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14:捨てきれないもの
周囲の反応
しおりを挟むそれから数日後。
熱の下がった私は、宮殿の中なら自由に歩いて良いという許可を得た。
今までは、ルワール様の「転んだら危ない」とかいうよくわからない理由でお部屋とダイニング、湯浴みする場所を行き来することしかできなかったのよね。しかもそれを聞いたメイドさんたちも「そうですね」って深く頷いて……。
今まで16年、ちゃんと足をつけて生活していたのだからそうそう危なくないのに。みんな過保護なんだから。
でもまあ、異力が安定しないんだものね。胸が痛むだけでブレスレットが鉛のように重くなってしまうからきっと、怪我でもしたらもっと重くなると思う。考えるだけで嫌になるわ。
「あ! ステラ様、お散歩ですか?」
「こんにちは、リリー様。庭園のお花を見たいなと思いまして」
「今日は天気が良いですから、最適ですね。ご一緒しても?」
「でも、お仕事があるのでは?」
「ステラ様と一緒に居るのも、仕事の一環です」
「ふふ、ではお願いしてもよろしいでしょうか」
「はい!」
宮殿の廊下を歩いていると、前からリリー様が歩いてこられた。窓の外を眺めていて反応に遅れてしまったけど、嫌な顔ひとつしないんだもの。リリー様は、お優しいわ。
リリー様は、「足元お気をつけください」と言って私と一緒に歩き出す。
「聞きましたよ、副団長様のこと!」
「!?」
「おめでとうございます。陛下と王妃様もお喜びになっておりました」
「!?!?」
「私、ステラ様を一眼拝見した時から、これは副団長様と結ばれるなあって思ってたんですよ! 副団長様ったら、いつも熱い視線をステラ様に注いでいらして……。あの方、昨日も上位貴族のご令嬢から告白されていましたけど「愛する人が居るので」って言ってお断りしたのですって! いつもは「ごめんなさい」だけなのに! もう、城下町はその話題で持ちきりですよ!!」
「!?!?!?」
せっかく歩き出したのは良いけど、リリー様の弾丸トークとも言える会話に足を止めてしまう。
副団長様のこと→なんで知ってるの!?
陛下と王妃様もお喜びに→なんで知ってるの!?
城下町はその話題で持ちきり→わけがわからないわ!!!
とりあえず脳内整理をしてみたけど、すればするほど混乱するというよくわからないことが起こっていた。これは、手っ取り早く考えること自体をやめたほうがエコな気がする。
私、宮殿に居て良かったかも。うっかり城下町にでも買い物へ出かけていたら、誰かに刺されていた気がするもの。週ごとに告白されているようなお方ですものね。ファンクラブもあって……私、そんな人と釣り合……いえ、もう迷わない。あのお方に合う人になるって決めたんだから。
「あ、あの。先日、その……ちゃんと言いたいことを伝えまして」
「うんうん、よくがんばりましたね。フィンからも聞いていますよ」
「あ……。ありがとうございます」
もちろん、相談に乗ってくださったフィン様には一番最初に報告したわ。彼女ったら、涙を流しながら「よかったですね」って喜んでくださって。「ステラ様が頑張ったからですよ」って言われたけど、そもそもフィン様に言われなければ逃げちゃうところだったし私は頑張ってない。
でも、一緒に喜んでくださったことがとても嬉しかった。嬉しかったのだけど……。
そういえば、彼が人気あるってことがすっかり頭から抜けていたわ。
それに、ソフィーにもう顔を合わせられない気もする……。早まったかしら……。
「ステラ嬢!」
「レ、レオンハルト様!?」
「あらあら!」
背中に伝う冷や汗を感じていると、そこにまさかのご本人が登場した。ものすごいキラッキラな笑顔で私に向かって手を振っている。
あ~~、ダメ。好き。早まってないわ。私の選択は間違ってない。
レオンハルト様の笑顔に射られた私は、一瞬だけ視線を外した。でも、やっぱり視界に彼を映してしまう。
今日も団服姿なのね。お仕事かしら? 腰に下がっている剣がまた、彼の格好良さに拍車をかけている気がする。
「お、お仕事はどうされたので、す……ひゃっ!?」
「ステラ嬢!」
「ステラ様!?」
やっちゃった!
感情が嬉しさで振り切ってしまった私は、ブレスレットの重さに耐えきれなくなり廊下のカーペットの上に転んでしまう。重さに慣れて痛みはさほど感じないけど、それでもバランスは取りにくい。
隣に居たリリー様を巻き込まなくてよかった。でも、びっくりさせちゃったかな。
彼女、私の腕を持ち上げて重さを軽減しようと奮闘してくださってるのだけど「重い! なんですか、これ!?」と言ってレオンハルト様に向かって追求するように話しかけている。
「彼女の感情によって、異力が増加してしまうんです。神具で押さえ込んでるので、こうやって重さになってステラ嬢を制御して……。テレパシーでラファエルを呼びましたので、もう少しお待ちください」
「は、はひ……」
「苦しんでいるステラ嬢には申し訳ないですが、嬉しくて暴走するなんて可愛らしいですね」
「うぅ……」
「ふふ。ラファエルが異力不足で倒れそうなので、少し分けてあげてください。それでも溢れ出るようでしたら、私がいただきますから」
「は、はい」
「リリーさんは、お仕事に戻られて大丈夫ですよ。ステラ嬢は責任を持って部屋にお届けしますので」
それを聞いたリリー様は「では、私はステラ様のお部屋を整えておきますね」と、お辞儀をして行ってしまった。
私は、レオンハルト様の誘導によってとりあえず壁際まで来れたわ。壁際に座っている彼に抱かれながら、やっと一息って感じ。カーペットが引いてあるとはいえ、床は硬い。だから、素直に甘えちゃいましょう。
一度重くなってしまうと、溢れ出している異力を抜かないとずっと重いままだってことがわかったの。自然に治ることもあるけど、その時はこんな重くはならない。
「陛下にご報告があって、寄ったんです。なぜか、ステラ嬢とお付き合いしていることを知られていました」
「……なんか、噂になってるらしいです」
「まあ、誰なのか検討はついていますが……ご迷惑じゃないですか?」
「そっ、私は特に……。レオンハルト様のお仕事の邪魔になっていたら申し訳ないくらいで」
「大丈夫ですよ。むしろ、お付き合いしてるおかげで仕事の進みが良いですから」
「……う、うわっ! お、重い」
「おっと、失礼しました。こう言うのも嬉しくなっちゃうのですね。早く時間見つけて、コントロール方法を教えましょう」
「すみましぇん……」
これじゃあ、飼い主を見つけた犬が尻尾をブンブン振ってるのと同じじゃないの。恥ずかしすぎるわ……。
にしても、検討がついている人って誰だろう?
その後、5分もたたずにヨレヨレの第三王子がやってこられた。
第一声が「ヤるならベッド行きなよ、レーヴェ」だったのだけど……。どういう意味?
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