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5.神か仏か
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カインは、こういう異世界転移系の小説が好きで、熟読していたそうだ。やはり勇者として召喚されて良い様に使われて、最後はバットエンドという本も読んだことがあったらしいので、10年前に帰還者としてこちらの世界に来た時は、かなり警戒をしたらしい。この世界の帰還者に対しての現状知るために、暫く身を潜める様に細々と暮らしてきたようだ。見て知ったことは、来訪者と帰還者の力に依存しているのと、来訪者と違って帰還者の扱いは悪く、元々こちらの世界の人なのだからと都合の良いように使おうとしているという状況だったみたいだ。だから、これまで帰還者というのを隠して今まで暮らしてきたそうだ。
「あれ?でも10年前、カインは11歳だったんだよね?子供が一人で生きていくのは不便では?」
確か、彼のステータスには年が21となってあったはず。
いくら無限収納《インベントリ》にお金があっても、宿にも子供一人で泊まれたり出来るのかな?働こうとしても11歳の子供を雇ってくれる所なんてないだろうし・・・異世界だからあるのかな?
「そう思うよね、普通は・・・。でも、こっちではどんな小さい子供でも働けるし、宿にもお金さえ払えれば泊まれるんだ」
「そうなんだ。こっちでは、子供は保護対象じゃないんだね・・・」
「一応、責任者がいない孤児院みたいのはあるけど、形ばかりだよ」
「責任者がいない孤児院・・・?」
「そう、雨風を防げるだけマシという所かな。食事は国からの支援で出るけど、小麦粉を捏ねて焼くか蒸したもののみ、それ以外は自分でお金を稼いで確保しなくてはならないんだ」
首を傾げた私にカインは、自分がいた世界とは違う子供たちの現状を教えてくれた。
「え!?それだとお金を稼ぐために悪いことしそうだけど・・・」
「普通はね。でも、信仰深いって言っただろ。孤児院で信仰心を植え付けるんだよ。毎朝、教会から神父やシスターが派遣されるんだ」
教会ってそんなことするんだ・・・。困っている人たちに手を差し伸べるイメージだけど、孤児院の子供たちには手を差し伸べないのかな?
「毎日・・・それなら、教会が子供たちの面倒を見れば良いんじゃないの?」
「子供は、成人するまでは国の物という考えなんだよ。この世界では」
「そうなの?それも変だよね。国の物と言うのなら、もっと手を尽くしても良いんじゃない?・・・それに、信仰心を植え付けても仕事が見つからなくて、不満が出て悪い方へ行ってしまう子供はいるんじゃないの?」
成長するうえで、環境って大事だと思う。良い方に行くのも、悪い方に行くのも。
「そうだけどね。日本とは違って孤児院への施しは、建物と食事の提供で精一杯みたいだよ。それと、この世界の大半の国では年齢関係なく自立しやすいように、孤児院の他に職業訓練や就職斡旋のような所があるんだ。仕事がないということはないよ。それに、病気やケガで仕事が出来なくなっても、国などから支援があるから、あまり悪い環境というのができないはずだよ」
「そっか、あっちの世界の感覚だと、子供を働かせるなんてと思うんだけど仕方ないのかな・・・」
カインが言い聞かせるように説明してくれるが、まだ納得できないで自分がいる。
「けど、社会に出るとルールや縛りがあるから、幼いうちならそんなものだと受け入れてしまうけど、成長するうえで自我が強くなるとどうなんだろうね」
「そうだよね、いくら子供でも心はあるんだから・・・」
「でも、孤児院は縛りが無く自由もあるし、管理は完全に国だから、小説とかに書かれてあるのとは違い、貧しい孤児院のために自分たちが働いたお金を入れるといこともしなくて良いんだよ」
