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白雨の中で救われる者

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 バシャッと派手な水飛沫を立てながら、イリヤが戻ってきた。

「アインス!」
「イリヤ、ここにゆっくり寝かせてくれ」

 川沿いまで這い上がった彼女は、人間……男性を抱きかかえてアインスの元まで走る。それを見た私は、こんな状況なのにイリヤが男性であることを思い出した。
 髪を縛っていた紐は流されたのか、真っ黒な髪を肩に落とすその姿も「男」だったの。鋭い視線も、それに加担しているように感じる。きっと、お化粧が取れたからね。

 私は、無意識にそちらに向かって走っていく。せめて、髪を縛ってあげたかったの。でも、できなかった。
 横たわった人物の顔が目に入った私は、イリヤの目の前で足を止める。その顔は、最近見たばかりだからすぐにわかったわ。

「……シエラ様?」
「え、嘘……。本当に? どうして?」

 私が呟くと、それに反応してパトリシア様が声を上げる。でも、それ以上は寄ってこれないようで、足は止まったまま。
 それもそのはず。

「お嬢様、僕の側を離れないでください。パトリシア様も、サヴァンさんも。拷問された跡があります。まだ近くに敵がいるかもしれません」
「むごすぎるわ……」

 シエラ様は、満身創痍の状態だった。
 顔の半分は皮膚が焼け爛れ、着ている服は引き裂かれてその奥の傷口を見せつけてくる。素足だって、見る限り左足のアキレス腱が切られているわ。それに、右足は不自然な方向に曲がっている。
 顔色は、土そのもの。ピクリとも動かない「それ」に向かって、アインスは素早く触診をしていた。

 ずぶ濡れのイリヤは、そんなアインスを見ながらも私の側まで来てくれる。それで、なぜ私がここまで来たのかを思い出した。
 持っていた髪ゴムでイリヤの髪をまとめると、「ありがとうございます」と声が返ってくる。でも、視線はシエラ様から動かない。

「右肋が折れてるな。これでは、人工呼吸しても肺に当たる可能性が高すぎる。もっと平な場所であれば……馬車は狭い。どこか、どこか…………」

 触診を終えたアインスの表情は、今まで見たことがないほど硬いもの。
 独り言のように言葉を発しながら、手をシエラ様から離してしまった。

 医療者が患者から手を離す時。
 それは、治療を終えたことを示すの。

「イリヤ、すまない。時間の問題だ。これ以上、彼に痛みを与えるのは拷問に近い。万一、肺に骨が刺さったらそれこそ……」
「……」

 アインス以外、誰も言葉を発しない。話しかけられたイリヤですら、シエラ様を見ながら険しい表情で立ち尽くすだけ。下ろした拳に力が入っているのか、その隙間からは血が滴り落ちている。
 太陽の光が差し込んでいるのに、その場所はどこまでも暗闇を見せつけてきた。

 でも、私は諦めたくない。

「アインス、人工呼吸をしてちょうだい」
「……お嬢様?」
「シエラ様が苦しむのはわかってるわ。これ以上苦しませたくないのもわかる。でも、死んだらもう何も残らないのよ。痛みも何も、感じない」
「……」

 肋が折れてるから何? 肺に刺さるかもしれない?
 でも、時間の問題ってことはまだ蘇生できるのでしょう? 生きられるのでしょう?

 一度は終わった人生だから、私にはその先に待っている暗闇がわかる。
 シエラ様は、誰かに恨まれてこうなったのかしれないわ。でも、彼には待っている人も居る。私のように、誰からも必要とされなかった人じゃない。アレンと仲が良いのでしょう? 
 だから、シエラ様にはまだあの暗闇は早い。早すぎる。

 そう思った私は、アインスの前まで移動してシエラ様の隣に座った。

「私も手伝う。2人ならできるかもしれないわ。どうすれば良い?」
「そうですな、傷は後でも癒える。……やりましょう。私が責任を持ちます。お嬢様は、胴体を抑えていただけますか。少しでもズレると、肋が肺に刺さってしまうかもしれませんので」
「わかったわ、任せて」

 アインスは、再びシエラ様の身体に触れた。
 私が胴体を抑えたのを確認すると、すぐに両手で心臓部分を圧迫させマッサージを始めてくれる。その力は、思っていたよりずっとずっと強い。必死になって胴体を押さえても、少しずつずれちゃうの。

 それを見たからか、すぐにイリヤも私の隣に来てシエラ様へ手を添えた。

「……ありがとうございます、お嬢様」
「まだわからないわ。後は、アインスに任せるしかない」
「ベル嬢、私も持つわ」
「私も、できることがあれば何でも」
「では、僕はアインスと2人法で心肺蘇生します。パトリシア様は、お嬢様の隣に来て支えてください。サヴァンさんは、下から骨盤を」

