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第1章 社会科見学

その5 勝負の行方

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 リングの上に白のスーツが倒れている。

 黒のスーツが対戦相手を見降ろしている。会場はしんと静まりかえっている。

 ハム音とともに白の装着が解ける。薫はむっくりと起き上がる。観客にむかって顔を上げると眼鏡が鼻にズレ落ちる。

「あ、びっくりして転んじゃいました…」

 爆笑の渦が巻き起こる。

 観客がばらばらと立ち去ってゆく。薫がリングから降りてくる。案内係が駆け寄って深々と頭を下げる。

「申し訳ありません!」
「いやあ、こちらこそ」

 間の抜けた返事が返ってくる。健太とイチコがやってくる。

「先生!」
「大丈夫…?」
「恥ずかしいとこを見せちゃったね。花ちゃんには内緒だよ」

 薫は頭をかいている。案内係が薫の腕をつかむ。

「行きましょう!」
「え、どこですか?」
「医務室です」

「あ、大丈夫です。転んだだけだから」
「いいえ、頭を打っているかもしれません」

「でも、スーツを着ていれば…」
「ダメです。なにかあったらどうするんですか!」

 案内係が薫を引きずってゆく。展示室はイチコと健太の二人きりになる。

「おれたちも、行こう」
「どうしたの?」
「うん…」

 イチコは首をひねったまま動かない。イチコは頭の中で模擬戦シュミレーションマッチを再現している。

 黒のスーツの回し蹴りが当たる直前に薫の体が沈む。その時なにかが起きたのにそれが思い出せない。

 リングの上には黒のスーツがポツンと立っている。

「…ゴメン、何でもない。行こう」

 無人の展示室に二人の男が入ってくる。機材を積んだワゴンが後をついてくる。入り口に点検中の札を立てて扉を閉める。

 年上の男がモニターをチェックする。若い男がリングに上がり黒の腕の装着キーを操作する。

「おかしいな…」
「どうした?」
「装着が解除できないんです」

「暴走したって報告だろ?」
「ええ。でも、スーツには異常がありません」
「プログラムのバグかな?」

戦闘記録ファイトレコーダーは生きてますか?」
「いま、チェックしてる」

 モニターに黒のスーツから見た戦いの映像が再生される。

 光の中から白のスーツが現れる。顔をめがけて打ちこんだ左右の連打がかわされる。

 黒のスーツは肩越しに狙いを定めて後頭部に後回し蹴りを放つ。かかとが顔面にヒットする直前に映像が途切れる。

 年上の男も首を傾げる。

「おかしいな…」
「開けてみますか?」
「ああ、マスターキーを使うよ」

 操作卓からコードを打ち込む。スーツが解除され木偶人形ダミーシステムの本体が現れる。年上の男が顔をあげる。 

 若い男がリングの上で立ちつくしている。

「どうした?」
「見てください」 

 年上の男がリングに上がる。若い男が黙って指をさす。分厚い胸の左側にぽっかりと穴が開いている。

「これは…」

 二人の目の前で木偶人形ダミーシステムがゆっくりと倒れる。
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