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《アリス視点》
「アリス、こっちこっち!」
「シャナ、速いよぉ……」
「アリスが遅いのよ」
「そんなことないよう……」
あれから、私たちは街に出た。
香水を探している話をしたから、おすすめを教えてくれるらしい。
にしても、病み上がりの身体がすごい悲鳴をあげている。シャナのテンションについていけそうにないって。
後ろを歩くイリヤたちにヘルプを送ってみたけど、誰1人として助けてくれないの。ドミニクなんて、「運動すりゃあ、飯が美味くなるぞ」って論点のズレたこと言ってるし。そうじゃないでしょう! と文句を言ってみたいものの、楽しいことには変わりないから言い返せない。
「終わったら、ミュージカル見ながらカクテルでも飲みましょう」
「え、私未成年だけど」
「ノンアルよ」
「ノンアルカクテルなんてあるの? 普通の炭酸と何が違うの?」
「あっちの国にはないのね。美味しいのに、もったいない。飲めばわかるわ」
「そんなに美味しいのね……」
「お嬢様、涎は垂らしたらダメですよ!」
「わっ、わかってるもん!」
「あはは」
私とシャナは、後ろに居るイリヤからの合いの手に笑いながら目的のお店へと歩いていく。
***
《アレン視点》
時間を遡り、まだアリスお嬢様がこの国に居る時のこと。
ドミニクからもらった情報を元に城下町の外れにある古びた酒場に立ち寄ると、すぐに異変に気づく。
ドアを開ける前に、パリンと何かが割れる音と共に銃声が聞こえたんだ。
「ラベル、気をつけろよ」
「うい」
シールドでも持ってきた方が良かったか? しかし、今から戻って……なんて悠長なことを言ってる場合ではなさそうだ。応援を呼ぶ暇くらいはほしいが……まあ、ラベルが居れば良いか。
俺は、ラベルに小声で話しかけながら、ドアに耳をつける。幸いガラス製ではないので、中から俺らの存在は把握できていないと思う。古びた酒場にしては、頑丈すぎるのには疑問が残るが……。
「……の、あ」
「! だ……、た」
「やっぱり……が、……」
耳を澄ませていると、中に居る人たちの怒鳴り声が聞こえてくる。これは、澄ませなくても十分聞こえるな。後ろに居るラベルが耳を抑えてる程度には、大声で話している。
しかし、その声が途切れ途切れにしか聞こえてこないのはなぜだろうか。
とりあえず、ドミニクのくれた情報がハズレではなかったということはわかった。
「この扉、防弾になってる」
「よくわかるな」
「故郷の幼馴染が、こういう建築してたからウンチクすごかったんだよ。今でも夢に出てくるくらい」
「それは……」
「多分、あの窓も防弾ガラスだと思う。光り方がおかしい」
「こんな、古びた酒場に不相応だな」
「こういう特殊建設をしてるところは限られてくるんだよね。なんかお金の匂いがするよ」
「だな。タイミングを見るから、ちょっと離れててくれ」
「うい。ちなみに、防音も備わってる場合は、中で音が反響しすぎて外の音はあまり聞こえてないからね。参考に」
「だから、音が途切れ途切れなのか」
なるほど、そういうのもあるのか。防音シートなるものがあるのは知っていたが、この目で見るのは初めてだ。
こういう使い方はあまり感心しないが、防音防弾を扱う建設関係者を洗っても何か出てきそうだな。その辺は、ラベルに任せてみようか。
防音と言っても、漏れる音がゼロというわけじゃないらしい。今も、途切れ途切れではあるものの複数の声が聞こえている。
その中に、ヴィエンやマークスは居ないな。聞こえにくいとは言え、数年共にしてきた仲間の声くらいはわかる。
「……なのは、……」
「そ……、あ……!」
「だから、そ……だ……!!」
「ジャックの……」
「いや、……ンテーヌが…………」
「しか……だ、で……」
中で会話をしているのは、全員男性だ。
聞き耳を立てること5分、4名の声色しか聞こえてこないということは少なくとも中に4名以上居るということ。そして、後ろで待機してるラベルが無言でいるから、他に客は来ていないということがわかった。
あとは、中に居て声を発していない奴が何名居るのか。透視能力なんかがあれば良いのだが、あいにく普通の人間なので持ち合わせていない。
となれば、あとは強行突破でもしようか。見る限りドアは1つしかないし、ザッと一周してみたが隠し扉の類は見当たらない。銃の保持は気になるが、言ってしまえばそれを口実に取り締まれる。
と思い、ラベルを呼ぼうと振り向くと……。
「!?」
「しー」
「……バーバリー殿?」
そこには、いつの間に居たのか、バーバリー殿がニコニコして立っていた。その後ろで、ラベルが何やら小さな紙を読んでいる。
