上 下
155 / 217
18

資料の中の「アリス・グロスター」

しおりを挟む
『本日より、新米が加わりました。挨拶をお願いします』
『ご紹介いただきました、アレンと申します。よろしくお願いします』

 気づけば、グロスター伯爵のお屋敷で働く日が来ていた。
 紹介所から借りた新品の執事服に身を包んだ俺は、グロスター伯爵に仕える使用人の前に立って挨拶をする。しかし、その挨拶はあまり意味のない気がする。

 なぜなら、そこにグロスター一家が居ないからだ。せめて、紹介所へ買いに来た伯爵は居ても良いだろう……。
 居るのは、使用人が十数名のみ。伯爵家なら、もっと使用人が居てもおかしくないのに。それに、伯爵だって居やしない。執事学校では、雇われた初日は全員が顔を合わせるのが基本だと習ったのにな。まあ、教科書通りに事が進まないことくらいわかってた。


 『今すぐ、彼女を保護しましょう! じゃなきゃ、アリス・グロスターは死んでしまいます!!』


 あの時、俺の発言に誰も声をあげなかったし、否定も肯定もなかった。
 強いて言えば、ずっと俯いていたクリステル様が俺の顔を見たくらい。それ以外の変化はなく、ただただこれが「大人の世界」なのかもしれないと漠然と思ってしまったのが記憶に新しい。

 しかし、陛下に向かって怒鳴り散らしてしまったことは、誰も咎めなかった。勢いでの発言だったため、すぐに謝ったのが功をなしたのかもしれない。次からは気をつけよう。せっかく、陛下がこうやって俺を信頼して仕事を任せて下さっているのだし。

『はい、じゃあ仕事に戻りましょう。アレンと言ったわね。私は、ハンナ。メイド長よ』
『ハンナメイド長、よろしくお願いします』
『わからない事があったら、いつでも聞いてね』
『ありがとうございます』
 
 なんだ。気を張っていたが、良い人そうじゃないか。
 ハンナメイド長は、他の人が仕事に戻っていく中、俺に笑顔を向けてくれている。他のメイドたちも同様に。これは、歓迎されているということで良いのか? 確か、グロスターの資料には「外部の人間は歓迎されない」と記載されていたのに。まあ、何もせずに嫌われるよりずっと良いか。

 その時は、そう思っていたんだ。


***


 グロスター伯爵のお屋敷で働き始めて5日が経った。
 特に、予想していたようないじめはなかったし、与えられたお部屋も思ったよりも快適だった。無論、ロベールの屋敷の自室のようにくつろげるようなスペースはなかったが、それでも想像していたより10倍は良かったんだ。

 問題があるとすれば、グロスター伯爵を始めとする一家とほとんど遭遇しないことかな。彼らは、毎日のように晩酌をする。しかも、人間が狂ったかのようなそんな印象を与えながら。
 メアリー料理長に聞けば、日常茶飯事らしい。「特に旦那様はからみ酒だから近づかない方が良いよ」と教えてくれなきゃ、きっと酌をしにノコノコ出て行ったと思う。危なかった。

『っ……あ、……!』
『だ……え……、ろ!』

『……?』

 そんなある日のこと、いつもの日課である廊下の床と窓掃除をしている時のことだった。
 どこかの部屋から、罵声が聞こえてきたんだ。しかも、1人じゃない。これは、聞く限り少なくとも3~4人は居る。しかも、何かが割れた音も聞こえるぞ。
 俺は、手に持っていた雑巾をそのまま、声のする方へと歩いて行った。

 すると、途切れ途切れに聞こえてきていた話の内容がどんどんあらわになっていく。
 どうやら、厨房から聞こえてきているらしい。とてもよく響く。

『この役立たず! あいつに食わせてこいと言ったんだ!』
『でも……お嬢様は後で召し上がると……。それに、先にお着替えが』
『あいつの予定なんてどうでも良いだろう! 言われたことだけやれ!』
『お前も、あいつと同じ目に合わせるぞ!』

 その内容は、脅迫じみていた。
 声の主も、なんとなくだがわかる。あれは、執事のマリーナさんとドイットさん、それに、ハンナメイド長だ。彼女たちを怒らせるなんて、どんな失敗をしたのだろうか? 特に、ハンナメイド長は、いつもニコニコしてるのに。

 大変そうだから「手伝いますよ」と声をかけようと思った。
 執事学校で習ったんだ。仕事中にイラつく同僚が居たら、忙しさに対するストレスが大半だって。新人のうちは、そういうところがないか常にアンテナを張り巡らしてサッと行動すると、一目置かれるらしい。
 だから、声をかけようと思った。そうすれば、アリスお嬢様の専属に近づけるかもしれないだろう? でも、厨房に後一歩というところで、俺は立ち止まった。今の今までまともに挨拶していない、グロスター伯爵夫人の声も聞こえたからだ。