「そうなの?それは良かったと言って良いのかな?なんとも言えないね・・・。でも、大人の愛情も必要だと思うんだけど・・・」
やっぱり、大事だよ。愛情を貰って育っていくという環境が・・・。
「まぁね・・・年上の孤児が自然と幼い孤児を面倒見るようになっているし、成人してもからも孤児たちの面倒をみているけど、大人の愛情ってなるとね・・・」
「そうだよね・・・」
「あと、表はそう見せても孤児院の裏がどうなっているか・・・」
「裏って・・・」
「話が脱線しちゃったね。この話は今度にしよう。じゃ、これから魔力についての勉強と上手く扱うための訓練をしていこう」
まだまだ聞きたいことがあるけど、これじゃ先に進めないと、カインは私の言葉を遮るように話を切り上げた。
「はい、よろしくお願いします」
それを、カインに迷惑をかけてはダメだと素直に受け入れた。
「じゃ、まずは目を閉じて、臍の下にある丹田ってわかるかな?それにグッと力を入れてみて・・・力を入れたら、瞑想するように心を落ち着かせ体の中にある魔力を感じていくんだ」
「ちょっと待って。簡単に言うけど、そんなことで魔力ってわかるの?」
軽く言うカインに、私は慌てた。
「ま、やってみればわかるよ。この世界では、簡単に自分の魔力を感じることができるから。他人の魔力を感じるには、魔力に長けている者しか無理だけどね」
へーそうなのか。しょうがない、ぐちゃぐちゃ考えずにやってみよう。まず目を閉じて、お臍の下にある丹田に力を入れて、心を落ち着かせて体の中にある魔力を感じるっと。丹田は痩せるために色々勉強したから知っているもんね。気力が集まる所だったかな、確か。やばい気が逸れてしまった。えっと、魔力を感じる、魔力を感じる、魔力を感じる・・・。
意識して魔力を感じようとするが、なかなかそれらしいものが見当たらない。
ん~これっというのがないなー。そういえば、魔力が詰まって滞ってとあったね、ステータスに・・・ということは、体中パンパンに魔力が溜まっていること?魔力が詰まっているとこは、塞き止められている所があるはず・・・おぉ!あった!!心臓の辺りのここだけ少し熱くて濃いような違和感がある。
「たぶんコレかなというのがあるけど・・・」
「じゃ、今度はそれを、体中を血液が流れるように流してみよう」
「うん、やってみる・・・」
流すと言っても、このパンパンに溜まっている状態でどうすれば良いんだろう?うーん、魔力が詰まって滞っているのなら、そこを通りやすくすれば良いのには・・・。
ということは、抉じ開ければ良いんじゃん!たぶん魔力が詰まっているであろうコレに圧をかけて、少しでも隙間があるのなら必ず流れるはずだから。あっ薄ら流れてきたような・・・でも上手くいかないなー。ドリルみたいに先を細くして、穴を広げるようにしてみよう・・・おっ流れてきたー!!おぉどんどん流れる!
「できた!」
「できちゃったね・・・」
ちょっと呆れたように、カインが言う。
あれ、私なんかやらかした?
「普通はそんな簡単に出来ないから、来訪者でさえ数カ月かかるから」
「え?いや、だって・・・」
そんなに難しい感じじゃなかったけど・・・そういうの先に言ってよ~。チートなんていらないから!!やだよー社畜並みの労働なんてするのは!
「ま、俺も1日で出来たけどね」
「なんだー。びっくりさせないでよ~」
「数分じゃないから、丸一日だからね」
「え?」
ホッとしたのも束の間、カインの更なる言葉に焦りを覚える。
ヤバイです。マジで社畜並みの労働に・・・今はカインがいるけど、訓練が終わってこの世界に一人で暮らすとなると、帰還者だってばれて、監禁されて、昼夜関係なく働かされて、なんてなったらどうしよう!!
「だから、気を付けるんだよ。誰が見ているか、わからないんだからね」
・・・カインさん。さっきのは、私の気を引き締めるために大げさに言ったのでしょうか?それなら効果莫大です!
