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彼女の違和感

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【お知らせ】
いつもお読みくださりありがとうございます。
お盆が終わるまで執筆時間が取れないため、番外編の公開になります。番外編は、公開しましたら、20章の上19章の下部分に配置します。
以下本編の続きは、お盆終わりに再開します。
また、それに合わせてコメント返信も遅れます。すみません。

********

《アレン視点》




 話が終わりそうになかった2人に割って、俺は会話を止めた。

『では、シャルル記者。本題に入らせていただきますね』
『どうぞ、ロベール隊長』
『ごめんなさい、アレン』

 ここに来てわかったことは、サレン様が何かを隠しているということ、それに、シャルル記者がかなり! かなりチャラいということだ。ここまではっちゃけていないと、記者というものは務まらないのだろうな。……そう思っておこう。

 シャルル記者に促された俺は、持っていた新聞をテーブルの上に置いた。
 以前、クリステル様がサレン様のために取り寄せたらしい。そこの、とあるコーナーの話を切り出す。

『こちらのコーナーの話になります』
『お! 僕担当なので、なんでも聞いてくださいな』
『そうでしたか。では、話が早いですね。この企画を作った方を知りたいのですが、もしかしてシャルル記者が1から作成した感じでしょうか?』

 これなら、話が早そうだ。
 そのコーナーには、新聞が発行される時期に合わせて植えられる植物や野菜の育て方の書かれたカレンダーが大々的に掲載されている。しかも、珍しいことに今後も続く企画らしい。このような企画は、単発で進めていくのが基本だとどこかで読んだことがあるが……。それほど、人気のある企画なのだろう。

 隣では、好奇心丸出しにしたサレン様が身を乗り出して話を聞いている。そりゃあ、聞くところによるとかなり前からこの話を聞きたがっていたらしいし。この反応は当然かもしれない。
 俺は、先ほど彼女に覚えた違和感を探るため、気づかれないよう動向をチェックする。今のところ、おかしなところは見当たらない。
 やはり、考えすぎかもしれない。誰かが世間話をしたか、ルフェーブル卿が持ってきたあの資料に書いてあった可能性だって考えられる。視野は、狭めない方が良い。

『まさか! あれは、ベル・フォンテーヌ嬢という地方の子爵令嬢が考えたものです』
『……え?』
『おや、そのお顔はご存知あるようですな』
『そうなの、アレン?』
『え、ええ。仕事でちょっと……』

 しまった。
 こういう時は、知っていても知らないふりをしなければいけないのに。騎士団の最高責任者が、なぜ辺境に居る子爵令嬢と繋がりがあるのか。聞かれたら、ちゃんと答えられる気がしない。

 まさか、中身が昔仕えていたご令嬢で……なんて、口が裂けても言えないだろう。生涯を共にしたいと思ってい……いや、違う。違う。仕事中に何を言ってんだ、俺は。
 俺が、彼女に釣り合うわけないじゃないか。お嬢様には、もっと聡明な人が似合う。例えば、イリヤとかシエラとか……いや、やっぱり今のなし!

『そうでしたか! やはり、王宮は目の付け所が違いますねえ。頭の回転もさることながら、円滑なコミュニケーションが自然に取れるし、直感が鋭い。しかも、スケジュール管理もバッチリときた。あの方は、仕事において天才の部類に入りますよ。話せば、それがわかる』
『そ、そうですよね。ガロン侯爵の元でお仕事をしているらしく、私もその関係で何度かお話しまして』
『うんうん。きっと、成人になったら王宮で働くのでしょう。子爵令嬢に留めておくのには、もったいない人材だと思います。推薦状なんかがあれば、僕が真っ先にサインする』
『はは……。そういうのはないですね』

 ……良かった。変に勘繰られたら答えられないところだった。見た感じ、変に思われていないし。次から気をつけよう。
 俺は、「王宮でオファー出さないなら、ロイヤル社が迎えるのでその時はお話しくださいね」と嬉々として発言するシャルル記者に苦笑いを披露する。だって、どんな顔すれば良いかわからないじゃんか。王宮の配属を決めるのは、そもそも俺じゃないし。

 そうやって会話していると、急に隣に座っていたサレン様が俺の着ていた上着の裾を片手で握ってきた。それに反応して横を見ると、少しだけムスッとしたような表情になっているような? どうしたんだ?

『サレン様?』
『え、な、何?』
『あ、いえ。シャルル記者に、何か質問があるかと思って』

 いや、気のせいか。
 俺が話しかけると、いつものパーッと明るい表情になって声を発してきた。改めて見たところ、別に裾を引っ張られているようなこともない。

 サレン様は、俺に促されて楽しそうに口を開く。

『そのベル嬢と文通をしたいのですが、場所を教えていただくことは可能でしょうか?』
『文通、とは?』
『実は、掲載されているカレンダーを私も昔似たような形にしたことがありまして。なんだか話が合う気がして、お話してみたいなと思ったんです。私、身体が弱くてここから出られないので、せめて文通をと思いまして……』

 と、少々気恥ずかしいのか頬を染めながらシャルル記者へお願いをしている。こういう言い方をされてしまえば、シャルル記者は断れないだろうな。彼女が、隣国の公爵令嬢であることは存じ上げているはずだし。
 それよりも、彼女が機転の利く人間で良かったな。ただ「ここから出られない」といえば、好奇心の塊である彼は「なぜ?」と聞いてくるに決まっている。彼女が毒人間であることを公表できないため、それは勘弁してほしい。
 きっとサレン様は、それをわかって「身体が弱い」と付け加えたのだろう。アリスお嬢様として洗脳されていたからか、はたまた、彼女も似たような聡明さを持っていたのか。やはり、2人は似ているのかもしれない。

