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第一章 二人の旅路
ギルドにて2
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「よ~…、アルフレッドぉ、A級討伐なんてさすがだなぁ?…で、天使ちゃんはそんなアルフレッドを影から見てたんでちゅか~?」
明らかな侮辱を含んだその言葉に、ギルド内はしんと静まり返る。ニヤついた顔で見下ろしてくる男から視線を逸らさなかったラファエルだが、ついと正面に座るアルフレッドを見てまるで内緒話を持ち帰るように片手で口元を隠した。
「…アルフ、この人知ってる?」
「知らん」
これだけ静かだとどれだけ小声で喋ったとしても響くし、アルフレッドという男はそんな気遣いに乗るような性格でもない。欠片程の興味ない声で言い切ったものだから男は顔を怒りで真っ赤に染めた。瞬間湯沸かし器のようだとラファエルは思った。
「てめえ調子乗るんじゃ」
「調子に乗っているのはあなたですよオヅラさん!」
今にもテーブルを蹴飛ばしそうなほど激昂していた男を止めに入ったのは少年のように高い声。オヅラと呼ばれた男の後ろにいる青年を見てラファエルは暢気に手を振って見せた。それに気づいた青年も眼鏡の奥にあるぱっちりとした大きな目をにこりと細めて手を振り返してくると、茹で上がった蛸のように顔を赤くしたオヅラがラファエルの顔ほどあるんじゃないかと思う大きな拳をテーブルに振り下ろした。
ガン、と大きな音が鳴るのと青年の眼鏡がきらりと光ったのはきっと同時。
「器物破損ですね?」
「ああ!?俺は舐めたクチ聞いたコイツに指導してやってるだけだぜ?」
「寧ろ指導される立場はあなたですよ、ハンターライセンスBのオヅラさん。そこにいるアルフレッドさんはもちろん、ラファエルさんも、あなたより格が上です」
「それはこの男がアルフレッドの功績をてめえのモンにしてるからだろ!」
「─ほう、あなたはハンター協会が不正を認めていると。そう仰るんですね?」
青年の声が少し低くなる。オヅラの鳩尾までの身長しかない青年はその小柄な体躯に見合わない威圧感を放って詰め寄った。
「そ、そんなことは言ってねえだろ」
「いいえ言っていますね。ハンターランクの詐称は立派な不正ですから。しかもそれをご本人ではなくハンターギルドの職員である私が公言しているとあなたは仰った」
「はあ!?」
イラついた様子でそんなこと言ってねえだろと、先程と全く同じ台詞を繰り返しすオヅラに青年は尚も言葉を続ける。
「私はあの人をBランクであるあなたより格上だと言いました。けれどあなたはそれを不正だと思ってらっしゃるんですよね?先程言いましたもんね?アルフレッドの功績を自分の物にしていると。この、僕の前で。公正な審査によって決められているハンターランクを不正だと、言いましたよね?」
言われている言葉の意味がわからないのかオヅラは奇妙な呻きしか出てこず癇癪を起こしたように髪のない頭をガリガリと掻いている。
「ラファエルさんは間違いなくAランクです。今もあなたの言動に何もして来ないのは、あなたが取るに足らない人物だと判断されているからですよ。わかったらさっさとキングボアの残骸を収集して来てください。早く行かないと無くなりますよ、あなたただでさえこのテーブルの弁償もあるんですからね」
青年がオヅラの横をすり抜けてラファエルとアルフレッドのいる木製の円形テーブルを小さな拳でとん、と叩くと途端にテーブルが真っ二つに割れて綺麗に磨かれた床に崩れ落ちていく。「わお」なんて場違いなラファエルの暢気な声が空気を揺らし、それに合わせて青年が手を二回程叩いた。
「はい!皆さん今日も沢山の依頼がありますからねー!チャキチャキ働いてくださーい!」
水を打ったように静まり返っていたギルド内が青年の言葉で一気に時間が動き出し、あちこちで椅子を引く音や武器を背負う音、外に出る者や掲示板に張り出されている依頼を確認する者と活気で溢れる。オヅラも仲間らしき人物に半ば引き摺られるようにして外へ向かった為、ようやくラファエルは両腕を上にぐっと伸ばして息を吐いた。
「あー、やっとどっか行った。ありがとう、マルルゥ」
「いいえー。本当に次から次へやっかまれて大変ですねえラファエルさん」
「ねー。みんな僕のどこが気に入らないんだろ」
「まあまずその怪しさ満点の見た目とかですかね」
その言葉にラファエルはゴーグルの下で瞬きを数回繰り返した。
顔の半分を隠す程のゴーグルは縁が太くてガラス部分は特殊な加工がされておりどの角度から見てもラファエルの青い目を見ることは叶わない。それに加えて髪から鼻までスカーフで隠しているものだから全く顔も見えなければ身に纏う服も指先まで肌を見せない徹底ぶりだ。見た目からして怪しさはあるがそれだけの理由で絡まれる理由にはならず、ラファエルがあんな絡まれ方をされるのにはもう一つ大きな要因がある。
「エルはこれで良いんだよ。必要以上に他と絡む必要が無い」
呆れた様子でさも当然と椅子に鷹揚に腰掛けるアルフレッドの言葉にマルルゥは生温かい目でそちらを見る。
「確かにこんな見た目だと仲良くしようって気も失せるだろうし、そもそも僕にはアルフがいてくれたら良いからなぁ」
その生温かい目はラファエルにも向けられた。
「そうだな」
「うん」