わかったと、思わず首を勢い良く縦に何度も動かして頷いた。
「じゃ次は、魔力を形にしていくよ」
私が頷いたのに満足したのか、カインは次に話を進めていく。
「形?ファイヤーボールとかファイヤーアローみたいな?」
「そう。だけど、まずは魔力を外に排出させて形を作ってみて」
「魔力を?ファイヤーとかウォーターとか付けるんじゃないの?」
カインの言っていることが訳が分からず、頭の中がクエスチョンでいっぱいだ。
「ファイヤーとかウォーターとかは属性魔法なんだけど、その属性を付けずに魔力だけで訓練していくと扱いやすくなるんだ」
「へぇー」
そうなんだ~。小説だと巨大なファイヤーボールをぶちかまして、周囲を驚かせたなんてあったけど・・・何事も地道にやっていかないと上手く行かないということなんだね。
「それに、魔力の扱いが慣れていない者が急に巨大な魔力を使うと、その使った魔力に酔うことがあるんだよ。頭痛に吐き気、めまいなど体調不良に1週間ぐらいなるから、この訓練は大事なんだよ」
「えっそれは嫌かも・・・」
その症状プラスお腹が下って酷い時があったんだよね。病院に行って検査しても原因不明で、最終的にはストレスということになったな・・・もうあんな思いはしたくないっ。思わず握り拳を作ってしまう。
「じゃ、やってみて」
「わかった、やってみるけど・・・」
ちゃんと出来るか心配だよ。魔力酔いヤダなー。
「イメージだからね」
あっそうかー!小説に書いてあったよ、それ。イメージ、イメージね。まずは、丸いボールをイメージしてと・・・。
両手を前に突出し魔力を押し出すように力を込めるが、顔が赤くなるくらい力んでも、うんともすんとも魔力が体の中から出てこない。
あれ?出ない。どういうことー!?
「出ない・・・」
魔力を放出させて発生させるんだよね。じゃ、放出できる所があるということだよね・・・。
「そうだな・・・。まずは魔力を両手に集めてみて」
「わかった、やってみる」
その言葉に頷くと、体の内側にある魔力を両手に集めていく。
ここまでは出来るけど、この後なんだよね・・・。
「液体ではなく気体を出す感じでやってみて、皮膚呼吸のイメージだよ」
「あ、そっか。気体ね。皮膚呼吸かー」
血液を流れるようにって言っていたから、その液体を体から出すイメージでやっていたよ。それじゃ、いくらやっても出ないよね。
皮膚を切って血を出す以外は液体を出すのって汗くらいだけど、それじゃある程度の大きさにするには時間が掛かりそうだし、それに比べて気体だとスムーズにいきそう。
魔力を皮膚で呼吸をするように、毛穴から出すイメージで。おー!出てきた!!モヤッとしたものが!パチンコ玉くらいだけど・・・。
「うん、できたね。次に、それを野球ボールくらいの大きさにしてみて」
野球ボールくらいの大きさね。ではでは、これに魔力を足して・・・。うーん、ピンポン玉にもならない。どれぐらいの時間が経っただろうか、どんなに魔力を継ぎ足しそうとしてもパチンコ玉の大きさのままだ。何故・・・。
「ノア」
呼ばれて振り向くと、いつの間にかカインは黒い布と木で出来た杖のような物を持っていた。
「これを着て、これを持って行こうか」
差し出された黒い布を広げると、魔法使いが着るようなローブだというのがわかった。良く見ると黒ではなく濃紺で、襟ぐりと袖ぐりと裾ぐりには色鮮やかなエメラルドグリーンの生地に金色糸で複雑な模様の刺繍がされてあった。杖は1mくらいの長さで、上の部分にはオーロラカラーの球体が付いている。
「これは・・・」
「習うより慣れろって言うしね」
「ん?」
「百聞は一見に如かずって言うしね」
「え?」
何を言いたいんだ、この人は??
「これからダンジョンに行くから」
「はぁ?」
ちょっと待って、これからお店に買い物に行くからというくらい軽く言ってるけど、私の聞き間違い?ダンジョンって聞こえたけど・・・あっダンジョンという名のお店のことかも。
「実戦の方が覚えやすいと思うから」
「えぇー!?」
聞き間違えでもお店の名前でもなかったー。この世界に来て間もない、魔法の魔も知らない私を、この人は本当にそんな危険な場所に連れて行こうと考えているのか!?
