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第6章 転落の日々

その4 扉を開けて

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「目覚めたばかりのお前の体は、まだあちこちに秘密の入り口を隠している。この香は鍵となって、お前の感覚をひとつずつ開いてゆく」

 老人はモナの右側に立つと手にした白い羽で頬をそっと撫で上げる。

「あ…」
「お前を求める男たちは、こうしてお前に触れてくる。お前が拒めば手を引くが、隙を見せれば…」

 柔らかな羽が右の頬から唇を巡り左の耳の裏側に回り込む。

「…は…あ」

 モナは口を開いてわずかに首を傾ける。

「ふむ、ここか…どんな気分だ?」
「…変な…感じです」
「どのように?」
「あの…うう…」

「気持ちが良くて、言葉を忘れたか。お前の扉はすでに開いている。わずかな隙間から忍び込んだ快感は渦を巻いて下りてゆく。さて、その行き先は…」

 羽の先が耳たぶを撫で穴の中を掻きまわす。モナは下唇を噛み時おり息を漏らす。やがて下顎が緩んでぽっかりと口が開く。

 老人の動きが止まる。モナが目を開く。夢から覚めたような表情を浮かべる。

「よし、確かめろ」
「え…?」
「おかしくなっている所を、自分の指で確かめろ」

 モナの右手は命じられるままにそろそろと股間に伸びる。人差し指が谷間に沈み込み引き上げられる。モナは目の前に手をかざす。

 人差し指にぬらぬらと光る粘液がまとわりついている。

「あ…いや」

 モナは拳を握りしめ両腕で顔を隠す。

「お前の体は欲しがっているのに頭が認めようとしない。なんと愚かなことだ。モナ、欲望を恐れるな。体を開き、思いを開け。湧き出すものをすべて受け入れろ。そうすれば、ワシがお前に至高の喜びを与えてやる。どうだ、ワシが信じられるか?」
「…はい、旦那様」

 モナは腕を下ろして老人の顔を見上げている。

「よし、それで良い」

 白い羽がふわりと床に落ちる。

「お前の体には、まだモノが必要だ。しばらくは、この指と舌で馴らしてゆこう」

 老人の右手がモナの左胸に触れる。手のひらで乳房を包みゆっくりと揉み上げる。モナはふたたび目を閉じて老人に身を委ねる。

「香はただ入り口を開くだけ。中から現れるのはお前自身の欲望だ。そして、解放された欲望は留まることを知らない」

 老人の指先がモナの乳首をしつこく弄ぶ。やがてモナの息が弾みだす。左膝がきゅっと縮むと腰が捻じれて持ち上がる。

「あっ、あっ、あっ」

 老人は右手で膝を押し戻して左手を首の下に差し入れる。左の乳房を口に含み乳首を強く吸い上げる。

「うう、それは…いや…だめ」

 モナの乳首が固くなる。乳輪に鳥肌が立っている。

「あ…わたし…もう」

 老人が乳首に軽く歯を当てる。

「…イク」

 モナは老人の頭を抱えこみビクンと腰を跳ね上げる。濡れた唇が勃起した乳首からモナの快感を搾りだす。髪が乱れ褐色の肌がブルブルと震えている。

 老人がゆっくりと身を起こす。モナは手足を広げて施術台に横たわっている。絶頂の余韻で全身が痺れている。

 モナは目を開く。虚ろな瞳に老人の姿がぼんやりと映っている。

「旦那様、わたし…」
「どうした?」
「…とっても…幸せです」

 モナは目を閉じて深い眠りに落ちる。小さな胸が規則正しく波打っている。老人はモナの手首を取って脈を確かめる。

 老人は机の前に腰かける。タッチパネルに触れると施術用のベッドで悶えるモナの姿がモニターに再生される。老人は映像を眺めながら薬の効果の詳細を熱心に記録する。

 モナの口もとにやすらかな微笑みが浮かんでいる。
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