マルルゥは思った。「その明らかに一線越えてますって空気を隠そうともしないから声掛けづらいんですよ」と。アルフレッドの過剰とも取れるラファエルに対する庇護が余計に周りからの好奇の視線を集めるのだが、まあ良いかとマルルゥは肩を竦ませて換金作業へと戻って行った。
明らかな侮辱を含んだその言葉に、ギルド内はしんと静まり返る。ニヤついた顔で見下ろしてくる男から視線を逸らさなかったラファエルだが、ついと正面に座るアルフレッドを見てまるで内緒話を持ち帰るように片手で口元を隠した。
「…アルフ、この人知ってる?」
「知らん」
これだけ静かだとどれだけ小声で喋ったとしても響くし、アルフレッドという男はそんな気遣いに乗るような性格でもない。欠片程の興味ない声で言い切ったものだから男は顔を怒りで真っ赤に染めた。瞬間湯沸かし器のようだとラファエルは思った。
「てめえ調子乗るんじゃ」
「調子に乗っているのはあなたですよオヅラさん!」
今にもテーブルを蹴飛ばしそうなほど激昂していた男を止めに入ったのは少年のように高い声。オヅラと呼ばれた男の後ろにいる青年を見てラファエルは暢気に手を振って見せた。それに気づいた青年も眼鏡の奥にあるぱっちりとした大きな目をにこりと細めて手を振り返してくると、茹で上がった蛸のように顔を赤くしたオヅラがラファエルの顔ほどあるんじゃないかと思う大きな拳をテーブルに振り下ろした。
ガン、と大きな音が鳴るのと青年の眼鏡がきらりと光ったのはきっと同時。
「器物破損ですね?」
「ああ!?俺は舐めたクチ聞いたコイツに指導してやってるだけだぜ?」
「寧ろ指導される立場はあなたですよ、ハンターライセンスBのオヅラさん。そこにいるアルフレッドさんはもちろん、ラファエルさんも、あなたより格が上です」
「それはこの男がアルフレッドの功績をてめえのモンにしてるからだろ!」
「─ほう、あなたはハンター協会が不正を認めていると。そう仰るんですね?」
青年の声が少し低くなる。オヅラの鳩尾までの身長しかない青年はその小柄な体躯に見合わない威圧感を放って詰め寄った。
「そ、そんなことは言ってねえだろ」
「いいえ言っていますね。ハンターランクの詐称は立派な不正ですから。しかもそれをご本人ではなくハンターギルドの職員である私が公言しているとあなたは仰った」
「はあ!?」
イラついた様子でそんなこと言ってねえだろと、先程と全く同じ台詞を繰り返しすオヅラに青年は尚も言葉を続ける。
「私はあの人をBランクであるあなたより格上だと言いました。けれどあなたはそれを不正だと思ってらっしゃるんですよね?先程言いましたもんね?アルフレッドの功績を自分の物にしていると。この、僕の前で。公正な審査によって決められているハンターランクを不正だと、言いましたよね?」
言われている言葉の意味がわからないのかオヅラは奇妙な呻きしか出てこず癇癪を起こしたように髪のない頭をガリガリと掻いている。
「ラファエルさんは間違いなくAランクです。今もあなたの言動に何もして来ないのは、あなたが取るに足らない人物だと判断されているからですよ。わかったらさっさとキングボアの残骸を収集して来てください。早く行かないと無くなりますよ、あなたただでさえこのテーブルの弁償もあるんですからね」
青年がオヅラの横をすり抜けてラファエルとアルフレッドのいる木製の円形テーブルを小さな拳でとん、と叩くと途端にテーブルが真っ二つに割れて綺麗に磨かれた床に崩れ落ちていく。「わお」なんて場違いなラファエルの暢気な声が空気を揺らし、それに合わせて青年が手を二回程叩いた。
「はい!皆さん今日も沢山の依頼がありますからねー!チャキチャキ働いてくださーい!」
水を打ったように静まり返っていたギルド内が青年の言葉で一気に時間が動き出し、あちこちで椅子を引く音や武器を背負う音、外に出る者や掲示板に張り出されている依頼を確認する者と活気で溢れる。オヅラも仲間らしき人物に半ば引き摺られるようにして外へ向かった為、ようやくラファエルは両腕を上にぐっと伸ばして息を吐いた。
「あー、やっとどっか行った。ありがとう、マルルゥ」
「いいえー。本当に次から次へやっかまれて大変ですねえラファエルさん」
「ねー。みんな僕のどこが気に入らないんだろ」
「まあまずその怪しさ満点の見た目とかですかね」
その言葉にラファエルはゴーグルの下で瞬きを数回繰り返した。
顔の半分を隠す程のゴーグルは縁が太くてガラス部分は特殊な加工がされておりどの角度から見てもラファエルの青い目を見ることは叶わない。それに加えて髪から鼻までスカーフで隠しているものだから全く顔も見えなければ身に纏う服も指先まで肌を見せない徹底ぶりだ。見た目からして怪しさはあるがそれだけの理由で絡まれる理由にはならず、ラファエルがあんな絡まれ方をされるのにはもう一つ大きな要因がある。
「エルはこれで良いんだよ。必要以上に他と絡む必要が無い」
呆れた様子でさも当然と椅子に鷹揚に腰掛けるアルフレッドの言葉にマルルゥは生温かい目でそちらを見る。
「確かにこんな見た目だと仲良くしようって気も失せるだろうし、そもそも僕にはアルフがいてくれたら良いからなぁ」
その生温かい目はラファエルにも向けられた。
「そうだな」
「うん」
マルルゥは思った。「その明らかに一線越えてますって空気を隠そうともしないから声掛けづらいんですよ」と。アルフレッドの過剰とも取れるラファエルに対する庇護が余計に周りからの好奇の視線を集めるのだが、まあ良いかとマルルゥは肩を竦ませて換金作業へと戻って行った。
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