「大丈夫だよ。そのローブには魔法付与がいくつも付いているから、多少の物理攻撃や魔法攻撃は軽減されるし、状態異常は効かなくなっている」
「いや、そう言うことではなくて・・・」
え?でも、そんなスゴイ物をいくらするの?ローンで支払い出来るかな・・・。
「それは俺からのプレゼント」
「え!?こんな高そうなもの貰えないよ!神様から貰ったのあるからいいよ!!それに今着ているものもあるし・・・」
「大丈夫高くないから、引っ越し祝いような転職祝いようなものだと思って。それにこれから行く所には、まだ育っていない初心者の装備はキツイから」
「でも・・・」
「同じ帰還者なんだから、気兼ねなく貰ってよ」
渋る私に、カインはローブと杖を強引に押し付けてきた。それを、思わず受け取ってしまう。
「でも、悪いよ。こんなにしてもらって・・・」
「悪いと思うのなら貰ってね」
カインはそう言いながら私が手に持っていたローブを取り、着ていたローブを脱がしてそれをスポッと頭から被せて着せた。
「ありがとう・・・」
「どういたしまして。ほら、腕を通して」
そう言われていそいそと袖を通すと、ダボッとして裾は足首まであり体型がわかりづらいうえ、着やすく体に馴染む感じがして凄くに入ってしまった。
「このローブ、丈も幅もぴったりなんだけど?」
不思議だ・・・。昨日の今日で作ったにしても徹夜で作らないと無理だと思う。でも、徹夜をした感じはないみたいだし・・・。元々あった物なのかな?でも、カインがこのローブを着たら丈が短すぎて不格好になるだろうし、ジャックが着たら裾を引きずって転びそうだから・・・。そうすると第三者の物?今は外出していないけど、本当は一緒に暮らしている人がいる?・・・恋人!?もしかして結婚してる!?私って邪魔者!?
「俺のローブをリメイクした物だよ。あ、袖を通していない新品だから心配しないで」
「そうなの?お古でも気にしないよ。・・・恋人か奥さんの物かと思った。一緒に暮らしているのなら早く出ていかないとって思ったよ」
「いないから心配しないで、ここにずっといても良いから」
「ありがとう、助かるよ」
そう言ってもらって、当分の住むところが確保できてほっとした。
こんなにしてもらって、お返しとかすぐにできないし困った。徐々に手伝いとか何かしら貢献していこう!!
「時間がなかったから、杖は俺が前に使っていた物だけど」
そう言うけど、杖に付いているオーロラカラーの球体は、見る角度によって色が変わって綺麗だ。
「いやいやいや、十分スゴイよ!!」
「君の魔力では、その杖はすぐにダメになると思うけどね」
「そうなの?」
「うん。ノアの魔力の質も良いし、量も多いでしょ?神様から貰った杖なら大丈夫だけど、今回はレベルが低すぎるからね。今はまだ少ししか魔力を出すことが出来ないからそれで間に合うと思うよ」
「そうなんだ・・・。凄く助かるよ、ありがとう」
神か仏かカイン様か、拝んでおこう・・・。
会って間もないこんな私に優しくしてくれて、面倒見てくれて、カインには感謝しかないとしみじみと思い、思わず手を合わせてしまった。
「あれ?でも10年前、カインは11歳だったんだよね?子供が一人で生きていくのは不便では?」
確か、彼のステータスには年が21となってあったはず。
いくら無限収納《インベントリ》にお金があっても、宿にも子供一人で泊まれたり出来るのかな?働こうとしても11歳の子供を雇ってくれる所なんてないだろうし・・・異世界だからあるのかな?
「そう思うよね、普通は・・・。でも、こっちではどんな小さい子供でも働けるし、宿にもお金さえ払えれば泊まれるんだ」
「そうなんだ。こっちでは、子供は保護対象じゃないんだね・・・」
「一応、責任者がいない孤児院みたいのはあるけど、形ばかりだよ」
「責任者がいない孤児院・・・?」
「そう、雨風を防げるだけマシという所かな。食事は国からの支援で出るけど、小麦粉を捏ねて焼くか蒸したもののみ、それ以外は自分でお金を稼いで確保しなくてはならないんだ」
首を傾げた私にカインは、自分がいた世界とは違う子供たちの現状を教えてくれた。
「え!?それだとお金を稼ぐために悪いことしそうだけど・・・」
「普通はね。でも、信仰深いって言っただろ。孤児院で信仰心を植え付けるんだよ。毎朝、教会から神父やシスターが派遣されるんだ」
教会ってそんなことするんだ・・・。困っている人たちに手を差し伸べるイメージだけど、孤児院の子供たちには手を差し伸べないのかな?
