Cat☆Girls 《猫娘たち》 ー 月光のシュバリエル ー

第１章 社会科見学

その11 母の願い

「花ちゃんは、薫ちゃんが好きだと思ってた」

　ニコがポツリという。

「うん、好きだよ。でも、小さい頃から一緒だから兄妹きょうだいみたいなものかな」
「写真の花ちゃん、とっても幸せそうだった。酸素っていう人も」

　卒業アルバムの最終ページには「行く末の記」と題字だけが書かれている。花は人差し指をスルスルと動かして暗号錠クリプトキイを開錠する。

「これだよね」

　空白のページにニコが見たものと同じ写真が現れる。イチコが床から起きあがって成長した二人の姿をじっと見る。

「高校を出てすぐに、わたしたちは別れたの。それからお互いに大人になって、もう一度つき合った。その頃の写真よ」

「聞いていい？」
「いいよ」

「玉川酸素っていう人は十年前にいなくなった。その時も、花ちゃんを好きだったんでしょう。どうしていなくなったの？」

「事件のことを聞いたのね」
「うん」

「あたしも、ニコから聞いた。ねえ、悪いことをしてないなら、いなくなったりしないよね？」

　ニコはイチコにうなずいて花の目をしっかりと見つめる。

「それとね…」
「うん」
「この人が、わたしたちのお父さんなの？」

　イチコとニコは花の返事を待っている。

「…少し時間をくれないかな？」

　花は二人の顔を見くらべる。

「人はなにか知ることで変わってゆくの。知ることは変わることなのよ」
「花ちゃんのいうことは訳がわかんない」

「イチコ、あなたはいま幸せ？」
「え…うん。幸せだよ」

「ニコは？」
「あたしも…たぶん」

「わたしは二人がいてくれてすごく幸せなの。いつまでもこのままでいたいんだ」

　花がイチコとニコを抱き寄せる。

「人はいつか変わってゆくの。生きることは変わることだから。それは誰にも止められない。でもね、わたし…まだ変わる準備ができていないんだ」

　二人を抱く腕に力がこもる。

「花ちゃん？」
「ねえ、どうしたの？」

　花は二人の肩に顔を埋めて背中を震わせている。