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第7章 老狐の野望
その7 今なら無料で〇〇放題!
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華やかな会場から一歩外に出るとフロアにはほとんど人影がない。
彼はキョロキョロと辺りを見まわす。先ほど踊っていた年の差カップルが受付の正面のエレベーターに乗って階下に降りてゆく。
右手の奥の見覚えのあるドアをノックする。着替えを手伝ってくれた女性スタッフが同じ笑顔で出迎えてくれる。極彩色の熱帯魚のような女の群れを眺めた目にはキリリと引き締まったスーツ姿が魅力的に映る。
「もう、お帰りですか?」
「ああ…まあ、そうだね」
彼の口からは気の利いたセリフなど出てこない。預けた服と手荷物を受け取るために着なれないタキシードのポケットを探って身分証明携帯端末を引っ張りだす。
「拝見いたします」
「うん」
「あの、お客様…」
「なにかな」
「ご招待特典は、お使いにならないのですか?」
「え…?」
女性スタッフがディスプレイをタップすると彼が見惚れていた愛の奴隷の画像が展開する。ふたたびタップすると全裸の女がベッドから起きあがり画面を抜け出して彼の耳もとで囁く。
「嬉しい特典のお知らせです。当日はお気に入りの愛の奴隷がご主人様に無料でご奉仕いたします。会場でのロマンチックな出会いから始まる至福のひと時をお楽しみください。但し、特典のご利用はお一人様一回限りとさせて頂きます。ご奉仕の内容はお気軽にパートナーにお尋ねください」
女は人差し指をピンと立てて真っ赤な唇に押しあてる。指に沿ってねっとり舌を這わせると悪戯好きの子猫のようにゴロンとベッドに横たわる。
「こ、これは…」
「ご承知とは思いますが、今回のパーティーはトキオ市の公娼制度復活を記念する公式行事です。関係事業者の団体に市が全面的に協力して、ご利用資格のある選択的非婚者の皆様にこの制度をご理解頂いたうえで、今後のご活用をお願いしています」
「あ…ああ、そうだったね」
「お気に入りのパートナーが見つかりませんでしたか?」
「ま、あの…わたしの趣味ではないかな」
「そうですよね。男性にも、この制度に反対される方がいらっしゃいますから。私も個人的にはあまり賛成できません。いくら税収が上がっても、トキオ市が妓楼の街になるのはどうかなって思うんです」
「うん…君の考えは、間違っていないよ」
「お客様のような方にそういって頂けるとホッとします。まだ若いのに頭が固いっていわれるんですよ」
「ああ、そうなんだ」
「あ、済みません。つい余計なことを話してしまって…」
彼は愛想のいい女性スタッフの肉づきの良いむっちりとした体をチラチラと眺めている。頭の中には若い女を連れてエレベーターで降りていった自分と同じ中年男のにやけた顔が浮かんでいる。
「では、こちらでお帰りの手続きをいたしますね。特典の有効期間も満了とさせて頂きます」
「あ、ちょっと!」
彼はあたふたと身分証明携帯端末を取り戻す。
「いや、あのね…どうも会場に忘れ物をしたようだ」
「あ、それはいけませんね。なにをお忘れですか? 仰っていただければ、わたくしが取りに参ります」
「ううん、いいんだ、自分で行くから」
彼はドアにむかって歩きだす。飲み慣れない酒を飲んだせいか頭がふらついている。携帯端末を握りしめた手がじっとりと汗ばんでいる。
戸口で振り返ると女性スタッフがへその前で手を組んでいる。スーツの下に隠れた豊かな胸がグイと盛り上がる。膝上のタイトスカートがまん丸のヒップラインにピッタリと張りついている。
彼の喉ぼとけがゴクリと動く。
「あの、君は…」
「はい?」
「どうなんだい…その…相手をしてくれるのかな?」
「お客様、わたくしはお手伝いの市の職員です。残念ですがご希望には…」
「あ…そうだよね、もちろん」
「それに会場には、もっと素敵な方がいらっしゃいますよ」
「いや、わたしはただ忘れ物を…」
「はい、承知しております」
「うん、ありがとう」
「では、お気をつけて」
女性スタッフが頭を下げる。彼は腰が引けた奇妙な歩き方でフラフラと外に出てゆく。ドアが閉まった途端に女性スタッフがクスクスと笑いだす。