「毎日・・・それなら、教会が子供たちの面倒を見れば良いんじゃないの?」
「子供は、成人するまでは国の物という考えなんだよ。この世界では」
「そうなの?それも変だよね。国の物と言うのなら、もっと手を尽くしても良いんじゃない?・・・それに、信仰心を植え付けても仕事が見つからなくて、不満が出て悪い方へ行ってしまう子供はいるんじゃないの?」
成長するうえで、環境って大事だと思う。良い方に行くのも、悪い方に行くのも。
「そうだけどね。日本とは違って孤児院への施しは、建物と食事の提供で精一杯みたいだよ。それと、この世界の大半の国では年齢関係なく自立しやすいように、孤児院の他に職業訓練や就職斡旋のような所があるんだ。仕事がないということはないよ。それに、病気やケガで仕事が出来なくなっても、国などから支援があるから、あまり悪い環境というのができないはずだよ」
「そっか、あっちの世界の感覚だと、子供を働かせるなんてと思うんだけど仕方ないのかな・・・」
カインが言い聞かせるように説明してくれるが、まだ納得できないで自分がいる。
「けど、社会に出るとルールや縛りがあるから、幼いうちならそんなものだと受け入れてしまうけど、成長するうえで自我が強くなるとどうなんだろうね」
「そうだよね、いくら子供でも心はあるんだから・・・」
「でも、孤児院は縛りが無く自由もあるし、管理は完全に国だから、小説とかに書かれてあるのとは違い、貧しい孤児院のために自分たちが働いたお金を入れるといこともしなくて良いんだよ」
「そうなの?それは良かったと言って良いのかな?なんとも言えないね・・・。でも、大人の愛情も必要だと思うんだけど・・・」
やっぱり、大事だよ。愛情を貰って育っていくという環境が・・・。
「まぁね・・・年上の孤児が自然と幼い孤児を面倒見るようになっているし、成人してもからも孤児たちの面倒をみているけど、大人の愛情ってなるとね・・・」
「そうだよね・・・」
「あと、表はそう見せても孤児院の裏がどうなっているか・・・」
「裏って・・・」
「話が脱線しちゃったね。この話は今度にしよう。じゃ、これから魔力についての勉強と上手く扱うための訓練をしていこう」
まだまだ聞きたいことがあるけど、これじゃ先に進めないと、カインは私の言葉を遮るように話を切り上げた。
「はい、よろしくお願いします」
それを、カインに迷惑をかけてはダメだと素直に受け入れた。
「じゃ、まずは目を閉じて、臍の下にある丹田ってわかるかな?それにグッと力を入れてみて・・・力を入れたら、瞑想するように心を落ち着かせ体の中にある魔力を感じていくんだ」
「ちょっと待って。簡単に言うけど、そんなことで魔力ってわかるの?」
軽く言うカインに、私は慌てた。
「ま、やってみればわかるよ。この世界では、簡単に自分の魔力を感じることができるから。他人の魔力を感じるには、魔力に長けている者しか無理だけどね」
へーそうなのか。しょうがない、ぐちゃぐちゃ考えずにやってみよう。まず目を閉じて、お臍の下にある丹田に力を入れて、心を落ち着かせて体の中にある魔力を感じるっと。丹田は痩せるために色々勉強したから知っているもんね。気力が集まる所だったかな、確か。やばい気が逸れてしまった。えっと、魔力を感じる、魔力を感じる、魔力を感じる・・・。
意識して魔力を感じようとするが、なかなかそれらしいものが見当たらない。
ん~これっというのがないなー。そういえば、魔力が詰まって滞ってとあったね、ステータスに・・・ということは、体中パンパンに魔力が溜まっていること?魔力が詰まっているとこは、塞き止められている所があるはず・・・おぉ!あった!!心臓の辺りのここだけ少し熱くて濃いような違和感がある。
「たぶんコレかなというのがあるけど・・・」
「じゃ、今度はそれを、体中を血液が流れるように流してみよう」
「うん、やってみる・・・」
流すと言っても、このパンパンに溜まっている状態でどうすれば良いんだろう?うーん、魔力が詰まって滞っているのなら、そこを通りやすくすれば良いのには・・・。
ということは、抉じ開ければ良いんじゃん!たぶん魔力が詰まっているであろうコレに圧をかけて、少しでも隙間があるのなら必ず流れるはずだから。あっ薄ら流れてきたような・・・でも上手くいかないなー。ドリルみたいに先を細くして、穴を広げるようにしてみよう・・・おっ流れてきたー!!おぉどんどん流れる!
「できた!」
「できちゃったね・・・」
ちょっと呆れたように、カインが言う。
あれ、私なんかやらかした?
「普通はそんな簡単に出来ないから、来訪者でさえ数カ月かかるから」
「え?いや、だって・・・」
そんなに難しい感じじゃなかったけど・・・そういうの先に言ってよ~。チートなんていらないから!!やだよー社畜並みの労働なんてするのは!
「ま、俺も1日で出来たけどね」
「なんだー。びっくりさせないでよ~」
「数分じゃないから、丸一日だからね」
「え?」
ホッとしたのも束の間、カインの更なる言葉に焦りを覚える。
ヤバイです。マジで社畜並みの労働に・・・今はカインがいるけど、訓練が終わってこの世界に一人で暮らすとなると、帰還者だってばれて、監禁されて、昼夜関係なく働かされて、なんてなったらどうしよう!!
「だから、気を付けるんだよ。誰が見ているか、わからないんだからね」
・・・カインさん。さっきのは、私の気を引き締めるために大げさに言ったのでしょうか?それなら効果莫大です!
わかったと、思わず首を勢い良く縦に何度も動かして頷いた。
「じゃ次は、魔力を形にしていくよ」
私が頷いたのに満足したのか、カインは次に話を進めていく。
「形?ファイヤーボールとかファイヤーアローみたいな?」
「そう。だけど、まずは魔力を外に排出させて形を作ってみて」
「魔力を?ファイヤーとかウォーターとか付けるんじゃないの?」
カインの言っていることが訳が分からず、頭の中がクエスチョンでいっぱいだ。
「ファイヤーとかウォーターとかは属性魔法なんだけど、その属性を付けずに魔力だけで訓練していくと扱いやすくなるんだ」
「へぇー」
そうなんだ~。小説だと巨大なファイヤーボールをぶちかまして、周囲を驚かせたなんてあったけど・・・何事も地道にやっていかないと上手く行かないということなんだね。
「それに、魔力の扱いが慣れていない者が急に巨大な魔力を使うと、その使った魔力に酔うことがあるんだよ。頭痛に吐き気、めまいなど体調不良に1週間ぐらいなるから、この訓練は大事なんだよ」
「えっそれは嫌かも・・・」
その症状プラスお腹が下って酷い時があったんだよね。病院に行って検査しても原因不明で、最終的にはストレスということになったな・・・もうあんな思いはしたくないっ。思わず握り拳を作ってしまう。
「じゃ、やってみて」
「わかった、やってみるけど・・・」
ちゃんと出来るか心配だよ。魔力酔いヤダなー。
「イメージだからね」
あっそうかー!小説に書いてあったよ、それ。イメージ、イメージね。まずは、丸いボールをイメージしてと・・・。
両手を前に突出し魔力を押し出すように力を込めるが、顔が赤くなるくらい力んでも、うんともすんとも魔力が体の中から出てこない。
あれ?出ない。どういうことー!?
「出ない・・・」
魔力を放出させて発生させるんだよね。じゃ、放出できる所があるということだよね・・・。
「そうだな・・・。まずは魔力を両手に集めてみて」
「わかった、やってみる」
その言葉に頷くと、体の内側にある魔力を両手に集めていく。
ここまでは出来るけど、この後なんだよね・・・。
「液体ではなく気体を出す感じでやってみて、皮膚呼吸のイメージだよ」
「あ、そっか。気体ね。皮膚呼吸かー」
血液を流れるようにって言っていたから、その液体を体から出すイメージでやっていたよ。それじゃ、いくらやっても出ないよね。
皮膚を切って血を出す以外は液体を出すのって汗くらいだけど、それじゃある程度の大きさにするには時間が掛かりそうだし、それに比べて気体だとスムーズにいきそう。
魔力を皮膚で呼吸をするように、毛穴から出すイメージで。おー!出てきた!!モヤッとしたものが!パチンコ玉くらいだけど・・・。
「うん、できたね。次に、それを野球ボールくらいの大きさにしてみて」
野球ボールくらいの大きさね。ではでは、これに魔力を足して・・・。うーん、ピンポン玉にもならない。どれぐらいの時間が経っただろうか、どんなに魔力を継ぎ足しそうとしてもパチンコ玉の大きさのままだ。何故・・・。
「ノア」
呼ばれて振り向くと、いつの間にかカインは黒い布と木で出来た杖のような物を持っていた。
「これを着て、これを持って行こうか」
差し出された黒い布を広げると、魔法使いが着るようなローブだというのがわかった。良く見ると黒ではなく濃紺で、襟ぐりと袖ぐりと裾ぐりには色鮮やかなエメラルドグリーンの生地に金色糸で複雑な模様の刺繍がされてあった。杖は1mくらいの長さで、上の部分にはオーロラカラーの球体が付いている。
「これは・・・」
「習うより慣れろって言うしね」
「ん?」
「百聞は一見に如かずって言うしね」
「え?」
何を言いたいんだ、この人は??