『そうよ、あなた来月結婚するのでしょう? お相手は、お隣のマロー伯爵だってねえ』
『な、なんで相手を知って……』
『先週、ベッドの中で教えてくれたのよ。マロー伯爵が、ね』
『な、な……そんなこと!』
『ははは! 腑抜けた顔!』
『傑作じゃないの! ふふふ、奥様に敵うお方なんて居ないのよ』
『そんな、マロー様……嘘』

 なんだ、これ?
 ご結婚されるといえば、メイドのジューンさんだよな。確か、来月で屋敷を去ることが確定している……。
 俺の解釈違いじゃなければ、グロスター伯爵夫人が寝取ったってことか? ジューンさん、あんな幸せそうに結婚の話をしていたのに。
 便乗するように言葉を吐くハンナメイド長やマリーナさんやドイットさんは、どうしちゃったんだろう。夫人の前だから、言いたいことが言えないのかも。

 その場の空気を乱せば、少しは良くなるかな。
 そう思った俺は、厨房前まで来ていた身体をゆっくりと後退させ、走ってきたかのような演技で厨房へと一気に滑り込む。

『わっ!?』
『ア、アレン!?』
『あら、新人さんね。大丈夫? 怪我はないかしら。可愛いお顔に傷ができたら悲しいわ』
『奥様、私が確認します』
『いいえ、私がするわ。下がっていなさい』
『失礼しました!』
『アレン、だったかしら?』

 勢いよく入ったためか、予定外の転倒をしてしまった。地味に腰が痛い。
 しかし、それが結果として良かったらしい。グロスター伯爵夫人を先頭に、ジューンさん以外の人たちが大慌てで俺の方へと寄ってくる。

 そして、少々大袈裟すぎるほど身体をぺたぺたと触られ、傷の確認をされた。
 これは恥ずかしいぞ……。女性に尻を触られるなんて、姉さんがふざけて叩いた時しかない。しかも、こんな人のいるところでなんて……。え、これはなんだ? 拒否……できないか。したら、怪しまれるかもしれない。
 それにしても、なんだこの気持ち悪さは。早く、その手を退けて欲しい。吐きそうだ。

『ふふ、可愛い』
『……?』
『そうだ、アレン。お願いしても良いかしら?』
『は、はい! なんでも……』

 夫人の行為によって頭が真っ白になった俺に、周囲の目まで気にしている余裕はなかった。彼女に頼まれごとをされなかったらきっと、恥ずかしい姿を晒したままだったかもしれない。
 夫人が小声で何かつぶやいたが、唐突に襲ってくる吐き気によって聞き逃してしまった。再度聞くのも失礼だし……もう一度聞き逃しがあったときにちゃんと聞けば良いか。

 改めて背筋を伸ばして一礼すると、夫人は俺に向かってニコニコ顔をしながらこう言った。

『あのね、ジューンが私の娘に食事を運びたくないって言うの。酷いわよね、雇い主の子なのに』
『それは……酷いですね』
『ち、違『でしょう? だから、こんなこと頼むのは申し訳ないのだけど、この食事を娘の部屋まで持っていってくれないかしら?』』
『はい、承知しました! このトレイですね』
『ありがとう、可愛いアレン。後で、ご褒美をあげないとね』
『お仕事をしているだけなので。それより、持っていっちゃいますね』

 話している最中、後ろに居たジューンさんが何か言おうとしていた気がする。けど、雇い主が話している時に口を開くのは、マナー違反だ。そう、執事学校で習っている。だから、彼女の言い分は聞かなくて良いだろう。
 餓死しかけた彼女に食事を運ばないなんて、どういうことだ? ジューンさんには注意しておいた方が良さそうだ。

 それよりも、これは願ってもない展開だろう。食事を運び、お嬢様に気に入られればこのまま専属になれるかもしれない。聞くところによれば、彼女には専属がいないらしいし。
 俺は、幸先の良い出来事に心を踊らせながら、夫人とハンナメイド長がニコニコとしている中、厨房を去った。

『……』

 その姿を、悲しげな目で見ているジューンさん。
 終始俺を睨んでいたマリーナさんとドイットさん。
 そして、俺の身体を舐め回すように見ていた夫人とハンナメイド長。
 それぞれの立ち位置を知らない俺は、ただただ浮かれているだけの世間知らずだったんだ。

 そもそも、アリスお嬢様を閉じ込めて虐待していたのはこの母親じゃないか。


***

 

 アリスお嬢様は、王宮でお会いした人物とはかけ離れていた。それどころか、ご令嬢としての品格のかけらもないお姿でお部屋にいらっしゃった。
 こんな時間にベッドでボーッとしているなんておかしいし、お着物だってネグリジェのまま。誰も、彼女のお世話をしていないのだろうか。これじゃあ、お食事どころの話ではない。

 桶に湯を張って、お顔を綺麗にして差し上げないと。お髪に櫛を通して、着替えは……俺がして良いものじゃないが、お嬢様が嫌がらない程度にお手伝いだってできる。
 しかしいつの間にか、そんな日常をすっ飛ばした状態になっていた。

『……大丈夫です。わ、私は……アリスお嬢様の味方、ですか、ら……』
『……』

 ベッドに居た彼女は、食事を運んできた俺に向かって飛びついてきた。その衝撃により、持っていたトレイを落としてしまったがそれは些細な問題に過ぎない。それよりも、次の瞬間にお嬢様が床に散らばった食事を狂ったかのように貪っているお姿に唖然としてしまう。
 正気を失い涎をぽたぽたと垂らしながら、ぶつぶつと何かをつぶやいて死に物狂いで食べているんだ。止めに入っても、邪魔だと言わんばかりに押し返されて敵わない。
 そのやりとりを数回繰り返すと、食事を邪魔されたと勘違いしたお嬢様が、俺を押し倒してきて……。

 気がつけば、正気を失ったお嬢様に押し倒されていた。
 床には、持ってきた食事がばら撒かれている。視線の数センチ奥には、陶器が割れてメインの肉料理と混ざってしまっていて……でも、そんな状況はどうでも良い。肉料理のソースにまみれた手が、俺の首を掴んできてうまく息が吸えないのもどうでも良い。
 それよりも、今は彼女の心に寄り添いたいと強く思った。

 だから、腕を伸ばして目の前の頭をゆっくりと撫で上げながら、その身を抱きしめる。

『う、ううわああああああん。ああああああ』
『よしよし、大丈夫ですよ』
『あああああああああ』
『少しずつ、治していきましょうね。側にいますから』
『ああああああん、あああああ』

 すると、今まで必死になって首を締めていたアリスお嬢様は、大きな声をあげて泣き出した。俺の腕の中で、醜態を晒して泣いている。
 過去の出来事が、彼女の心に大きな傷をつけてしまったんだろう。今まで、その傷を癒す人が居なかったのも悲劇だった。
 その姿を見れば見るほど、陛下に渡された伝令書の内容が鮮明に蘇ってくる。

 資料の中に居た彼女が、俺の目の前に居た。王宮でお会いした「アリス・グロスター」ではなく、誰からも愛されていない「アリス・グロスター」が。
 そう考えるだけで、胸が張り裂けるように痛み出す。

『お嬢様、お嬢様……』
『うう、うぁ、ああ……』
『ごめんなさい。ごめんなさい、お嬢様……』

 これだけのことをされておきながらも、先ほど夫人に身体を触られた時よりずっとずっと気持ち良かった。あの時の吐き気はしないし、むしろ、俺の体温で安心してくれるならもっと触って欲しいとまで思った。この違いはなんだろうか。

 考えても、答えは出ない。

『お嬢様』
『……?』
『私、お仕事頑張ります。伯爵と夫人に認められるように頑張って、お嬢様の専属になりたいです。お許しくださいますか?』
『……』

 床には、夥しい残飯の数々が。お皿やグラスが粉々に砕け散って、その惨劇をより強烈なものとしていく。カーペットに広がったソースの汚れだけじゃなく、服にも皮膚にもドロッとしたものがこびりついていた。でも、どうでも良い。

 今は、差し出した手に縋り付いてきた彼女を支えたい。
 資料の中に居る彼女を、外の世界に連れ出したい。
 そして、初対面の時にできなかった挨拶をやり直して、またあの笑顔を見たいんだ。彼女が望むなら、俺が保護したって良い。とにかく、彼女をこれ以上悲しませたくない。

 アリス・グロスターとの再開は感動とは程遠いものだったけど、これで良かったのかもしれない。
 資料を読んだだけじゃわからなかった、そして、王族のためだけに動くことへ疑問を持っていた俺に、やるべきことを導いてくれたような気がするから。






****************
いつもお読みくださりありがとうございます、あすかです。
お知らせがあり、こちらのスペースに書き込みをしました。後ほど、削除させていただきます。
以下、告知させてください。

現在、イラストレーターしゅんせ様(@SHUNSEIRASUTO)へ、アリス、ベル、アレン、イリヤのイラストを依頼中です。キャラクターデザインを1から作成いただいており、現段階でアリスのデザインが確定し、他3人も土台が出来上がりつつある状態です。
扉絵だけでなく、キャラクター紹介で使えるような1人絵も作成してくださるとのことで、作者も楽しみにしているところです(そして、アリスのデザインが想像以上に素晴らしく、すでに満足している作者も居ます)。

なお、扉絵は、このお話を知らない方が見たらとても楽しそうなもの、知っている方が見たら悲しくなるようなそんな場面をお願いしました。
作者の力不足でわかりにくいお話が続いていますが、ぜひ素敵なイラストだけは見ていただきたいなと思い早めの告知をさせていただきました所存です。

しゅんせ様の描かれている人の表情、透明感が作風とマッチしていると思い、今回直接依頼させていただきました。ぜひ、Twitterでしゅんせ様の素敵なイラストを覗いてみてくださいね。

引き続き過去の話が続きます。
5年前に起きた事件の全貌が明らかに…。
もう少々お付き合いいただけますと幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

処理中です...