9 / 78
第1章 社会科見学
その8 契約の腕輪
しおりを挟む
イチコが取り出し口に手を入れる。
乳白色の丸いカプセルが手のひらに載っている。人差し指でパチンと弾くとカプセルが消えてシンプルな黒い腕輪が現れる。
「困っている人がいたら、その腕輪が教えてくれる」
「それで?」
「きみがその人を助けるんだ。良いことをするたびに善行が貯まる。いっぱいになったら願いごとがかなうよ」
「イチコ、やっぱり怪しいよ」
「うーん、そうかなあ」
「きみたちが信じても信じなくても、世界はそういうものだ」
ウサギは肩をすくめる。ニコがモニターをのぞきこむ。
「じゃあ、どんなお願いがかなうの?」
「なんでもあり。でも、大きなお願いは大変だ。ポイントがたくさんいるからね」
「もしも、悪いことをお願いしたら?」
「ぼくたちは人助けの会だ。そんな人はいないよ」
「でも、悪い人はどこにでもいるよ」
「たしかにね。それじゃ、悪い人が悪いことをお願いしたら、どうなると思う?」
「良いことをすると良いことがあるんだよね」
「そうだよ」
「悪いことをお願いした人には、悪いことが起こるの?」
「正解!」
モニターの中でウサギがピョンピョンと跳びはねる。
「あたし、やってみる」
イチコは腕輪を宙にかざして眺めている。
「さて、きみは?」
「ううん…」
「願い事は、ないのかい?」
「悪いお願いじゃなければ、いいんだよね?」
ウサギはパタパタと耳で返事をする。ニコがコインケースからトークンを取り出す。
スロットに入れると目を閉じて一気にレバーを回す。カタンと音がしてカプセルが落ちてくる。手に取って弾くと白い腕輪が現れる。
ウサギが前足を合わせて胸の前に持ち上げる。
「さあ、お願いの時間だよ。二人とも腕輪をはめて」
イチコは左手にニコは右手に腕輪をはめる。
「その手をパネルの上に」
腕輪をはめた二人の手がタッチパネルに並ぶ。
「声を出さなくていいからね。目を閉じて心に願い事を思い浮かべるんだ」
暗闇にウサギの声が響き渡る。
「月光の女騎士たちよ
輪廻の輪に入り
業を断つ
劍となれ」
ウサギが闇に溶けこむと時計の歯車のような図形が花ひらく。咲き乱れた無数の歯車が嚙み合ってキュルキュルと回転を始める。
腕輪が青白い光を放つ。ドロドロに溶けだして蛇のように鎌首をもたげる。頭の先が二つに割れて絡み合いながら二人の手首に巻きついてゆく。
目を開けると二人の手首に螺旋の腕輪がはまっている。イチコの黒い腕輪には二つの金の鈴がついている。ニコの白い腕輪には銀の鈴だ。
真っ暗な画面にウサギがぴょこんと現れる。
「変態は完了した。きみたちが腕輪の契約者だ」
イチコが鈴を振ってみる。揺れるだけで音がしない。
「困った人がいれば、その鈴が鳴るんだよ」
二人がうなずく。
「それじゃ、しっかりポイントをためてね」
ウサギがモニターの奥に跳ねてゆく。ふと立ち止まりひょっこりと振り返る。
「そうそう、みんなにはナイショだよ」
「どうして?」
ニコがたずねる。
「良いことは、黙ってやるものさ」
ウサギは右耳をピンと立てて左目でウインクする。
二人はブースの外に出る。天窓から真昼の光が射している。イチコとニコはお互いの腕輪を見くらべる。
「イチコは、なにをお願いしたの?」
「秘密だよ。ニコは?」
「え、わたしも」
健太と芙蓉が手を振りながら戻ってくる。イチコが手を振り返す。ニコはウサギの言葉を思い出して右手の腕輪を隠そうとする。
「イチコ…」
「うん?」
「これ…」
「あれ、外したの?」
ニコは首を横に振る。イチコは自分の腕輪を確かめる。手のひらで包むとふっと見えなくなる。
「…隠形形態」
「うん」
「みんなには、秘密なんだ」
「なんか、ドキドキするね…」
二人は顔を見合わせて深くうなずく。