「これからダンジョンに行くから」
「はぁ?」
ちょっと待って、これからお店に買い物に行くからというくらい軽く言ってるけど、私の聞き間違い?ダンジョンって聞こえたけど・・・あっダンジョンという名のお店のことかも。
「実戦の方が覚えやすいと思うから」
「えぇー!?」
聞き間違えでもお店の名前でもなかったー。この世界に来て間もない、魔法の魔も知らない私を、この人は本当にそんな危険な場所に連れて行こうと考えているのか!?
「大丈夫だよ。そのローブには魔法付与がいくつも付いているから、多少の物理攻撃や魔法攻撃は軽減されるし、状態異常は効かなくなっている」
「いや、そう言うことではなくて・・・」
え?でも、そんなスゴイ物をいくらするの?ローンで支払い出来るかな・・・。
「それは俺からのプレゼント」
「え!?こんな高そうなもの貰えないよ!神様から貰ったのあるからいいよ!!それに今着ているものもあるし・・・」
「大丈夫高くないから、引っ越し祝いような転職祝いようなものだと思って。それにこれから行く所には、まだ育っていない初心者の装備はキツイから」
「でも・・・」
「同じ帰還者なんだから、気兼ねなく貰ってよ」
渋る私に、カインはローブと杖を強引に押し付けてきた。それを、思わず受け取ってしまう。
「でも、悪いよ。こんなにしてもらって・・・」
「悪いと思うのなら貰ってね」
カインはそう言いながら私が手に持っていたローブを取り、着ていたローブを脱がしてそれをスポッと頭から被せて着せた。
「ありがとう・・・」
「どういたしまして。ほら、腕を通して」
そう言われていそいそと袖を通すと、ダボッとして裾は足首まであり体型がわかりづらいうえ、着やすく体に馴染む感じがして凄くに入ってしまった。
「このローブ、丈も幅もぴったりなんだけど?」
不思議だ・・・。昨日の今日で作ったにしても徹夜で作らないと無理だと思う。でも、徹夜をした感じはないみたいだし・・・。元々あった物なのかな?でも、カインがこのローブを着たら丈が短すぎて不格好になるだろうし、ジャックが着たら裾を引きずって転びそうだから・・・。そうすると第三者の物?今は外出していないけど、本当は一緒に暮らしている人がいる?・・・恋人!?もしかして結婚してる!?私って邪魔者!?
「俺のローブをリメイクした物だよ。あ、袖を通していない新品だから心配しないで」
「そうなの?お古でも気にしないよ。・・・恋人か奥さんの物かと思った。一緒に暮らしているのなら早く出ていかないとって思ったよ」
「いないから心配しないで、ここにずっといても良いから」
「ありがとう、助かるよ」
そう言ってもらって、当分の住むところが確保できてほっとした。
こんなにしてもらって、お返しとかすぐにできないし困った。徐々に手伝いとか何かしら貢献していこう!!
「時間がなかったから、杖は俺が前に使っていた物だけど」
そう言うけど、杖に付いているオーロラカラーの球体は、見る角度によって色が変わって綺麗だ。
「いやいやいや、十分スゴイよ!!」
「君の魔力では、その杖はすぐにダメになると思うけどね」
「そうなの?」
「うん。ノアの魔力の質も良いし、量も多いでしょ?神様から貰った杖なら大丈夫だけど、今回はレベルが低すぎるからね。今はまだ少ししか魔力を出すことが出来ないからそれで間に合うと思うよ」
「そうなんだ・・・。凄く助かるよ、ありがとう」
神か仏かカイン様か、拝んでおこう・・・。
会って間もないこんな私に優しくしてくれて、面倒見てくれて、カインには感謝しかないとしみじみと思い、思わず手を合わせてしまった。
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ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
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