 人が、次々と集まってきた。
 先ほどまで怖がっていたパトリシア様も、真剣な表情でイリヤが持っていた場所を押さえてくれている。手が濡れようが、ぱっくりと割れた傷口から流れている血が付こうが、その手を離すことはない。サヴァンも同様、全体重をかけて骨盤を押さえてくれた。
 私の細い腕から出る力なんて、あってなきもの。パトリシア様たちが頼もしく見えるわ。

 私の選択は、他人事だから言えるのかもしれない。
 もしかしたら、余計なお世話かもしれない。本人はこのまま死にたがっているのかもしれない。
 けど、生きて欲しかった。愛されずに死んだ私の分まで。

 生き抜いて話せるまで回復したら、その時に文句を言えば良いわ。私は、それを黙って全部聞くから。
 だから、周囲に愛されている貴方は生きてちょうだい。

「アインス、呼吸代わる」
「頼む。……息が続かん」
「5回で止めて」

 私は、全身全霊の力を振り絞りシエラ様の身体を支えた。

 川辺には、水のせせらぎと鳥の鳴き声、それに、アインスの数字を数える声しか聞こえない。


***


「お嬢様」
「どうしたの、イリヤ」

 屋敷に戻り衣装部屋でパトリシア様分のお着替えを探していると、後ろからイリヤがやってきた。
 いまだに濡れた服を着ているけど、髪は少し乾かしたみたい。「風邪引いちゃうから、着替えたら?」って言いたいけど、そんなこと言える雰囲気ではない。

 私は、入り口で動かないイリヤに近づく。

「先ほどは、すみませんでした」
「何が?」
「嫌なことを思い出させてしまったと思います。僕もアインスも諦めたのに、諦めず声をかけてくださりありがとうございます」
「なんだ、そんなこと。別に、目の前で亡くなられるのが嫌だっただけよ」

 あの後、シエラ様は息を吹き返した。
 大量の水と、それに混じって血を吐き出しながら、一瞬だけ目を開けたの。すぐに気を失ってしまわれたけど。
 それでも、アインスが「もう大丈夫」と言った時は涙が止まらなかった。パトリシア様もサヴァンも、イリヤも全員泣いたわ。

 それから、イリヤが御者になって屋敷まで帰ってきたの。
 馬車内には、アインスとシエラ様、それにパトリシア様とサヴァンを乗せてね。足元にシエラ様を横たわらせて、後はみんな馬車内の椅子に正座してたみたい。着いた時、パトリシア様が「流石に足が痺れましたわ。でも、とても幸せな痺れね」って笑っていたもの。
 私? 私は、イリヤの隣に収まって前の景色を見ていたわ。こういう時、小さな身体は楽ね。アリスの身体だったら、絶対にあんなところに収まらない。

「それより、大きな馬車で行って良かったわね」
「香料になる植物と鮭をたくさん持ち帰るつもりでしたので」
「鮭も持ち帰るつもりだったの!?」
「ベルお嬢様の好物なのですよ。まさか、貴女様が召し上がったことがないとは思いませんでしたが」
「ふふ。贅沢はしたことがないもの。フォンテーヌ子爵家にいる方が、私は贅沢をしていると思うわ」
「伯爵家でそれだったのですね」
「お父様たちは召し上がっていたようだけど。私の食卓には並ばなかったってだけ」

 私は、イリヤと会話をしながら再びドレスを探す。
 すると、今まで入り口に立っていたイリヤが一歩だけ中に入ってきて、ある一方を指差してきた。

「そちらに」
「……?」
「そちらに、パトリシア様のサイズのドレスがございます。ベルお嬢様が、その……」
「ああ、知ってるわ。ベルから聞いてるから。でも、ドレスがあるのは知らなかった」
「ベルお嬢様から?」

 そこには、深緑色で金の刺繍が施された美しいドレスがあった。確かに、周囲のドレスと違って丈がある。
 きっと、ベルが妄想して遊んでいたものでしょうね。作りはしっかりとしているから、サミーに作らせたのかしら?

 そのドレスに歩み寄り手を添えると、シルクの手触りが気持ち良い。

「私が急に意識をなくす時は、大抵ベルと会話してるの。私にもよくわからないから、どう説明したら良いのかわからなくて黙ってたけど。ごめんなさい、イリヤ」
「……ベルお嬢様は、お元気ですか」
「ええ、いつもパトリシア様のような態度で威張り散らしているわ」
「そうですか。話してくださり、ありがとうございます」

 ドレスを手に取って後ろを振り向くと、ホッとしている表情のイリヤと目が合った。でも、彼女がこれ以上何か言うことはない。上手に説明できたのかな? 自信ないけど……。

 私は、イリヤから視線をそらし自分のドレスを探す。
 どれが良いかしら? 動きやすいものが良いけど、シエラ様のことで来客があるかもしれないからちゃんとしたドレスを着ていないとダメよね。うーん。

