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13:支援型異術

見覚えのあるプレゼント

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 大神官様は、先程のすけべ顔丸出しの表情から一変して、真面目そうな表情でこう続けた。

「そうだ。君の妹は、人の感情を操る異術を持つ。それを使って、今まで君や両親はもちろん、使用人を操っていたのだろう」
「……それって」

 大神官様が、嘘をついているとは思っていない。
 でも、脳内の理解が追いつかない。「操っていた」という言葉が良い意味で使われていないことはわかるけど、それだけ。
 あとは、思考が停止する。

 急に襲ってきたブレスレットの重さに顔を歪めた私は、差し出されたレオンハルト様の手を握った。
 すると、すぐにブレスレットの重さがなくなる。

「君が思っているより、妹は君のことを思っていないのやもしれんな」
「……そう、なのですか」
「君も、薄々は感じ取っていただろう。なぜ、君が本邸に入ろうとすると「神聖な場所だから」と言って入れてもらえなかったんだ? 異術持ちだけが本邸に入れるのであれば、君の両親は入れないわけだ。その言葉は、ただ単に君を本邸から排除したい人間の言葉に過ぎぬ」
「なぜ、その話をご存知なのですか。私は、誰にも話していませんが……」
「私は大神官だよ。知らないことは、直近で起きている出来事と……君のそのたわわなものの触感くらあでっ!?」
「おっと失礼、大神官殿。大きな虫がついていたので、ありがたく叩かせていただきました」

 そうやってまたもや私の胸部を触ろうと手を伸ばしてきた大神官様は、レオンハルト様の一撃によって手を引っ込めた。さっきは笑ったけど、今はちょっと笑う気になれないかも。

 そっか。
 ソフィーは、私のことが嫌いだったってこと? でも、嫌われるようなことはしてないはず。嫌われる要素が見つからない。

「ムー、少しは手加減というものを」
「では、触らないでいただきたい」
「嫉妬するでない! どうせ、お主は近い将来このたわわな「あ、あの!」」
「……なんじゃ、ステラ・ベルナール」

 いくら考えてもわからなかった私は、不貞腐れる大神官様に向かって声を張り上げた。
 すると、びっくりしたようにレオンハルト様とルワール様も私の顔を見てくる。……もしかして、何かお話し中だった?
 
 でも、話を止めてしまったようだから、このまま話させてください。

「あの、大神官様が知らないことのないお方でしたら、私がソフィーに嫌われている原因を教えていただきたいです。直せるところは、直したいので」
「……ふむ。まあ、良いだろう。そこの副団長さんにも関わってくるしな」
「私、ですか?」
「そうじゃ。お主、数年前に女性から美しい刺繍の入った真っ白なハンカチをプレゼントされなかったかの?」

 大神官様が話し始めてくださったけど、なぜかレオンハルト様に話しかけているわ。
 私の悪いところを直したくて聞いたのだけど、どうしてレオンハルト様の話になってるのかしら。もしかして、それも関係する?

 ソフィーが彼に好意を抱いているというのは知っているから、このまま話を聞いてみましょう。
 その隣では、なぜかルワール様が何か閃いたような顔をして私を見ている。

「されました。どこのご令嬢からの頂き物か、正直数が多過ぎて覚えていませんが……。私の瞳の色にちなんだ贈り物が多い中、そのハンカチに刺繍されていた鳥とクローバーが印象的で。刺繍の技術も高く、今でも保管しています。……すみません、ステラ嬢。他のご令嬢からいただいたものを持っているなんて、あまり気分の良いものではないですよね」
「……」
「ステラ嬢?」
「あの、そのデザインは、白い鳥と四葉のクローバーでしたか?」

 レオンハルト様が申し訳なさそうに謝罪する中、私は別のことに意識が向いていた。

 ハンカチ。
 鳥とクローバーの刺繍。
 私は、その贈り物に覚えがある。ソフィーと一緒にあーでもないこーでもないと笑った覚えが。
 そうよ、もしそのデザインだったら……それは……。

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