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閑話2
過保護体質3人組
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《アリス視点》
「ねえ、お嬢さん。こんなところで1人? 遊ぼうよ」
お父様のお願いで参加したお茶会の帰り道のこと。
私は、城下町の噴水がある広場にて休息をとっていた。久しぶりにいろんなご令嬢と会話して疲れちゃったの。それに、急なお誘いだったからサミーの予定が合わなくてね。満足に服の準備ができず少しキツめのヒールを履いていたからか、靴擦れができちゃった。
でも、ヘアメイクは完璧! いつもは流している髪を、イリヤが結いでくれたのよ。アップにすると、また雰囲気が変わるのね。とても気に入ってるわ。
そうそう。そのイリヤなんだけど、もちろんお茶会にもついてきてくれたわ。今は絆創膏を買ってきてくれてるの。すぐそこのお店でね。
私も行きたいって言ったのだけど、イリヤが「イリヤの抱っこで良ければご一緒にどうぞ」って。嫌だわ、こんな人が多いところで抱っこなんて。年頃の令嬢が、そんな恥ずかしいところを見せるわけにいかないでしょう。断ったらちょっとだけ悲しそうな顔していたけど、猛スピードで買いに行ってくれたわ。「お嬢様はここから離れないでくださいまし!」だって。
「ねえ、お嬢さん? 聞いてる?」
それにしても、良い天気ね。
広場では、子どもたちが噴水のある水場で水遊びをしている。それを見ているだけで、とても心が涼しくなるの。やっぱり、子どもの声って良いわね。どんなに落ち込んでいても、楽しそうな声を聞くだけで頑張ろう! って気持ちになるもの。
今日のお茶会はホールで開催したから、あまり外の空気が吸えなかったの。こんな天気が良いなら、外のお庭でやった方が楽しかったのにな。主催者が、虫が苦手なんですって。だから、お庭に出る機会すらないとか。
それを事前に聞いていたから、「あなた、お花は好き?」って聞かれた時は「見るのは好きです」って答えられたわ。本当は育てるのが好きだけど、それを言ったら「そのドレスに虫ついてない!? 出て行って!」って言われそうでしょう?
結構、そういう会話って気を使うのよ。事前情報の収集って大事だわ。アリス時代の時はそういうのに参加してこなかったから知らなかった。
「お嬢さ「おい、お前。誰の許可得てこいつに話しかけてんだコラ」」
「ヒッ……!」
「鼻の下伸ばしてどこ見てんだって聞いてんだよ、このドクズが! 失せろ!」
「ヒッ、は、ヒャイ!」
「2度と近づくんじゃねぇぞ。次見かけたら、命がないと思え」
「しっ、失礼しましたああああ!!!」
ああ、でもやっぱり天気が良いわね。
お屋敷に帰ったら、お外でお茶を飲みたいわ。イリヤが帰って来たら、お願いしてみようかしら。準備が大変なら私も手伝うし、他にたまってるお仕事があればやるし。
でも、先日にお洗濯を手伝おうと思って桶でお洋服を洗ったら、イリヤにすごい剣幕で怒られたのよね。「お嬢様はそんなことしないでください!」って。そんなことって、お洗濯も立派なお仕事でしょう。どうして私がやったらいけないのか、後で聞いてみようかな。あの時は、イリヤの剣幕に押されて頷くだけに留めてしまったから。
もしかして、やり方が違ったのかも。洗剤が多すぎたとか、お水の量が少ないとか。
グロスターに居た時は、自分のものは自分で洗濯していた時期があったからなんとなく手順はわかっていたけど……。そもそも、何年前の話よ。生活情報なんて、年ごとに更新されていくのに私ったら。
昔は毒って言われていたキノコも今は美味しく食べられるし、昔はダメだったことも今はOKなんて事例はたくさんあるでしょう。今のやり方を、後でイリヤに聞こう。
「……おい、ジェレミー。あんま威嚇しないでくれ。お前がすると、目立つんだよ」
「はあ? じゃあ、なんだ? 隊長サンは、アリスの乳見てニヤついてる男が居ても知らん顔ですかあ? お心が広いですねえ」
「別に、知らん顔はしないが……今のはやりすぎだ。ベル嬢に声をかけるだけで十分だっただろう」
「あーあ、お心が広い隊長サンはすげぇや。ソンケイしますわー」
「思ってもないことを口にすんな!」
「お前こそ良い子ぶんじゃねえ。どうせ1人になったらあのお胸様思い出してシコってんだろ」
「んな失礼なことするわけねえだろ! お前、まさか……」
にしても、イリヤ遅いな。どこまで行ったんだろう。
さっきは、あのお店に入っていたのを見たんだけど……。私が子どもたちに目を向けている間にどこか別のお店に行ったとか? ちょっと覗いてきたいけど、一度座ってしまうと靴擦れが痛くて立つのに気合いが必要なのよね。
噴水の淵じゃなくて、ベンチに座れば良かった。
どこか、手すりか何かないかな……。
「ったりめえだろ!? 何度世話になったかわかんねえよ」
「開き直んな!!!」
「あら、ロベール卿にドミニク? 珍しいお2人ね、こんにちは」
「……こ、こんにちはベル嬢。まさか、今の会話聞いて?」
「……会話? なんのこと?」
「あ、いえ。なんでもないです。それより、今話しかけられていた男性はお知り合いですか? なんだが、今日はいつもよりも着飾っているのでデートとか?」
「話しかけられ……? え、私に?」
手すりを探してあたりを見渡していると、ちょうど目の前にアレンとドミニクが立っていた。
2人は、なんだか険悪モードで言い争い真っ只中! みたいな空気感を漂わせている。こんな天気が良いのに、どうしたのかしら?
いえ、それよりも。
私に話しかけていた人が居たの!? 大変! 全く気づかなかったわ。
でも、周囲を見渡してもそれらしき人は見当たらない。もしかして、怒って帰っちゃった……?
私に話しかけてくる男性に、1人だけ心当たりがある。
今日のお茶会で、しつこいくらい声をかけてきた男性が居たのよ。「このあと2人きりでお茶でも?」とか「2人きりでお夕飯どうですか?」とか。どうして2人きりじゃないとダメなのかよくわからなくて、「じゃあ、他の方も誘ってみんなで行きましょう」って提案したら「じゃあ、良い」って。
もしかして、私と同じく恥ずかしがり屋さんだったのかも。勇気を出して話しかけてくれたのかもしれないし。それなのに、私ったら……。
「もう帰りましたよ。どこぞの怖い人に睨まれて」
「え?」
「それよか、アリス。なんだ、その格好は? お前、あれだけ乳出すの嫌がってたじゃんか」
「ちょっ……い、言い方! 今日は、正式なお茶会だったから正装なだけ!」
「ほお、正式なお茶会ねえ……」
「な、何よ。見ないでよ……」
「出てりゃあ、見るに決まってんだろ。そんな立派なお胸様出してこんなとこに1人で居れば、「襲ってください」って言ってるようなもんだぞ」
「……そ、そうなの?」
ドミニクに言われて改めて自分の格好を見ると、確かに胸元が開いている。しかも、今日のドレスは肩出しで背中も見えるタイプなの。主催者側が、「ブルーのドレスでお越しください」って言ってね。これしかなかったのよ。
そう言われると、この格好で居るのが恥ずかしくなってきたわ……。
急に羞恥心に見舞われた私は、両手で胸元を隠して下を向く。周囲で遊ぶ子どもたちに変な格好を見られたくなくて。もしかして、さっき見た時何人かの男性と目が合ったけど、私の変な格好見てヒソヒソされてた?
今まで気づかなかった自分を呪っていると、背中に温かい何かがフワッと降ってきた。
「……?」
「私ので良ければ、羽織っていてください。重くないですか?」
「……あ、ありがとうございます、ロベール卿。大丈夫です」
「いえ。それより、付き人は居ないのですか? こんなところで1人なんて、物騒です」
「今日はイリヤじゃねえの?」
「えっと……今日のお茶会が急だったから、ちゃんとした服装とか用意できなくて。ヒールが合わなくて靴擦れしちゃったんです。それで、イリヤが絆創膏を買いに……」
見上げると、アレンが着ていた上着が私の肩にかけられている。どうやら、貸してくれるみたい。
上着の前部分を両手で掴み、胸元を隠すように前へやるとドミニクが頭を撫でてきた。でも、その表情は硬い。
「隊長サン。イリヤ来るまで待ってて良い?」
「ああ、俺も待ってる。……ベル嬢、私とドミニクがしばらくここに居ても良いでしょうか?」
「え、お2人とも予定は……?」
「アリスより大事な予定はねえよ。それに、さっきからその辺の男どもが……おい! 見てんじゃねえ! こいつは見せモンじゃねえんだよ!」
「だから、お前は! 威嚇すんな!」
「はあ? お前は、アリスが今晩のオカズになっても良いってのか!?」
「全員が全員お前と同じ思考だと思うな!」
「あ、あの……喧嘩はダメよ」
私が今晩のおかず……? どういう意味かしら?