「動きやすいドレスでしたら、そこの右にかけてあるものが良いかと」
「青いやつ?」
「ええ。ベルお嬢様も、良くお庭に出かける時に着ていました」
「そうなの。じゃあ、これにするわ。ありがとう」
「いえ、ドレスを持てなくてすみません」
「大丈夫よ。イリヤは、着替えてきて。風邪でも引いたら大変だから」
「5分で着替えてきます。フォーリーもそろそろ大丈夫だと思うので、お部屋に呼んでおきますね」

 そうそう。
 フォーリーってば、私たちの姿を見てフラッと気絶寸前まで行ってしまったのよね。少し休んだから、回復したみたい。良かった。

「ありがとう。……5分と言わず、お化粧もしてきて良いわよ」
「あ、ありがとうございます……。えへへ」

 イリヤは、嬉しそうに一礼して部屋を出て行った。
 今回見て思ったけど、私はお化粧している彼女も素の彼女も好きだわ。元の顔が整ってるから、素だとドキッとしちゃうけど。でも、好きよ。

 イリヤが居なくなった衣装部屋の中、私はザンギフから借りてきた台車へ、シワにならないようドレスを重ねていく。あと、コルセットと……。
 結構重いわ、体力が尽きそう。後一踏ん張りよ!



***



 フォンテーヌ子爵のお屋敷の客間で一息ついた私は、バスタオルの敷かれたソファに座りながら、衣装部屋へ行ったベル嬢を待っていた。その後ろには、いつも通りサヴァンが待機してくれている。

 色々あってびっくりしたけど、無事帰ってこられてよかったわ。本当はこのまま帰ろうと思ったのだけど……流石にこの格好は、お父様に叱られる! 
 動きやすい格好をしてきたとは言え、血と土で汚れたら話は別よ。申し訳ないけど、今日は私とサヴァンのお洋服をお借りしないと。

 まあ、そのためだけに残ったわけじゃないけど。
 アインスが今も治療を続けている、シエラ様も気になってね。あと、もうひとつ……。

「ねえ、サヴァン」
「はい」
「ベル嬢はすごいわね。私、全然動けなかった」
「そうですね。お強いと思います」
「それに、多分ね。多分、イリヤって……」
「私も気づきました。しかし、ご本人がそう振る舞っていらっしゃるのです。ベル様だって、わかっているはずです。外野がどうこう言うことではございません」
「……そうよね。ええ、そうだわ」

 ずぶ濡れになったイリヤの胸は、皆無だった。あれは、女性のものではない。女性なら、少しは前に出ているはずだもの。
 それに、男性1人持ち上げる筋力も、あの視線の鋭さだってそう。正直、怖かったわ。その雰囲気に飲み込まれそうになった。
 でも、ベル嬢は何も言わない。だから、私も黙っていたの。

 今日、イリヤが居なかったらシエラ様が助からなかったのは事実。先日ベル嬢が誘拐されたのだって、イリヤが居なかったらどうなっていたことか。考えるだけで、震えが止まらない。
 サヴァンが言うように外野がどうこう言う問題ではないし、私自身イリヤを気に入っているからこれからも普通に接して行きたいわ。……お父様たちには言えないけれど。

「もし、イリヤが他で困っていたら、その時は手を差し伸べて良いかしら」
「それは良い判断だと思います。きっと、アリスお嬢様が存命でしたら、同じことをすると思います」

 サヴァンは、私が迷っていると彼女の名前を出して背中を押してくれる。
 お姉様と比べられて心が折れそうになった時も、私が他のご令嬢とトラブルを起こした時も、お見合いパーティーで迷った時も、こうやってアリス様のお名前を出して励ましてくれた。

 今までの5年間、ずっとそれに勇気づけられてここまで来れたから、今でもあのお方は私の中で生きていらっしゃると本気で思っているの。これからもね。
 アリス様とサヴァンは、私にとっていつまでもかけがえのない人なんだわ。

「……サヴァン、ありがとう」

 私は、アランの淹れてくれた紅茶を飲みながら、ベル嬢の帰りを待つ。
 ドレス運びを手伝うって言ったのに、あの子はアリス様と同じくとても頑固なの。王宮で、他の侯爵様相手に言い争っていたアリス様を思い出すわ。

「美味しい。今までにないくらい」
「お屋敷に戻ったら、もっと美味しい紅茶を淹れます」
「ふふ。サヴァンったら、妬いてる?」
「大いに妬いております」

 ここは、本当に居心地の良い場所だわ。お茶会で他の令嬢とおしゃべりするのとは、また違った心地良さがある。
 きっと、ここに住んでいる人たちが温かいからね。


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