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第7章 老狐の野望
その2 緑色の目の怪物
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執事が玄関の扉を閉める。
屋敷の空気が冷えてしんと静まり返っている。キュリオは老人の真似をして後ろ手を組み正面の階段の前を行ったり来たりする。
「ああ、ボクだけ留守番か」
「はい、キュリオ様。さて、今夜はなにをなさいます?」
「そうだ、久しぶりにおじ様とお話がしたいな…」
「いや、それは…旦那様がお留守の間に、あまり勝手なことは…」
「ええ、いいじゃない。ボクとおじ様は仲良しなんだ。いつでも、遊びに来なさいっていってるよ」
「それは、そうですが…」
キュリオは思わせ振りに執事の周りを歩き回る。
「あのさ、カトウ、面白いことを教えてあげようか?」
「はい、なんでしょう?」
「あのね…」
キュリオが執事に耳打ちする。
「まさか、モナが…」
「ホントだよ」
「ですが…」
執事はハンカチを取り出して額の汗を拭う。
「嘘だと思うなら、確かめて見なよ」
「しかし、なぜ、洗濯室で…」
「ふふ、それはね…」
キュリオはふたたび耳打ちをする。
「なるほど、旦那様の下着とは…」
「そういうのを、セイヘキっていうんでしょ?」
「キュリオ様、よくご存じで…」
「うん、おじい様がいつもいってるよ。セイヘキさえ押さえれば、人は思い通りに動かせるって」
「なるほど、さすがは旦那様…」
「それで、どうするの?」
執事はコホンと咳払いをする。
「使用人の躾は執事の役目でございます。モナのことは、お任せください…いや、どうも貴重なお話をありがとうございます」
「それじゃあ、ボクのお願いも聞いてくれるね?」
「そうですね…特別ですよ、旦那様には内緒にしてください」
「もちろんさ」
キュリオは天使のようなほほえみを浮かべる。
二人は階段を上り老人の書斎にむかう。
執事が鍵を開けキュリオを中に通す。老人の椅子に座って机の上のパネルを指先で操作する。数分かけてお膳立てを済ませる。
「では、お話が済んだらお呼びください」
頭を下げて部屋を立ち去ってゆく。
キュリオは老人の机にむかって座っている。
手のひらで空間をスワイプすると物理的実体投射装置が立ち上がる。キュリオの意識と感覚が合流点に転送される。
木陰のベンチの上で口ひげを綺麗に手入れした男が本を読んでいる。
キュリオが手を振りながら男にむかって走り寄る。男は本を閉じて立ち上がる。二人は固く抱き合うと手をつないでベンチに腰を下ろす。
「やあ、キュリオ君」
「おじ様、忙しいのにゴメンね」
「良いんだよ、君ならいつでも大歓迎だ」
「ねえ、どうして家に遊びに来てくれないの?」
「いや、近頃はご老人が私を呼んでくれなくてね」
「ふーん、そうなんだ…ボク、おじ様に会えなくて淋しいよ」
「私もさ…この前は楽しかったね」
「うん、とっても素敵な時間だった」
「さあ、もっと良く顔を見せてくれ」
男の両手が伸びてキュリオの頬を挟む。キュリオは目をつぶる。男は顔を近づけてキュリオの唇を舌先でチロチロと舐める。
「うん…」
男は唇の間に舌を割り込ませると上顎を舐め口の中を掻きまわす。両腕を背中に回して細い体をグイグイと抱き寄せる。キュリオはベンチに後ろ手ついて倒れそうな体を支えている。
キュリオの手が男をそっと押し戻す。
「…おじ様、ダメだよ」
「済まない、つい夢中になってしまった」
「ううん、いいんだ…また、今度ね」
キュリオは媚びるようなほほえみを浮かべる。
「…そうだ、今日はどんなお願いかな?」
「別に、なんでもないよ。ただおじ様の顔が見たかったんだ」
「遠慮はいらないよ。さあ、いいなさい」
「でも…ああ、そういえば、息子さんはお元気なの?」
男の顔が曇る。頭を振って深く溜息をつく。
「あれか…まあ、なんというか、相変わらずだ」
「そう、大変だね」
「まったく、あいつの性癖ときたら、実の息子ながら虫唾が走る」
「そんなこといっちゃだめだよ。可哀そうだ」
「キュリオ君は、優しいからな。君が実の息子なら…」
「別荘でひとり暮らしでしょう? きっと淋しいんだ。優しく世話をしてくれる人が必要だよ」
「と、いうと?」
「おじ様は、モナを知っているよね」
「うん…ああ、君のところのメイドだね。それがなにか?」
「今度、家の仕事を止めて別のお屋敷に行くことになったんだ。それで、おじ様のところでどうかなって…」
「いや、せっかくだが、遠慮しておこう。もちろん、あの娘のせいではないよ。うちの息子の世話は、ちょっと務まらないだろう」
「普通ならね。でもね、おじい様は、いまモナに面白いことをしてるんだ」
「どういうことかな?」
「それはね…」
爽やかな風の吹くベンチの上で二人の会話が続く。
書斎はすでに暗くなっている。全身をスーツに包まれたキュリオが老人の椅子の上で身じろぎもせずに座っている。
机の上のタッチパネルが緑色に光っている。
屋敷の空気が冷えてしんと静まり返っている。キュリオは老人の真似をして後ろ手を組み正面の階段の前を行ったり来たりする。
「ああ、ボクだけ留守番か」
「はい、キュリオ様。さて、今夜はなにをなさいます?」
「そうだ、久しぶりにおじ様とお話がしたいな…」
「いや、それは…旦那様がお留守の間に、あまり勝手なことは…」
「ええ、いいじゃない。ボクとおじ様は仲良しなんだ。いつでも、遊びに来なさいっていってるよ」
「それは、そうですが…」
キュリオは思わせ振りに執事の周りを歩き回る。
「あのさ、カトウ、面白いことを教えてあげようか?」
「はい、なんでしょう?」
「あのね…」
キュリオが執事に耳打ちする。
「まさか、モナが…」
「ホントだよ」
「ですが…」
執事はハンカチを取り出して額の汗を拭う。
「嘘だと思うなら、確かめて見なよ」
「しかし、なぜ、洗濯室で…」
「ふふ、それはね…」
キュリオはふたたび耳打ちをする。
「なるほど、旦那様の下着とは…」
「そういうのを、セイヘキっていうんでしょ?」
「キュリオ様、よくご存じで…」
「うん、おじい様がいつもいってるよ。セイヘキさえ押さえれば、人は思い通りに動かせるって」
「なるほど、さすがは旦那様…」
「それで、どうするの?」
執事はコホンと咳払いをする。
「使用人の躾は執事の役目でございます。モナのことは、お任せください…いや、どうも貴重なお話をありがとうございます」
「それじゃあ、ボクのお願いも聞いてくれるね?」
「そうですね…特別ですよ、旦那様には内緒にしてください」
「もちろんさ」
キュリオは天使のようなほほえみを浮かべる。
二人は階段を上り老人の書斎にむかう。
執事が鍵を開けキュリオを中に通す。老人の椅子に座って机の上のパネルを指先で操作する。数分かけてお膳立てを済ませる。
「では、お話が済んだらお呼びください」
頭を下げて部屋を立ち去ってゆく。
キュリオは老人の机にむかって座っている。
手のひらで空間をスワイプすると物理的実体投射装置が立ち上がる。キュリオの意識と感覚が合流点に転送される。
木陰のベンチの上で口ひげを綺麗に手入れした男が本を読んでいる。
キュリオが手を振りながら男にむかって走り寄る。男は本を閉じて立ち上がる。二人は固く抱き合うと手をつないでベンチに腰を下ろす。
「やあ、キュリオ君」
「おじ様、忙しいのにゴメンね」
「良いんだよ、君ならいつでも大歓迎だ」
「ねえ、どうして家に遊びに来てくれないの?」
「いや、近頃はご老人が私を呼んでくれなくてね」
「ふーん、そうなんだ…ボク、おじ様に会えなくて淋しいよ」
「私もさ…この前は楽しかったね」
「うん、とっても素敵な時間だった」
「さあ、もっと良く顔を見せてくれ」
男の両手が伸びてキュリオの頬を挟む。キュリオは目をつぶる。男は顔を近づけてキュリオの唇を舌先でチロチロと舐める。
「うん…」
男は唇の間に舌を割り込ませると上顎を舐め口の中を掻きまわす。両腕を背中に回して細い体をグイグイと抱き寄せる。キュリオはベンチに後ろ手ついて倒れそうな体を支えている。
キュリオの手が男をそっと押し戻す。
「…おじ様、ダメだよ」
「済まない、つい夢中になってしまった」
「ううん、いいんだ…また、今度ね」
キュリオは媚びるようなほほえみを浮かべる。
「…そうだ、今日はどんなお願いかな?」
「別に、なんでもないよ。ただおじ様の顔が見たかったんだ」
「遠慮はいらないよ。さあ、いいなさい」
「でも…ああ、そういえば、息子さんはお元気なの?」
男の顔が曇る。頭を振って深く溜息をつく。
「あれか…まあ、なんというか、相変わらずだ」
「そう、大変だね」
「まったく、あいつの性癖ときたら、実の息子ながら虫唾が走る」
「そんなこといっちゃだめだよ。可哀そうだ」
「キュリオ君は、優しいからな。君が実の息子なら…」
「別荘でひとり暮らしでしょう? きっと淋しいんだ。優しく世話をしてくれる人が必要だよ」
「と、いうと?」
「おじ様は、モナを知っているよね」
「うん…ああ、君のところのメイドだね。それがなにか?」
「今度、家の仕事を止めて別のお屋敷に行くことになったんだ。それで、おじ様のところでどうかなって…」
「いや、せっかくだが、遠慮しておこう。もちろん、あの娘のせいではないよ。うちの息子の世話は、ちょっと務まらないだろう」
「普通ならね。でもね、おじい様は、いまモナに面白いことをしてるんだ」
「どういうことかな?」
「それはね…」
爽やかな風の吹くベンチの上で二人の会話が続く。
書斎はすでに暗くなっている。全身をスーツに包まれたキュリオが老人の椅子の上で身じろぎもせずに座っている。
机の上のタッチパネルが緑色に光っている。
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