まっ、まさか、私食べられちゃう!? 以前、人肉を食べる種族が居るってファンタジー小説があったけど……もしかして、現実にも居たりして……? え、怖すぎない?
でも、今は2人の喧嘩を止めないと。
多分、2人が居れば私が「おかず」になってしまうことはないと思う。双方、強いし……。なんて、他力本願はあまりよくないわね。私もちゃんと自衛して……。
「お嬢様あ! お待たせしましたあ!」
「おい、おま……!?」
「!?」
「!? イ、イリヤ!?」
「……お前、どうしたその格好」
上着をギュッと握って自分を守ろうと決意したところで、イリヤが戻ってきた。
ドミニクが、戻ってきたイリヤに向かって噛みつこうとするものの、彼女の格好に言葉が止まる。アレンも、私も同様に。
イリヤは、先ほど見た時よりもボロッとした格好だった。スカートに泥がつき、裾部分にシワがすごい。それに、胸元についているのは……血?
「すみません、スピード重視したら、こんなことに……。絆創膏買ってたら、お嬢様が変な人に絡まれているのが見えて」
「だったら、もっと早く戻ってこい!」
「2人が見えたから、お嬢様は大丈夫だと思って。僕は、さっきの男をタコ殴……えっと、お話し合いをしていまして」
「どうして、お話し合いをしていたの?」
「お嬢様の美しさについて語っておりました。靴擦れが痛む中、すみませんでした」
「あ……いえ、えっと」
「それより、失礼します。お屋敷に戻ったら、アインスに治療してもらいましょうね」
私の美しさについてのお話し合いって何!?
イリヤのお友達ができたってことで良い? でも、話題はもう少し選んだ方が良いと思うのだけど……。
ポカーンとする中、イリヤが私の素足に絆創膏を貼ってくれた。
自分では見ていなかったんだけど、結構広範囲みたい。イリヤが持ってる絆創膏、結構大きいわ。
「ったく、専属ならアリスから離れんじゃねえぞ」
「まさか、子どもたちが遊ぶ中でナンパしてくる輩がいるとは思ってなかったの! 店はすぐそこだから、何かあったらすぐ駆けつけられたし」
「じゃあ、なんで来なかったんだよ」
「そりゃあ、お嬢様がナンパに気づいてなかったから。下手に入ってトラブルになる方が非効率でしょう」
「あー……」
「……? どういうこと?」
ナンパって何? 難破船の略? それとも、騎士団で通ずる暗号とか?
あ! そっか、わかったわ。さっき話しかけてたって人が「ナンパ」さんって言うのかも。とても印象的な名前だわ。やっぱり、さっきのお茶会には居なかったわね。ってことは、さっきの人は誰だったのかしら……。
イリヤに質問をすると、なぜかアレンとドミニクまでもが「なるほど」みたいな顔して頷いている。
よくわからない私は、アレンから受け取った上着を握ることだけで精一杯だった。
「にしても、今日のアリスはかわいいな」
「僕がヘアセットした。ドレスも僕」
「よっしゃ、イリヤ握手しようぜ」
「やだ」
「おいおい、歩み寄れっての!」
「あーあ。美しいものが好き過ぎる僕の悪い癖が出ちゃったなあ。今度は、お屋敷内でこう言うのはやるよ」
「その時は是非呼んでくれ。なあ、隊長サン。……隊長サン?」
それにしても、アレンの上着は落ち着く匂いがする。なんか、眠くなっちゃう。
アリス時代によく嗅いだ匂いだから? 天気が良いのも関係してるかも。
「……な、なんだ? 呼んだか?」
「あー、隊長サン、アリスの格好に見惚れてたな」
「……」
「今晩のオカズにするんか?」
「しない! 夜も仕事だよ!」
「その言い方だと、仕事じゃなければ……」
「黙れ! お嬢様をそんな目で見るな!」
「アレン、落ち着いて。僕がタコ殴りしとくから」
それにしても、この3人は仲が良いわ。見ていて微笑ましい。
イリヤとドミニクも、少しずつではあるものの互いへのトゲがなくなってきている気がする。良い傾向ね。
私は、ふと周囲を見渡した。
すると、先ほどまで居たはずの男性たちが1人残らずいなくなっていることに気づく。
みんな忙しいのね。私も、早くお屋敷に帰ってお庭でお茶を飲まないと!
