8 / 78
第1章 社会科見学
その7 小さな人助け
しおりを挟む
体験学習を終えた生徒たちがロビーに集まってくる。
二組に分かれた四人も戻ってくる。出発にはしばらく時間がある。芙蓉がタブレットでセンターの案内図を調べている。
「この先に売店があるよ」
「面白いものがあるかな?」
健太が手もとをのぞきこむ。売店のアイコンが展開して細かな情報を表示する。
「おお、タマガワ純正のバトルフィギュアが置いてある。プニョ、見に行こうぜ!」
「え、ぼくは…」
「まあ、いいから。おれが戦いのロマンを教えてやるよ。イチコは?」
「後で行くかも」
スーツバトルの魅力を熱く語る健太の声が遠ざかる。ニコは一人でプロメテウスの像を眺めている。
- 人と技術の新しい未来 ―
玉川酸素の残した言葉だ。
「ニコ!」
ロビーのむこうでイチコが手を振っている。ニコが側にやってくる。
「どうしたの?」
「これ、なんだろう」
イチコがブースを指差す。入り口に黒いカーテンがかかり中の様子が見えない。まるで遊園地のお化け屋敷のようだ。
「なんか、怖いよ」
「ね、入ってみよう」
「え…でも」
イチコは返事を待たずに中に入る。ニコも仕方なく後に続く。
薄暗い空間に旧式の端末が置いてある。正面にはモニターがあり手元にタッチパネルがついている。暗い画面が鏡のように二人の姿を映している。
センサーが反応してタッチパネルが点灯する。モニターに白い文字が浮かび上がる。
― 小さな人助けの会 Helping Small Hands ―
「ボランティアかな?」
「聞いてみたら?」
「こんにちは!」
イチコがモニターに話しかける。
モニターの奥から眼鏡をかけた白ウサギが跳ねてくる。動物型の人工知能生命体だ。ウサギは扇子を開くとパタパタと耳を扇ぐ。
「ああ、いそがしい、いそがしい」
「ここはどういう会なの?」
イチコがたずねるとウサギは眼鏡をずらして上目遣いで二人を眺める。
「きみたち、『情けは人の為ならず』ってことわざを知ってる?」
「ええと、『人に親切にすると、甘えてダメになる』ってことでしょ」
ニコが答える。
「いまはね。でも、むかしは『人に親切にすれば、いつか良いことになって返ってくる』っていう意味だったんだ」
「ふーん、そうなんだ」
イチコが気のない返事をする。
「ぼくたちは、このことわざを実行する会だよ。ねえ、きみたちも一緒にやらない?」
二人は顔を見合わせる。ニコがたずねる。
「なにをするの?」
「困っている人を助けるんだ」
「どうやって?」
イチコがたずねる。
「できることをするんだよ」
二人が同時に首をひねる。
「ものはためしっていうじゃないか。そこに地域仮想通貨を入れてみなよ」
イチコがパネルの下をのぞきこむ。丸いレバーの上にコインを差し込むスロットがある。
「いくら?」
「きみたちは運が良い。本当は一人60トキオだけど、いまはキャンペーン中だから半額の30トキオでいいよ」
「イチコ、なんか怪しいよ」
「心配ない。これは預り金だから、退会すれば全額戻ってくる」
「でも…」
「なんか面白そうだよ。あたし、試してみる」
イチコはトキオ市の三つ子ビルが刻印されたトークンを取りだす。スロットに差しこんでレバーをガチャリと一回転させる。
カタンと軽い音がして取り出し口の扉が揺れる。
二組に分かれた四人も戻ってくる。出発にはしばらく時間がある。芙蓉がタブレットでセンターの案内図を調べている。
「この先に売店があるよ」
「面白いものがあるかな?」
健太が手もとをのぞきこむ。売店のアイコンが展開して細かな情報を表示する。
「おお、タマガワ純正のバトルフィギュアが置いてある。プニョ、見に行こうぜ!」
「え、ぼくは…」
「まあ、いいから。おれが戦いのロマンを教えてやるよ。イチコは?」
「後で行くかも」
スーツバトルの魅力を熱く語る健太の声が遠ざかる。ニコは一人でプロメテウスの像を眺めている。
- 人と技術の新しい未来 ―
玉川酸素の残した言葉だ。
「ニコ!」
ロビーのむこうでイチコが手を振っている。ニコが側にやってくる。
「どうしたの?」
「これ、なんだろう」
イチコがブースを指差す。入り口に黒いカーテンがかかり中の様子が見えない。まるで遊園地のお化け屋敷のようだ。
「なんか、怖いよ」
「ね、入ってみよう」
「え…でも」
イチコは返事を待たずに中に入る。ニコも仕方なく後に続く。
薄暗い空間に旧式の端末が置いてある。正面にはモニターがあり手元にタッチパネルがついている。暗い画面が鏡のように二人の姿を映している。
センサーが反応してタッチパネルが点灯する。モニターに白い文字が浮かび上がる。
― 小さな人助けの会 Helping Small Hands ―
「ボランティアかな?」
「聞いてみたら?」
「こんにちは!」
イチコがモニターに話しかける。
モニターの奥から眼鏡をかけた白ウサギが跳ねてくる。動物型の人工知能生命体だ。ウサギは扇子を開くとパタパタと耳を扇ぐ。
「ああ、いそがしい、いそがしい」
「ここはどういう会なの?」
イチコがたずねるとウサギは眼鏡をずらして上目遣いで二人を眺める。
「きみたち、『情けは人の為ならず』ってことわざを知ってる?」
「ええと、『人に親切にすると、甘えてダメになる』ってことでしょ」
ニコが答える。
「いまはね。でも、むかしは『人に親切にすれば、いつか良いことになって返ってくる』っていう意味だったんだ」
「ふーん、そうなんだ」
イチコが気のない返事をする。
「ぼくたちは、このことわざを実行する会だよ。ねえ、きみたちも一緒にやらない?」
二人は顔を見合わせる。ニコがたずねる。
「なにをするの?」
「困っている人を助けるんだ」
「どうやって?」
イチコがたずねる。
「できることをするんだよ」
二人が同時に首をひねる。
「ものはためしっていうじゃないか。そこに地域仮想通貨を入れてみなよ」
イチコがパネルの下をのぞきこむ。丸いレバーの上にコインを差し込むスロットがある。
「いくら?」
「きみたちは運が良い。本当は一人60トキオだけど、いまはキャンペーン中だから半額の30トキオでいいよ」
「イチコ、なんか怪しいよ」
「心配ない。これは預り金だから、退会すれば全額戻ってくる」
「でも…」
「なんか面白そうだよ。あたし、試してみる」
イチコはトキオ市の三つ子ビルが刻印されたトークンを取りだす。スロットに差しこんでレバーをガチャリと一回転させる。
カタンと軽い音がして取り出し口の扉が揺れる。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる