見開いてしまう。が、すぐに目を逸らし、視線は行き場をなくす。
どうしようもない自分のヘタレ具合に嫌気がさしていた。
するといつの間にか、彼女は僕と同じ廊下に出ていた。
もちろん目など合う暇もなく、彼女の背中はどんどん小さくなっていき、角を曲がろうとする。
今ならまだ間に合う。なのに、言葉が出てこない。一言、呼び止めるだけでいいのに……。
誰に混乱した心を隠そうとしているのか分からないまま、平然を装う。
……まるで意思と意志が分裂しているみたいだ。
『こんな自分が嫌いだ』
もう一度見た外の景色は窓が曇っていたせいか、光だけを感じるのみで何も見えなかった。
きっかけはお互いが好きなアニメだった。
でもそれはきっかけに過ぎない。
彼女は僕の考える特別の意味を理解してくれる。それだけで十分だった。
彼女は第一印象と違ってよく笑う子だった。
他の人だったら首を傾げる話でも、彼女は笑いに変えてくれる。
名前ではなく、ある登場人物のまねして「君」と呼ぶようにすると、彼女もノってくれた。
「僕とばっかり遊んでて大丈夫?僕はすごく楽しいけど、無理させてないかな?」
ある日、僕は急に心配になってそう問いかけた。
「大丈夫も何も、君といる時間が私も一番楽しいから」
それに友達も多くないし、と本気なのか冗談なのか分からないような口調で言っていた。
僕はすごく嬉しくて、ちょっぴり恥ずかしくて目線を花瓶に移した。
「あの綺麗な花、なんていうの?」
「あーあれはオドントグロッサムだよ。あれの花言葉知ってる?」
「知らない、教えて」
「あの作品に出てくるよ」
彼女はそう言って、また布教活動を始めていた。
彼女の楽しそうな姿を見れるのが、とても幸せだった。
受験も無事に終え、はれて高校生になることができた。
これからもきっと彼女と同じものや時間を共有して楽しく過ごせるのだろうと思った。
しかし――それは高校入学式の当日だった。
僕は夢を見た。
彼女と乗った電車で火災が起き、僕が救われ、彼女が亡くなった夢。
――僕は必死に彼女の手を掴んでいた。黒煙の中、怪我を負った僕らは必死に椅子を伝って出口を目指した。
一人の大人が来て僕を抱きかかえようとした。その反動で繋いでいた手が離れてしまい、彼女がどこにいるか分からなくなってしまった。
声を出そうにも声が出ない。まだ呼んだことのない彼女の名前が喉のすぐそこまで来てるのに――。
そんな不吉な夢を見たのは初めてだった。
嫌な気分で目覚め、階段を降りていると、テレビでバスの交通事故に関するニュースが聞こえていた。
何度も「死亡」という言葉がこだまする。
その時僕は、初めて特別を失う感覚に襲われた。
僕らは人間であり、どんなに大切なものでもいつかは失くしてしまうことに気づいてしまった。
それは僕だけでなく、彼女も同じ。
つまり彼女は僕のせいで傷ついてしまうかもしれない。
……そんなの嫌だ。
彼女がいなくなることも、彼女が傷つくのも嫌だ。
だったら僕は、いらない――。
殺伐とした廊下。
そこには単色で無機質な灰色の道が続いていた。
誰が開けたのか、窓の隙間から木枯らしが吹き、ネックウォーマーでは覆い切れていない耳が微かに痛んだ。
まだ16時頃だというのに、陽はもう僕の目線まで来ていた。
『……あの日の夕焼けに似てるな』
家の中から何度も見た夕焼け。「また明日」を伝えるための時間。
隣にいたのは――いつも君だった。
横にいる友人との会話をおざなりにして、そんな昔の思い出を振り返っていると、一つの教室のドア付近まで来た。
その教室は彼女が居る場所だ。
こんな時間にいるのかな?今何してるのかな?
『もしいたら、今度こそ笑顔でちゃんと目を見て、言葉を掛けるんだ』
そう意気込んで、開いたドアから不自然にならないように教室を見る。
『……いた!』
思わず目が見開いてしまう。が、すぐに目を逸らし、視線は行き場をなくす。
どうしようもない自分のヘタレ具合に嫌気がさしていた。
するといつの間にか、彼女は僕と同じ廊下に出ていた。
もちろん目など合う暇もなく、彼女の背中はどんどん小さくなっていき、角を曲がろうとする。
今ならまだ間に合う。なのに、言葉が出てこない。一言、呼び止めるだけでいいのに……。
誰に混乱した心を隠そうとしているのか分からないまま、平然を装う。
……まるで意思と意志が分裂しているみたいだ。
『こんな自分が嫌いだ』
もう一度見た外の景色は窓が曇っていたせいか、光だけを感じるのみで何も見えなかった。
きっかけはお互いが好きなアニメだった。
でもそれはきっかけに過ぎない。
彼女は僕の考える特別の意味を理解してくれる。それだけで十分だった。
彼女は第一印象と違ってよく笑う子だった。
他の人だったら首を傾げる話でも、彼女は笑いに変えてくれる。
名前ではなく、ある登場人物のまねして「君」と呼ぶようにすると、彼女もノってくれた。
「僕とばっかり遊んでて大丈夫?僕はすごく楽しいけど、無理させてないかな?」
ある日、僕は急に心配になってそう問いかけた。
「大丈夫も何も、君といる時間が私も一番楽しいから」
それに友達も多くないし、と本気なのか冗談なのか分からないような口調で言っていた。
僕はすごく嬉しくて、ちょっぴり恥ずかしくて目線を花瓶に移した。
「あの綺麗な花、なんていうの?」
「あーあれはオドントグロッサムだよ。あれの花言葉知ってる?」
「知らない、教えて」
「あの作品に出てくるよ」
彼女はそう言って、また布教活動を始めていた。
彼女の楽しそうな姿を見れるのが、とても幸せだった。
受験も無事に終え、はれて高校生になることができた。
これからもきっと彼女と同じものや時間を共有して楽しく過ごせるのだろうと思った。
しかし――それは高校入学式の当日だった。
僕は夢を見た。
彼女と乗った電車で火災が起き、僕が救われ、彼女が亡くなった夢。
――僕は必死に彼女の手を掴んでいた。黒煙の中、怪我を負った僕らは必死に椅子を伝って出口を目指した。
一人の大人が来て僕を抱きかかえようとした。その反動で繋いでいた手が離れてしまい、彼女がどこにいるか分からなくなってしまった。
声を出そうにも声が出ない。まだ呼んだことのない彼女の名前が喉のすぐそこまで来てるのに――。
そんな不吉な夢を見たのは初めてだった。
嫌な気分で目覚め、階段を降りていると、テレビでバスの交通事故に関するニュースが聞こえていた。
何度も「死亡」という言葉がこだまする。
その時僕は、初めて特別を失う感覚に襲われた。
僕らは人間であり、どんなに大切なものでもいつかは失くしてしまうことに気づいてしまった。
それは僕だけでなく、彼女も同じ。
つまり彼女は僕のせいで傷ついてしまうかもしれない。
……そんなの嫌だ。
彼女がいなくなることも、彼女が傷つくのも嫌だ。
だったら僕は、いらない――。
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