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第5章 堕天使たちの涙
その6 赤い部屋の親子
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「もういい。出てきなさい」
静かになった部屋の中に老人の声が響く。クローゼットの扉を開けて部屋着姿のキュリオが現れる。トボトボと歩いて老人のそばに立つ。
全裸のマリアが目を閉じて肘掛椅子の上で気を失っている。滴り落ちた汗と涙と体液で白い肌が濡れている。
「…どうしちゃったの、マリア?」
「気を遣りすぎて果てておるだけだ。いずれ目を覚ます」
キュリオが指で突いてもマリアの体はピクリともしない。
「キュリオ」
「はい、おじい様」
「お前は、マリアが好きなのか?」
「え…うん」
「マリアのなにが、好きなのだ?」
「それは…」
「顔か、それとも、体か?」
「違う、心だよ…」
「なるほど…では、それはどこにある?」
「え?」
「お前のいう心というものは、どこにあるかと聞いているのだ」
「マリアは…ボクのために泣いてくれたんだ。ボクが可哀そうだって」
「この娘は、ワシの前でも涙を流したぞ。もっと欲しい、もっとイジメてと泣いて頼んでいたであろう。涙は女の手練手管。さて、お前はなにをねだられた?」
「マリアは、なにも欲しがらないよ」
「ほお、そうかな。お前はこの娘に手玉に取られて、たっぷりと精を搾られていたではないか」
「ボクたちを…見てたの?」
「ああ、そうだ。あの部屋には仕掛けがある。貴婦人の肖像の裏で、お前たちのあられもない姿をじっくり拝ませてもらった。この娘、若いのになかなかのやりおる。お前も初めてにしては上出来だ。ワシも久しぶりに股間が疼いたぞ」
「そんな、ひどいよ!」
「そうかな、お前だってあそこに隠れてワシのすることを見ていたではないか」
老人は扉が開いたクローゼットを指さす。
「…好きな女が飼い慣らされるのを見るのはどんな気分だ。マリアはワシの仕置きに夢中になって、お前のことなんか忘れていたぞ。お前はお前でワシのすることを、指をくわえて眺めていた。さて、お前たちの心は一体どこに行ったんだ?」
「マリアがおかしくなったのは、おじい様が変な薬を使ったからだ!」
「それは、誤解だ。ワシとて零から一を作れるわけではない。媚薬は女の欲望を後押しして一を十に、ときに百倍に増やすのだ。良いか、正しい手順を踏めばどんな女も必ず堕ちる。ただし、それは男にではない。己の欲望に堕ちるのだ」
「ボクは、そんなこと信じない」
「キュリオ、お前は物心ついた頃から、男と女の業の深い営みをその目に焼きつけてきたではないか。街の薬屋が赤い部屋に面白い親子がいるといっていた。金さえ積めば子どもの目の前で母を犯し、母の目の前で子どもを犯せると。ときには母と子を一緒にな。物好きな男どもはお前たちに群がった。お前たち親子はそうやって生きていたのだろう?」
「…その話は、しない約束だよ」
「ああ、そうだ。でも、今日は違うぞ」
老人がサイドテーブルからクマのぬいぐるみを取り上げる。
「これはなんだ?」
老人はぬいぐるみの目玉を引き抜くとキュリオの鼻さきに突きつける。目玉の裏から伸びたケーブルが安物の3Dレコーダーにつながっている。
静かになった部屋の中に老人の声が響く。クローゼットの扉を開けて部屋着姿のキュリオが現れる。トボトボと歩いて老人のそばに立つ。
全裸のマリアが目を閉じて肘掛椅子の上で気を失っている。滴り落ちた汗と涙と体液で白い肌が濡れている。
「…どうしちゃったの、マリア?」
「気を遣りすぎて果てておるだけだ。いずれ目を覚ます」
キュリオが指で突いてもマリアの体はピクリともしない。
「キュリオ」
「はい、おじい様」
「お前は、マリアが好きなのか?」
「え…うん」
「マリアのなにが、好きなのだ?」
「それは…」
「顔か、それとも、体か?」
「違う、心だよ…」
「なるほど…では、それはどこにある?」
「え?」
「お前のいう心というものは、どこにあるかと聞いているのだ」
「マリアは…ボクのために泣いてくれたんだ。ボクが可哀そうだって」
「この娘は、ワシの前でも涙を流したぞ。もっと欲しい、もっとイジメてと泣いて頼んでいたであろう。涙は女の手練手管。さて、お前はなにをねだられた?」
「マリアは、なにも欲しがらないよ」
「ほお、そうかな。お前はこの娘に手玉に取られて、たっぷりと精を搾られていたではないか」
「ボクたちを…見てたの?」
「ああ、そうだ。あの部屋には仕掛けがある。貴婦人の肖像の裏で、お前たちのあられもない姿をじっくり拝ませてもらった。この娘、若いのになかなかのやりおる。お前も初めてにしては上出来だ。ワシも久しぶりに股間が疼いたぞ」
「そんな、ひどいよ!」
「そうかな、お前だってあそこに隠れてワシのすることを見ていたではないか」
老人は扉が開いたクローゼットを指さす。
「…好きな女が飼い慣らされるのを見るのはどんな気分だ。マリアはワシの仕置きに夢中になって、お前のことなんか忘れていたぞ。お前はお前でワシのすることを、指をくわえて眺めていた。さて、お前たちの心は一体どこに行ったんだ?」
「マリアがおかしくなったのは、おじい様が変な薬を使ったからだ!」
「それは、誤解だ。ワシとて零から一を作れるわけではない。媚薬は女の欲望を後押しして一を十に、ときに百倍に増やすのだ。良いか、正しい手順を踏めばどんな女も必ず堕ちる。ただし、それは男にではない。己の欲望に堕ちるのだ」
「ボクは、そんなこと信じない」
「キュリオ、お前は物心ついた頃から、男と女の業の深い営みをその目に焼きつけてきたではないか。街の薬屋が赤い部屋に面白い親子がいるといっていた。金さえ積めば子どもの目の前で母を犯し、母の目の前で子どもを犯せると。ときには母と子を一緒にな。物好きな男どもはお前たちに群がった。お前たち親子はそうやって生きていたのだろう?」
「…その話は、しない約束だよ」
「ああ、そうだ。でも、今日は違うぞ」
老人がサイドテーブルからクマのぬいぐるみを取り上げる。
「これはなんだ?」
老人はぬいぐるみの目玉を引き抜くとキュリオの鼻さきに突きつける。目玉の裏から伸びたケーブルが安物の3Dレコーダーにつながっている。
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