Cat☆Girls 《猫娘たち》 ー 月光のシュバリエル ー

Soda Village

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第1章 社会科見学

その8 契約の腕輪

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 イチコが取り出し口に手を入れる。

 乳白色の丸いカプセルが手のひらに載っている。人差し指でパチンと弾くとカプセルが消えてシンプルな黒い腕輪が現れる。

「困っている人がいたら、その腕輪が教えてくれる」
「それで?」

「きみがその人を助けるんだ。良いことをするたびに善行メリットが貯まる。いっぱいになったら願いごとがかなうよ」

「イチコ、やっぱり怪しいよ」
「うーん、そうかなあ」

「きみたちが信じても信じなくても、世界はそういうものだ」

 ウサギは肩をすくめる。ニコがモニターをのぞきこむ。

「じゃあ、どんなお願いがかなうの?」
「なんでもあり。でも、大きなお願いは大変だ。ポイントがたくさんいるからね」

「もしも、悪いことをお願いしたら?」
「ぼくたちは人助けの会だ。そんな人はいないよ」

「でも、悪い人はどこにでもいるよ」
「たしかにね。それじゃ、悪い人が悪いことをお願いしたら、どうなると思う?」

「良いことをすると良いことがあるんだよね」
「そうだよ」

「悪いことをお願いした人には、悪いことが起こるの?」
「正解!」

 モニターの中でウサギがピョンピョンと跳びはねる。

「あたし、やってみる」

 イチコは腕輪を宙にかざして眺めている。

「さて、きみは?」
「ううん…」

「願い事は、ないのかい?」
「悪いお願いじゃなければ、いいんだよね?」

 ウサギはパタパタと耳で返事をする。ニコがコインケースからトークンを取り出す。

 スロットに入れると目を閉じて一気にレバーを回す。カタンと音がしてカプセルが落ちてくる。手に取って弾くと白い腕輪が現れる。

 ウサギが前足を合わせて胸の前に持ち上げる。

「さあ、お願いの時間だよ。二人とも腕輪をはめて」

 イチコは左手にニコは右手に腕輪をはめる。

「その手をパネルの上に」

 腕輪をはめた二人の手がタッチパネルに並ぶ。

「声を出さなくていいからね。目を閉じて心に願い事を思い浮かべるんだ」

 暗闇にウサギの声が響き渡る。

「月光の女騎士シュバリエルたちよ
 輪廻サンサーラの輪に入り
 カルマを断つ
 つるぎとなれ」

 ウサギが闇に溶けこむと時計の歯車のような図形が花ひらく。咲き乱れた無数の歯車が嚙み合ってキュルキュルと回転を始める。

 腕輪が青白い光を放つ。ドロドロに溶けだして蛇のように鎌首をもたげる。頭の先が二つに割れて絡み合いながら二人の手首に巻きついてゆく。

 目を開けると二人の手首に螺旋の腕輪がはまっている。イチコの黒い腕輪には二つの金の鈴がついている。ニコの白い腕輪には銀の鈴だ。

 真っ暗な画面にウサギがぴょこんと現れる。

変態メタモルフォゼスは完了した。きみたちが腕輪の契約者だ」

 イチコが鈴を振ってみる。揺れるだけで音がしない。

「困った人がいれば、その鈴が鳴るんだよ」

 二人がうなずく。

「それじゃ、しっかりポイントをためてね」

 ウサギがモニターの奥に跳ねてゆく。ふと立ち止まりひょっこりと振り返る。

「そうそう、みんなにはナイショだよ」
「どうして?」

 ニコがたずねる。

「良いことは、黙ってやるものさ」

 ウサギは右耳をピンと立てて左目でウインクする。

 二人はブースの外に出る。天窓から真昼の光が射している。イチコとニコはお互いの腕輪を見くらべる。

「イチコは、なにをお願いしたの?」
「秘密だよ。ニコは?」
「え、わたしも」

 健太と芙蓉が手を振りながら戻ってくる。イチコが手を振り返す。ニコはウサギの言葉を思い出して右手の腕輪を隠そうとする。

「イチコ…」
「うん?」
「これ…」
「あれ、外したの?」

 ニコは首を横に振る。イチコは自分の腕輪を確かめる。手のひらで包むとふっと見えなくなる。

「…隠形形態ステルスモード
「うん」
「みんなには、秘密なんだ」
「なんか、ドキドキするね…」

 二人は顔を見合わせて深くうなずく。
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