「ねえ、お嬢さん。こんなところで1人? 遊ぼうよ」
お父様のお願いで参加したお茶会の帰り道のこと。
私は、城下町の噴水がある広場にて休息をとっていた。久しぶりにいろんなご令嬢と会話して疲れちゃったの。それに、急なお誘いだったからサミーの予定が合わなくてね。満足に服の準備ができず少しキツめのヒールを履いていたからか、靴擦れができちゃった。
でも、ヘアメイクは完璧! いつもは流している髪を、イリヤが結いでくれたのよ。アップにすると、また雰囲気が変わるのね。とても気に入ってるわ。
そうそう。そのイリヤなんだけど、もちろんお茶会にもついてきてくれたわ。今は絆創膏を買ってきてくれてるの。すぐそこのお店でね。
私も行きたいって言ったのだけど、イリヤが「イリヤの抱っこで良ければご一緒にどうぞ」って。嫌だわ、こんな人が多いところで抱っこなんて。年頃の令嬢が、そんな恥ずかしいところを見せるわけにいかないでしょう。断ったらちょっとだけ悲しそうな顔していたけど、猛スピードで買いに行ってくれたわ。「お嬢様はここから離れないでくださいまし!」だって。
「ねえ、お嬢さん? 聞いてる?」
それにしても、良い天気ね。
広場では、子どもたちが噴水のある水場で水遊びをしている。それを見ているだけで、とても心が涼しくなるの。やっぱり、子どもの声って良いわね。どんなに落ち込んでいても、楽しそうな声を聞くだけで頑張ろう! って気持ちになるもの。
今日のお茶会はホールで開催したから、あまり外の空気が吸えなかったの。こんな天気が良いなら、外のお庭でやった方が楽しかったのにな。主催者が、虫が苦手なんですって。だから、お庭に出る機会すらないとか。
それを事前に聞いていたから、「あなた、お花は好き?」って聞かれた時は「見るのは好きです」って答えられたわ。本当は育てるのが好きだけど、それを言ったら「そのドレスに虫ついてない!? 出て行って!」って言われそうでしょう?
結構、そういう会話って気を使うのよ。事前情報の収集って大事だわ。アリス時代の時はそういうのに参加してこなかったから知らなかった。
「お嬢さ「おい、お前。誰の許可得てこいつに話しかけてんだコラ」」
「ヒッ……!」
「鼻の下伸ばしてどこ見てんだって聞いてんだよ、このドクズが! 失せろ!」
「ヒッ、は、ヒャイ!」
「2度と近づくんじゃねぇぞ。次見かけたら、命がないと思え」
「しっ、失礼しましたああああ!!!」
ああ、でもやっぱり天気が良いわね。
お屋敷に帰ったら、お外でお茶を飲みたいわ。イリヤが帰って来たら、お願いしてみようかしら。準備が大変なら私も手伝うし、他にたまってるお仕事があればやるし。
でも、先日にお洗濯を手伝おうと思って桶でお洋服を洗ったら、イリヤにすごい剣幕で怒られたのよね。「お嬢様はそんなことしないでください!」って。そんなことって、お洗濯も立派なお仕事でしょう。どうして私がやったらいけないのか、後で聞いてみようかな。あの時は、イリヤの剣幕に押されて頷くだけに留めてしまったから。
もしかして、やり方が違ったのかも。洗剤が多すぎたとか、お水の量が少ないとか。
グロスターに居た時は、自分のものは自分で洗濯していた時期があったからなんとなく手順はわかっていたけど……。そもそも、何年前の話よ。生活情報なんて、年ごとに更新されていくのに私ったら。
昔は毒って言われていたキノコも今は美味しく食べられるし、昔はダメだったことも今はOKなんて事例はたくさんあるでしょう。今のやり方を、後でイリヤに聞こう。
「……おい、ジェレミー。あんま威嚇しないでくれ。お前がすると、目立つんだよ」
「はあ? じゃあ、なんだ? 隊長サンは、アリスの乳見てニヤついてる男が居ても知らん顔ですかあ? お心が広いですねえ」
「別に、知らん顔はしないが……今のはやりすぎだ。ベル嬢に声をかけるだけで十分だっただろう」
「あーあ、お心が広い隊長サンはすげぇや。ソンケイしますわー」
「思ってもないことを口にすんな!」
「お前こそ良い子ぶんじゃねえ。どうせ1人になったらあのお胸様思い出してシコってんだろ」