乳白色の丸いカプセルが手のひらに載っている。人差し指でパチンと弾くとカプセルが消えてシンプルな黒い腕輪が現れる。
「困っている人がいたら、その腕輪が教えてくれる」
「それで?」
「きみがその人を助けるんだ。良いことをするたびに善行が貯まる。いっぱいになったら願いごとがかなうよ」
「イチコ、やっぱり怪しいよ」
「うーん、そうかなあ」
「きみたちが信じても信じなくても、世界はそういうものだ」
ウサギは肩をすくめる。ニコがモニターをのぞきこむ。
「じゃあ、どんなお願いがかなうの?」
「なんでもあり。でも、大きなお願いは大変だ。ポイントがたくさんいるからね」
「もしも、悪いことをお願いしたら?」
「ぼくたちは人助けの会だ。そんな人はいないよ」
「でも、悪い人はどこにでもいるよ」
「たしかにね。それじゃ、悪い人が悪いことをお願いしたら、どうなると思う?」
「良いことをすると良いことがあるんだよね」
「そうだよ」
「悪いことをお願いした人には、悪いことが起こるの?」
「正解!」
モニターの中でウサギがピョンピョンと跳びはねる。
「あたし、やってみる」
イチコは腕輪を宙にかざして眺めている。
「さて、きみは?」
「ううん…」
「願い事は、ないのかい?」
「悪いお願いじゃなければ、いいんだよね?」
ウサギはパタパタと耳で返事をする。ニコがコインケースからトークンを取り出す。
スロットに入れると目を閉じて一気にレバーを回す。カタンと音がしてカプセルが落ちてくる。手に取って弾くと白い腕輪が現れる。
ウサギが前足を合わせて胸の前に持ち上げる。
「さあ、お願いの時間だよ。二人とも腕輪をはめて」
イチコは左手にニコは右手に腕輪をはめる。
「その手をパネルの上に」
腕輪をはめた二人の手がタッチパネルに並ぶ。
「声を出さなくていいからね。目を閉じて心に願い事を思い浮かべるんだ」
暗闇にウサギの声が響き渡る。
「月光の女騎士たちよ
輪廻の輪に入り
業を断つ
劍となれ」
ウサギが闇に溶けこむと時計の歯車のような図形が花ひらく。咲き乱れた無数の歯車が嚙み合ってキュルキュルと回転を始める。
腕輪が青白い光を放つ。ドロドロに溶けだして蛇のように鎌首をもたげる。頭の先が二つに割れて絡み合いながら二人の手首に巻きついてゆく。
目を開けると二人の手首に螺旋の腕輪がはまっている。イチコの黒い腕輪には二つの金の鈴がついている。ニコの白い腕輪には銀の鈴だ。
真っ暗な画面にウサギがぴょこんと現れる。
「変態は完了した。きみたちが腕輪の契約者だ」
イチコが鈴を振ってみる。揺れるだけで音がしない。
「困った人がいれば、その鈴が鳴るんだよ」
二人がうなずく。
「それじゃ、しっかりポイントをためてね」
ウサギがモニターの奥に跳ねてゆく。ふと立ち止まりひょっこりと振り返る。
「そうそう、みんなにはナイショだよ」
「どうして?」
ニコがたずねる。
「良いことは、黙ってやるものさ」
ウサギは右耳をピンと立てて左目でウインクする。
二人はブースの外に出る。天窓から真昼の光が射している。イチコとニコはお互いの腕輪を見くらべる。
「イチコは、なにをお願いしたの?」
「秘密だよ。ニコは?」
「え、わたしも」
健太と芙蓉が手を振りながら戻ってくる。イチコが手を振り返す。ニコはウサギの言葉を思い出して右手の腕輪を隠そうとする。
「イチコ…」
「うん?」
「これ…」
「あれ、外したの?」
ニコは首を横に振る。イチコは自分の腕輪を確かめる。手のひらで包むとふっと見えなくなる。
「…隠形形態」
「うん」
「みんなには、秘密なんだ」
「なんか、ドキドキするね…」
二人は顔を見合わせて深くうなずく。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる