【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)

文字の大きさ
80 / 90
第四章

聞いて

しおりを挟む
 扉が閉まった音を聞いてからラファエルは走り出した。
 階段をほとんど飛ぶように降りて、勝手口を探すのもわざわざ一階に降りる時間も惜しいとばかりに二階に降りた時点で適当な場所の窓を開け放って勢いのまま飛び出した。タリヤが調達してくれた服が土で汚れるのも構わず受け身を取って立ち上がり、アンジェリカの指差した森の方へと全力で駆ける。

 パーティーの警備対象から外れている区画なのか見回りの騎士の姿はなく、これ幸いとラファエルは走る。ひらひらとした生地が足にまとわりついて邪魔でしょうがないが破るのは気が引けてそのままだ。
 窓から見た森は近いと感じていたのに距離にしてみるとそれなりにあるらしい。入口付近に来た頃にはさすがに息が上がり、森に入る前に一度呼吸を整えようと足を止めた。

「おう来たか」
「⁉︎」

 全く気配を感じさせず背後を取られたことに目を瞠りすぐさま距離を取って向き直る。月がその人物の背後になっており顔が確認できないことに舌打ちした瞬間。

「だっはははははは!おま、お前!な、だ、だはははははは!」

 聞き覚えのある馬鹿笑いに面食らい硬直していると影が動いた。
 いつもはだらしないが髪も髭も整え、騎士団の正装をまとっている人物にラファエルは目を丸くした。

「ガランド!」
「ひー、お前なんて格好してんだよ。こっから囚われのお姫様を助けに行くっつーのにカッコがつかねえなぁ」

 笑い過ぎて目に涙を浮かべたガランドにむっとするが言われた内容にまた驚く。

「俺が何年この城にいたと思ってんだよ。姫様が箝口令敷いてたとしても無駄無駄、年季がちげえ」

 一頻り笑い終えたガランドが大きく呼吸して改めてラファエルを見る。乱れた髪に上がった息、土汚れの着いた服にと散々な状態だがガランドは満足そうに口角を上げた。

「あのひょろがりだったお前が随分立派になったもんだ。おら、入口に馬置いてあるからそれで行け。馬鹿弟子を頼んだぞ」
「ガランドは行かないの?」

 そのまま去って行こうとする背中に声を掛けるとガランドは振り返り、心底呆れたといった風な顔でラファエルを見た。

「馬鹿、んな野暮なこと誰がするかよ。おら、早くしねえとそろそろアルフレッドが先に出て来ちまうぞ」

 アルフレッドの様子まで知っているらしい口振りにラファエルが口を挟む隙も与えずガランドは今度こそ歩き出した。騎士の正装に身を包んでいるというのに歩き方は優雅ではなくむしろ粗雑だ。いつもと変わらない、掴めない性格のガランドにこれ以上何を聞いても無駄だと嘆息し、ラファエルはまた走り出した。
 遠ざかる足音、僅かな時間を開けて届いた馬のいななきにガランドは足を止めた。

 彼の脳裏に浮かぶのは数年前剣を両手に持ってやって来た姿だ。それがガランドの中でのラファエルだ。親でもなければ家族でもないが、それでも近しい場所にいたとは思う。
 その自分でも多少の困惑があるのだから、親であり家族である人達の感情はとても推し量ることはできない。ガランドは歩き出した。

 まだまだ仕事をしなくちゃなと息を吐き、足は真っ直ぐパーティー会場へと向かう。
 到着した頃にはきっとラファエルがアルフレッドを救い出しているだろう。あんな屈強な弟子が救われる側なことに笑いを禁じ得ないが、それもまたあいつららしいと笑みを深めた。

 △▼△

 馬に跨り深い森の中を進んでいく。
 鬱蒼と茂る森の中だがさすが王族の直轄、至る所に魔術によって淡く光る仕掛けが施されており視界が良い。塔までの道が舗装されている訳ではないが明らかに馬車が通った形跡や道標のように灯る光が迷いを無くさせてラファエルは夢中で道を進む。

 どれほど進んだだろうか、然程時間は経っていない気がするが体感としてはとても長かったように思う。逸る気持ちのまま馬を走らせ、突如視界が開けた事で一気に手綱を引く。馬の足が上がり重心が少し後ろに傾くがすぐにバランスを取って馬を落ち着かせた。

 目の前に聳え立つのは装飾の一切ない無骨な塔だ。三階建て程の高さだろうか。筒状のそれに目立った窓はなく、出入り口である場所に木の扉があるだけだ。
 ラファエルは馬から降りた。すぐ様駆け出したいのを堪えて馬を木に繋ぎ、そして走り出す。扉には鍵が掛かっておらず開き戸になっているそれを開け放って中へと足を踏み入れた。

 すぐ目の前にあるのは螺旋状の石階段、迷わず一段目に足を掛けてそこから駆け上がる。呼吸も忘れて階段を上り切ると少しの踊り場があり、その奥に扉があった。
 木製の扉だ。外から鍵を掛ける仕組みになっているようで、鍵が掛かったままだというのが簡単にわかる。この奥にいる。
 確証はないが、確信はあった。

 ラファエルは足を踏み込んだ。扉までの距離はおよそ三歩、短い距離だ。木製の扉は一見頑丈そうに見えるけれど、そんなものは関係無かった。身体を捻り、勢いのままに扉に足を叩き込む。
 けたたましい音と共に扉としての役割を終えた木片が崩れ落ち、道が開かれた。

「…エル…?」

 暗がりから聞こえた声に唇が震えた。
 それまで堪えていたものが一気に決壊して視界が滲み、足をもつれさせながら暗がりへと身を投じる。
 必死に伸ばした手が慣れた温度に触れる。次の瞬間には息が出来ないほどきつく抱き締められていて、そのまま膝をついた。
 伝えたい言葉があるのに、喉に鉛が張り付いたように言葉が出てこない。

 エル。

 何度も名前を呼ばれて、その度に頷いた。
 アルフ、アルフ、聞いて。

 ──好きだよ。

 みっともないくらいしゃくり上げながら紡いだ言葉にアルフレッドが笑った気がした。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました! 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処理中です...