 シャルル記者は、「うーん」とわざとらしく考えるポーズをとりながらサレン様と俺を交互に眺めている。しかも、なんかニヤついてる気がする。個人情報の話をされると思ったんだが、違うのか? なんだ、あの気持ち悪い笑みは。

『うーん、個人情報なので流石の僕でもササッと教えるわけにはいかないんですよね』
『……そうですよね』
『でも、本人に聞いてみることはできますよ。サレン様のことを、彼女に伝えてみましょう。どこまで身分を公表してよろしいですか?』
『……アレン、私こういうのよくわからないのだけど、どこまで良いの?』
『そうですね……。警備の観点から言えば、「とあるご令嬢」と言っていただくのが良いですね。情報が漏れて危険に晒されることだってあり得ますから。それに、あまりご身分を明かしてしまうと相手が萎縮する可能性があります』
『あ……。そうね』

 そうか、俺にも意見が聞きたかったんだな。笑みはよくわからんが……というか、シャルル記者自身が、つかみどころのない人で困る。
 思ったことを話すと、2人とも納得したように頷いた。それにプラスして、なぜかサレン様は嬉しそうな表情になっているが……。なぜだ? 彼女が喜ぶような発言をした記憶はない。

 しかも、またもやシャルル記者がニヤついてるし。なんなら、サレン様の頬が少しだけ赤い気もする。
 なんだ、この状況は。俺にもわかるように、言葉にしてほしい。

『心配してくれて、ありがとう。アレン』
『お嬢様の護衛を依頼されていますから、当然ですよ』
『……そうね』
『んふふ、スクープですなあ』
『ダ、ダメよ! それは、ダメ……』
『大丈夫ですよ。良心はありますから』
『……?』

 と、喜んでいたかと思えばシュンとして、シュンとしたかと思えばシャルル記者に向かって「ダメ」と……。
 ナゾナゾか? 数式なら得意だが、少々そっち系には縁がない。冗談もあまり通用しないと、シエラに怒られたことがあったな。こういう時のコミュニケーションに使うため、今度覚えようか。

 それにしても、サレン様は変わられたな。
 アインスの話によれば、彼女の体内から以前よりもだいぶ毒を排出できているらしい。前回、診察をした時に「順調ですな」と頷いていたし。少々表情が暗かったが……カルテを見ても異常はなかったから、光の加減でそう見えただけだろう。
 今はまだ毒入りの食事を召し上がられているが、もう少し治療が進めば一般食になるとのこと。その辺りは全て、アインスに任せてある。

『では、私は次までにベル嬢の連絡先を聞いてきましょう。断られても不敬にしないでくださいね』
『するわけないわ。むしろ、ごめんなさいね。仕事以外のことを頼んでしまって』
『いいえ? こうやって隣国の公爵令嬢様と関わりができるのは、仕事として光栄なことですから。あっ、個人的なお付き合いもウェルカムですよ?』
『シャルル記者、カイン皇子の婚約者です。口説かないでください』
『やや、これは失礼しました。ははは!』

 と、まあこんな感じでその場はお開きになった。
 ベル嬢は目覚めていないのにどうやって連絡先の許可を取るのかなと心配になったが、そもそも俺が心配することじゃないな。
 それよりも、彼女に会いたいな。また甘えてきてくれると、仕事の疲れが吹っ飛ぶんだが。……前回のようにベッドへ押し倒されたら、俺ごと吹き飛びそうだが。

 シャルル記者が帰ると、まるでパーティがお開きになったような印象を受けるな。やはりあれは騒がしい部類に入ると確信した。そんな彼をサレン様と立ち上がって見送りをしたが、これからどうするか。
 サレン様を見ると、いつの間にか俺の上着の裾をぎゅっと掴んでいる。どうしたのだろうか。普段の彼女は、アリスお嬢様になった時のように抱きついてこない。

『ありがとう、アレン』
『いえ、むしろ今まで待たせてしまってすみません。退屈ですよね』
『それだけのことをしてるから。……それよりも、私が毒だって気づいてからも、アレンがこうやって普通に接してくれるのがとても嬉しいの』
『……私は、頑張って変わろうとしている人を避けるような趣味を持ち合わせていませんので』
『ふふ、アレンらしい。……本当、アレンって』

 サレン様は、途中で言葉を区切って俺の胸に頭をもたせてきた。
 彼女も寂しいんだな。母親を亡くし、父親は迎えに来ないどころか隣国のどこに居るのかもわからない状態で。自由もないし、何か一つでも希望があれば良いのだが……。
 幸い、陛下はここに留まって良いとおっしゃっている。しかし、毒を排出する代わりに自由を奪われているとは、なんだか悲しいな。
 俺にできることはなんだろうか。

 本当、彼女はジャックに似てるな。
 ……グロスター伯爵家の1人庭師、ジャック・マベリーに。

『そうだ、サレン様。週明け、外出許可をもらっているので外に行きませんか。連れて行きたいところがあるんです』
『ええ、嬉しい! どこにでも行くわ』
『……楽しいところじゃなくても?』
『え?』

 もうすぐ、鉱山の調査が終わる。
 ジェレミーに教えてもらった鉱山は今、王宮総出で内部調査をしているところだ。もうすでに、伯爵の爵位を持つ夫妻が数人逮捕されている。まだまだ出てくるだろう。逮捕者の中に、ベル嬢を狙ってる輩が居れば良いのだが……。

 とにかく、手入れの終わったそこに、サレン様を連れて行き反応を見たい。そこで、彼女が敵なのかそうでないのかがわかるかもしれないし。


 こうして、彼女はあの鉱山へと足を運ぶことになった。
 サレン様が、あの「アリスお嬢様の部屋」を見て脳内に大きなダメージを受け、ベッドでの療養を余儀なくされるまであと4日……。
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