「んな失礼なことするわけねえだろ! お前、まさか……」
にしても、イリヤ遅いな。どこまで行ったんだろう。
さっきは、あのお店に入っていたのを見たんだけど……。私が子どもたちに目を向けている間にどこか別のお店に行ったとか? ちょっと覗いてきたいけど、一度座ってしまうと靴擦れが痛くて立つのに気合いが必要なのよね。
噴水の淵じゃなくて、ベンチに座れば良かった。
どこか、手すりか何かないかな……。
「ったりめえだろ!? 何度世話になったかわかんねえよ」
「開き直んな!!!」
「あら、ロベール卿にドミニク? 珍しいお2人ね、こんにちは」
「……こ、こんにちはベル嬢。まさか、今の会話聞いて?」
「……会話? なんのこと?」
「あ、いえ。なんでもないです。それより、今話しかけられていた男性はお知り合いですか? なんだが、今日はいつもよりも着飾っているのでデートとか?」
「話しかけられ……? え、私に?」
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2人は、なんだか険悪モードで言い争い真っ只中! みたいな空気感を漂わせている。こんな天気が良いのに、どうしたのかしら?
いえ、それよりも。
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もしかして、私と同じく恥ずかしがり屋さんだったのかも。勇気を出して話しかけてくれたのかもしれないし。それなのに、私ったら……。
「もう帰りましたよ。どこぞの怖い人に睨まれて」
「え?」
「それよか、アリス。なんだ、その格好は? お前、あれだけ乳出すの嫌がってたじゃんか」
「ちょっ……い、言い方! 今日は、正式なお茶会だったから正装なだけ!」
「ほお、正式なお茶会ねえ……」
「な、何よ。見ないでよ……」
「出てりゃあ、見るに決まってんだろ。そんな立派なお胸様出してこんなとこに1人で居れば、「襲ってください」って言ってるようなもんだぞ」
「……そ、そうなの?」
ドミニクに言われて改めて自分の格好を見ると、確かに胸元が開いている。しかも、今日のドレスは肩出しで背中も見えるタイプなの。主催者側が、「ブルーのドレスでお越しください」って言ってね。これしかなかったのよ。
そう言われると、この格好で居るのが恥ずかしくなってきたわ……。
急に羞恥心に見舞われた私は、両手で胸元を隠して下を向く。周囲で遊ぶ子どもたちに変な格好を見られたくなくて。もしかして、さっき見た時何人かの男性と目が合ったけど、私の変な格好見てヒソヒソされてた?
今まで気づかなかった自分を呪っていると、背中に温かい何かがフワッと降ってきた。
「……?」
「私ので良ければ、羽織っていてください。重くないですか?」
「……あ、ありがとうございます、ロベール卿。大丈夫です」
「いえ。それより、付き人は居ないのですか? こんなところで1人なんて、物騒です」
「今日はイリヤじゃねえの?」
「えっと……今日のお茶会が急だったから、ちゃんとした服装とか用意できなくて。ヒールが合わなくて靴擦れしちゃったんです。それで、イリヤが絆創膏を買いに……」
見上げると、アレンが着ていた上着が私の肩にかけられている。どうやら、貸してくれるみたい。
上着の前部分を両手で掴み、胸元を隠すように前へやるとドミニクが頭を撫でてきた。でも、その表情は硬い。
「隊長サン。イリヤ来るまで待ってて良い?」
「ああ、俺も待ってる。……ベル嬢、私とドミニクがしばらくここに居ても良いでしょうか?」
「え、お2人とも予定は……?」
「アリスより大事な予定はねえよ。それに、さっきからその辺の男どもが……おい! 見てんじゃねえ! こいつは見せモンじゃねえんだよ!」
「だから、お前は! 威嚇すんな!」
「はあ? お前は、アリスが今晩のオカズになっても良いってのか!?」
「全員が全員お前と同じ思考だと思うな!」
「あ、あの……喧嘩はダメよ」
私が今晩のおかず……? どういう意味かしら?