バーバリー殿は、俺の口を両手で塞ぎながら「せいぎ、さんじょ」と小声で話しかけてきた。……正義の味方、参上とでも言いたいのだろうか。どことなく、ドヤ顔でこちらを向いているような気がする。
突然の出現に驚くものの、彼女が十分戦力になることは承知だ。きっと、イリヤあたりが寄越してくれたのだろう。「手伝ってくれますか?」と聞くと、無言でサムズアップしてきた。そして、
「なか、5にん。ひとり、おんな」
と、聞き耳を立てていないのにも関わらず、人差し指を酒場に向けながらそう話しかけてくる。
俺の立てた、男性4名以上という仮説と相違はないが……。
バーバリー殿は、どうやって気づいたんだ? 嘘をついているような感じではないし、ましてや出鱈目に話しているような感じもしない。
「バーバリーちゃんは、耳が良いんだって。イリヤの伝言にそう書いてある」
「……そう、か」
「バーバリー、とつにゅ!」
「あ、こら!」
ちょっと待て!?
バーバリー殿は、まるでピクニックにでも行くような気軽さで扉を叩いてしまった。
とりあえず、人数が分かったところで作戦を立てようとしたのに! 相手は、銃を持ってるんだ! 慎重に行かないと、長期戦に備えられないだろう!?
こういう時は、初動が大事なんだ。
始めをしっかりしないと、負傷者の数が違う。特に、上に立つと他の団員たちの命を預かっていることと同義になるからおざなりにしてはいけないし、連携の取り方も変わってくるし、そもそも……って、扉が開いたぞ!?
「誰だ」
「こんばんは、わるいひと」
「ガッ!?」
しかも、いかつい長身男性が出てきたと同時に、バーバリー殿は深々をお辞儀をしながら拳をその男性の腹部に向かって突き上げた。
相当威力があったのだろう、男性はそのまま後方に吹き飛んでいく。
怒涛の展開についていけなかったのは、ラベルも同じらしい。いつの間にか俺の隣に来て「うわー……」と無意識に言葉を吐いていた。
それでも、バーバリー殿は止まらない。
「フォンテーヌのひとです。たいせん、ありがとう」
「わ、なんだこいつ!」
「キャッ!?」
「ぐあ!」
「おさけ、1にち、1ぱい」
と、よく分からないことを言いながらも内部の人間を次々と文字通り「放り投げて」いる。
長身男性が居なくなったことでここからでも酒場の中を見渡せるようになったが、彼女が言ったように男性が4名、それに、フードを被って机下に縮こまっているのが女性だろう。ブロンズのウェーブ髪がチラッと見えている。
それに、女性の手には銃が握られていた。……が、あれだけ震えていたら使えないだろうな。
「バーバリー殿は、感覚が優れてるんだって。イリヤの伝言にそう書いてある」
「他に、なんて書いてある?」
「この借りは、隣国でって。意味わかる?」
「あー……。あとで説明するよ」
「そうして。……ねえ、バーバリー殿って騎士団入る気ないかな」
「終わったら聞いてみな」
おかしい。こうやって外で会話してるのに、油断したら隣に居るラベルの声すら聞き逃しそうだ。
それほど彼女が中で大暴れして、テーブルやら椅子やら、男性やらをちぎっては投げ、ちぎっては投げを楽しそうに繰り返している。これじゃあ、騎士団の面目は丸潰れだ。
そう思った俺は、腰につけた剣の感触を……どうせ使わんだろうが、確かめてから、酒場の中へと入っていった。
ラベルが言ったように、どうやら内部の壁自体が防音の役割を果たしているらしい。見た事がない穴あき模様の壁が続いている。
「騎士団です。お話聞かせていただけますか?」
「た、助けてくれ! 急に、この女ガッ!?」
「被害者は俺らだ! 痛え!?」
「そ、そうだ! あ、攻撃しないでくださいっ!」
「……」
「……」
遅れてやってきたラベルと一緒にその光景に唖然としている最中も、バーバリーの攻撃は止むことを知らない。多分敵であろうこの人たちに同情を寄せつつも、何が正しいのかを知るために周囲を見渡した。
すると、見覚えのある盗品の数々が視界に飛び込んでくる。
しかも、これはアレだ。ドミニクに連れられて行った鉱山で騎士団が回収したものだ。なぜ、こんなところに? 王宮の最奥で管理しているはず。
それに、バーバリー殿の襲撃によって急いで出したのであろう飛び道具なども床に転がっている。もちろん、全て違法物。所持しているだけで牢屋行きになるようなツールナイフや刃渡り6cmはゆうに超える刃物などなど、久しぶりにこんな量見たなと関心してしまうほど揃いに揃っている。
かろうじて倒れていない机の下で震えている女性が持つ銃だって、きっと違法だ。先ほどの銃声は、彼女が放ったのか?
