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15:心境の変化
悪いことひとつ、良いことひとつ
しおりを挟む「それと、あの、お父様お母様は……」
レオンハルト様のお部屋で目覚めた私は、なんやかんやあってやっとソファに座って落ち着けた。彼のベッドで寝ていたこととか、クラリスさんという妹さんから色々教えてもらったこととか……サッと説明できそうにないほどなんやかんやあってね。
そうそう、起きたきっかけのフライパンとオタマはいまだにサイドテーブルに収まっている。あのままで大丈夫かしら……。
とりあえず一息ついたと思って、私はレオンハルト様に両親のことを聞いてみた。
「今は、取調べを受けているようです。ラファエルが主導しているので、手荒なことはしません」
「ありがとうございます……。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」
「こちらこそ、色々内緒にしていてすみません。実は、神殿に出向いたあたりから色々動いていたんです。すでに、ベルナールの当主は、執務放棄によって爵位を剥奪されています。ソフィー・ベルナール嬢も、アカデミーの専用寮での生活が始まっており……」
「爵位、剥奪? ソフィーだって、今まで散々寮に入るのを嫌がってたのに……」
「確かに嫌がられておりましたが、法改正が進みこのままだと罪名がつくと言うことで寮生活を承諾いただきましたよ」
「法改正?」
「はい、先日宮殿でお会いしましたでしょう? その際に、陛下が「国家資格のない異術を他人及び親族に向けない」という法律を承諾したんです。過去に遡って見つけた案件に関しては、現時点で本人の改善が見られる場合のみ、罪を問わないというようになっています」
「……そう、ですか」
その話は、喜んで聞くものではない。一気に気分が下がってしまった。
爵位が剥奪されたってことは、ベルナールは平民になったということ。隣国のように爵位が下がるという法律は存在しないの。だから、こうしてレオンハルト様と気軽に話せなくなるということと等しい。
きっと、あのお屋敷も没収ね。
ソフィに罪名がつかないことは、素直に嬉しい。けど、もう寮に入ってしまわれたのね。
私、あの子に直接「嫌い」って言われてないから実感が湧かないの。もちろん、身の丈に合わないとか散々言われてきたけど、それでもたった1人の妹ですもの。そんなことで嫌いになんかなれないでしょう。
引っ越しがひと段落したら、手紙を書きましょうか。それか、宮殿でアカデミーで習うことを勉強しているのだけど、それもなくなるだろうし私も通っても良いかも。異術持ちなら、国が費用面を負担してくださるから。
そのためには、まず異力のコントロールを学ばないと。私の異力の量がおかしいからアカデミーに通えないって言われて、宮殿で学んでいるのだし。
「悪いことばかりじゃありませんよ」
「え?」
「実は、ステラ嬢の今までの仕事ぶりが認められて、成人後に爵位を授与されることが決定しています。陛下と王妃の両方から推薦されるなんて、そうそうないですよ」
「……わ、私が?」
「はい、そうです。まあ、なくてもよかったんですけどね」
「え……?」
引っ越したら、田舎が良いななんて思っていると、隣に居たレオンハルト様が私の前に来て跪いてきた。その手は、膝に置いてある私の手に重なっている。
なくても良かったってどう言う意味?
もしかして、お父様お母様が罪人になる可能性があるとか? そうなれば、時期侯爵候補の彼の顔に泥を塗ってしまうもの。別れましょうってことだと思う。
仕方ないな。もう少し長い目で見て、お父様お母様に声をかけなければ良かったのに。私ったら。
「せっかく傷が癒えて笑顔が増えたのに、あの光景を見て心臓が止まるかと思いました。今でも思い出すと、手が震えます。私はまた、貴女を救えないのかと。……ステラ嬢」
「は、はい!」
「今言うことじゃないと思いますが、こちら受け取ってくださいますか?」
「……え!? そ、それ」
と思いきや、レオンハルト様はどこから取り出したのか、蓋の開いた小さな箱を私に見せてきた。
それは、彼からもらったネックレス。あの小屋に置いてきてしまったんだろうなって思って、それもベルナールに帰りたい理由だった。それを、なぜレオンハルト様が持っているの?
でも、ちょっと違うような気もする。
だって、そのネックレスには輝かしいダイヤモンドの添えられた指輪がついていたから。
「あの日、ステラ嬢を小屋の中からお連れした際に拾いました。とても大切にされていましたので、傷を無くして表面を磨いてみましたがどうでしょう?」
「あ、ありがとうございます。あの、お屋敷に帰りたい理由のひとつが、そのネックレスを探すことでした」
「そうでしたか。もっと早く渡せば良かったですね」
「あ、いえ、拾ってくださりありがとうございます。でも、この指輪は私のじゃありません」
「はい、これからステラ嬢にお渡しするものです」
「……?」
レオンハルト様は、そう言って私の目を見てきた。
この瞳は、逸らしたらダメな気がする。異術でも使われてる? いえ、彼の異術に金縛りの類はない。だとしたら、これは……?
その正体が分かったのは、彼の放った言葉だった。
「ステラ嬢、私と婚約してくださいますか?」
と、言いながら、今までにないほど真剣な表情で私を見てくる。
そっか。
この瞳は、私を「好き」と言ってくださった時のものだわ。いくら怖気付いて逃げても逃げても、何度も向き合ってくださった優しい瞳。だから、私はそれを逸らせない。
透明人間だった私に気づいてくれた、そして、人間の尊厳を捨てた生活から助けてくれた彼が、私にプロポーズをしてくださっている。
私とでは、身の丈に合わないんじゃないかな。
貴族としての誇りを、一時でも捨てた人間でも良いのかな。
教養がなくても? 他のご令嬢の方が美人でも? 家柄だって、爵位を剥奪されるようなことを起こしてしまったのに?
なんて考えは、全てレオンハルト様が包み込んでくださった。私が心配することじゃないって、教えてくれたでしょう。
私は、迷わず、
「はい、お受けさせていただければ」
と、背筋を伸ばして言葉を紡いだ。
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