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明かされる真実、始動する影

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「あのさ、ジェレミーは僕のこと抱ける?」

 イリヤは、そう言って膝に置いたアリスお嬢様を手繰り寄せて抱いた。起きないかハラハラしたが、そもそも起きてもらった方が良いことに気づき見守ることにする。それに、なんだかジェレミーに見せつけるかのように感じるんだ。
 ってことは、「抱く」は抱きしめるの意味か。俺は、てっきり……。

 世の中、異性を愛する人だけじゃないのはわかってる。わかってるが、周りに居ないから想像はつかないな。
 アリスお嬢様が男性だったら、どうだろうか。ツンツンしてるのにここぞという時はデレっとしてきて……うん、可愛い。こういう気持ちかもしれん。

「ジェレミー、どうしたの?」
「……ッソ気持ち悪りぃこと言うなよ! 鳥肌立ったぞ!」
「なぜ?」
「なぜって……。んで、俺がお前のケツ掘らねえといけねえんだよ! 口に出すのも嫌だわ!」
「ふーん……。ジェレミーはそう思ったんだ。アレンは?」
「は?」

 短髪のアリスお嬢様がニコニコしながらミミズを持ち上げている様子を想像していると、急に話題を振られた。
 びっくりして顔を上げたら、イリヤがこちらに向かってにっこりと笑いかけている。ジェレミーは……相変わらず、嘔吐寸前か? と思うほどの顔色を露出させて嫌悪の表情でいた。

 俺は、ジェレミーに吐くなよ、吐くなよと念を送りつつイリヤと会話をする。

「何が聞きたいんだ?」
「アレンは、僕のこと抱ける? って。……ああ、そうそう。ジェレミーと回答が違ってても良いよ。率直に思ったことを言ってみて」
「良くわからんが、ハグの方なら普通にできると思ったよ。嬉しい時とか、よくしてたしな」
「うんうん、そうだよね。僕も、アレンとならできるよ。そっちが聞きたかったんだ」
「……クッソ、お前。はかったな」

 言われた通り「率直に」会話を続けていると、それを聞いたジェレミーがなぜか怒りあらわにイリヤを睨み出した。
 一瞬だけ、2人がそう言う関係で、俺を交えて浮気調査でもしてると思ったが……まあ、そんなわけないわな。俺の妄想だった。心の中にしまっておこう。

 それよりも、アインスから頼まれていた酸素器を止めないと。忘れるところだった。俺は、そっちに移動しながら会話を続ける。
 よく耳を澄ませると、機械からシュコーシュコーと何かが漏れ出ているような音が聞こえてくるんだ。これが、酸素か? 医療はすごいな。酸素だけを集めてこういう機械に閉じ込めることができるんだから。

「はかったってなんだ? イリヤは、何が聞きたかったんだ?」
「んー? そこで全力で悔しがってる人の過去と、グロスター家で起きてたことの推測を立てたから、試してみたの。そしたら、引っかかってくれたって感じかな」
「ひっかかってくれた……?」

 質問をしてみたが、意味がわからない。
 今の会話の流れで、何か引っ掛かるところがあったらしい。まさか、俺の「アリスお嬢様男性化妄想」が漏れたか!? いやいや、んなわけ。
 彼女が生き返ったと聞いて、少々浮き足立っているのは認めよう。でも、まだ確定はしてないじゃないか。サレン様の時とは心の浮き立ちようが全然違うが、それとこれとは別問題であって……。

 酸素器のバルブを締めながらグルグルと頭の中で渦巻くものに蓋をし、俺はイリヤとジェレミーに視線を向ける。

「ジェレミー、弁解なら今のうちに聞くよ」
「……っ」
「ふーん。相当トラウマみたいだねぇ……」
「どういうことだ?」

 しかし、会話が進みそうにない。
 ジェレミーは、真っ青を通り越して真っ白な顔色を披露しながら棒のごとく立っている。こんな奴を見たのも初めてだ。やっぱり、フォンテーヌ家は不思議だな。
 でも、それだけじゃないのはわかる。奴は、何を隠していたんだ? 今ので、何を引き出されたんだ?