そう思って視線をそちらに向けた時のこと。俺は、必死に顔を隠すような動作をする女性の正体に気づいてしまう。
「……サレン様?」
「っ……!」
試しに声をかけてみると、その女性がビクッと肩を上げた。
ということは、俺の知っている「サレン様」なのか? 彼女は今も、宮殿で団員の監視の元、部屋に居るはず。
そんなはずはない。
彼女のはずはない。
だって、サレン様は宮殿で……。
半信半疑のまま、俺はゆっくりとその女性に近づく。
幸い、他の男性たちが襲ってくることはなかったし、女性が銃を放つこともなかった。そのままゆっくりとフードを取り、彼女の顔を確認すると、
「嫌っ!」
「……貴女は」
やはり、その女性はサレン様だった。
俺の視線から逃れようと、新しい隠れ場所でも探すようキョロキョロと視線を泳がせている。逃げないよう腕を掴むと、持っていた銃がカコンと音を立てて床に転がった。
素早くラベルが拾い、ハンマーを確認しているが起こされてはいないようだ。シングルアクションのリボルバーで助かった。
しかし、何かがおかしい。
俺は、視線を泳がせているサレン様にもう一度視線をやった。が、オドオドしてるものの、他にこれといったおかしな点はない。
でも、何かがおかしいんだ。それがなんなのか、わからない。
「アリス、こっちこっち!」
「シャナ、速いよぉ……」
「アリスが遅いのよ」
「そんなことないよう……」
あれから、私たちは街に出た。
香水を探している話をしたから、おすすめを教えてくれるらしい。
にしても、病み上がりの身体がすごい悲鳴をあげている。シャナのテンションについていけそうにないって。
後ろを歩くイリヤたちにヘルプを送ってみたけど、誰1人として助けてくれないの。ドミニクなんて、「運動すりゃあ、飯が美味くなるぞ」って論点のズレたこと言ってるし。そうじゃないでしょう! と文句を言ってみたいものの、楽しいことには変わりないから言い返せない。
「終わったら、ミュージカル見ながらカクテルでも飲みましょう」
「え、私未成年だけど」
「ノンアルよ」
「ノンアルカクテルなんてあるの? 普通の炭酸と何が違うの?」
「あっちの国にはないのね。美味しいのに、もったいない。飲めばわかるわ」
「そんなに美味しいのね……」
「お嬢様、涎は垂らしたらダメですよ!」
「わっ、わかってるもん!」
「あはは」
私とシャナは、後ろに居るイリヤからの合いの手に笑いながら目的のお店へと歩いていく。
***
《アレン視点》
時間を遡り、まだアリスお嬢様がこの国に居る時のこと。
ドミニクからもらった情報を元に城下町の外れにある古びた酒場に立ち寄ると、すぐに異変に気づく。
ドアを開ける前に、パリンと何かが割れる音と共に銃声が聞こえたんだ。
「ラベル、気をつけろよ」
「うい」
シールドでも持ってきた方が良かったか? しかし、今から戻って……なんて悠長なことを言ってる場合ではなさそうだ。応援を呼ぶ暇くらいはほしいが……まあ、ラベルが居れば良いか。
俺は、ラベルに小声で話しかけながら、ドアに耳をつける。幸いガラス製ではないので、中から俺らの存在は把握できていないと思う。古びた酒場にしては、頑丈すぎるのには疑問が残るが……。
「……の、あ」
「! だ……、た」
「やっぱり……が、……」
耳を澄ませていると、中に居る人たちの怒鳴り声が聞こえてくる。これは、澄ませなくても十分聞こえるな。後ろに居るラベルが耳を抑えてる程度には、大声で話している。
しかし、その声が途切れ途切れにしか聞こえてこないのはなぜだろうか。
とりあえず、ドミニクのくれた情報がハズレではなかったということはわかった。
「この扉、防弾になってる」
「よくわかるな」