彼はパンパンに膨らんだ自分の股間にまだ気づいていない。
彼はキョロキョロと辺りを見まわす。先ほど踊っていた年の差カップルが受付の正面のエレベーターに乗って階下に降りてゆく。
右手の奥の見覚えのあるドアをノックする。着替えを手伝ってくれた女性スタッフが同じ笑顔で出迎えてくれる。極彩色の熱帯魚のような女の群れを眺めた目にはキリリと引き締まったスーツ姿が魅力的に映る。
「もう、お帰りですか?」
「ああ…まあ、そうだね」
彼の口からは気の利いたセリフなど出てこない。預けた服と手荷物を受け取るために着なれないタキシードのポケットを探って身分証明携帯端末を引っ張りだす。
「拝見いたします」
「うん」
「あの、お客様…」
「なにかな」
「ご招待特典は、お使いにならないのですか?」
「え…?」
女性スタッフがディスプレイをタップすると彼が見惚れていた愛の奴隷の画像が展開する。ふたたびタップすると全裸の女がベッドから起きあがり画面を抜け出して彼の耳もとで囁く。
「嬉しい特典のお知らせです。当日はお気に入りの愛の奴隷がご主人様に無料でご奉仕いたします。会場でのロマンチックな出会いから始まる至福のひと時をお楽しみください。但し、特典のご利用はお一人様一回限りとさせて頂きます。ご奉仕の内容はお気軽にパートナーにお尋ねください」
女は人差し指をピンと立てて真っ赤な唇に押しあてる。指に沿ってねっとり舌を這わせると悪戯好きの子猫のようにゴロンとベッドに横たわる。
「こ、これは…」
「ご承知とは思いますが、今回のパーティーはトキオ市の公娼制度復活を記念する公式行事です。関係事業者の団体に市が全面的に協力して、ご利用資格のある選択的非婚者の皆様にこの制度をご理解頂いたうえで、今後のご活用をお願いしています」
「あ…ああ、そうだったね」
「お気に入りのパートナーが見つかりませんでしたか?」
「ま、あの…わたしの趣味ではないかな」
「そうですよね。男性にも、この制度に反対される方がいらっしゃいますから。私も個人的にはあまり賛成できません。いくら税収が上がっても、トキオ市が妓楼の街になるのはどうかなって思うんです」
「うん…君の考えは、間違っていないよ」
「お客様のような方にそういって頂けるとホッとします。まだ若いのに頭が固いっていわれるんですよ」
「ああ、そうなんだ」
「あ、済みません。つい余計なことを話してしまって…」
彼は愛想のいい女性スタッフの肉づきの良いむっちりとした体をチラチラと眺めている。頭の中には若い女を連れてエレベーターで降りていった自分と同じ中年男のにやけた顔が浮かんでいる。
「では、こちらでお帰りの手続きをいたしますね。特典の有効期間も満了とさせて頂きます」
「あ、ちょっと!」
彼はあたふたと身分証明携帯端末を取り戻す。
「いや、あのね…どうも会場に忘れ物をしたようだ」
「あ、それはいけませんね。なにをお忘れですか? 仰っていただければ、わたくしが取りに参ります」
「ううん、いいんだ、自分で行くから」
彼はドアにむかって歩きだす。飲み慣れない酒を飲んだせいか頭がふらついている。携帯端末を握りしめた手がじっとりと汗ばんでいる。
戸口で振り返ると女性スタッフがへその前で手を組んでいる。スーツの下に隠れた豊かな胸がグイと盛り上がる。膝上のタイトスカートがまん丸のヒップラインにピッタリと張りついている。
彼の喉ぼとけがゴクリと動く。
「あの、君は…」
「はい?」
「どうなんだい…その…相手をしてくれるのかな?」
「お客様、わたくしはお手伝いの市の職員です。残念ですがご希望には…」
「あ…そうだよね、もちろん」
「それに会場には、もっと素敵な方がいらっしゃいますよ」
「いや、わたしはただ忘れ物を…」
「はい、承知しております」
「うん、ありがとう」
「では、お気をつけて」
女性スタッフが頭を下げる。彼は腰が引けた奇妙な歩き方でフラフラと外に出てゆく。ドアが閉まった途端に女性スタッフがクスクスと笑いだす。
彼はパンパンに膨らんだ自分の股間にまだ気づいていない。
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