まっ、まさか、私食べられちゃう!? 以前、人肉を食べる種族が居るってファンタジー小説があったけど……もしかして、現実にも居たりして……? え、怖すぎない?
でも、今は2人の喧嘩を止めないと。
多分、2人が居れば私が「おかず」になってしまうことはないと思う。双方、強いし……。なんて、他力本願はあまりよくないわね。私もちゃんと自衛して……。
「お嬢様あ! お待たせしましたあ!」
「おい、おま……!?」
「!?」
「!? イ、イリヤ!?」
「……お前、どうしたその格好」
上着をギュッと握って自分を守ろうと決意したところで、イリヤが戻ってきた。
ドミニクが、戻ってきたイリヤに向かって噛みつこうとするものの、彼女の格好に言葉が止まる。アレンも、私も同様に。
イリヤは、先ほど見た時よりもボロッとした格好だった。スカートに泥がつき、裾部分にシワがすごい。それに、胸元についているのは……血?
「すみません、スピード重視したら、こんなことに……。絆創膏買ってたら、お嬢様が変な人に絡まれているのが見えて」
「だったら、もっと早く戻ってこい!」
「2人が見えたから、お嬢様は大丈夫だと思って。僕は、さっきの男をタコ殴……えっと、お話し合いをしていまして」
「どうして、お話し合いをしていたの?」
「お嬢様の美しさについて語っておりました。靴擦れが痛む中、すみませんでした」
「あ……いえ、えっと」
「それより、失礼します。お屋敷に戻ったら、アインスに治療してもらいましょうね」
私の美しさについてのお話し合いって何!?
イリヤのお友達ができたってことで良い? でも、話題はもう少し選んだ方が良いと思うのだけど……。
ポカーンとする中、イリヤが私の素足に絆創膏を貼ってくれた。
自分では見ていなかったんだけど、結構広範囲みたい。イリヤが持ってる絆創膏、結構大きいわ。
「ったく、専属ならアリスから離れんじゃねえぞ」
「まさか、子どもたちが遊ぶ中でナンパしてくる輩がいるとは思ってなかったの! 店はすぐそこだから、何かあったらすぐ駆けつけられたし」
「じゃあ、なんで来なかったんだよ」
「そりゃあ、お嬢様がナンパに気づいてなかったから。下手に入ってトラブルになる方が非効率でしょう」
「あー……」
「……? どういうこと?」
ナンパって何? 難破船の略? それとも、騎士団で通ずる暗号とか?
あ! そっか、わかったわ。さっき話しかけてたって人が「ナンパ」さんって言うのかも。とても印象的な名前だわ。やっぱり、さっきのお茶会には居なかったわね。ってことは、さっきの人は誰だったのかしら……。
イリヤに質問をすると、なぜかアレンとドミニクまでもが「なるほど」みたいな顔して頷いている。
よくわからない私は、アレンから受け取った上着を握ることだけで精一杯だった。
「にしても、今日のアリスはかわいいな」
「僕がヘアセットした。ドレスも僕」
「よっしゃ、イリヤ握手しようぜ」
「やだ」
「おいおい、歩み寄れっての!」
「あーあ。美しいものが好き過ぎる僕の悪い癖が出ちゃったなあ。今度は、お屋敷内でこう言うのはやるよ」
「その時は是非呼んでくれ。なあ、隊長サン。……隊長サン?」
それにしても、アレンの上着は落ち着く匂いがする。なんか、眠くなっちゃう。
アリス時代によく嗅いだ匂いだから? 天気が良いのも関係してるかも。
「……な、なんだ? 呼んだか?」
「あー、隊長サン、アリスの格好に見惚れてたな」
「……」
「今晩のオカズにするんか?」
「しない! 夜も仕事だよ!」
「その言い方だと、仕事じゃなければ……」
「黙れ! お嬢様をそんな目で見るな!」
「アレン、落ち着いて。僕がタコ殴りしとくから」
それにしても、この3人は仲が良いわ。見ていて微笑ましい。
イリヤとドミニクも、少しずつではあるものの互いへのトゲがなくなってきている気がする。良い傾向ね。
私は、ふと周囲を見渡した。
すると、先ほどまで居たはずの男性たちが1人残らずいなくなっていることに気づく。
みんな忙しいのね。私も、早くお屋敷に帰ってお庭でお茶を飲まないと!
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