「故郷の幼馴染が、こういう建築してたからウンチクすごかったんだよ。今でも夢に出てくるくらい」
「それは……」
「多分、あの窓も防弾ガラスだと思う。光り方がおかしい」
「こんな、古びた酒場に不相応だな」
「こういう特殊建設をしてるところは限られてくるんだよね。なんかお金の匂いがするよ」
「だな。タイミングを見るから、ちょっと離れててくれ」
「うい。ちなみに、防音も備わってる場合は、中で音が反響しすぎて外の音はあまり聞こえてないからね。参考に」
「だから、音が途切れ途切れなのか」
なるほど、そういうのもあるのか。防音シートなるものがあるのは知っていたが、この目で見るのは初めてだ。
こういう使い方はあまり感心しないが、防音防弾を扱う建設関係者を洗っても何か出てきそうだな。その辺は、ラベルに任せてみようか。
防音と言っても、漏れる音がゼロというわけじゃないらしい。今も、途切れ途切れではあるものの複数の声が聞こえている。
その中に、ヴィエンやマークスは居ないな。聞こえにくいとは言え、数年共にしてきた仲間の声くらいはわかる。
「……なのは、……」
「そ……、あ……!」
「だから、そ……だ……!!」
「ジャックの……」
「いや、……ンテーヌが…………」
「しか……だ、で……」
中で会話をしているのは、全員男性だ。
聞き耳を立てること5分、4名の声色しか聞こえてこないということは少なくとも中に4名以上居るということ。そして、後ろで待機してるラベルが無言でいるから、他に客は来ていないということがわかった。
あとは、中に居て声を発していない奴が何名居るのか。透視能力なんかがあれば良いのだが、あいにく普通の人間なので持ち合わせていない。
となれば、あとは強行突破でもしようか。見る限りドアは1つしかないし、ザッと一周してみたが隠し扉の類は見当たらない。銃の保持は気になるが、言ってしまえばそれを口実に取り締まれる。
と思い、ラベルを呼ぼうと振り向くと……。
「!?」
「しー」
「……バーバリー殿?」
そこには、いつの間に居たのか、バーバリー殿がニコニコして立っていた。その後ろで、ラベルが何やら小さな紙を読んでいる。
バーバリー殿は、俺の口を両手で塞ぎながら「せいぎ、さんじょ」と小声で話しかけてきた。……正義の味方、参上とでも言いたいのだろうか。どことなく、ドヤ顔でこちらを向いているような気がする。
突然の出現に驚くものの、彼女が十分戦力になることは承知だ。きっと、イリヤあたりが寄越してくれたのだろう。「手伝ってくれますか?」と聞くと、無言でサムズアップしてきた。そして、
「なか、5にん。ひとり、おんな」
と、聞き耳を立てていないのにも関わらず、人差し指を酒場に向けながらそう話しかけてくる。
俺の立てた、男性4名以上という仮説と相違はないが……。
バーバリー殿は、どうやって気づいたんだ? 嘘をついているような感じではないし、ましてや出鱈目に話しているような感じもしない。
「バーバリーちゃんは、耳が良いんだって。イリヤの伝言にそう書いてある」
「……そう、か」
「バーバリー、とつにゅ!」
「あ、こら!」
ちょっと待て!?
バーバリー殿は、まるでピクニックにでも行くような気軽さで扉を叩いてしまった。
とりあえず、人数が分かったところで作戦を立てようとしたのに! 相手は、銃を持ってるんだ! 慎重に行かないと、長期戦に備えられないだろう!?
こういう時は、初動が大事なんだ。
始めをしっかりしないと、負傷者の数が違う。特に、上に立つと他の団員たちの命を預かっていることと同義になるからおざなりにしてはいけないし、連携の取り方も変わってくるし、そもそも……って、扉が開いたぞ!?
