Cat☆Girls 《猫娘たち》 ー 月光のシュバリエル ー

Soda Village

文字の大きさ
上 下
46 / 78
第6章 転落の日々

その3 幼い好奇心

しおりを挟む
 モナは夕方の仕事を終える。
 キッチンの隅で質素な食事を済ませると書斎に向かう。

 老人は先に来て待っている。椅子から立ち上がると背後に並んだ本の左端にある一冊を中に押しこむ。本棚が回転して執事も知らない隠し部屋が現れる。

 老人の後について部屋に入る。壁に沿った周囲の棚に動植物を乾燥させた生薬のガラス瓶がずらりと並んでいる。中央には白い布をかけた施術用のベッドが置いてある。

「さあ、支度をしなさい」

 老人が上着を脱いで白衣に着替える。モナは靴をそろえて壁際に置く。エプロンを外して服を脱ぐときちんと畳んで床の上の籠に重ねる。

 老人は机に向かって水煙管ボングの火皿に小指の先ほどの練香を詰めている。火を点けようとしてふと振り返る。下着姿のモナが老人の手もとを見つめている。

「…これか?」
「はい…」
「これは、マッチというものだ。ワシが子どもの頃は、みんなこれで火を点けていた。知らんのか?」
「…このお屋敷で、初めて見ました」

 老人が手招きする。モナがおずおずと近づいてくる。

「いつも熱心に見ているので不思議に思ったが、なるほど、そういうことか…ほら、やってみろ」
「え…」

 老人がモナに箱を手渡す。不器用な手つきでマッチを取りだすと側面に赤い頭を擦りつける。三度目にボッと音がして明るい炎が燃え上がる。

 モナの体がピクンと震える。こわごわと手を伸ばして香の先に火を点ける。炎を目の前にかざしてフッと吹き消す。

 残り火がオレンジ色に輝きやがて消える。モナは感極まった表情で燃えさしを見つめている。

 老人が小さく溜息をつく。

「…そんなに珍しいか。もう作る者もいなくなった。いまでは貴重なものだが、だれも見向きもしない。欲しければお前にやるぞ」

 老人がマッチ箱を差し出す。モナは両手で受け取って頭を下げる。

「…ありがとうございます」

 箱のラベルをしげしげと眺めながら籠の前に戻る。畳んでおいたエプロンのポケットにマッチ箱をそっとしまいこむ。

 老人は香の火の回りぐあいを確かめている。モナは背中を向けたままシュミーズを脱ぎドロワーズを下ろす。両腕で体を隠しながらベッドの端に腰かける。

 老人が手にしたガラス製の水煙管ボングは首を伸ばした水鳥のような形をしている。香から流れ落ちる煙が胴の中で湖面の霧のように渦巻いている。老人はモナに細いくちばしの先を向ける。

「…ゆっくりだぞ」

 モナはうなずくとくちばしを咥えて息を吸い込む。穏やかだった水面がポコポコと音を立てて煙が喉に流れ込む。体の力が抜けてパタンと後ろに倒れる。

「ああ、効きすぎたか…モナ、意識はあるか?」
「…はい、旦那様」

 夢見心地の声が答える。目は開いているが焦点が合っていない。老人は水煙管ボングを机に置いて戻ってくる。

「よし、このまま続けるぞ」

 モナは答えない。両足がベッドの端からブラブラと垂れている。老人はモナの体を持ち上げてベッドの上に横たえる。

 全裸になったモナは肩が細く胸も小さい。肌の色は褐色で身長に比べて手足が長い。股間の毛は老人の指示できれいに剃ってある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

処理中です...