 すやすやと寝息を立て続けるアリスお嬢様を抱くイリヤの表情は、奴と対照的に生き生きとしている。まるで、おもちゃでも手に入れたかのような……。嬉しそうなのは結構だが、俺にもわかるように説明して欲しい。

「んー? 僕がジェレミーに、グロスターの話をしてたことを最初に言ったの覚えてる?」
「ああ。今してたって感じで話してたよな」
「そうそうー。その後、僕が「抱ける?」って質問しながら実際にお嬢様を抱いたでしょう? 普通は、アレンみたいに視覚情報で「抱く」の意味を察するよね。ジェレミーはそう思わなかったみたいだけど」
「いや、なんでその話がグロスターと関係あんだよ」
「普通はないよね。でも、ジェレミーには関係あるように聞こえたってことだよ。ねえ、ジェレミー?」

 酸素器から離れた俺は、ベッド付近で立ち止まる。このままソファに座っても良いが、どうせならアリスお嬢様のお側に居たい。それに、ソファのところにはいつもと様子の違うジェレミーが棒立ちになってるからちょっとだけ怖いのもある。

 奴は、イリヤの言葉に震える唇をなんとか制御しつつ、やっと口を開く。

「……だから、俺はお前が嫌いなんだ」
「光栄だよ。それより、話して」
「…………」
「僕は、それを笑いモノにして人の心を支配する奴のことがどうしても許せないんだよ。別に、ジェレミーの過去はどうでも良い」
「……お前」
「早く話さないと、アインス来ちゃうよ」

 俺はこの話を聞いていても良いのだろうか。ジェレミーをチラッと見ると「今すぐここから出ていけ」と言わんばかりの圧力を感じる。
 正直なところ、今すぐここからアリスお嬢様を抱いて逃げ出したい。そんな会話が始まる気がしてならない。でも、聞かないといけない気もするんだ。

 とりあえず、アインスからお願いされたことはやった。彼が来るまで、あと5分。……話は終わるのだろうか。

「じゃあ、話すけど……」

 覚悟を決めたらしい。
 ジェレミーは、あまり行儀が良いとは言えない態度でソファにドカッと座り込み口を開いた。先ほどよりは、顔色が人間に近くなっている。どんな情報が聞けるのやら。

 そろそろ、夕日が顔を出す頃。
 ラベルの方は大丈夫かな。



***


 予定通りにスケジュールが進んでいるのであれば、今頃私は陛下のお守りをしに宮殿の執務室に居たはず。でも、現実はそうじゃなかった。

 油断したわ。騎士団が居て、しかも閉鎖空間の中、逃げ出そうと考えている人が居るなんて想像もつかなかった。こんな時に限って、ロベール卿が居ないなんて。彼を休ませたかったって気持ちは、間違っていたの?

 こうなるのなら、サモンという人が出てきた時に警戒して延期すれば良かった。
 目の前で起こった出来事を理解できず、私はただただ床に倒れていることしかできない。テーブルを挟んだ向こう側では、ラベルの掠れた声が響いてくる。それと一緒に、慌ただしく人が行き交う様子も。

「エルザ様! エルザ様、返事をしてください!」
「……ラ、ラベル。エルザ様は」
「返事がないんです……。返事が。エルザ様!」

 ヴィエンとマークスの尋問最中、私たちは彼らに襲撃された。
 途中までは、順調だったの。持ち寄った質問を聞き終えて最後の挨拶をしようとした時、今の今まで大人しかった相手が急に攻撃を仕掛けてきた。
 エルザ様を守ることで精一杯だった私は、いつもとは全く違う雰囲気のヴィエンに飲まれてそのまま、腹部に傷を負ってしまったわ。対面の壁に身体を強く打ち付けられ、思うように思考が回らない。どっちに攻撃されたのかは見てなかったけど、なぜ身体検査をした彼らが武器を持っていたの?

 そんなことより、身体が冷たいわ。
 床が氷のように感じる中、体温が徐々に落ちている気がする。それと同時に、今まで感じていた腹部の痛みが段々と薄れていく。
 私は死ぬのかしら。嫌だわ。せっかく、アリスお嬢様とお話できたのに。……まだまだ、たくさん謝りたいことがあったのにな。目を逸らさないで……一緒に…………。

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