「誰だ」
「こんばんは、わるいひと」
「ガッ!?」
しかも、いかつい長身男性が出てきたと同時に、バーバリー殿は深々をお辞儀をしながら拳をその男性の腹部に向かって突き上げた。
相当威力があったのだろう、男性はそのまま後方に吹き飛んでいく。
怒涛の展開についていけなかったのは、ラベルも同じらしい。いつの間にか俺の隣に来て「うわー……」と無意識に言葉を吐いていた。
それでも、バーバリー殿は止まらない。
「フォンテーヌのひとです。たいせん、ありがとう」
「わ、なんだこいつ!」
「キャッ!?」
「ぐあ!」
「おさけ、1にち、1ぱい」
と、よく分からないことを言いながらも内部の人間を次々と文字通り「放り投げて」いる。
長身男性が居なくなったことでここからでも酒場の中を見渡せるようになったが、彼女が言ったように男性が4名、それに、フードを被って机下に縮こまっているのが女性だろう。ブロンズのウェーブ髪がチラッと見えている。
それに、女性の手には銃が握られていた。……が、あれだけ震えていたら使えないだろうな。
「バーバリー殿は、感覚が優れてるんだって。イリヤの伝言にそう書いてある」
「他に、なんて書いてある?」
「この借りは、隣国でって。意味わかる?」
「あー……。あとで説明するよ」
「そうして。……ねえ、バーバリー殿って騎士団入る気ないかな」
「終わったら聞いてみな」
おかしい。こうやって外で会話してるのに、油断したら隣に居るラベルの声すら聞き逃しそうだ。
それほど彼女が中で大暴れして、テーブルやら椅子やら、男性やらをちぎっては投げ、ちぎっては投げを楽しそうに繰り返している。これじゃあ、騎士団の面目は丸潰れだ。
そう思った俺は、腰につけた剣の感触を……どうせ使わんだろうが、確かめてから、酒場の中へと入っていった。
ラベルが言ったように、どうやら内部の壁自体が防音の役割を果たしているらしい。見た事がない穴あき模様の壁が続いている。
「騎士団です。お話聞かせていただけますか?」
「た、助けてくれ! 急に、この女ガッ!?」
「被害者は俺らだ! 痛え!?」
「そ、そうだ! あ、攻撃しないでくださいっ!」
「……」
「……」
遅れてやってきたラベルと一緒にその光景に唖然としている最中も、バーバリーの攻撃は止むことを知らない。多分敵であろうこの人たちに同情を寄せつつも、何が正しいのかを知るために周囲を見渡した。
すると、見覚えのある盗品の数々が視界に飛び込んでくる。
しかも、これはアレだ。ドミニクに連れられて行った鉱山で騎士団が回収したものだ。なぜ、こんなところに? 王宮の最奥で管理しているはず。
それに、バーバリー殿の襲撃によって急いで出したのであろう飛び道具なども床に転がっている。もちろん、全て違法物。所持しているだけで牢屋行きになるようなツールナイフや刃渡り6cmはゆうに超える刃物などなど、久しぶりにこんな量見たなと関心してしまうほど揃いに揃っている。
かろうじて倒れていない机の下で震えている女性が持つ銃だって、きっと違法だ。先ほどの銃声は、彼女が放ったのか?
そう思って視線をそちらに向けた時のこと。俺は、必死に顔を隠すような動作をする女性の正体に気づいてしまう。
「……サレン様?」
「っ……!」
試しに声をかけてみると、その女性がビクッと肩を上げた。
ということは、俺の知っている「サレン様」なのか? 彼女は今も、宮殿で団員の監視の元、部屋に居るはず。
そんなはずはない。
彼女のはずはない。
だって、サレン様は宮殿で……。
半信半疑のまま、俺はゆっくりとその女性に近づく。
幸い、他の男性たちが襲ってくることはなかったし、女性が銃を放つこともなかった。そのままゆっくりとフードを取り、彼女の顔を確認すると、
「嫌っ!」
「……貴女は」
やはり、その女性はサレン様だった。
俺の視線から逃れようと、新しい隠れ場所でも探すようキョロキョロと視線を泳がせている。逃げないよう腕を掴むと、持っていた銃がカコンと音を立てて床に転がった。
素早くラベルが拾い、ハンマーを確認しているが起こされてはいないようだ。シングルアクションのリボルバーで助かった。
しかし、何かがおかしい。
俺は、視線を泳がせているサレン様にもう一度視線をやった。が、オドオドしてるものの、他にこれといったおかしな点はない。
でも、何かがおかしいんだ。それがなんなのか、わからない。
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