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15:心境の変化

本当の元凶は

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 レオンハルト様からプロポーズを受けた1週間後のこと。
 私は、ラファエル様から連絡をいただき、留置されているお父様お母様にお会いした。もちろん、鉄格子越しに。

「お父様、お母様。認めていただけると嬉しいです」

 本当はレオンハルト様と一緒に報告をすべきなのでしょうけど、私は「1人が良い」と言って断った。その代わり、後ろにはルワール様がついてきてくださっている。それが、ここに来る条件だったの。

 今ちょうど、レオンハルト様と婚約することを話したところ。
 オルフェーブル侯爵が「ご両親に報告したら、書類を作ろう」と言ってくださってね。だから、重い腰が上がったの。
 自分の意思では、まだお父様お母様の言葉を受け止めるだけの準備はできてなかったと思う。

 それにね。最初は、こんな問題だらけの私を侯爵が受け入れてくださるのか不安だった。
 でも、思った以上に歓迎ムードで、「これでやっと爵位譲渡の話ができる!」と大喜びされたわ。だから、私もちゃんとしないとって思ったの。
 じゃなきゃ、クラリスさんにまたフライパンとおたまを持って追いかけられそうだし。

「そうか……」
「まさか、貴女が」

 私の話を聞いた2人は、項垂れるように座っていた椅子の背もたれに背中を預けた。
 そして、

「今まですまなかった。許してくれ」
「ごめんなさい、ステラ。私の子」

 と、謝罪するような言葉をくださったの。

 別に謝罪をしてほしかったわけじゃないけど、その言葉で今までのことが忘れられそうなんだから、私も結構単純なのかも。
 でも、家族ってそういうものだと思う。何か過ちを犯しても、補い合って生活を共にする……。そういう風に、私はやっていきたかったの。それを伝えずに、ここまできてしまっただけ。

 なんて思ったけど、お父様お母様とは相入れない関係性だったのかも。
 だって、謝罪の言葉の次に放った言葉がこうだったから。

「こんなことなら、ソフィーじゃなくてステラに贅沢をさせれば良かったんだ」
「そうね……。ステラの方が異術が強力ですし」
「すまんかった、ステラ。どうか、父さんを許しておくれ」
「その格好、とても素敵よ。さすが、侯爵様に見染められただけあるわ。あの子とは大違い」
「そもそも、あの子の異術が弱まったのもステラのせいじゃない。あれはあれの実力だっただけだ」
「やっぱり、ステラはすごいわ。あの子とは!?」
「!?」

 それ以上聞きたくなかった私は、ルワール様が見ていることを忘れて目の前の鉄格子を足で思い切り蹴り飛ばした。ガンッとヒールの底の金属部分とぶつかり、音がその場に響き渡る。

 心の中は、怒りでどうにかなってしまいそうな自分と冷静な自分が居るの。
 その冷静な自分は、以前神殿で見かけたソフィーが従者も連れずにいた理由を悟っていた。

「ソフィーにも、そうやって私と比べるような言葉を言い続けていたのですか?」

 答えは、聞かなくてもわかる。

 お父様とお母様の態度を見ていれば、いやでも分かってしまうわ。……それがどうしたの? って態度を、隠そうともしないんだもの。

「だって、競争心がないとなんでも上達しないだろ?」
「そのためにお腹を痛めて2人も産んだのよ。良かったじゃないの、結果的に貴女は将来の侯爵夫人! 私はその母親として胸を張って「恥を知りなさい! 今まで私がどんな思いで別棟で過ごしてきたのか、あなたたちはわかるの? こんな、自分だけが良いと思って何もしなかった姉を持った妹の気持ちが!」」

 こんなことってある?
 こんな、ひどいことがあって良いの?
 私は、こんな人たちに愛して欲しいと思っていたの? 妹が苦しんでいるのも見ずに?

 初めて、人が憎いと思った。
 目の前で怯えている2人じゃないわ。今まで、本邸に戻りたいとしか考えていなかった自分によ。

 今まで散々ソフィーに酷い言葉を言われてきた。
 でも、それって全部何かと比べた言葉だったでしょう。自分を中心にした優劣によって、あの子は自身を守っていたのね。だから、私に「身の丈が」「似合わない」なんて言葉を言ってきた。

 それに、神殿に行った時に馬車を手配しなかったのもそう。
 お父様お母様に、何を言われるのかわからないもの。ソフィーは、私が思っているよりもずっとずっとこんな人たちの言葉に支配されて怯えていたんだわ。レオンハルト様が居る私とは違って、あの子には誰もいなかった。縋る人がいなかった……。

「ステラ嬢、これ以上はこの場所が壊れてしまいます。異力が膨張しだしました」
「……帰ります」
「その方が良いですね。ご一緒します」

 私は、両親と思って慕っていた人に背中を向けた。
 今はもう、「愛してくれ」なんて思わない。「結婚式には呼んでね!」と叫ぶその人たちによって頬に伝わせた涙が、地上に戻る道へポツポツとシミを作っていく。
 隣を歩くルワール様は、そんな私へ何も言わずに、溢れ出た異力を取り除いてくださった。


 王宮についた後、「蹴り飛ばしてしまいすみません」と言うと、「君がやってなかったら、私がやってた」と返された。……ルワール様が鉄格子を蹴り倒すところを想像したけど、全く思い浮かばなかったな。

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